11. 騒ぎになってるじゃん!
◇◆◇
――ちゅん、ちゅん。
小鳥のさえずり。森の香り。
棺桶の小窓から朝日がさしこむ。
わたしは両手両足をつっぱって内側から蓋を押し上げ、ゾンビのように棺桶のなかから這い出した。
「……ふう……」
今日も目を覚ますことができた。
棺桶で目覚めた朝は格別だ。生の喜びを身近に感じられる。
「お、起きてきたか。そろそろ起こしにいこうと思ってたんだが」
すでに身支度を終えていたガイアスに朝食のパンを差しだされる。
寝起きでもすぐにごはんを食べられるわたしは遠慮なくそれをいただいた。
「棺桶はここに埋めていくぞ」
ガイアスは森の地表にぽっかりあいた穴を指さした。
どうやらわたしが寝ている間に掘ったらしい。
……そんな……。
せっかく手に入れた寝心地の良いベッドが……。
でも歩いて持ち運べるものじゃないから仕方ないね。
野ざらしにするより、土のなかに埋めたほうが正しい保管方法なような気もするし。
わたしは処分に困っていた破れたストッキングを丸めてこっそり棺桶の片隅に押しこんだ。
ガイアスが棺桶を持ち上げ、深い穴のなかに下ろす。
さらにそのうえに土をかぶせていく。
さよなら、マイベッド……。
いつか掘り返しにくるからね……。
まるでタイムカプセルを埋めているような旅立ちの気分だ。
この場所を掘りおこそうとする人なんて他にいないと思うけど、もしいたとしたら、棺桶のなかから喪女のパンストが出土しちゃうんだからね。
――というわけで出発だ。
わたしたちは森を抜け、車が2台行き交えるぐらいの幅の街道に出た。
帝都まで歩いて2時間ということは、1キロ15分計算で8キロ。
決して歩けない距離じゃないけど、運動不足極まってるわたしには途方もない距離に思えてしまう。
でも一歩進むごとに試験会場は近づいてくる。
それに比例して不安と緊張も増してくる。
「ねえ、ガイアスさん……。試験って何をやるのかな?」
「悪いが詳しいことは知らねえな」
……うーん。出たとこ勝負するしかないのか。
試験対策が何もできないのはつらいなあ……。
しょうがない、他のことを聞いて気をまぎらわせよう。
「男の人は光魔法が使えないの?」
「そんなことないぞ。修行をつんだ神官は光魔法を使える」
「でも助聖女選抜試験は女性限定なの? 男女差別なの?」
「そういう発想はなかったが……聖女といえば女性だろう? 童貞を貫いてまで受験したがる男はいないだろうし、ユニコーンでは童貞かどうか判別できない」
さすが処女厨。ブレないんだな。
「神官ってみんなど、ど、童貞なの?」
男の人の前で「童貞」という単語を口にするのが恥ずかしくて吃ってしまった自分がキモい。
しかしガイアスが気に留めた様子はなかった。
「いや、教皇にだって子供はいるし、光魔法を操れる神官が必ずしも童貞ということはない。ただ精度は童貞のときより劣るらしいな。肉欲に縛られていないほうがバルドル神の御力を借りやすいそうだから」
「ふ、ふーん」
動揺が続いているわたしは目を泳がせながら相槌を打った。
そのとき前方から馬の蹄音が轟いてきた。
街道に砂煙が舞い上がる。
10騎以上の騎馬がこちらに向かって駆けてきた。
それを避けて街道の端っこに寄る。
だけど一番前を走っていた騎馬が大きく手綱を引いて、わたしたちの手前で隊列を止めた。
騎乗の人は銀色の甲冑を身に着けている。
どうやら帝国の騎士のようだ。
「そこな者! この先でレッドドラゴンの目撃情報があったのだが、おまえたちは見なかったか!?」
「…………」
わたしたちは無言で顔を見合わせた。
「はい、見かけました。帝都とは逆の方向に飛んでいきました」
ガイアスは後方の空を指しながら、しれっと嘘をつく。
その嘘情報に騎士たちは安堵の表情を浮かべた。
「そうか! ありがとう!」
騎馬隊は礼を言って、砂煙をあげながらわたしたちの前を駆け抜けていった。
「……騒ぎになってるじゃん」
「うーん。もうちょっと離れたところで降りるべきだったな……」
わたしがジト目でにらむと、ガイアスは苦笑しながら首の後ろを引っ掻いた。
――そんなこともありつつ。
さらに街道を進んでいき、ようやく帝都が見えてきた。
というか、白い壁しか見えない。
帝都は高くそびえ立った壁にぐるりと囲まれていた。
「なんだか騒々しいな」
ガイアスの言うとおり、壁門前に人気テーマパークの入場待ちのような長い行列ができている。
わたしたちはワイワイガヤガヤとざわめく人々の声に耳を傾けた。
「レッドドラゴンが出現したせいで出入りが規制されてるんだってよ」
「まいったなあ……。今日中に仕入れてきた商品を売りさばきたいのに……」
「帝国軍はガイアゼウス様の襲来を警戒しているらしい」
「あれから15年もたつのに今さらそれはないんじゃないか?」
……ガイアゼウス……?
とある情報に引っかかりを覚えて、わたしはとなりに立つ髭面の大男を見上げた。
でもガイアスは素知らぬ表情で、列の整理をしている兵士に話しかけにいった。
「なあ、助聖女選抜試験の受験生をつれてるんだが、それでもこの列に並ばなきゃいけないか?」
「それなら優先的に案内してやる。推薦状は持っているのか?」
ガイアスは肩に引っかけていた布袋から筒状に丸められた推薦状を取り出した。
「わかった。ついてこい」
兵士はえらそうに顎をしゃくって、壁門のほうに歩きだした。
「やったな、ショーコ! 待たずに入れるぞ!」
ガイアスがわたしの肩を軽く叩いた。
その邪気のないスマイルに、わたしも小さく笑う。
もうガイアスが殺人罪の指名手配犯だろうが国家転覆を図ろうとしたテロリストだろうがどーでもいいわ。
まあそんなことないって信じてるんだけどね。
ブクマ、評価、ありがとうございます。
うれしいです(;д;)




