失態
1年経って、リッシュは上位学院生に、私とカインは学院4年生になった。
妹は今年から学院1年生になり、わたしと一緒の学校なのがとても嬉しいそうだ。
クリス兄様は今年から陛下の隣で仕事を学ぶらしい。
アーサー魔導師様は成人式にあったあの女性と去年結婚した。結婚式には招待されたが一言も会話はしなかった。
今年はカインとロイと一緒のクラスになり、ユーリスやロレッタとは別のクラスになった。
カインとは冒険者のこともあり仲がよく、自然と寂しいとは思わなかった。
席も隣になり、話もしやすい。
反対側の隣にはロイがいてさらに話しやすい。
しかし、カインと話しているとロイがふてくされてしまい、ロイと話すとカインがふてくされてしまうのでちょっと困る。
冒険者稼業は続けている。ランクはリッシュとカインの助けもあってDまで上り詰めた。
まだDのクエストは受けていないけど、討伐依頼も受けられるようになるので今日試す予定だ。
マリーはお友達ができたらしく、私よりも友達と一緒にいる。
私は陛下と王妃とはあまり喋らなくなり、クリス兄様ともあまり喋らなくなった。
唯一喋るのはエメスト兄様で、エメスト兄様も隠れて冒険者をしようと企んでいるようだった。
私はエメスト兄様を応援している。
授業終了後、カインと一緒に出かけると怪しまれるので現地集合にして城に帰るフリをして一目のないところで変装した。
冒険者ギルドでリッシュと落ち合い、カインを待った。
カインがやってきたらDランクのクエストを受け魔の森へ。
今回はこの前リッシュが流れるように討伐したラビアース1羽の討伐だ。
ラビアースはリッシュだと簡単に倒せてしまうので3人とも別々で受け、ピンチになったらリッシュが助けに入る。
カインは剣術下級だけれど、ラビアースは何の問題もないようであっさりクリア。
私も剣術で挑み、あっさり勝利。
そしてリッシュも流れるようにクリアした。
初めて倒したラビアースは、クエスト報酬とスピード報酬で銀貨2枚に姿を変えた。
そのお金を冒険者ギルドが運営している銀行に入れ、3人で喜んだ。
冒険者ギルドにある銀行についてはリッシュが教えてくれたので、あの時わざわざあっちに銀行を作ることもなかったんだとしって、なんだかやるせない気持ちになったのは言うまでもない。
今日はあまりにもすんなり倒せてしまったのでどうしようかと話し、せっかくだから何か買いに行こうかという話になった。
もちろん私たちの持つお金で買えるものなどたかが知れていた。
私は今持っているものの方が強いので本当に眺めるだけだ。
リッシュは思いの外お金があるので、いいものがあったら買うつもりでいたそうだ。
カインもリッシュと同じらしい。
様々な店を見るが、あまりいい店はない。
流れに流れて私にとってはどこか懐かしい店にたどりついた。
「おや、子供には高すぎるものしかないよ?」
店主のおじさんが驚いて私たちを見つめる。
この店は魔道石などが置かれた魔法系のお店で、各地の冒険者が物を売ったり買ったりするオーソドックスなお店だ。
店主は私たちにお金がないと思ったのか高すぎるといっていたが、リッシュからみたら…やっぱり高いようで顔をしかめて値段とにらめっこしていた。
「これは小さいけど、オーロラ魔道石…?」
「おや?坊ちゃんそれがわかったのかい?」
小指の先ほどのオーロラ魔道石をリッシュが見つめる。
なんだか覚えがある気がして首をかしげる。
「オーロラ魔道石は11属性の魔法を強化できる魔道石で、とっても珍しいんだ」
何かわからないのかとリッシュが説明してくれるが、私はそれを知っている。
そうだ、あの時はアーサー魔導師様と買い物をしに来ていて…ふと3歳のころの私が顔を覗かせていた。
どことなく不安げに、本当に今のままで平気なのかと…
「姫君どうしたの?」
「…ちょっと考え事です」
「珍しいですね」
カインもリッシュも不思議そうに私を見ていたが、私はそれどころではなかった。
あのオーロラ魔道石どこに仕舞い込んだか思い出していたのだ。
最後に使ったのは3年前でもう覚えてなどいない。
買ってもらったのは今から6年前で、すっかり忘れていた。
あれは偽物でも大切にしようって思っていたはずなのに。
確かとてつもない宝物だったはずなのに。
「私、城に帰らないと」
「え?もう帰っちゃうの?」
