やわらかなるホワイトデー生活④
現れたのは教師である。
それも五人である。五人衆なのである。
この教師五人衆は、廃野球部室のプレハブ小屋に近付くやお互いに間隔を取り合い広がっていき、やがて小屋を包囲する形での布陣を終えた。
「あの屋上に巣食っていたメガネチンパンどもは、今度はここを根城にしているんだな?間違いないな?」
「各運動部員からの情報です。間違いありません。三学年主任」
「よろしい」
三年主任はおもむろに年代物のガラケーを取り出し、わざわざ電話番号を打ち込んでプレハブの南・東・西に散った教師たちに突入の時間をただいまからキッカリ1分後に実施すると伝達する。
「メガネチンパン戦隊・サンバカヤン!(仮名)の栄華もこれまでだ!」
三年主任は首に巻いた手拭を襟首に差しいれ、悪の組織の首領宜しくマントのように(短いし広くもない)ペロペロと翻し、バッと左手を振って前にかざした。
「突撃にィーーー!前へ!!」
ぱっぱらっぱぱっぱっぱっぱ ぱっぱぱっぱぱっぱぱァーーー♪
「「「わぁああああああああ!!!」」」
「あ~~~~~~~。。。」
三年学年主任の隣に付き従う音楽教師が演奏する【突撃ラッパ】の合図とともに、一斉に四方向から一年の学年主任、二年の学年主任。それに今日は彼女とデートなんで♪などとほざきやがった為に、無理やり引きずられてきたイケメン数学教師(26歳・二年担当)と、これに三年の学年主任が猛然と喚声を上げ(一人はイヤイヤながら)プレハブに吶喊を開始した!!
「うわははははは!!いけェーー!!ゆけェーー!!勝利の女神はお前らにスッケスケの勝負下着をちらつかせているぞ!!」
いくらノリノリな気分でも、教師としてその物言いはいかがなものか?
バン!バタン!ガラ!ガラララ!
「お前ら神妙にお縄を頂戴しろ!!」
東西南北から廃部室内に突入を敢行した教師四人は、ひとりを除いて意気揚々、勝ったな!といったドヤ顔をしてプレハブ内部に籠っているサンバカヤンほか、二人の一年女子(メガネ可愛い(´・∀・))を取り囲んだ。
ポクポクポクポク……。
「「ぎゃーてーぎゃーてーはらぎゃーてー」」
『あっよいしょ♪』
「「はらぎゃーてー」」
『あっそーれ♪』
「「はらぎゃーてー」」
『はぁーどっこい♪』
「「はらそーぎゃーてー」」
『ぼんじり好きだー♪《ぼーじーそわかー》』
『「「はんにゃーしんぎょー」」』
『「「ハーメーン《アーメン》♪うーーーん♪ハッメ♪♪♪」」』
埃まみれの机の上にバットを真ん中に立ててその左右に一個づつボールを置くという、まことに卑猥な御神体に向かい慇懃に一礼しつつ、オーケストラの指揮者のような大仰な仕草で十字を切ったサンバカヤン(メガネチンパンジー)たちは、自分らを包囲せん滅下に置いた教師どもを尻目に軽快なリズムの頭の悪い法要を終えた。
ちなみにポクポクポクポクは、三人揃って口木魚でそれらしく云っていただけであった。
「なあ三バカ。。。それは、なんの儀式だ?」
さすがの三年の学年主任もポカ――ン( ゜Д゜)・・・?である。
「先生、それもこれも先生のせいです」
「んお?!なんの話だメガネブルーの妹?」
いつも二番目にしゃべっている黒縁メガネの痛い中学生チンパンは、晴れて【サンバカヤン・メガネチン・パンブルー】になった。
という訳で順当に黒縁メガネでいつもこの『』鍵かっこで話す阿呆は【サンバカヤン・メガネチンパン・レッド】に、そしていつも三番目に話し出す黒縁メガネは必然的に【サンバカヤン・メガネチンパンのパンツは茶色】になr
あっ!間違えた。三番目のメガネは【サンバカヤン・メガネチンパン・カレー大好きイエロー】にならざるを得なかった。だった。
ここにお詫びして訂正致しますm(__)m
……話を戻します。
「…」
「おい、なにか云いたいことがあるんじゃないのか?キリキリ話せブルー妹」
両手をからだの前で合わせギュッと握り、しゃべりあぐねていたブルー妹は、なにかを決意したように三年学年主任の方に真剣な眼差しを向けてから、おもむろに口を開いた。
「さらばー!地球よー!たびだーつ船はー!宇宙ぅー!戦艦ー!さんはい!!」
「「「根本ー!!!」」」
「だれ?!」
突如懐かしのアニソン歌い出したブルー妹の調子にあわせ、続けて歌ったサンバ・カ・ニバルたちの歌詞に対して、意味がわからない!といった様子で時間を止めて立ち尽くした教師たちを尻目に一目散、妹らと共に正門に向かって全力疾走で逃げ出した。
帰宅するのである。
なんとしても帰宅するつもりである。
明日になれば、また登校しなくてはならないのに、そうなれば絶対兄妹の五人揃って性と指導室に…。
どんな指導室だ!?うちもまぜろ!エロい保健の先生はどこ?ここ?
あっ、失礼。欲望が満ち溢れてしまいました。そしてまた言葉を間違えてしまいました。
悪いのはスマホのせい。そうに違いないから謝罪要求はうちのスマホに対して皆様お願いしますm(__)m
くそっ!パソコンならば文字変換うまくいったはずなのに!
…えーと。
話を続けます。
明日になれば、また登校しなくてはならないのに、そうなれば絶対兄妹の五人揃って“生徒指導室”に間違いなく呼ばれ、まかり間違えば親すら呼ばれての説教が待っているのは明らかなのに、彼らの脳内には左様なことを予想すらできず、ただただ今が良ければ全て良し!とする、単細胞生物もビックリして纎毛すら抜けきる程度の脳細胞を頭のお荷物として大事に抱えながら、ひたすら駆けに駆けていく。
…すぐ、捕まりました。