闇の契約
次の日になり、リトちゃんではなくセイダーさんが城周辺を案内してくれた。
昨日は城に直で行ってしまったので外のことは知らなかったが、行商人や旅人や手練の冒険者などがゴロゴロ居て活気あふれているところのようだ。
魔法を使う人はフルブラントよりは多くいるようで、この国での魔法使いは魔法が使えるというだけでリトちゃんの次ぐらいに階級が高くなる。
要は公爵扱いになるそうで、なんとも思い切りのいい帝国なのだろうと感心した。
城周辺にいる行商人にかたっぱしから話しかけてフルブラント行きを探す。
すると数名の行商人から、フルブラント行きはもう国を出てしまったそうだと聞いた。
「何せ遠いからねぇ」
「そう、ですか」
「でもまあ、方法は、あるにはあるな」
商人はセイダーさんではなく私たち四人を品定めするかのようにじっくり見つめ、そんなことを言った。
「どんな方法ですか?」
「商品、いわば奴隷として運ばれるっていう手だ。闇市の連中ならお前さんたちみたいな子供は売りたがる」
闇市と聞いてセイダーさんのこめかみがピクリと動いた。
闇市、フルブラントではほとんど存在しないが確かにあるとは聞いていた。
売り物になるのなら運べなくは無い、その代わり扱いは酷いものになるということだろう。
「私は、それでも構いません」
「私も、帰れるのであれば」
私とカインがそういうとケイトとクシュシュも首を縦に振った。
「じゃあセイダーさんよ、今回のことについてはお咎めなしで」
「…承諾しました」
闇市は大抵違法なものが多い、しかし国の利益に一番貢献していたりもするのでバッサリと斬れないのが現実だとか。
私たちは闇市の人と連絡を取ってもらうことを約束し、日程が決まり次第報告するとの話を受け用事を済ませた。
行商人ではなかったがフルブラント行きであろうものを見つけたので、私たちはどこかのカフェで休憩しようと話を合わせた。
カフェはリトちゃんもお忍びでいくお気に入りのカフェがあるとセイダーさんから聞いて、そこに行くことにした。
煉瓦造りの静かなカフェの扉を開けると淹れたてのコーヒーの香りが漂ってきた。
店内に案内され5人で席に着くと店の方が注文を聞きに来た。
セイダーさんと私はブラックコーヒー
カインはミルク入りのコーヒー
ケイトは砂糖多めのミルクコーヒー
クシュシュはカプチーノを注文した。
一緒にどうかと言われてさらにケーキも追加で注文し、ふうっとため息をついた。
しばらくして運ばれてきたコーヒーを口に含む。
思いの外苦味は少なく、飲みやすいコーヒーだった。
私は生まれてこのかたコーヒーを飲んだことがない。
生前はもちろんあったが、この世界に来てからコーヒーを飲んだことは一度もない。
あるにはあるらしいのだけれど、フルブラントのコーヒーはあまり有名ではないらしく、小さい頃アーサー兄様が角砂糖2つは入れないと飲めたものじゃないと言っていた。
今日も持ってきた精霊樹の杖をぎゅうっと握りしめる。
もう絶対に無くさないようにと手放さないようにとぎゅうっと…。
ちなみに母様からもらったあの羽ペンもリトちゃんが持っていた。
ただならぬ愛のオーラを感じで、持ち主がいたら返してあげようと思っていたらしい。
愛のオーラとは一体なんなのかはわからないけれど、リトちゃんのような優しい皇帝様に買われていて良かったとも思った。
セイダーさんが言うには、リトちゃんはそういうものが”見える”人らしい。
だから稀に誰もいないところに向かって楽しそうに話すこともあるのだとか。
ちょっと怖いなリトちゃん…。
コーヒーをちびちび飲んでいるとケーキがようやく運ばれてきた。
ケーキはショートケーキで、一口食べたらもう要らないと思うほどに甘かった。
これにはカインもケイトもびっくりしてクシュシュだけは嬉しそうに食べていた。
セイダーさんはというと、フルブラントは砂糖をあまり使わない国だから慣れないのも仕方ないと言い、これでもここのケーキは甘くない方だと教えてくれた。
リンシャント帝国恐るべし砂糖帝国だ。
カフェでのひと時を終え、一旦城に戻った。
城で今回のことをセイダーさんが報告し、闇市と奴隷の話でリトちゃんも険しい顔をしていた。
しかし私たちが帰ることを優先してくれたので、今回はお咎めはしないらしい。
代わりに少しでも雑に扱ったら許さないと低い声で言っていた。
食事もお風呂も終わり部屋に戻った。
ルミニア母様からもらった羽ペンでもらった真っ白の本に日記をつけ1日を振り返る。
何が大切だったか、誰が無事でいてほしいか、今日何があったか、どうだったか…
書いているうちに大切な人たちに会いたくなった。
そして私は小さく「みんなが無事でありますように」とつぶやいて祈った。
また胸が少し苦しくなったが、それもすぐに収まり私は眠った。




