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DMS  作者: 水無月燈鈴
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第一話

 青い空に白い雲。

 1年に二回咲く、聖霊が住んで居るとされている樹齢千年の大きく不思議な桜。それに透明感溢るる空色の綺麗な海。珊瑚礁やちいさな魚の群れが見えるからかなり癒される。窓から見えるそれはとても綺麗で、誰もが見入ってしまうような景色だ。


 この景色が見えるのは、さく高こと、県立桜木高等学校だけで他の学校には無い有名な特色の一つでもある。特に窓側の席だとこの景色を一望出来るのだが、だからといってみんながこの景色が好きかと言われて好きと言う人間は案外少ない。というのもこの学校に来るのは近くに住んでいる所謂地元の人が近いからという理由で受けているのが多数なのだ。毎日見ている光景に今時の若者が綺麗だからという理由でこの学校を受験するのは殆ど居ない。


 それ以外特に特色のない学校の一室――教室の窓際に浮かぬ顔で外を見つめている少年が一人、溜息をつきながらつまらない授業を聞き流していた。名を朝倉飛鳥あさくら あすか


「俺の授業を聞かないなんて良い度胸だな――朝倉ぁ!!」


 つまらなそうな顔なのがありありと出ていてそれを敏感に気が付いた教師の名は安田やすだ 隆康たかやす

 いつも嫌味たらしく、女子や男子はおろか他の先生にも嫌われているというある意味稀有な先生だ。通称見た目通り[キモゴリラ]。正直あまりかかわりたくない人物の一人だ。


 10分の時間が流れたがキモゴリラ――安田は聞いていないのをお構い無しに説教をし続けている。生徒に反省を促すのではなく、いかに自分が凄いのと過去に受け持った生徒が東大を卒業して実績がどうのと永遠と同じ話を聞かされていればどんな人間も嫌になるというもの。それに気が付かないこの男も質が悪い。


「いいか!? 分かったか!? ……まったく……これだから頭の悪い餓鬼は……」


 説教に満足(?)した安田は、最後に捨て台詞を吐いて黒板の方へ戻って行った。


「大丈夫か……?」


 隣の席に居る男子生徒が小声で飛鳥に話しをかけた。この男子生徒は中学生の時からの親友で、名前は竹下たけした 一輝かずき。ツンと髪の毛をワックスで立て顔立ちもよく、野性味溢れるイケメンである。さらに、今は座っていて余り分からないが、身長は180とちょっとあり高校生にしては結構高い。そして頭も良いし、運動神経も良いのでいつも女子に黄色い視線や黄色声を送られていた。一つ下に妹が居るのだが……妹曰く、家に帰ると少し抜けていて可愛いとのこと。


「大丈夫だよ。ありがとう、一輝」


 飛鳥は笑って答える。

 どちらも小声だが当然キモゴリラこと安田隆康の耳に届いてたことは完全なる蛇足である。


 ◇


 時は流れ放課後。午後の授業が全部終わったのでカバンに教科書や筆箱を詰めていた。スタートダッシュの早い生徒にお別れの挨拶を済ませつつどんどん作業を終わらせていく。


「今日は雨が凄いらしいぜ? なんでも、この夏一番の雨量と雷らしいぞ」

「そうらしいね。この天気なら大丈夫だろうって思ってたから傘なんて持ってきてないよ。春って恐い」


 戯けてみせた飛鳥を尻目に空からぽつぽつと雨が降り始めた。先程まで空が快晴だった分余計に雲が黒く感じてしまうのは気のせいではないだろうか。数分もしないうちに土砂降りに変わった。こうなると朝家から出るときに女中の忠告を無視して傘を持たなかった自分を殴ってやりたい。


「……降ってきたか。傘半分入れてやるから帰ろうぜ」

「えー、男と相合い傘はちょっと……」

「うるせえ! なら俺一人で帰るぞ」


 冗談だよと飛鳥が声を出すより先に扉が開いた。何事かと思い二人は扉を見た。隣のクラスの女子だ。片方は一輝の幼なじみで巨乳美少女、家もお隣なんだと。オーソドックス幼なじみともう一人は大企業の社長令嬢で悪漢から助けて社長から気に入られているそうで。最早テンプレヒロインである。飛鳥の脳裏には爆発の二文字が浮かんでは消え浮かんでは消えの繰り返し。


「一輝、帰ろ?」

「一輝様、帰りましょう」

「あー、えっと……」


 慕われている女の子の前で情けない声出すなとか爆発しろとか女の子が誘ってるんだからしっかりと受け止めてやれよとか爆発しろよとかのど元まで出かかったが、こうみえて彼は自分の親友なのだ。ここで応援してやらねば男が廃るというもの。


「ほら、行きなよ! 女の子を待たせちゃ駄目だろ? 爆発しろ」

「……分かった。何か最後に引っ掛かりを憶えるが、悪いな。俺から誘ったのに……じゃあお言葉に甘えて、また明日!」

「じゃあね」

「それでは、失礼します」


 嵐のように三人は去っていた。さっきまで人が居た教室がもう誰も居ない。何故だか飛鳥の心は酷く空虚に支配されていた。自分もいつか誰かとああいう風に帰れたらいいなと思っていても誰も心辺りは無い。選ばなければ、確かに自分の家柄上すぐにでも出来るが、せめて初めての恋ぐらいは愛し愛されてがいいと思うのは男なのに少し乙女チックだと自覚はしている。お金目当ての碌でもない女ばっかりよりかはいいだろう。


「さて、僕も帰るか…」


 椅子から立ち上がり、机の横に掛かっているカバンを持ち、教室を後にする。ちなみに、クラスは三組で場所は三階にある。階段を降り、下駄箱に着く。上履きから靴に履き替え、玄関で雨の様子を見ていたが、どう考えてもやみそうにない。こうなればずぶ濡れになるのを覚悟で学校を出た方が良いだろう。今ならまだ気温も高めだし、日が傾いて寒くなるときに帰るよりは風邪引きにくい。


 カバンを頭に乗せ、急いで学校を出る。この学校から家までは約走って十分。歩いて二十分かかるという微妙な距離だ。


 信号が赤信号に変わった。走るのを止め、少し歩く。下に向いて信号が青になるのを待機していると、虹色のレインコート(には見えないが)を着た人間がこっちらに渡って来たので、驚いた。派手なレインコートだななんて思いながらも目で追っていると、何かに引っ張られる感覚がした。急な出来事だったので、バランスが崩れ後ろの方に倒れ、尻餅を付いてしまう。


 立ち上がろうと地面に手を付いた瞬間、不意に視界に入った十トントラック。クラクションなんて鳴っていなかった。いや、鳴らしたのに聞こえなかったのかもしれない。が、そんなことを今ああだこうだしても、何か変わる訳ではない。


「これは避けられないな……」


 そう、だってもうすでにトラックは目の前まで来ていたのだから。最早避けられない事を悟り、目をつむり身を任せ、体に力を抜いた。


 不意に、体の浮く感覚に囚われる。衝撃も痛みも何もない。即死だったのだろうか。段々意識が黒い海に飲み込まれていく。何も分からない。


 ああそうかこれが――“死”という事か。


 完全に飛鳥の意識は黒い海に飲み込まれた。







――暗転。

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