だからSランクのあいつ
6日目、どうも外が騒がしくて起きた。
カインもケイトもクシュシュも警戒している。
布の奥から他の奴隷の怯えるようなうめき声が聞こえるのでよほどのことなのだろうと思う。
緩くつけられた首輪を外し、杖を握りしめる。
窓にかかっている布を少しだけずらして外を見た。
ここは深い森で、よく見ると見たことのない蔓植物などが木に巻きついていた。
もしやここは…
「魔の樹海…?」
「安全ルートなら絶対に通らないはずなのに??」
視線を右にずらすと冒険者が女性と戦っていた。
その女性はとてもこの森にいるとは思えないほどの美人で、なんだか見たことがあるような雰囲気がする。
「Sランクモンスターのサキュリリスですか…レアさんどうしましょう?」
「え?あれモンスターなの?」
カインはモンスターだときっぱり言い切った。知っている人は少なく、非常にマイナーなモンスターなのだとか。
なんで知っているのかを聞いたら、カインはため息をついて兄が夜中に叫びながら変な声を出しているらしく、あとで問い詰めたらそう言われたのだとか…。
……突っ込まないでおこうか。
見分けは額らしい、髪の毛で大体見えないが、そこに赤色の宝石が埋まっているそうだ。
さっき戦っている時に見えたそうだ。
冒険者は突然襲い掛かってきた見知らずの女と戦っているという感じらしく、モンスターと戦ってる自覚はなさそうだった。
「なんでSランクなの?そのサキュリリスって」
「男にとっては相当な相手だからってクズ兄は言ってましたが」
「クズ兄…」
私から見たら嫌な奴だなー程度にしか見えないサキュリリス、と冒険者の男が突然膝をついて倒れてしまった。
サキュリリスの目が怪しい赤に光っている。
そしてチラリ、とカインの方も見た。
「ぐっ…」
「カイン!?」
何かの攻撃を食らったのか呼吸のリズムが乱れて苦しそうにしている。
聖属性の魔法で回復をしたが効果は今ひとつなようで…
やっぱり、こいつはそういうヤツなのかなと冷静に私は思う。
生前、そういう悪魔がいると本で読んだことがあった。もちろん本当だとは思っていなかったが。
そういう悪魔は大抵本能に呼びかけて理性を崩すという恐ろしい方法で挑んでくる。
となれば”回復系の聖属性”は効かない。相手は邪属性で精神的な効果を発揮しているのだろう。
ならばそれよりも強い聖属性で邪属性を”打ち消す”ことが最適。
カインに向けて打ち消しの聖属性魔法を唱える。
すると次第に呼吸が落ち着き苦悩の表情も和らいで、なんとかこれ以上苦しませずに済んだ。
となれば外にいる冒険者に向けてもこの打ち消しの魔法を唱える。
冒険者も意識を取り戻したらしく、そこに立つサキュリリスを斬り殺した。
ふと、アーサー兄様が結婚した女性が成人式にいたあの女性だということを思い出す。
その女性はそうだ、ちょうど今回みたいに「ちょっと嫌だな」という思いがした相手だ。その時は嫉妬だとか思っていたけれどもしかして…。
「サキュリリスってどうしてあんな事をするのかな?」
「…クズ兄はあれが彼女たちのご飯なんだとか言ってました」
「やっぱりそうなんだね」
アーサー兄様!絶対無事じゃない!!思い過ごしだったらいいけれど、あの感じ、きっとあの女サキュリリスだったんだ!
急いで帰りたいけれど、この魔の樹海ルートでも半月はかかるのでどうしようもない。
焦る気持ちは有るけれど何もできないこの感じがたまらなく嫌だった。
こうして変に嫌な一日を終えたのだった。




