母親からの提案
□■母親からの提案■□
ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ、ピリリカチッ…
「ゔ…んん…ふわぁぁあ…朝か…」
氷空の朝は目覚し時計から始まる、まずは洗面所で顔を洗ってから父親と祖父母の仏壇に行く。
「……もう父さんが死んで5年…か…」
「えぇ、あの人が死んでもう5年ねぇ…早いわね…時の流れというものは…」
「うん…そうだよねぇ…って母さん!?」
「ただいま、少し休みが貰えたから氷空の顔を見に来たかったのよ…大きくなったわね…氷空。」
「……朝飯は軽い物で良いよな、目の下にくっきりとくまが出来てるから母さん、今は寝てて?手伝いはしなくても大丈夫だから。」
「そう…ごめんね、」
そう言い、母親はソファに横になり、氷空が作ったクッションに顔を沈めて、約数秒で深い眠りにつく、俺のクッションて人を駄目にできるっけ…と思いながらもサンドイッチを作ることにした。
「……うし、こんなもんだろ、母さん?母さん!母さん…起きなって…」
「うぅ…あと5分寝かせて…」
「……俺でもそんな文句言ったことねぇが…仕方無い…自分の寝たいだけ寝てくれや。」
「ごめ…スゥ…スゥ…スゥ…」
「………!?」
このクッション…しっかり者の母さんをここまで駄目にするとは…このクッション…人を駄目にするクッションかぁ…そう思いながら隣にサンドイッチを置き、ラップで覆い、氷空は黙々と朝食を取り、編入試験に向かって勉強をする。
氷空が行こうとする学校は、ホーム学習でも許されており、課題を提出するだけで成績が付くという嬉しいシステムなのだが、偏差値が高く、そして、最低でも70点を取らないと合格出来ないのだ。
「う…うぅん…氷空?今何時?」
「え?7時ぐらいだけど…行くんなら飯持ってってくれよ。」
「……今日また帰ってくるから、夜9時までは起きてて。」
「分かった、仕事頑張れよ。」
母親が家を出た瞬間、家の固定電話から電話が来た。
「はい、氷空です。」
『おい!?氷空ちん!氷空ちんか!?』
「ん?健ちゃん?どしたの?」
健ちゃんとは、南川 健二と言う氷空の友達の一人である、健ちゃんは情報網があり、その情報の量の多さはそっとそこらの記者を遥かに超えているほどの情報収集能力である、大体氷空に電話をしてきて、この慌てようと言う事は、絶対にろくな事じゃない、俺が被害者になるだけだ…と思いながらも話を聞くことにしよう…。
ちなみに健ちゃんが氷空のことを「氷空ちん」と言う理由は、元々「氷空ちゃん」と呼ばれていたが、いつの間にか氷空ちゃんの「ゃ」が消えて「氷空ちん」となっていた。
「ど…どないしたん健ちゃん…」
『そやった…氷空ちんの家はテレビ無かったんやったわ…えとな?お前の高校さ、廃校になったやん?』
「お、おう…そうだが…どうしたんだ?」
『その廃校に…軍人来るんやと…』
「……は?」
『ひっ…お、落ち着き?な?』
「あ、すまねぇ、で…軍人だと?おい、国は何考えてんだよ。」
『それはウチにも分からへんが…今日ニュースでやっとんた。』
「分かった…すまんがちょっと考えさせてくれ…」
『おう…情報が来次第連絡すんで。』
「分かった、ありがとな。」
『ほなさいなら。』
「おう。」
そう言い、俺は健ちゃんとの通話を終わらせた。
✚ ✚ ✚ ✚ ✚
「ほなさいなら。」
『おう。』
そう言い、氷空ちんは電話を切る、周りには氷空ちんの友達だった奴が多くいて、氷空ちんの通話が終わった瞬間。
「「「「「「だはぁぁぁぁぁぁぁ…」」」」」」
俺、健二含む皆が凝り固まった緊張を解き、とても深い溜息をする。
「け、健ちゃんが集まってくれって言ったのは…そう言う事やったんか…」
「そやそや速ちん…皆もすまんな…」
「いやいや、気にしなくていいって」
「そうだそうだ、これは家らの問題でもあるんや。」
「健ちゃんや俺等が心配すんのは」
「氷空ちんのほうやで?」
「…そだな…」
何故氷空ちんを心配するかと言うと、氷空ちんは父親を殺された軍隊を嫌っているから。
それは7年前、氷空のおとさん、歳は30代と若い男やったんだけど、事故で死んでしまった。
氷空のお父さんは東京で仕事をしていたが、休みは必ず氷空に会いに来る優しい父親だった。
だが、その事故はテレビで放送され無かったが、俺は軍の車が事故を起こしたが、それを公表されないよう隠してる、と噂を聞いた、最初は願っていたが最悪なことが起きた。
それはある日、学校で氷空ちんが唐突に俺にこう言った。
「なぁ、健ちゃん、父さんが行方不明者なんだけど…何か情報来てないか?」
その瞬間、俺の頭の中で、軍の車が事故を起こして死んだ人が氷空ちんのおとさん!?そんな訳ない…そんなことがあったら氷空ちんの精神が壊れてしまう!
