夕方6時
久遠荘は三条高倉通に面した築150年の2階建ての京町屋である。およそ70年ほど前から下宿屋として学生を中心に貸していたのだが、10年前に内装リフォームをする際に今は亡き父方の祖父によって当時は日本国内ではまだ珍しかったシェアハウスにリノベーションしたことから、現在の運営形態となっている。
京町屋の特徴として『うなぎの寝床』と呼ばれる間口が狭く、奥行きが深い建物となっている。
例に漏れずこのシェアハウスも上記の特徴を有しているが、内装としては管理人室を含む6畳の和室が7部屋存在する。現在は一部屋だけ空室であり、5人の住人が此処で共同生活を送っている。
時刻は5時を15分ほど過ぎた。この時間になると夕食の準備をする。今日は1人は外食する旨を聞いているので5人分を作ることになる。
―さて、確か今日は中華の日だったかな。
私は冷蔵庫に貼ってある1週間分の予定献立表に目をやった。この献立表は自らの手で常に作成しており、今の共同生活では大いに役立っている。何せこのシェアハウスは前身の下宿屋の名残として、朝夕の食事を管理人が用意することになっている。
これはさぞかし疲れるのではと思うが、前職の給食施設では朝昼夕食で1回毎に400食分作っていたこともあり、それに比べて6食分はかなり楽な方に感じる。
献立を確認すると必要な材料を冷蔵庫から取り出し、調理に取り掛かった。
調理をして1時間が経過した時、玄関の引き戸を勢いよく開ける音が聞こえた。
私は左側にある戸口を一瞥してそこに立っている人物に声を掛ける。
「川端くん、お帰りなさい」
「ただいま、彩夏さん」
「今日は宣言通りの帰宅だったわね」
「俺だっていつも帰りが遅くなる訳じゃないんですよ」
「あら、そうだったかしら?」
「そうですってば!…あっ、良い匂いがしますね。今日の夕食は何ですか?」
「今日は回鍋肉と中華かき卵スープ、和え物、そしてご飯よ」
「だから食欲をそそる良い匂いがしたんですね」
「もうすぐで完成するから荷物を部屋に置いてきたらどうかしら。出来たら呼ぶよ」
「はい、お願いします」
そう言うと川端は2階にある自室へ行った。
他の住人が帰ってくるまであともう少しー