馬車移動
次の日は持参したパンを食べた。
なんだかんだといってこういう状況で且つ日持ちしそうなものとなると干し肉かパンぐらいしかない。
そうなれば胃にたまるパンのほうがいいと私たちは理解していて、あの時ほど硬いわけではないが柔らかくもないパンを食べて水を飲んだ。
しばらくすると別の街にたどり着き、数時間程度この街にとどまり、再び出発すると馬車の人がいっていた。
この街はイナイリカよりは都会に近づいたルーゼミシュアという街で、トイレ休憩と水の買い足しをしてのんびりと馬車に戻った。
その時にはすでに馬車は満員で乗れそうにない。
仕方がないからとカインとケイトが屋根の上に上り、私とクシュシュは二人の今日りょくのもと屋根の上に乗った。
ガタゴトと揺れる馬車の上は意外にも安定していて心地いい。
ただ安定しているとはいっても寝れる程ではない。
変わりゆく景色を眺めながら、今の私を思っていた。
前世の私は、なんだかんだといって諦めやすかった。
何かを成し遂げようと試みても、すぐに諦め、手放した。
それは支えがなかったからかもしれないし、決意が足りなかったのかもしれない。
もしかしたら若さが足りなかっただけかもしれない。
けれど、稀に、ふとした拍子に考える。
本当にあれで精一杯だったのだろうか、もしかしたらあのまま生きていけば何か変わったかもしれないのではないか。
過ぎ去ったことだし手放したことだ、考えても仕方がないのはわかるけれど、借金だらけでも何かできることはあったんじゃないだろうか。
そしていつもこう思ってその思考を締めくくる「あの時はそれ以上の最善策がなかった」と。
あれが最善、あれが最高、あれ以上のことはあの時の私にはできなかった。
今の私には出来て、過去の私には出来ないこと。
例えば魔法もそうだし剣術もそうだ。前世では出来ないことで、今だからできる。
今はできるから、過去の私も出来たんじゃないかと思うだけで、あの時は何も出来なかった。
大切な何かを守ることさえ出来ないほどだったのだから。
今の私も守れてはいないけれど…
「死んだことになってるということは…まずい!クズ兄が我が家の顔に!?」
突如カインがハッとして叫ぶ。そういえばカインは後継者争いに参加するはずだった、死んだことになってしまったならもう争う必要もなく長男に渡ってしまうはずだ。
しかし、実際には生きているので、結局その家でまた生活するわけで…
早いところ生きていると証明し、そのお兄さんよりも力を持っていると証明出来なければならない。
「……ええと、頑張ってカイン」
同情しか出来ない。
私の家系はとても真面目な人しかいないので、そういう気分になることはないが…苦労は相当なものだろう。
「その時は協力してくれますか?レア」
「私ができることならするよ」
すると真剣な表情で考え込みカインはブツブツと独り言をし始めた。
ケイトとクシュシュは貴族ではなく一般国民なので跡取りなどというしがらみはないそうだ。
関係ないから身分差の結婚などそんな障害もなく、二人は婚約できたのだろうけども…。
あ、そうそう、二人は両思いで、最近婚約したそうです。おめでたいね。
でも成人してからじゃないと結婚出来ないはずだから、今年で12歳だからあと6年は我慢しないとだぞ?
私に「法律で15歳からにして」とか無理言ってこなきゃいいけど…。
「レアは結婚とか婚約を考えてたりしますか?」
「へ?」
カインが真面目な顔でそう聞いてきた。
いや、まだ11だし考えたことないよ。と答えると、早いうちから考えたほうがいいといっていた。
「16になったら考えるぐらいが妥当じゃないかな?」
「16…」
長すぎるとカインがぼやいて空を見上げていた。
あと4年とちょっとだからそんなに長くないよカイン。
ふと空を見上げると星が瞬きはじめ、夜がやってくることを告げていた。
不安定な馬車はそのまま進み続け、私たちは一睡もできずに屋根の上で星空を眺めた。
夜明けが来て、あたりが明るくなった頃。二つ目の街に到着した。
屋根から私たちはすぐにおり、さっさと用事を済ませてさっさと馬車に戻った。
馬車に乗り込み互いに身を寄せ合って眠る。
起きた時には馬車は動いていて、人がぎゅうぎゅうと詰め寄ってきていて、前世の満員電車を思い出した。
四人は隙間もないぐらいに密着し、ケイトとクシュシュはなんだか嬉しそうに、私とカインは気まずそうに笑っていた。
馬車が揺れると人も動くので、たまにとても苦しくなる。
それに気がついたカインが少しだけ身を動かし、馬車の角に両腕を使って隙間を作ってくれた。
いわゆる壁ドン…?的な何かだと思う。
顔も近くてなんだか包まれているみたいでドキドキもするがどちらかというと気まずい。
なんとも言えない空気で、そのまま時間を過ごす。
次の街に着いた時にようやく解放されたが、ここまでぎゅうぎゅうになったのはひさびさかもしれない。
私たちはねれなくてもいいから広いところがいいね、と話し合い、再び屋根の上に登った。
下はもちろんぎゅうぎゅうになり、上でのんびりくつろいだ。
夜になり、遠くを見ると懐かしい城の影が見えた。
フルブラント王国の首都ハウトディアに私たちは生還したのだ。




