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準備は順調

怒声と共に体が吹っ飛ぶ。

投げ飛ばされるのは本日二度目。もう慣れた。

ありがちな展開だが、まさか初日からだとは思わなかった。

そもそもあのゴスロリ天使がフラグをたてた時点で警戒しとくべきだった。

俺は、いや俺の家は只今絶賛荒らされ中だ。

窓から入ってきたそいつらは俺が起きるより先に俺を縛りあげ猿轡まで噛ませていた。

ところが俺の財布が見つからずキレているという訳だ。

「くそっ。お前が金を受け取ったのは見たんだ。どこに隠したんだ。軽く1000キリーはあったぞ。答えろ!おい!」

いや、無理です猿轡があるんで。

何故だか分からないが冷静すぎる自分がここにいる。

死んでから感情が無くなったのかもしれない。

今なら“荒され中なう”とかツイート出来そうだ。

彼らは内ポケットという物を知らないらしい。

上着ごと俺を縛り付け、確認しようともしない。

次第にイラついてきて俺を殴ったり蹴ったりとしている。

街の外れの家だから周りにあるのは畑だけ、ということはさすがにないが、飲食店ばかりの様で騒がしく逆に目立たない。

つまり誰も助けに来ない。

あ〜これはお帰りは朝かな、などと意味のわからないことを考えて、ニヤけているとまた蹴られ壁に突っ込んだ。

崩れ落ちる土や中に通してあったであろう梁。

そう、比喩じゃない本当に突っ込んだのだ。

頭の先は壁を貫通し隣の部屋まで覗いている。

頭を打ったせいか真っ白になっていた視界も段々と回復してくる。と顔を上げた、次の瞬間目に入ったのは・・・肌色か。またもや意識が飛ぶ羽目になる。

目を覚ますと男は消え縄は解かれていた。

しかも何故か俺はベッドに寝て頭には包帯が。

「あっ。起きました?」

との声に体を起こすと少女が見つめている。

ん、ちょっと待て。いや、ここには女は子供しかいないのか?