そこで俺は、氷空ちんと一緒に軍の見学に参加し、トイレに行くと嘘を付き、二人で極秘資料室に入ろうにも、鍵が無かったが運良く極秘資料室に一人の軍人が入ったので、扉をこっそり開け、中に入る事に成功、後は資料の奥で軍人が出るのを待ち、出たあと2人で報告書を探した。
「健ちゃん…父さんの資料本当にあるの?」
「あぁ、俺の間違いじゃなきゃ…氷空ちんのおとさんが行方不明になったのっていつだっけ?」
「え、えっと…2月6日ぐらい…かな…もう1週間経つのに…父さんどこに行ったんだろ…」
「2月6日やろ…おっ、あったあった…どれど…れ…」
「健ちゃんどうしたの!腰抜かして!」
「そ、氷空ちん…こ、この写真の人って…氷空ちんの…おとさんだよな…」
「あ…父さんだ…えっと…草薙 七宮32歳…我々軍の車に直撃し、死亡…妻の元帥に機密で、焼却と埋葬を完了し…た…。」
「う…嘘やろ?」
「……」
「……氷空ちん…帰ろ?」
「…うん。」
氷空からみて大凡10分、一瞬で軍のことが大嫌いになり、憎むようになったのだ、そして現在に至る。
「氷空ちん…頑張ってくれよ…」
健二は氷空ちんの今後の人生を心から願った。
✚ ✚ ✚ ✚ ✚
「………」
氷空はただ一人考えていた、勉強を終え、昼食後一人でずっと考えていた。
「…駄目だ…考えがまとまんねぇ…てか今何時だよ…」
時間を見る、時間は午後の8時を有に過ぎていた。
「もうこんな時間か…」
と俺が呟くと
「ただいま…」
と母親の声。
「母さんお帰り、飯作っといたからこれ食って話をしよう。」
「…えぇ、そうね。」
少し溜めて母親が言う、氷空は知っている、母親が溜めてから発言するのは何か話しにくいことなのだろう…と。
「ふぅ…はい、お茶。」
「ありがと…」
「んで…話って何?」
俺は声に少し圧をかけて話す。
「えぇ…氷空今…編入試験に向けて勉強してるんでしょ?」
「あぁ、体育とかテスト、学校のイベントとかそういうのは片道5時間かかるけど行かなきゃだしね、まぁ健ちゃん達がいる学校だからさ、俺自身まだまだ勉強しなきゃならないし」
「……それって大変じゃない?」
「え?まぁ…うん。」
電車はあると言えど、こっちに来る電車は合計3本、朝昼晩の3本ずつ、それを逃したら後は歩きしか無い。
「だからね、私提案があるの。」
「ん?」
「……氷空…軍がここに来るって、健二君から聞いたでしょ?」
「うん…」
「そこに通っ」
バン! 母親が言う途中で俺は無意識にテーブルを叩いていた、母親は当然びっくりする、しかし母親はには分かる、嫌いな軍隊の学校に行くんなら死んだほうがマシだ!と言う意思表示の物だった。
「…ごめん…俺もう寝るよ…母さんの部屋…掃除してあるから今日はそこで寝ても良いし…仕事で帰るんならそれはそれで良いけどさ…」
その時の氷空の顔は今まで見たことない顔だったらしい。
「……母さん…父さんの殺した車…忘れてないだろ?」
「」
悲しみに溢れた顔だった。
実はあの後、母さんに父さんの行方不明の真実を話した、母さんはどこでそんな情報を?と聞くと俺は健ちゃんから聞いたと発言、翌日どういう訳か、俺の家に父さんの遺骨が届いた。
俺と母さんは泣いた、その後俺は謝罪してきた軍人にこう言った、『謝るんなら父さんを…返してください…死ぬ前の父さんに…会わせてください…。』余りにも悲しく、9歳の子供が言える言葉ではなかった。
「……おやすみ…母さん。」
「…えぇ、おやすみ。」
氷空は眠りながら枕に頭を埋めて眠る、氷空は泣いた、泣いていた、今までに無いくらい、大号泣して枕を濡らしながら眠っていた。