特別な日
先日のことで、アーサー兄様が手渡ししていた理由がわかった。
毒が盛られていた時を思って対処していたのだ。
私はなぜか公の場で魔法を使うことを禁止されている。
だからあんなパーティで魔法を使うことはできないのだ。
まあ、どちらにせよ誰も確認していないものは食べてはいけないとわかったし、今回が本物の毒じゃなくてよかったとも思う。
為になる経験をさせてもらった。
そう思うとグレイス姉様を責める気にはならなかった。
あれからアーサー兄様に毒を見分ける魔法と、窮地に陥った時に助かる為の治癒魔法と毒解除の魔法の基本を教わり、ノーモーションで実践して経験を積んだ。
そしてふと今日の日付を思い出した。
12月24日この王国ではなんのイベントもない日だが無理もない。
生前の世界では神様だか救世主だかの誕生日だからという理由であるのだ。
この世界にこの日生まれの神様はいない、だからイベントもない
でも私にとっては特別の日だった。
そして明日、生前の私は死を決意するのだ。
転生したのだから生前ではなく前世と言うべきなのだろうか?どちらでもいいが少し考えてみた。
本当はわがまま言って街に出かけてみたかった。
昔できなかったリア充のたしなみを私もやってみたかったのだ。
しかし、今日は特別な日ではなく普通の日なのだ。
それにアーサー兄様にはもらってばかりで何も返せていない。
そんな思いで毎年ぐっと我慢していた。
クリスマスがきたら年末がくる、年末が来ると来年がきて、来年がくると私は4歳から5歳になる。
確実に背丈は伸びてきているがまだまだ女性とは言い難い。
大人になったら自分で稼いで自分のお金で何か買おう、そしてその時にはいるであろう恋人にねだろう。
そんなことを悶々と考えていた。
「本日は杖を使った魔法の訓練をいたしましょう」
そういってアーサー兄様は魔法団の特訓施設に案内してくれた。
あと六日で年末という理由でここにいる人物は少ない。
今まで魔物に襲われたことも戦争になったこともない平和な王国だからこそここまで手薄にできるのだろう。
特訓施設にはアーサー兄様の本気に耐えられるようにと設計されており、ちょっとやそっとでは壊れたりしない。
そこで杖の練習をする。
買ってもらった杖は精霊樹のあの杖で、先端にはオーロラ魔道石がはめられている。
最近学んでいる魔法は詠唱魔法だ。
言葉で発音し魔力に命令をして形にする。
最初のうちは神言という発音の難しい言葉で覚え、意味を知ってから話しやすい発音に変えたり、ショートカットのように単語を決めて発動したりするそうだ。
ショートカットは例えば神言で火の怒りを具現化という意味を”噴火”の二文字で唱えられるようになるのだ。
そのうちやるかもしれないが、ノーモーションができる私には無用だとアーサー兄様は言っていた。
アーサー兄様はショートカットではなく神言を短くして唱えているそうだ、その方が格好がつくからと答えた時はギャップを感じたものだ。
確かに「噴火!」といって火柱を立てるよりは、何言ってるか一見わかりにくい神言の方がかっこいいとは思う。
神言を一つ一つわかりやすく唱え、魔力を杖に流していく。
言葉を聞いた魔力が踊るように形を整えていく。
唱え終わったら狙いを定め、杖を向け、神言で「放て」と命令する。
今回唱えたのは旋風…もちろんのこと風属性だ。
放った風は相当な威力だが、まだ切り裂くほどではない。
アーサー兄様の三つ編みがぶわりと浮かぶ…少し髪型が乱れた程度で平然としている。
もちろんのこと直撃したらアーサー兄様も吹っ飛ぶとは思う。
それを相殺できるほどの障壁を張っているからアーサー兄様は無事なのかもしれない。
「なかなかの威力ですね、これは将来が楽しみです。」
髪の乱れを軽く直し、今回の成績を褒めた。
もうこれ以上は鍛えても意味がないと言われているが、私が知りたくてたまらないので教えてもらっている。
他にも神言で魔法を唱え威力を確かめる。
先ほどの威力より下げてみたりあげてみたりして力を調整する。
威力を下げるのにも魔力を使う、小さいものを作るのに集中力がいるからだ。
だから小さいものをたくさん練習する。
大きいものは注げば注ぐだけできるので後でもできる。
そしてその後はアーサー兄様と軽く魔法での組手。
実戦経験のあるアーサー兄様はやはり強いのでなかなか倒せない。
これでも手を抜いてくれているのだと思うととてもじゃないが本気のアーサー兄様とは戦いたくない。
しかし今回は少しだけ違った。
神言で放ったものと同時にノーモーションで魔法を唱えたことによって一矢報いたのだ。
まあ、三つ編みを止めている髪留めが飛ばされただけだったけれど…
三つ編みが解けて目覚ましいゴールドのロングすぎるヘアになったアーサー兄様はとても変だった。
背丈が高い上に顔つきがしっかりと男性なのでビジュアル系の最上級に見えるのだ。
アーサー兄様は髪留めを拾い上げると魔法で三つ編みにしてとめなおした。
今回は一本取ったということをアーサー兄様が認め、私もそれを喜んだ。
「じゃあ今日はお祝いでもしましょうか」
ささやかなお祝いだけれど、とアーサー兄様と今日は早めにおやつを食べた。
ちょっとだけ特別な日になったことが嬉しかった。
「レア殿下ごきげんですね」
「うん!だって嬉しいから」
クリスマスイブが特別な日として私の思い出に刻めることが、嬉しいのだ。
勝ったことでは決してない。
例のごとくアーサー兄様が手渡してくれたお菓子をもらいニコニコとしながら食べた。
最初は後ろめたかった転生だが、とても楽しくて幸せだった。
そう思うに連れてなんだか少しずつ寂しくもなっていった。
しかし後ろには進めないので前に進むのだ。
レア・ドミニクを精一杯楽しむのだ。