そういえば昨日街で会ったのもみんな男だった。

しかし嬉しいような悲しいようなその気持ちは、一瞬にして打ち砕かれた。

よォ起きたか変態、と出てきたのはどっからどう見ても60超の婆さんだったからだ。

「まぁ壁を壊した理由は後で聞くとして、とりあえずこれでも食いな。まあ、あたしが作ったんじゃないんだけどね」

そう言って渡されたのはお粥の様なもの。そういえば昨日は何も食べてなかった。

一気にかき込む、舌に不思議な味が走る。ピリリとした感触。これはもしや、

「腐ってないよ馬鹿者」

透視かよ、と思わずツッコミそうになるが何とか抑える。

だが、腐ってなかったとしても正直、不味い。

まぁ可愛いから許されるか。

窓際で心配そうに俺を見ているその娘は2歳年下くらいだろうか。俺のストライクゾーンギリギリ

「うちの娘を見るんじゃないよ変態!汚れるだろうが」

「いいじゃねえか減るもんでもあるまいに」

あまりの言い草に言い返すと婆さんはニンマリしてほらやっぱり変態だ、と呟いた。

その2人は俺の隣の住人で昨日突っ込んだのは女の子の部屋らしい。

事情を説明する途中ずっとその婆さんはニヤついていて、その女の子はさらに困ったような顔をして下を向いていた。

「OK。大体の事情は分かったよ。それでお前さん、まだ気付かないのかい」

そう婆さんに言われて思い出した。

金がない。と言うより上着自体がない。

「やっと気付いたか。まあ心配するな、あれは返してやるよ。ただな、こっからが本題だ。うちも裕福じゃないんでな、少しでも働き手が欲しいんだ。給料は払う。だからよ」

「分かった何をすればいい」

全てを察した気でいた俺は早速尋ねた。自分で壁を壊しておいて看病までしてもらった後ろめたさもあるし、何より1人が心細かった。

「随分と物分りがいいんだね」

そう言って婆さんはまた笑い、続けた。

「まぁ今はとりあえずその怪我を治してもらわないとね」

「ありがとう。ほんとに迷惑かけてすいません。」

「おうおう、しおらしいじゃねえか。いい心がけだ」

また笑って、笑い疲れたのかちょっと寝てくると言って婆さんは出て行った。

残された2人。

その子は何か考えているようだ。

沈黙が続き、気まづくなってきた。

「あの名前なー」

「ホントに良かったんですか?」

見事に被った。ただそれ以上に女の子の言葉が気になった。

「どういうこと?」

「死ぬかもしれないんですよ。北がどんなとこだか分かってるんですか?戦国ですよ」

いや全くもって理解できない。彼女は何の話をしているのだろうか。

「なんでさっきよく話も聞かずOKしちゃったんですか?私をパクトまで連れてくなんて、傭の兵士すら断ったんですよ!」

どうやら俺はとんでもないミスを冒したらしい。

正直物語序盤でこれ程重要イベントがあるとは思わなかった。でも、

「男に二言はないからな」

「知らないですからね。男ってほんとバカ」

そう言ってバカバカ呟きながらその娘もでて行った。

少なくとも怪我が治るまではここにいられる。最大限の準備はしておかなければ。

昨日の泥棒の話し方から察するに金自体は沢山持っているらしい。

あの天使、見かけの割に親切だな。


〜5日後〜

ついに歩けるようになった。

早速服を着て街へ繰り出す。

久しぶりの外界だ。太陽が眩しい

どうやら朝市をやっているらしく道はかなり賑わっている。

顔中包帯ぐるぐるの俺が通るとさすがにみんな道を開けるので随分と通りやすかった。

野菜、肉、スパイス、酒、何でもある。いや、内陸部なのか魚は無いようだ。美味そうな料理もある。

とはいえそれが目的で来た訳では無い。

勿論『武器探し』だ。

こういう系の話やゲームではダンジョンに行く前に武器を調達するのが常識だ。

特にこれから行く北の国は戦国さながららしい。

魔刀とか妖刀とかあればいいんだが、かっこいいし。

丁度よく武器屋っぽいテントがあったので入ってみる。

目に飛び込んで来たのは魔刀でも妖刀でもそもそも刀でもなく『銃』。

いや、イメージが。夢が壊れていく〜。

仕方が無いのでここで1番のやつをくれと凄んで言ってみると黙って奥に行って銃を2つ持って来た。

1番性能のいいやつと1番ヤバいやつだ、との事。

もちろんここは定番、1番ヤバいやつを取る。

「ちなみに何が“ヤバい”んですか」

「ほぅ、聞くか?」

「えぇ」

「これを作ってたのは爺さんでな、大層な名工だったんだがボケかけてて作り方を間違えた。そのせいで試射の時に暴発して爺さんは死んだ。ところがこの銃は何故か無傷。バラしてみても間違いが見つからなかったんだ。設計でミスしてたのに、だ。その後も暗殺やらなんやらで有名な事件の影にはいつもこいつがいるが、使用者は大抵暴発で死ぬそうだ」

「そうか。それで幾らだ?」

「格安で100キリーだ。弾を100発付けて110キリーでどうだ」

「買おう」

値切りできたかもしれないが、金は十分にあったからしなかった。

前の泥棒は目算も間違えたようで、15000キリーもあった。

市場をフラフラしながら帰路に着く。

夕飯でも買って行ってやろうか、何がいいだろうか、そんなことを考えていられる幸せな時間は長くは続かなかった。

「おい!」

声がしたと思ったら路地裏に引きずり込まれた。

顔を上げると例の泥棒とその仲間だろうか、男が6人。

幾ら武器を買ったとはいえ、手負いにはキツイ。

てか、銃の使い方がわからない。

相手はコイツっすよみたいなことを言っている。

囲まれていて逃げられそうにない。

「すいません。幾らですか?」

と下手に出てみれば、

「金はお前をボコした後に貰うよ」

との事。絶体絶命なり。

その時、

「やめなさい!」

凛とした声が。

これもありがちな展開だが、なんで俺を助けてくれるのはみんな女なんだろう。

それより、

「ほら、あの女の人も言ってる事だしそろそろ蹴るのやめてもらって、痛い痛いてい」

やめてくれない。

いやおいここはやめて逃げていくのがセオリーだろうが、腕が折れるって。

お姉さんはといえば、け、剣を持っていらっしゃる!いや、そのまま突っ込んでくると俺も斬られるんじゃ

「退きなさい!」

いや無理です!あぁ死ぬのか。人生楽しかったな。いやもう死んでたわ。

「もしもし、大丈夫ですか?」

目を開くとあいつらは居なくなっていた。

流石に斬られるのは嫌だったらしい。

起き上がろうとしてついた右手に激痛が走る。

多分折れてるな。

「それにしてもよく剣なんて持ってたな」

「実はこれレプリカなんです。ほんとに人を斬るなんて怖くてできません。ホントは、しないといけないんですけどね」

気にはなったが、聞くのも失礼な気がして相槌を打っておく。

「もしかして、腕怪我してますか?」

「うん、まあちょっとね」

見せてくれと言うので腕をまくる

は?はァァ?傷が治っていく。まるで魔法のように傷口が消えていくのだ。まさか、

「魔法とか」

「はい、ちょっとしか回復の。大したのは出来ませんけど、骨折程度なら」

あ、そういうのもありなんだ。ほんとにここには驚かされる。

まぁ、天使がいるなら魔法使いがいてもいいのか。

「はい、これで終わりです」

「ありがとう。それで、折角だしうちに寄ってかない?近くだし、少しならお礼もできるよ」

「さっきの話が聞きたいんですね」

はい、全くその通りです。皆さん人の心を読むのがお上手のようで。


「それで、どういうことなの?」

お茶を出しながら尋ねる。

人を殺さなければいけない理由などそうそうない。誰かの仇などでも打ちたいのだろうか。

「実は北の国に用があるんです。いや、ちゃんと言います。北の国の国王を、私の父を処刑した国王を殺したいんです」

そうか、そんなに北の国はやばいとこなのか。

北の国に恨み持ちすぎだろ。流石にビビってきた。

「それで勿論」

「はい、こういう言い方するのは嫌なんですが、

協力して頂けないでしょうか。見たところ武器もお持ちのようですし。勇者様か何かでは?」

いや、それではちょっとないですね。

「じゃあ殺し屋とか」

まあ、勇者ってことでいいです。

「それに北のパクトとかいう都市には行くので」

「そこ、そこです。奴が居るのは」

今思えば話がうますぎた。だがこの時はまだそんなこと微塵も考えずに意気投合して盛り上がっていたのだ。

北がどんな所か、戦国がどんな所かも知らずに。


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