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喪女ですが不本意ながら聖女になりました  作者: 川音
第1章 喪女、異世界転移する
10/32

10. おっさんの過去に何があったんだ?


◇◆◇




「……、……!」


「ふごぉー、……ふごぉー」


「……ショ…コ! 起きろ、ショーコ!」


「……ッふが?」


 ごつい手に肩を揺さぶられ、棺桶のなかで飛び起きた。 

 アゴをつたう涎を手で拭いながら、ぼんやりあたりを見回してみる。



――夜だ。

 空に赤い月が出ている。


――漆黒の森だ。

 暗闇をたき火の炎が照らしている。



「ここはどこ!? いま何日!?」


 寝起きのわたしは軽いパニックに陥った。


「まだ出発した日の夜だ。よく寝てたのに起こして悪かったな」


 ガイアスの声にハッと我に返る。

 直後に羞恥心に襲われた。

 喪女とはいえ女を捨てているわけではないのだ。

 殿方に汚い寝姿を見られたのは恥ずかしい。


「あれからすぐ眠ったのか?」

「……たぶん」

「大物だな。はじめてドラゴンに乗ったやつはたいてい嘔吐するわ気絶するわで惨事になるのに」

「あ、わたしも気絶してたのかも」

「あんなに気持ちよさそうに寝ておいてよく言うよ」


 ぐぬぬ……。

 どうあっても図太い女というレッテル貼りから逃れられそうにない。


 実際、棺桶のなかは寝心地が良すぎた。

 ドラゴンの飛行テクニックも熟練しすぎていた。

「恐い~」と震えるかよわい乙女(審議拒否)を、数分後には「すやぁ……」と熟睡させてしまったのだから。

 ともかく、寝ている間に『最終兵器喪女』として地面に投下されずにすんで良かった。



「悪いが今夜はここで野宿してもらうぞ」

「それはいいですけど……。ここ、どこなんですか?」

「帝都まで歩いて2時間ぐらいの森の中だ。明日はここから歩いて帝都に向かう」


 ってことは、馬車で7日かかる距離を1日で飛んできたのか。

 ドラゴン、ハンパねえ……。


「あれ? そういえばレッドラさんは?」

「悪いがもとの棲み家に返還した。これ以上爺さんが帝都に近づくと大騒ぎになっちまうからな。――まあ、ものすごく拗ねられたが」


 そりゃあ都合のいい乗り物扱いされたら誰だって怒るよ。


 でもなー。

 ドラゴンタクシーで帝都の中心に舞い降りて、街の人たちがびっくり仰天するところが見たかったなー。

 わたしわりとドッキリ系のテレビ番組が好きなんだよね。

――なんて考えてたら、ガイアスに謝罪された。


「歩かせることになってすまない」


 どうやら徒歩での移動に不満を感じているように見えたらしい。

 わたしはあわてて首を左右に振った。


「あ、全然大丈夫。ドラゴンなんかが現れたらみんなパニックになっちゃうもんね? 帝都はまだ聖女様の結界で守られてるはずなのに」


「それもあるんだが、俺自身が悪目立ちしたくないんだ。なにしろ俺は御上おかみに逆らって帝都を出奔した身だからな」


「え? 出奔って悪い意味の言葉だよね?」


「15年も前のことだし、この髭で人相も変わってるはずなんで、俺に気づくやつはいないと思うが……」


――指名手配犯かな?

 おっさんの過去に何があったんだ……。



「ガイアスって何歳?」

「何歳に見える?」


 うわ、めんどくさい質問返しだ。わたしの苦手なやつだ。


「うーん、50歳くらい?」

「お、ぴったり正解」


 ガイアスは肩すかしを食らったような表情になった。

 どうやらわたしは期待はずれの回答をしてしまったらしい。

 あーあ、もっと若く答えればよかった。

 こういうのってガチに当てにいっちゃダメなんだよね。


 それにしても50歳かー。

 やっぱり年齢差がネックだなー。

 あと10歳若ければおつきあいしてあげてもよかったのになー。


――なんて、喪女の分際で上から目線で却下する。


 こんなこと考えてるってばれたら夜の森に置き去りにされても文句は言えない。




「さて、飯にするか」


 ガイアスは差し入れされた布袋からパン、干し肉、水筒を取り出した。

 わたしは棺桶に入ったまま腕をのばしてそれらを受け取る。



 たき火がパチパチと爆ぜて火の粉が舞う。


 わたしはパンを咀嚼しながら、炎に照らされているガイアスの横顔を観察した。


 男くさい彫りの深い顔にくっきりと陰影ができている。

 フェイスラインをぐるりと囲む髭面は粗野な印象と威厳、愛嬌をそれぞれ感じさせる。

 大口で干し肉に齧りつくさまはまさに百獣の王のようだ。


 性格は優しくて頼もしい。

 ドラゴンを召喚できるほどのでたらめな能力も持っている。

 あと10歳若ければ理想の旦那様だったのにもったいない。



 じっと見てたら視線に気づかれた。

 おっさんは唇の端でニヤッと笑う。


「なんだ? 俺がいい男すぎて見惚れてたのか?」

「いや、別に」


 わたしはパンをモグモグ詰めこんで、ハムスターみたいに頬を膨らませた。



「それにしても15年か……」


 ガイアスはたき火の炎を見つめながら、懐古モードになった。


「もう一生、帝都に戻ることはないと思ってたんだが……」

「戻っても平気なんですか?」

「ああ。今は自分のことよりショーコのことが気にかかるんだ。ショーコを守れと本能が訴えてるんだ」


 えっ!?

 もしかして愛の告白ですか!?


「これが父性ってやつなんだろうな」


……あ、そっちでしたか……。

……うん、知ってた……。わたし見た目は15歳らしいもんね……。



「そろそろ寝るか」

「はーい、パパ」


 野宿に慣れているガイアスは火の近くで横になるらしい。

 もちろんわたしは棺桶のなかで眠ることにした。

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