「思い出したことがあるの」
カインとリッシュに断って急ぎ足で城に帰った。
部屋に戻って手当たり次第探した。
クローゼットからベットの下からどこもかしこも…
しかしおめあての杖は見つからなかった。
整理整頓されていた部屋がぐちゃぐちゃになるが必死に探した。
「レア、物音がひどいけれど…?」
そこへ王妃が不安そうに覗いてその後絶句した。
そりゃ綺麗にしてあった部屋がこの有様じゃ絶句だろうけど…。
「何してるの!?せっかく人が片付けてくれたというのに!今すぐ片付けなさい!」
私がなんで探しているかも知らずに頭ごなしに叱りつけてくる。
「母上様、精霊樹の杖を見かけませんでした?」
しれっと無視して用件だけ告げる。
王妃は厳しい顔つきを一瞬だけ曇らせ、デルダメイド長を呼びつけた。
デルダメイド長はこの惨劇を見て倒れそうになっていた。
しかし精霊樹の杖を探していると言われ、首をかしげた。
「ここの部屋の担当の者にも聞いてみますね」
「お願いします」
魔法でひょいひょいと片付けて待っていると、この部屋の掃除を担当していたメイドさんがデルダメイド長とともに現れた。
私は青みがかった木製の杖を知らないかと聞くと、彼女はそれがどうしたのかと言いたそうに首を傾げてこんなことを言った。
「使われていない上にお部屋が汚く見えてしまったので、流れの商人様がお見えになった時に売ってしまいましたが?」
ショックでたまらなかった。
このことはさすがのデルダメイド長も顔を真っ青にしてしまい、王妃も愕然とそのメイドを見つめていた。
「あれは、精霊樹の杖で、レアの…ものでしたのに…?なぜ?」
「そんなに大切なものだったのですか?」
「ええ」
自体がうまく理解できていない新人メイドはその後陛下からきつくお叱りを受け、どの行商人だったのかと問い詰められていた。
話を聞くとリンシャント帝国へ向かう行商人だったらしく、2年前に売ったらしい。
その話を執務室の前で母様と聞いていた。
ではもしかして最近見つからないお気に入りの羽ペンもそうなのだろうか。
話を聞いていると、その新人メイドの本性があらわになった。
私の物を勝手に売って得たお金を自分の懐に入れていたというのだ。
より、許せなかった。
しかし、それより許せなかったのは自分だった。
大切な杖も羽ペンも守れなかったのだから。
冒険なんかに夢中になっている間に、大切な物が消えてしまっていたのだ。
さらに言うなら天使の冒険者カードも奪われて勝手に金貨を使われていたそうだ。
メイドは全て泣きながら自白し、陛下に色目を使って許してもらおうと企んだそうだが、陛下は…アルフレッド父様はそんなものに見向きもせず、その女性を牢獄に入れた。
アルフレッド父様は落ち込む私を撫でて、新しいものを買ってあげるといってくれた。
とても優しい父様…だけれど私はアレじゃないといけないのだ。
アーサー魔導師様ではなくてアーサー兄様ともう一度呼ぶためにはそれが一番必要だと私は思った。
私は冒険者になったときに忘れていたのだ。
生前のことだ。
かなりブラックな会社のせいで大切なものの死を止められなかった。
お金を稼ぐことだけに目を向け、人の役に立つことに目を向け、頼られることが生きがいだと思っていたあのとき。
私の幸せはなく、大切なものの幸せもなく、自由な時間もなかった。
今回も、冒険者などという死の危険のある職業をし、大切なものとの時間を削り、最終的に決別してしまった。
ようやく理解した。
私が実力不足なわけでも性格的に舐めてかかっているわけでもないのに許されなかった理由。
8歳だったから、もっと言うなら6歳だったから。
家族との時間を削ってまでそんなことをする必要などなかったのだ。
私はまだ小学生なのだから。
幸せになるのなら、今は見えない誰かではなくて、見える誰かとの時間を過ごすべきだったのだ。
リンシャント帝国のことは知らないが、ここからそこまで遠くはないそうだ。
本当はここで待つべきかもしれない。
今理解したのだから、幸せなものと過ごす時間を削ってはいけないのかもしれない。
でも私はそれでは幸せにはなれない。
大切にするという約束があるのだ。
今日は冷静な判断ができそうにない。
できそうにないので、今日はもう眠ることにした。
涙が溢れてねれなかったけれど、それでも眠ったのだった。




