結界魔法
妖精女王フェアリスの視線を真正面から受け止め、
コハクは静かに息を吸い込んだ。
「……では、結界を張ります」
その声は落ち着いていたが、
周囲の空気がピンと張り詰める。
フェアリスは腕を組み、興味深そうに見つめる。
「見せてみなさい、人間の娘よ。
あなたがどれほどの力を持つのか」
コハクは両手を広げ、魔力を練り上げる。
魔力が空気を震わせ、地面に淡い光の紋様が広がっていく。
「──大規模結界魔法
《サークル・オブ・サンクチュアリ》」
瞬間、光が弾けた。
風が渦を巻き、木々がざわめき、
妖精たちが驚いて羽音を立てる。
透明な保護膜が森の一帯を包み込んだ。
それは目に見えないはずなのに、
確かな存在感を放つ“絶対防御”の結界。
害意を持つ存在は近づくことすらできず、
Sランク魔物であっても突破は不可能。
妖精たちは口をぽかんと開けた。
「な、なにこれ……」
「こんな強力な結界、人間にできるはずが……」
「まるで……神の加護……?」
フェアリスだけは、静かに目を細めていた。
「……なるほど」
フェアリスはゆっくりとコハクに歩み寄る。
「あなた、普通の冒険者ではないわね」
その声は、確信に満ちていた。
「この結界……
神々の加護を受けた者でなければ扱えない力。
しかも、複数の神の気配が混ざっている」
コハクは一瞬だけ息を呑んだ。
フェアリスは微笑む。
「あなたの背後にいる存在──
至高神、武神、魔法神……
そして、愛の女神の気配まで感じるわ」
妖精たちがざわつく。
「えっ、愛の女神の加護!?
じゃあこの子、魅了の力も……?」
「どうりで……なんか可愛いと思った……」
「いや、そこじゃないでしょ!」
フェアリスは続ける。
「あなたは“選ばれし者”。
この森に現れたのは偶然ではないわ」
コハクは静かに頭を下げた。
「私は……ただ、皆を守りたいだけです」
フェアリスは満足げに頷いた。
「その心がある限り、あなたは強くなる。
──妖精郷は、あなたを歓迎するわ」
妖精たちが一斉に歓声を上げた。
「わーい! 歓迎するー!」
「人間なのにすごい!」
「結界の中なら安心して遊べる!」
ガッデスたちは呆然としながらも、
どこか誇らしげにコハクを見つめていた。
フェアリスはコハクの手を取り、静かに言った。
「この結界は、確かに妖精郷を守る。
あなたの言葉、信じましょう」
そして、妖精女王は微笑んだ。
「討伐軍が来るまでの間──
妖精郷はあなたたちを客人として迎えるわ」
その瞬間、森の空気が柔らかく変わった。
妖精たちが舞い、光が揺れ、
まるで祝福のように風が吹き抜ける。
コハクは胸に手を当て、そっと息を吐いた。
(……よかった。これで妖精たちは守れる)
だが、この結界が張られたことで──
森の奥に潜む“何か”が、静かに目を覚まし始めていた。
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