神との遭遇
予想にも反して私は目を覚ました。
睡眠薬の量が足りなかったのか、救助されてしまったのか、分からない。
『やあ、目を覚ました?』
声がして振り向くと、そこには化け物がいた。
腕が何本あるんだと思うようなほど腕があり、昔みた千手観音像を思い出す。
さらにそれには肉体から離れたところに翼が浮いていた。その枚数も数えられない。
そして、目がたくさん浮いていた。
目玉から血管やら神経やらがしっかりとその体につながって浮いていた。
本体にある目は私を捉えていた。
化け物、本当にそんな言葉がしっくりくるほどだ。
『化け物とは失礼だね。僕はこう見えても神様なんだよ?』
自称神は、目や手がないと仕事が追いつかないからたくさんあるんだと言った。
そんなもんなのだろうか。
『実はね、君に謝らなきゃいけないことがあるんだ。』
一体なんだろうと不思議そうに見つめると、自称神は話し出した。
『実はね、人間には必ず悪魔と天使がついて、それぞれの道をそれぞれ導く仕事があるんだ。だから幸福と不幸が両立して、誰かが特別に不幸ということがなかったりするんだ。』
中には天使と悪魔の能力差で不幸すぎたり幸せすぎたりもするけどね、と自称神は付け加えた。
『でも、なんかの手違いで君に天使がいなかった。悪魔だけが君を導いていた。』
「それって…」
『そう、家族全員の天使と悪魔の数が傾いたんだ。悪魔が優勢だった』
しかも、母さんについていた天使はまだ新人で、さほど強くもなかったらしい。
それもあってか家族全体の不幸率が高くなり、今回のような事件に至ったそうだ。
『君が死んでしまってから気がついた、返ってくる天使がいなかったからね。』
その事実に気がつき、なんて失敗をしてしまったんだと深く反省し、せめてものことで謝罪をしようとこの神の場に呼んだのだとか。
『でね、謝罪だけだとこちらも申し訳ないものだから、君にチャンスをあげたいんだ』
そのチャンスは転生。異世界に転生するらしい。
さらには三つほど願いを叶えてくれるそうだ。
『どんな願い事でもいいよ』
そう言われると悩む。今までわがままも言えなかった身なので、ここぞというときに何もでてこない。
そしてふと、あることを思った。
今までいた世界でモテの条件があった。
高学歴、高身長、高収入の三つ。3Kと呼ばれていたはずだ。
男の人のモテ条件だけれど、女でこれでもいいんじゃないかと思う。特に高収入はいい。
身長が高いとモデルみたいになれる。学歴が高ければ給料もよくなる。
お金のことばかりだ。
性格は別に悪いとは思っていないので、そのままでいい。
そうだ、なんでもできた方がいい、魔法とかそんな特殊物があるのなら適性が欲しい。
せめて来世は万能でいたい。あとスタイルや顔なんていう容姿もかなりいい方がいい。
欲張って全部話してみると、神は少し驚いて微笑み、甘やかしてくれた。
3つまでだったというのに全部叶えてくれるらしい、驚いた。
『一つ目を3K、二つ目を全能、三つ目を容姿、これで全部叶うだろう?』
どうやら3Kを一つの願い事としてみてくれたようだ。
暗い辛い人生を40年も耐えてよかったとも思う。
「次こそ、幸せになる…」
『そうかい、じゃあ、僕はここから見ているから、行ってらっしゃい…レア』
神がそう言うと、私の目の前に黒い裂け目が現れ吸い込まれた。
暗い渦のなか、時々聞こえる声と音、水のなかのようなこの感覚。
そしてふと私が死んだときは川だったと思い出す。
なんだ、変な夢でも見ただけなのかもしれない。
そう思ったとき突然吸い込まれる感覚がした。
目があかない、だけれど確かに眩しいところに出てきた。
息が、できない。
体も思うように動かない。
突然死ぬのが怖くなって叫んだ。
叫んだ声はどこか赤子のような気がする。
まだ苦しい、叫ぶ。
そしてようやく苦しくなくなったときに聞こえたのは、元気な女の子だという声だった。