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カインと冒険者


順調に学院生活を送り、冒険者をちまちまやっていることも親にばれず、次の年の四月になった。

今年は本格的にエメスト兄様が受験に入るので組手はできない。

マリーは早く学院に行きたいみたいで昔の私みたいだ。

アーサー兄様は仕事で遺跡調査に向かった。帰ってくるのは1年ぐらい後だと言われたのできっと今年は会えない。

私の教育係じゃなくなっても城に頻繁的にやってきていたアーサー兄様と会えなくなるのは寂しいけれど仕事だから仕方ない。


学院2年生になると女の子も剣を常備するようになる。

もちろん斬れるが学院内で振り回すような輩はいない。

なぜ常備するか、それは自分の身を自分で護るという意識を高めるためだ。

私はもともと自分の身は自分で護れるので問題ないけれど、剣を常備できるのはとても好都合でありがたい。

もちろん、冒険者をするときに便利で好都合という話だ。


学院2年生にもなると、戦術上級ぐらいまではみんな上り詰めてくる。

私は剣術中級から変わらないが、そのうち上級になりたいなとは思っている。


「レアさんこんにちわ」

「こんにちわ」


目の前にいたのは初めて学院男子で友達になったフルブラント・B・フーマリア・カイン=ローグゼス君だ。

真っ黒の髪をウルフカットにし、前髪は眉が隠れるほどにしている。瞳はこれまた真っ黒で吸い込まれそうだ。

表情はほぼ無表情で基本無口、だというのに不気味だとは思ったことがない。

きっと稀にみせる綺麗な微笑みが不気味さを吹き飛ばしているのだろうと思う。


ロレッタやユーリスは勉強は中の上ぐらいだけれど、カインは上の上で私よりは低いが普通に頭がいい。

カインの戦術は超上級で剣術下級ぐらいの腕前なので、私とよく組手をしたがる。


「レア様ご機嫌麗しゅうございます」

「ごきげんよう」


今恭しく頭を下げてきた子は学院男子で2番目に友達になったフルブラント・C・セレシアン・ロイ=ローグゼス君だ。

紺色の髪を後ろでひとつに結んでおり、瞳は黄金。

執事のような立ち振る舞いで、なぜか私への挨拶もかしこまっている。

戦術は上級、学力は上の中ぐらいだ。


この二人も貴族階級は中と上なので冒険者はやらないそうだ。

カインは腕試ぐらいでやってみたい思いはあるらしく、卒業後に両親に相談してみるらしいとは聞く。

しかし、基本は貴族学院なので冒険者よりも騎士団や兵団に入りたがる方が多く、それよりも父親の後を継ぐ方が多い。

私は第3王子で上に兄様二人がいるから継ぐことはないが、他の子は長男だったり後継者争いを控えている子だったりする。


カインは後継者争いを控える次男、ロイは後継者になる人だ。

男の子は女の子とは違って忙しそうなので、つくづく私は女で良かったと思う。


「ロイ、私に挨拶はないのか?」

「おや、カイン様?いらっしゃったんですね」


実は彼らはあまり仲がよくない。

なぜかは分からないがいつも互いに喧嘩腰だ。

そのことをユーリスやロレッタはわかっているらしいけれど、私は世間知らずなところが多いのでさっぱりだった。


「ふたりとも顔が怖いですよ?」

「レア様…」

「レアさん…」


私が喧嘩しないで欲しいと含ませながら困ったように笑顔を作るとその場は治まった。

仲良しが一番だと私は思うので喧嘩はしないで欲しい。


「レアさんって憧れの方とかいらっしゃるんですか?」

「憧れの方?」


唐突にカインがそんなことを聞いてきた。

憧れ、憧れかぁ…

正直なところクリス兄様は憧れの兄様だ。

見た目も中身も紳士で誠実なイケメン皇子様ということもあるし、剣術もそろそろ上級になる筈だ。

もちとんエメスト兄様も憧れの兄様だし尊敬できるがクリス兄様よりはやんちゃ。

尊敬や憧れで行くのならアルフレッド父様も尊敬できる父様だ。

あと他に…いるじゃないか一番の憧れが!


「アーサー魔導師様ですかね?」

「アーサー魔導師様…ですか」


アーサー兄様は魔法でも剣でも右に出るものがおらず、私の恩師でもある兄様だ。

いつかアーサー兄様と仕事で背中を預けてもらいたいと思っている。

でもやはり憧れの方が強く、あの人にはかなわないとも思う。

尊敬であり憧れであり恩師であり兄様である。


「ハードルが高い…」

「どうかしました?」

「いや…別に」


何か聞こえたような?ハードルが高い?

