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喪女ですが不本意ながら聖女になりました  作者: 川音
第1章 喪女、異世界転移する
18/32

18. 帝都って平和だね。


 わたしは急いでガイアスが待っているという食堂に向かった。


「よう、起きたか。ショーコ」


 髭面の大男はテーブル席に股をひろげて座り、香ばしい泥色のお茶(コーヒー?)を飲んでいた。


「おはようございます、ガイアスさん」

「おはよう。とりあえず飯をとってこいよ」

「はい」


 わたしは朝食ブッフェのなかからパンや卵を焼いたものをお皿にとって、ガイアスの待つテーブル席に運んだ。


「きのうの夜はひとりでどこに行ってたんですか?」


 ガイアスの正面に腰を下ろしながら、ちくりと嫌味を言ってみる。

 質問を受けたガイアスは大きく口をあけて快活に笑った。


「帝都で酒を飲むなんて久しぶりだったからなあ! 朝まで飲み歩いて、あんまり記憶にねえんだわ!」

「ふーん」


 隠伏中のくせに余裕なおっさんだな。


 わたしはパンをかじりながら悪びれる様子のないガイアスを見つめた。

 朝帰りした父親を冷めた目で見る思春期の娘のような気持ちだった。


 ガイアスから子供扱いされているせいか、わたしもガイアスを保護者扱いしてしまっている。

 実際ガイアスは包容力と庇護力にあふれた男性だった。

 もうすぐお別れだと思うと……素直に寂しい。




「買い物に出かける前に帝国通貨について教えておこう。食いながら聞いてくれ」

「はい」


 ガイアスがテーブルのうえに銅貨、銀貨、金貨を1枚ずつ並べていく。

 わたしは口の中をもぐもぐさせながらイケメンの横顔が刻印された金貨を見つめた。


「このイケ……男性は誰ですか?」


「バルドル神だ」


「……ああ。光り輝く美丈夫だという――」

 

 わたしの中で存在が危ぶまれている神様のことですね!?


――という不謹慎なセリフは、口の中の食べ物と一緒に飲みこんだ。


「実際にバルドル様のご尊顔を拝謁したことがある人は少ないんでしょう?」


「だからこそ金貨に刻印して布教してるんだろうな。これなら多くの人の目に触れるから」


 なるほどね……。


 ちなみに銀貨には聖女の横顔(美人)。

 銅貨にはテオドア教のシンボル(キラキラマーク)が刻印されていた。



「続けて説明するぞ。銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚の価値がある」

「ふむ」


「例えばショーコが食べているそのパン。そいつはだいたい銅貨5枚」

「ふむ」


「帝都では、1月あたり銀貨20枚もあれば食っていける」


「え! わたし1日あたり銀貨5枚もらってるんですけど!」


「まあそれは底辺の話で、贅沢したいと思ったらもっと金が必要になるけどな」


「むむう……」


 まさか銀貨5枚がそんなに大金だったとは。

 教会はずいぶんお金があるんだな。

 教皇は皇帝より権力が上らしいもんな。 

 ガーディも教皇には頭が上がらなかったのかしら……。



「ごちそうさまでした」

 

 使い終わった食器を積み重ねながら礼をする。


「ガイアスさん、さっそく買い物に出かけませんか?」


「おう、ちょっと待ってくれ。こいつをかたしてから行く」


 ガイアスはコーヒーらしき飲み物を一気に飲み干し、テーブルのうえのコインを懐にしまいこんだ。




――というわけで、わたしたちは街にくりだした。


 まずは洋服屋。


 洋服屋といってもピンキリだ。

 オーダーメイドの高級店もあれば、庶民向けの古着屋もある。

 とりあえず必要なのは一次試験用の運動着なので、冒険者向けの防具屋に行くことにした。

 そこで買ったのは『布の服』

 まさに初期装備らしい商品名だった。

 お値段、銅貨50枚。


 ついでにカバンと財布も買う。

 カバンはキャンパス生地みたいなトートバッグ。

 財布は巾着袋を3種類。

 首からカードをさげるストラップも売っていたのでこれも即買いした。

 お値段、全部で銀貨1枚。



 次は食品屋。


 ジャーキー1樽、銀貨10枚。

 はちみつ1樽、銀貨50枚。

 液状チョコレート2樽、金貨2枚。


 ガイアスによるドラゴンたちへのお土産だ。

 もしかしたらアイリスさんへのお土産も含まれているのかもしれない。

 まだ物価の相場はわからないけど、高級品だということはなんとなくわかる。

 このおっさん、やっぱり金もってるな。

 

 ガイアスはわたしにも液状チョコレートを買ってくれた。

 わたしはカップに入った甘いそれを飲みながら。

 ガイアスは4つの樽を平然と肩に担ぎながら。

 壁門への道を歩いていく。

 ガイアスとの別れも近づいていく。


 わたしは別れの感傷に浸りながら、活気あふれる美しい街並みを見回した。


「帝都って平和だね……。辺境では魔物に追われて野営してる人もいるのに……」


「そうだな。この平和も、いつまでもつかわからんが」


 うん……。

 この平和もガーディが人知れず戦ってくれているおかげなんだよね……。


 深刻な表情でうつむいたわたしにガイアスが励ましの言葉をかけてくる。


「大丈夫さ! ショーコが帝都で試験を受けている間は聖女様の結界が守ってくれる!」


 ちょっと見当はずれだけど、その心配がうれしかった。

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