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喪女ですが不本意ながら聖女になりました  作者: 川音
第1章 喪女、異世界転移する
19/32

19. 契約に従い顕現せよ!


 試験に落ちたあと――。

 帰るところのないわたしはいったいどこに帰ればいいんだろう……?


 一番現実的なのは、そのまま帝都に住みつくこと。

 帝都なら仕事もたくさんあるだろうし――。


 居住権は日当を貯めたお金で買えるだろうか?

 もしかして破格の日当はそういうカラクリ?

 教会のマッチポンプ?

 若い処女の移住なんて大歓迎だろうし、裏の思惑を感じるなあ……。



 でもどうせなら、ガイアスとアイリスさんのもとに帰りたい。

 小回復ヒール浄化リフレッシュを覚えて帰って、ふたりの手伝いをすることが理想。

 だけどあの場所がどこにあるのかわからない。

 馬車で7日の距離らしいけど……。

 また会いたいなんて言ったら鬱陶しいと思われるかなあ……。



 わたしは思い切ってガイアスに聞いてみた。


「あの、今後ガイアスさんと連絡を取りたい場合はどうしたらいいですか?」


「そのことについては俺も考えていたんだが――」


 考えてくれてたんだ! 

 気持ちが通じあってたみたいでうれしい!


「ショーコは魔物使いの才能がありそうだから、ひとつ召喚魔法を覚えてみないか?」


「は?」


 いきなりなに言ってんだ、このおやじ?

 魔法の魔の字も知らないわたしに召喚魔法ですと!?


「いや、さすがにそれは無理なんじゃ……」


「俺もいますぐショーコが召喚魔法を使えるようになるとは思っていない。だけど今から教えることを反復すれば、いずれ使える日がやってくるはずだ」


 確証がないうえにずいぶん気の長い話だな!?

 もう二度とわたしに会う気がないんじゃないの!?


――とは、臆病者の喪女には言えず……。


 わたしは悶々とした気持ちを引きずりながらガイアスと一緒に壁門の外に出た。

 受験カードを持っているうちは出入り自由なのだ。

 壁門の外はいまだに帝都に入れない人たちであふれかえっていた。



 わたしたちは街道から外れて、人目につかない森のなかに入った。


 ガイアスが地面に樽を置き、仁王立ちになる。

 わたしの苦手な熱血コーチの雰囲気をただよわせている。


「では、今からウォルフを召喚する」

「は、はい……」


 知ってる名前にホッとした。

 永遠の別れみたいな別れ方をしたばかりだったのに、意外と再会は早かったようだ。


「地獄の番犬よ、不浄を喰らい精神エーテルの座に還す者よ、契約に従い顕現せよ! ――魔獣召喚!!」


 わたしの目の前にブラックホールがあらわれた。

 その中から双頭の黒い犬が飛び出してくる。

 まるで火の輪をくぐり抜けるサーカス犬のように。


「ふんぎゃああ――ッ!」


 わたしはそのまま地面に押し倒された。


「またか。ウォルフはショーコのことが大好きだな」


「呆れて見てないで早く助けて!」


 ウォルフはわたしの胸に乗っかって尻尾をふっている。

 ガイアスは飼い犬の首の皮をひっぱって地面に下ろした。


「ウォルフ、おとなしくしてないと土産のジャーキーはやらないぞ」

「きゅーん」


 ウォルフは悲しげに鳴き、耳を垂れておすわりをした。

 ガイアスはフォローするようにその頭を撫で回す。


「ショーコには言ってなかったが、俺はウォルフの視覚と聴覚を乗っ取ることができる」


「はい?」


「昨日今日みたいに野営地から離れたときでも、ウォルフの視界をのぞくことで遠隔的に野営地の様子を知ることができる」


 んん?

 歩く監視カメラみたいなものかな?


「つまり、ショーコがウォルフを召喚できるようになれば、俺はショーコの様子を即時に知ることができる!」


 ガイアスはドヤ顔で言い切った。


 なんという暴論!!

 実際それをわたしにやらせようとしていることが無謀すぎる!


「え……無理……」


「まずはショーコにウォルフと契約してもらおう」


 だめだこのおっさん、聞く耳を持っちゃいない!


