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悪夢


「ねえ、怖くないの?」


可愛い女の子の声が聞こえてきた。

この声に聞き覚えがあるが、きっとその人じゃない。


「どうしたのマリー」


顔を見ることなく背中を向けたまま話す。

突如殺気を感じて障壁を張り、振り返る。

見るとアルフレッド父様もルミニア母様もいて、全員痩せこけていた。


「苦しいよ、レア姉様」

「レア」

「レア、助けて」


奥にはもっとたくさんの骨と皮だけになった人々が連なり群れていた。


「レア殿下…」


ハッと背後から声がして振り返るが、そこにいたのはもはや屍になったアーサー兄様がいた。


「あなたが、私を嫌った」

「だから私もあなたを嫌った」


ぐるぐると頭に渦巻く声が、腕が首を絞めてくる。

苦しい、死んでしまう。


そしてふとこの苦しさに覚えがあると思い出した。

それは川で溺れた時で、なんだ、私はやっぱり変な夢を見ていただけだったのだ。


目をさますと病院にいて、点滴につながれ、川で溺れた私を偶然見かけた誰かが助けを呼んでくれて一命をとりとめたと聞いた。

自殺未遂なので犯罪だし、警察の人も私の回復を待ってから調査をしようとしていた。

私はなにもかんがえずに答えた。

嘘を吐く気もなかった。

私は借金をした母親の代わりに返済していて、貧しいが故に清潔感がなく、会社を首にされ、無職になり、絶望し、自殺をしようと試みた…と。


それで、自殺をしようと試みて…試みて?


『レア』


声が聞こえた。

この病室にいるとは思えない不気味な化け物。

腕が千手観音のごとく生え、それが一つ一つ動いてなにかをしている。

その体から少し離れたところに数えられないほどの翼が宙を浮いている。

そして大量の目玉が神経と血管によって本体につながって浮いている。

本体に付いた瞳は私をしっかりと見つめている。


『レア』


そして私の名前を呼ぶ。

その声はすべての空間から響くように聞こえて、どこから呼ばれているのかわからない。


『レア』


いつも、彼との別れ際は白い靄がかかる。

なにか別れるような言葉を聞いたわけでもなんでもないけれど、白い靄がかかる。


「レア、平気?」


目をさますと不安げに覗き込むロイの顔があった。

夢の中で聞こえた声はロイの声だったのか。


「うなされてたよ?」


しかし周りを見た時に違うと理解した。

部屋が、おかしい。

ここは私の城で、私の部屋だ。

いや、変じゃないのか。

私が私の家にいて、私の部屋で寝ている。

そういえばロイと私は婚約をして……

ロイってこんな人だったっけ?


『レア』


やっぱり、そうなんだ。

私は飛び起きてあたりを見渡す。

そこにはロイだけがいて、私は部屋を開けようとするが、鍵が開かない。


「レア、どうしたの?ここの部屋、嫌い?」

「ロイはそんな口調じゃない」


恐怖で震えた。


「レア、夫婦になるのだから、いらないだろう?」

「ちがう、私はあなたと婚約した覚えはない!」


夢だ、夢なのに目が覚めない。


『レア』


化け物の声が響く。

いやだ、こないで、こないで


「レア、ほら守ってあげるから」


ロイが手を広げている。

いやだ、怖い


「レア殿下、どうなさいました?」


はっとして見るとアーサー兄様がいた。

私を守るように抱きしめて、ロイを睨みつけていた。

アーサー兄様なら、安心だ。

きっと、化け物も追い払ってくれる。


『レア』

「化け物ごときにレア殿下を触れさやしません!」


魔法を構えるアーサー兄様。


「レア」


聞き覚えのある老人の声がした。

振り向くとその老人は見たことがあった。


「レア、こちらに来なさい」


その老人は鋭い目をアーサー兄様に向けていた。

そうだ、祖父だ。


「おじい、ちゃん…?」


私はなぜかアーサー兄様よりも彼のほうに行きたくなった。

アーサー兄様の腕から逃れ、逃げ込むように祖父にしがみついた。

祖父はその目をアーサー兄様に向けたまま、私をしっかりと抱きとめた。


「レア、大切なものをしっかりと持っているかい?」

「大切な、もの?」


そして手元を見たが、大切なもの…そうだ、杖がない。

羽ペンもない。

髪の毛をおろしていて、髪留めがない。

カインに買ってもらったアーサー兄様とお揃いの髪留め。

あの後からずっと同じ三つ編みにしてつけていたはずなのに。

ない。


「ない、どこにあるの?」


私が不安になり祖父を見上げると、祖父はにこやかに笑って頭を撫でた。


「ずっと、レアの心の中にある。さあ、取り出してごらん?」


心の中にあると言われても、どう出せばいいのかわからない。


「簡単だ、”逢いたい”そう願えばいい」


逢いたい、会いたい、そうだ、私は今まだ会えていなくて。

私は、まだ宿屋にいて、そこに大切な仲間と一緒にいて…


「いい子だレア、ほらもう目覚める頃だろう」


見ると白い靄がかかった。

白い靄の向こうに悔しそうな人の顔が見えた気がした。


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