29. 死を記憶せよ。
大天蓋のしたには地下への階段がある。
階段の入り口は、重厚な木製の手すりで囲まれている。
こんなに目立つ場所なのに……。
どうしてわたしは探すのを後回しにしてたんだろう?
もしかしてこの手すりが結界になっているのかな?
聖域をあらわすしめ縄みたいな?
謎が解けたから、意識が階段に向いたのかも?
ガードレールくらいの高さの手すりを乗りこえ、地下への階段をおりていく。
一瞬、階段の通路が白く光った。
……?
身体にも違和感があった。
やっぱり階段には、意識をそらす魔法がかけられていたのかもしれない。
階段をおりた先には豪華な両開きの扉――霊廟の入り口があった。
おそるおそる扉をあけてみる。
体育倉庫くらいの広さの薄暗い部屋。
その真ん中に、ぼんやりと光る宝石箱みたいな棺が置いてある。
監視カメラ的なものは見あたらないけど、たぶん試験官はどこからか見ているんだろう。
恥ずかしいけど、叫んであげる!
「バルドル様! バルドル様! バルドル様! バルドル様!」
わたしは光の神の名を4回讃えた。
――シャララララーン♪
正解!みたいな効果音が天井から鳴り響いた。
キラッキラの棺の蓋が勝手に開帳していく。
そのなかから目がくらむほどまばゆい光があふれだす。
棺のなかに入っていたのは――。
バルドル神の化身と呼ばれている金髪の美少年――ルキウスだった。
黒いカソック姿ではなく、白地に金の縁取りの騎士服を身にまとい、胸に剣を抱いて瞳を閉じている。
その姿はあまりにも神秘的で美しい。
本当に光の神が眠りについているようだ。
どうやら彼は神様役を演じさせられているらしい。
説明のときは冷淡な態度だったのに、こんな茶番につきあってあげるなんて、意外とやさしいところもあるみたい。
きっと頼まれたら断れないツンデレタイプなんだろう。
氷の美少年なんてわたしには縁のない生き物だと思ってた。
でも人間味を感じたせいか、少しだけ親近感がわいてきた。
とくに生きている間に棺桶に入れられた点にシンパシーを感じる。
棺桶の寝心地について語りあえるのは彼しかいない。
でも今するべきことはそれじゃない。
棺の蓋の内側に、新たな謎の掲示があったから。
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バルドル神を目覚めさせられるのは聖女である貴女だけ
復活の呪文 『6658.97』 を唱えよ
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おや、また謎解きですか?
でも、むふふ……。
今回の解き方はすぐにピンときちゃった!
この数字に、さっきのカタカナをあてはめればいいんでしょ!?
さっそくメモ帳をひらき、数字をカタカナに変換していく。
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0=ョ 1=ビ 2=イ 3=ウ 4=レ
5=ン 6=メ 7=リ 8=ト 9=モ
6658.97 = メメント.モリ
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脳みそに稲妻が走った。
――メメント・モリ
この言葉、知ってる!!
わたしの名前はモリ・ショーコ。
中2病を患ってたとき、自分の名字と同じこの警句にすごく惹かれるものを感じていた。
メメント・モリ
意味は『死を記憶せよ』
出題者も中2病?
それとも宗教的に意味のある言葉?
とにかく呪文を唱えてみよう。
「メメント・モリ!」
すると棺のなかに横たわっていたバルドル様(に扮したルキウス)が消えた――と思ったら、扉のまえに瞬間移動していた。
でもそこから動かない。
瞳を閉じたまま、剣先を床について立っている。
「え? どうしたの?」
思わず声をかけてしまったけど、美少年は彫像のように微動だにしない。
恐れ多くて、玉体に触れることもできやしない。
困りきったわたしはそのまわりをウロチョロする。
他になにか見落としがないか霊廟中も探し回った。
でも特になにも見つからない。
え? これからいったいどうしたらいい?
ヒントがなくて詰みかけてるんですけど?
なんでバルドル様は完全復活してくれないの?
はやく暗黒神を倒してよ?
困った、どうしよう……。
わたしは藁をもつかむ思いでメモ帳のページをめくった。
そして見つけてしまった。
『美少年の目の前でスクワット10回』
…………
まさかこれ!?
たしか教皇は『いまから言うことは決して忘れないでくれ』と前置きしたうえで、『なにか困ったことがあったらルキウスに助けを求めるがよい』と言っていた。
それに対するルキウスの答えが『目の前でスクワット10回したら助けてやる』だったわけで。
なんかふざけたこと言ってんな~とは思ってたんだよ。
それがまさか最後の最後で必要になるなんて!?
本当にスクワット10回やったら助けてくれるのかな……?
スクワットって年頃の男の子のまえではあまり披露したくないポーズだ。
それに明日筋肉痛で動けないことが確定してる足は限界をむかえようとしている。
でも試すしかない!
わたしはガニ股になって腰を落とした。
「いーち、にーい」
マネキンのように動かない美少年のまえでスクワットするシュールな光景。
「さーん、しーい」
ひざがガクガクしてヤバイ。
「ごーお、ろーく」
このタイミングでスクワットさせるなんて鬼畜すぎる。
「しーち、はーち」
あかん……もう死ぬ……。
「きゅーう、じゅうっ!」
わたしが尻もちをつくと同時に、美しい碧い双眼が見開かれた。




