17. わたしが聖女なんてありえない!
「わたしが聖女なんてありえない! 絶対ないです!」
わたしは全力で左右に首を振る。
「だってわたしは魔法を使えない! 神様からチートなスキルを授かった覚えもないです!」
『ならば何故ショーコは我と会話ができる? 異界の言語の読み書きができる?』
「……え? そんなのこっちが聞きたい! ガーディが何かしたんじゃないですか?」
『我は意図的に何もしていない。心当たりがあるとすれば我の魔力を膨大に浴びせたせいだが……』
「原因、絶対それだよね!?」
大量の放射能を浴びたら健康被害が出て最悪死ぬ。
それと似て非なるもので、大量の魔力を浴びたら異世界転移して若返る?
翻訳スキルのおまけつきで?
『……ふむ。もしかしたら我の言語能力と同期したのかもしれないな』
「よくわかりませんけど、わたしはもう異世界転移なんかした時点でなんでもありだって割り切ってますから」
『たくましいな』
まあね!
理不尽な現実に対するスルースキルがないと非正規社員の喪女なんてやってられないから!
悪く言えば『現実を直視できない』――なんだけど。
とにかくわたしを呑みこんだ光には細胞を若返らせる効果があったにちがいない。
光の加護の劣化版みたいなもの?
現聖女も200歳超えなのに見た目は20歳のままだったらしいもんね。
問題はこの効果が一時的なものなのか永続的なものなのか――だ。
このピチピチお肌に慣れちゃったら、いまさらBBAなんかに戻れないよ!?
『くっくっ……』
脳内にガーディの押し殺した笑い声が響き渡る。
『……まあ、魔法に関しては徐々に覚えていくが良い。そのために試験を受けることにしたのだろう?』
「そうだけど……。異世界人のわたしでも魔法を覚えられるかな?」
『魔力も我と同期しているならまったく問題ない』
……その自信はなに?
どうして断言できるんだ?
魔力がどういうものなのか、わたしには感覚さえわかっていないのに。
仮にわたしがガーディの言うとおり聖女だったとして――。
何もできないいまの状態で「わたしが聖女です!」なんて名乗りをあげても誰も信じないじゃん。
ただの痛い女じゃん。メンヘラじゃん。
やっぱり小回復と浄化くらいは習得しないと!
そのためにはなんとしても一次試験を突破しなくっちゃ!
わたしはこぶしを固くにぎりしめ、天井に向かって声をかけた。
「ガーディ、今度はいつ会える? 悪いけどわたしもう寝るね。今日はちょっと疲れたし、明日から試験の準備で忙しくなるから」
『用があるときはいつでも呼べばいい。こちらも忙しくなければ応じよう』
「うん、わかった。これからよろしくね、ガーディ」
『ああ。おやすみ、ショーコ』
…………
――バフッ!
わたしは勢いよくベッドにうつ伏せに倒れこんだ。
声優ばりの良い声で『おやすみ、ショーコ』と言われた破壊力が凄まじすぎる。
イケメンに免疫のない喪女にはただの毒だ。
それにしてもベッドが柔らかい。
おとといの寝床はテントの木箱。
きのうの寝床は豪華な棺桶。
そして今日の寝床は高級ホテルのふかふかベッド。
確実にランクアップしている。
一度上がってしまった生活レベルをもとに戻すことは難しいと一般的には言われている。
今後の生活のためにも魔法の習得を頑張らなきゃ……!
わたしは固い決意を胸に秘め――そのままいびきをかいて爆睡した。
◇◆◇
――ふと目が覚めた。
いま何時だろう?
ベッドをおりて、半円アーチの窓のカーテンを開ける。
空は白々と明るくなっていた。
視線を室内に戻して、ナイトテーブルのうえに置かれたハンドベルを見つめる。
わたしは少しためらってから、銀色に光るそれを鳴らしてみた。
「おはようございます、お嬢様」
客室係はすぐにやってきた。
20代くらいの若い女性で、くるぶし丈の黒いワンピースのうえに白いエプロンをかさねている。
まるで英国メイドのような格好だ。
「おはようございます。いま何時ですか?」
「ただいま朝の9時です。お連れの男性から食堂でお待ちしていると伝言を預かっております」
「あ、そうですか」
ガイアスはもう起きてるんだ。
まだこっちは顔も洗ってないのに。
どうしよう……待たせちゃ悪いな……。
「さっそく浄化いたしますか?」
「! おねがいします!」
「かしこまりました」
客室係が両手をひろげて呪文を唱えはじめる。
全身が白いキラキラに包まれ――。
寝癖も、目やにも、洋服のしわも、すべてきれいサッパリなくなった。
やっぱり浄化魔法ってすごい!
これさえ覚えれば朝の支度であせることはなくなるね。




