灯火が消える
この世界に生まれてくる全てには天使と悪魔が付いてくる。
その天使の強さと悪魔の強さが偏ると不幸になったり幸せになったりする。
きっとこれは嘘だ。
人の心には正義と悪が元から存在する。
その人の心の弱さで正義と悪が揺らぐだけで、特別不幸になる事も特別幸せになる事もない。
私が前世を後悔するのはいつだって不幸とか幸福とかではない。
大抵の後悔は「あの時の選択が間違っていたかもしれない」という答えのないものだった。
その時出した答えを悪だといい、正しい道はどっちだったのだろうかといつも後悔していた。
逆を返せば、後悔する選択しかしてこなかった。
自分の思いを押し殺して選択して迷いながら進んできた。
そして後悔して立ち止まり、自分は不幸だと言ってきた。
私が不幸だったのは、私と私を信じる人を信じてあげられなかったからだ。
自分を信じる人の思いを信じきれず、自分自信を自分で疑い、見えもしない相手のために身を削り。
そして不幸だと嘆いた。
悪魔が偏ったわけでも、天使がいなかったわけでもない。
そして今砂になった彼は、ただずっと嘆いていた。
自分も他人も信じず、目に見えない物におびえて生きていた。
死にたくないと嘆きながら。
ゲイルと名乗り、邪の精霊を取り込んで生きていた彼の成れの果てを見つめた。
彼はリッシュ、魔法使いのリッシュだ。
彼は神属性の力で強くなった11属性を扱い、その力で世界を謳歌した。
けれど、神属性が寿命を削ると聞いて怯えたにちがいない。
いつまでも生きて世界の頂点にいたい。そんな思いだったのだろうか。
彼の幼い頃の描写が少ないのは、彼の過去が酷な物だからかもしれない。
彼が隠したかった過去で、弱みだと思った場所だったのかもしれない。
怯え出した彼は、それを周りに知られたくなかった。
弱いと思われたくなかったのかもしれない。
弱いと分かれば幻滅され、地の底まで落とされると思ったのかもしれない。
他人からもらう愛を疑い、そして自分の強さも自分で否定していた。
自分の大切な物を自分ではねのけて、閉じこもったのだ。
彼が倒せなかったのは邪の精霊ではなく、負の感情を抱く自分自身だったのだ。
私が彼に今回使った力は、彼は持てなかった心。
“信じる心”だ。
私は私の仲間を信じた。私がいなくてもサキュリリスにやられたりしないと。
私は私を信じた。絶対に負けるはずがないと。
私は彼が取り込んだ全ての人を信じた。彼らが私を信じてくれると。
そして私は”全てを救える”と信じた。
生に固執したリッシュを解き放ち、彼に捕らえられた人の魂を返し、異空間に閉じ込められた神にその力を返し、それから…。
「そうだ、アーサー兄様…」
立っているのもやっとな私は息絶えたアーサー兄様に触れる。
そして信じるのだ”死ぬはずがない”と
神属性の魔法で底上げした聖属性の魔法を唱える。
すると彼はやはり生きていて、虚ろな目のまま瞬きをしてこちらを見た。
そうだ、アルフレッド父様の”病気もよくなる”と信じた。
あのアルフレッド父様が病気なはずがないのだ。
それから、ええと
「レア、もうやめてくれ、もう大丈夫だから」
誰かに抱きしめられて振り返る。エースだ。
なんでそんなに悲しそうな顔をしているのだろう。
「そんなに自分を犠牲にしにしないでほしい」
そう、だろうか。
確かにそうかもしれない。普通なら寿命を削るなんて考えられないかもしれない。
でも後悔はしていない。
私は私が信じた道を進んだだけに過ぎない。
そこまでしてでも、守りたかったのだから。
見ると、アルフレッド父様もルミニア母様もクリス兄様が牢獄から出してあげたみたいで、そこにいた。
確かに細くなってしまったけど”大丈夫だ”と信じた。
なんだか、眠いな。
遠くで誰かの声が聞こえて来る。
誰だっけ。
まあいいや、私は、眠いから。
おやすみ