しかしだれもアーサー兄様のようになれなど言っていないので気にやむ必要はないと思う。

私がアーサー兄様が憧れだと言ったあとからロイとカインがとても静かになってしまった。


「あの、私何か悪いことしましたか?」

「いえいえ、しておりませんよ」


本当に?と聞いたがそうだと言ってふたりはおち込んだかのように静かだった。

絶対に何かしてしまった気がするのだが、違うというのならそういうことにしておこうと気にするのをやめた。

アーサー兄様元気かな~…。


放課後、ロレッタとユーリスと一緒に街で少し寄り道をしてチョコレート菓子を買った。

ふたりと楽しくおしゃべりをして、時間になったのでふたりと別れ、そのまま冒険者ギルドへ向かった。


「レアさん?」


向かう途中、知っている声が聞こえて驚き、振り向く。

そこにはカインがアイスを片手に座り、こちらを驚愕の目で見つめてきていた。


「カイン、奇遇ですね」

「…お城とは逆方向では?」


ぎくり…


「ええと、少々ようがあって…」

「…」


怪しいものを見るかのような目で見つめながらアイスをペロリとなめているカイン

普段何もない日にこれを見ていたらギャップで驚いてそのあと笑ってしまいそうな光景だ。


「天使?こんなところでどうしたんだい?」


こんな時に限ってリッシュもきてしまうなんて、ちょっと最悪な日かもしれない。


「彼は?」

「…冒険者のリッシュです」

「リッシュ!?」

「ん??」


カインはやってきたリッシュの名前を知るとびっくりし、そして目を輝かせた。


「もしかして11属性を扱えるアーサー魔導師様を超えるとまで讃えられたフルブラント・D・ペルデリア・エースって君のこと!?」

「僕の本名を大声で言うんじゃない。」


呆れた物腰のリッシュがカインを軽くあしらう。

そして私の方を向き、彼はだれ?と目で訴えてきた。


「彼はカイン、フルブラント・B・フーマリア・カイン=ローグゼスさんですよ」

「僕より二つも貴族階級が上の相手だったのか、ご無礼を申し訳ありません」


心のこもっていない謝罪など気にもせずカインは興奮気味だった。

ここまで表情が表にでる彼は初めて見たかもしれない。


「ところで、エースさんと知り合いなんですか?」

「ええ…まあ」

「天使とは同じ冒険者だよ?」

「リッシュ…」


冒険者という言葉を聞いてカインが険しい目つきになった。

そして私の方を向いて何時からですかと低い声でいった。


「去年から…」

「…」

「あれ?僕何か悪いことしちゃった?」

「いえ…」


ばれてしまったからにはもうここには来れないかと思って腹をくくる。

しかしカインは何かを考えるように唸り、決心するとアイスの残りをパクリと食べて立ち上がった。


「決めた、私も今日から冒険者をする。レア様は私が守る。」


カインはそう言うとリッシュは嫌そうな顔をした。

私もとても困ってしまった。

そうなると魔法は確実に使えないので最前線に出るほかなくなる。


「ま、君が僕を見て自信を喪失させない自信があるのならついておいでよ。」


どこか挑戦的なリッシュの言葉に、私は苦笑するしかなかった。

仕方ない、腰につけている剣で応戦するしかない。

剣で戦うとわかっていたら髪留めぐらい持ってきたのにな。


冒険者ギルドに着いたカインが登録を済ませ、討伐は出来ないからと薬草採取を選択、私もリッシュも一緒に行ってあげることになる。

カインはそこらへんにある草を見て困惑し、早速私たちへのヘルプが出された。

私は二つ引っこ抜き、こっちが毒草でこっちが薬草だと見分けを教え引っこ抜かせた。

リッシュは慣れたもので、ぶっちぶっち引っこ抜いていった。

途中ラビアース3羽の襲撃があったが、カインが剣を抜く前にリッシュが見もせずに魔法で撃退した。

カインはそれに驚きリッシュを尊敬の眼差しで見つめていた。

リッシュは得意そうに笑っていたので、嫌な気はしていないみたいだった。


クエスト終了後、初めて自分で稼いだお金にカインはとても満足そうにしていた。

この感じは多分ハマったといったような顔だ。


「カイン、そういえば冒険者ネームはどうしました?」

「ん?カインだよ?」


カインはどうやら間違えなかったようだ、ちょっと悔しい。


「このことは学院では内緒ね?あと冒険者のところではここのネームで呼んでほしいの。」

「わかりました、よろしくお願いします天使」

「僕にはよろしくしないの?」

「よろしくお願いしますリッシュ様」

「よろしくねウルフ」


どうなるかと思ったが、なんとかなりそうでホッと心の中で胸をなでおろす。

ばれてしまったら父様や母様に言われていけなくなってしまうかもしれない。

そう思うとばれたくなくて隠してしまう。


けれど、黙っていたからといって何かへんなことが起きるとは思えないので、きっと平気だろうと今日も楽しい1日を終えた。


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