「契約って……? なんだか恐いんですけど……」


「普通魔物との契約は難しい。だが、ウォルフの親愛度が上がりきっているので大丈夫だろう」


 えぇ……そんな乙女ゲームみたいなこと言われても……。


 契約って、まさか処女わたしの血が必要になるとか?

 痛いのはイヤなんですけど……!


「ではショーコ! ウォルフに向かって服従しろと言え!」


「ウォ、ウォルフ! 服従しろ!」


 言われるまま反射的に命令すると、ウォルフはおなかを見せて仰向けに寝そべった。


 え? まさかこのポーズは……。


「そのままウォルフの腹を撫でまくるんだ!」


「は、はい!」


 わたしは黒い筋肉質な肉体を両手で撫で回しまくった。

 ウォルフの目は恍惚と閉じられ、そして――。


 全身から白い閃光を放った。

 まるでゲームでモンスターをゲットしたときのエフェクトのように。


「キャアアあ!!!」

「よし! 第一段階は成功だ!」


 ガイアスがガッツポーズしている。

 なんだかよくわからないけど、ウォルフはわたしの従属モンスターになったらしい。



「じゃあ召喚も試してみようか」

「えぇ……」


 わたしは困惑した。

 不思議と高い親愛度のおかげで従属させることはできた。

 でもさすがに召喚は無理じゃないか?


「目を閉じて、ウォルフの姿を思い浮かべて、こっちにこいと念じるんだ」

「はい……」


 結局、NOとは言えない日本人なわたし。


「呪文は創作でもかまわないが、成功するまでは俺と同じ呪文を使ってみよう。俺のあとに続けてくりかえしてくれ」

「はい……」


「地獄の番犬よ」


   「――じごくのばんけんよ」


「不浄を喰らい精神エーテルの座に還す者よ」


   「――ふじょうをくらい、えーてるのざにかえすものよ」


「契約に従い顕現せよ」


   「――けいやくにしたがいけんげんせよ」


「魔獣召喚!」


   「――まじゅーしょうかん!」



 閉じていた目をあけると、ウォルフは変わらずに服従のポーズを取り続けていた。


「今度はショーコひとりでやってみせろ。セリフは全部覚えているか?」

「はい、たぶん……」


「少しぐらい間違っても問題ない。これを反復するうちに、いつかコツを掴めるだろう」

「はあ……」


 絶対無理だと思うけど――。

 1回やってみせないとガイアスは納得しそうにない。


 わたしは目を閉じて、覚えたての呪文を詠唱してみた。


「地獄の番犬よ、不浄をくらい精神エーテルの座にかえす者よ、契約に従いけんげんせよ! ――魔獣召喚!!」



 まわりの空気がおおきく動いた。


 目をあけると、目の前にブラックホールが出現していた。


「ええええええええ――――ッ!!??」

「おおおおおおおお――――ッ!!??」


 わたしの悲鳴とガイアスの歓声。


 地面に仰向けになっていたはずのウォルフが消えた――

――と思ったら、ブラックホールのなかから飛び出してきた。


「え、ちょ、ええっ!?」


 わたしはパニックになりながら、尻尾をふるウォルフの双頭を両手で撫で回した。

 そのウォルフが目の前から消えて、さっきまで寝ていた位置に戻ってしまう。

 今度はまさかの瞬間移動だ。


「ええ!?」

「ああ、召喚がとけたな」


 ガイアスは訳知り顔でうなずいた。


「召喚を持続するには熟練がいる。特訓あるのみだ」


 これでも一応、助聖女めざしてるんですけど……。

 光魔法より先に召喚魔法を覚えることになるなんて……。

 でもこれでガイアスとの連絡手段はできた……のか?


「それにしてもまさか一発で成功させるとはな! さすがの俺も驚いたよ!」


 いや、一番驚いてるのわたしですから。 




――それから。


 壁門までガイアスが送ってくれた。

 わたしはガイアスに手を振り、ホテルまでの道のりを引き返した。


 別れ際はあっさりしたものだった。

 もっと涙涙の別れになるかと思っていたけど、帰るところができたという自信がわたしの心の支えになっていた。


 助聖女選抜試験まであと5日。



 このときはまだ知る由もなかった。


 本当に聖女だったわたしが世界を救うことになるなんて――



(第1章完)

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