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悪夢の秒速500m


1年後の4月になり、クリス兄様が学院6年生になった。

今年はどんなに頑張っても遊べないだろう。

しかしエメスト兄様も遊べないことになれたのか、一人で何かするようになった。

私はアーサー兄様との剣術の稽古で三つの型の中級を認められた。

マリーも一人で歩けるようになったので、ルミニア母様と一緒にお部屋で遊んだりおしゃべりしたりしていた。


「今日はお部屋でお勉強でもしましょうか」


アーサー兄様が珍しく魔術でも剣術でもなくお勉強をしようと言ったので一緒に部屋へ向かった。

部屋では軽く抜き打ちテストを受け、全て満点をとった。

しかしここまではアーサー兄様も想定内だそうで、これは今回勉強をするにあったって基礎を忘れていないかを試しただけだそうだ。


「今日からこれを勉強しましょう。」


そう言って見せられたのは上位学院レベルであり、昔でいうなら高校レベルのものだ。

とうとう教えてくれるというのだから私も張りきった。

xだのyだのはもちろんのこと、漢字だって前よりも難しくなっている。

社会も細かいところが描かれるようになり、生物に関してはモンスターの生態が事細かに記されていた。

そんなレベルアップした4教科にプラスで1教科加わった。

『国と経済』という教科だ。

地図を見て国と首都と特産物を覚えるあれだった。

さらに商売ルートやそれぞれの相場などまで学ぶことになる。

もちろん5歳に教えるような内容ではない。


「レア殿下はきっとジェイダなのでしょう」

「ジェイダ…?」


初めて聞いた単語に私は首をかしげた。

アーサー兄様は笑顔で頷き、ジェイダについて教えてくれた。

ジェイダ、それは生まれた時から聡明で賢い子を指すのだそうだ。

稀に生まれ、その人物は天才として周りから尊敬されるのだとか。

ジェイダ自身も千年に一度あるかないかぐらいの確率でしかないのですごいことではあるらしい。

どうりで怪しいと思われないわけだと私は納得した。

そういうものが私が初めてでないなら怪しくないのだ。


アーサー兄様の教え方がいいのか、私はすんなりと勉強が頭に入ってきた。

この調子だと学院に行かなくとも平気そうだとアーサー兄様が言ったので、絶対に行くと言い切ると声を出して笑って冗談だと言った。


「人間関係も勉強のうちですからね、学院に行かせないなんてありませんよ」

「よかった~」


もっとも私が判断できるものではありませんし、とアーサー兄様はいい、確かに父様でも母様でもなく別の家のアーサー兄様が行かなくていいと言える立場じゃない。

いつも兄様と呼んでいるし、いつも一緒にいるものだからすっかり血の繋がりのない他人だということを忘れていた。


「そういえばアーサー兄様」

「レア殿下どうかなされました?」

「アーサー兄様はお仕事はしなくて平気なんですか?」


当然の疑問だと私は思う。

兄弟ではなくて血の繋がりのない他人であるアーサー兄様はある時突然お城に住むようになり、頻繁に来ていたから住み込みになった。

前までは魔法団のトップとして各地を駆け巡っていたそうなのだが、最近そんな話を聞かない上に毎日一緒にいる。


「…ええと、話していませんでしたっけ?」


困惑気味なアーサー兄様の言葉にクエスチョンマークを浮かべた。

この歳になるまで話していなかったか、とアーサー兄様はブツブツいうと改まった顔でこちらを見つめた。


「レア殿下を教育するために城に雇われています。期間はレア殿下が学院に入るまでですが…」

「えええ!?しらなかった!」


私に何かを教えるのがお仕事だったのか、どうりで毎日私の側に居る訳だ。

新発見すぎてどうもこうも今まで学んでいたことがすっぽり吹っ飛んだ。

しかも私が入学するまで…もう1年しかない。


「私が入学したら、いなくなっちゃうんですか?」

「そうですね、魔法団に戻らねばなりません。」


魔法団は首都ハウトディアに本拠地があり、各街にも支部がある。

魔法団トップは首都ハウトディアを拠点とし、必要があれば何処へでも向かう。

任務期間は短いものだと3日、長いものだと2年はかかるとも言われている。

さらに任務は過酷なので命を落とすこともあるらしいという。

魔法団に入団するには魔法学院卒業生か、成人した時に魔法の知識が一定以上あり魔法が使えるかが条件になる。

普通は魔法学院に入学するのだ。


「魔法学院に行きたい!」

「唐突ですね…しかしそれは不可能です。」


アーサー兄様が死んじゃったらどうしようなんて思うと、私はかなり役に立つんじゃないかと思い魔法団に入ろうと思ったのだが、そのためには成人しなければいけない、遅すぎる。

魔法学院は確か編入ができるはずだからと思い言ったのだが、アーサー兄様は首を縦に振らなかった。


「だって死んじゃったら…」

「縁起が悪いこと言わないでください。私は平気ですから」


何せ11属性持ちでトップ、剣術は上級なんですよ?というアーサー兄様を見て、それでも私は不安だった。

その不安そうな私の顔を見たアーサー兄様はため息をついて言い方を変えた。


「ダークスピアロー5体に囲まれても一人で倒せるので平気です。」

「安心しました。」


ダークスピアローは上位のドラゴンで、別名『死神』出会って生きて帰ってこれる人間はいないとか言われている。

目の前に5匹の死神に囲まれて行きて帰ってきた人がいるけども…

さらにアーサー兄様は耳につけているピアスの鱗がダークスピアローの宝鱗だと教えてくれた。

1体に1枚あるとも限らない鱗で、5体ぐらいは倒さないと2枚も手に入らないだろう。


「安心して学院に行きます」

「そうしてくださいレア殿下」


規格外なほどにアーサー兄様は強かった。

さらに驚いたのは5体に囲まれた時素手だったという話だ。

杖がたまたますぐに見つからず、剣は短いのしか持っていなかったのだとか。


「あの時は本当に死ぬかと思いました。無属性で自身の能力を高めて障壁を貼り、近くに落ちていた石を死神の目をめがけて秒速500mぐらいでホーミング付きでぶっ放したら石が頭を貫通してなんとかなりましたけど…」

「もう平気です、安心しすぎて眠くなります」


本当に眠くなったのであくびをする。

それをみたアーサー兄様が苦笑して今回の勉強はここまでにしようといい、私はお昼寝をすることになった。

その時見た夢は、秒速500mで瞬間移動するアーサー兄様の夢だったので、きっと悪夢かもしれない。

地味に怖かった。


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