3歳児の頭脳
11月の下旬、私は3歳の誕生日を迎えた。
前よりも意識がはっきりしている気もするので、記憶の定着というのはこういう感覚なんだと少し驚いた。
転生者だからないと思っていた。
父様と母様、兄様達にメイドさんたち、執事さんたちもお祝いしてくれた。
もちろん、アーサーさんも。
3歳になったので明日からきっとお勉強。騎士団の教育係とアーサーさんによって剣術と魔法の勉強もするのだろうと踏んでいる。
さらにダンスレッスンもスタートし、ピアノも学ぶことになるだろうなと勝手に思い込む。
のんびりできるのはきっと今日が最後なので兄様たちとしっかり遊んであげておく。
アーサーさんとはあの日以来とても仲がいいので、魔法のこともきっと優しく教えてくれるだろうと期待している。
自分としては早く明日になってほしい。
学びたいことは山ほどあるのだ。
会話もそろそろ普通にしていいだろうかとちょっとずつ言葉数を増やしてはいるのだが、3歳児がどんなものなのか私は理解していない。
生前兄弟もいなければ相手にも恵まれず、息子もいなかったのだから無理はない。
「明日が楽しみです」
ニッコリとアーサーさんに言うと、やはり少し不思議そうな目で見られてしまった。
うーん、たのしみだなーぐらいの方が良かったのだろうか。
しかし相手は一応上位貴族なので丁寧にしていた方がいいと思ったのだけれど…。
そこでようやく、子供は貴族とかそんなものを考えていないと気がつき納得した。
今日の夜は早めに食べて早めに風呂に入り、早めに布団に潜り込んだ。
最近では子供用ベットではなく、自分用のベットが用意されていた。
でも大体の日をアーサーさんのベットに潜り込んで眠った。
生前の父親がいなかったこともあって、少し甘えたかっただけなのだと思う。
アルフレッド父様は一緒に寝てはくれないので、こういうときのお父さんのようだ。
そういえばこの前間違えて父様と呼んでしまった気がする。
ショックを受けたようなあの表情は忘れもしない。
次の日、少し早めに起きて支度をする。
アーサーさんはまだ寝ているので起こさないように身支度を整えた。
アーサーさんが目を覚まして自分を見て驚いていた。
ごそごそと懐中時計を取り出して時間を確認し「早すぎる…」と小さくぼやいていた。
朝食のとき、ルミニア母様に今日のことについて聞いてみると今日は勉強をするのだと言われた。
魔法についてはやはりアーサーさんが教えてくださるそうで、剣術もアーサーさんが教えてくれるそうだった。
アーサーさん剣使えたんだ…敬意をもっと持とう。
お勉強を教えてくれる王室のお抱え教師は最近休暇をもらったらしく、いない
じゃあ誰が教えるのだと思ったらアーサー先生だった。
父様…アーサー先生と親しいからと何でもかんでも頼みすぎやしませんかね。
荷物を持った執事のアンドレさんとアーサー先生に連れられて自室に戻ってきた。
アンドレさんは執事長を務めている60歳程の白髪の男性で、おしゃれな髭と片目メガネを付けており、なんでもできそうな人に見える。
アンドレさんは荷物を部屋に届けると退出し、アーサー先生と自分だけになった。
荷物は鞄で、鞄の中にはいくつもの教材が詰まっていた。
国語の教科書らしき本を手渡され、一応おさらいということであいうえおから始める。
この世界にはシャーペンなんて便利なものも鉛筆なんていうものもない。
あるのは羽ペン、羽ペンの中にもインクをつけなければいけない物とそうでない物がある。
私がもらったのはインクを付けなければいけない方だ。
羽がとてもおしゃれで一目で気に入った。
これはなんとルミニア母様のチョイスらしい、さすが母様だ。
あいうえおは生前でもかけたのでこの程度朝飯前だった。
漢字も覚えようと思えばスラスラと覚えていった。
頭が冴えわたっているような気がする。
アーサー先生は私が特殊だと悟ったらしく、必要な教科書を全部置き、分からなければ聞いてくれと言って自由にしだした。
手渡された国語、算数、社会の3教科のみで理科はなく、もう少し大きくなると生物という教科を学ぶようになるらしい。
国語は生前の日本とほぼ同じで漢字が存在した。
生まれた時から言葉が理解できたのはもしかすると言語が同じだからということがあるのかもしれない。
算数は簡単な足し算と引き算で繰り上がらない問題が前半、繰り上がるのが後半に書かれていた。
これは自分もできるので問題ない。
社会は一番知らないことが書いてあった。
フルブラント王国の歴史や歴代の王の名前や偉人の名前…
「アーサー先生だ!」
教科書の一部に魔法団のトップとしてアーサー先生が乗っていた。先生はかなりの有名人らしい。
社会の教科書は楽しい、今まで知らなかったことだからなのかもしれないがパラパラと読み進める。
しばらくして読み終えたところをアーサー先生は見ていて、ささっとプリントのような物をて渡してきた。
「これが解けたら次に行きます。」
問題はついさっき読んでいた教科書から出題されていた。
国語は小学一年生が習う漢字だったし、さっきも見たのでかける。
算数も足し算と引き算だから解ける。
社会は面白かったので印象が残っていて解ける。
数枚のプリントをやり終えて渡すと、アーサー先生は採点し、次の教科書を手渡してきた。
これもまた国語、算数、社会の3教科。
小学二年生ぐらいのだろうか、漢字を書いて覚え、算数は掛け算だったので割愛し、社会はおもしろ可笑しく読んで覚えた。
そしてまたプリントをして、アーサー先生が採点する。
「これは、ふむ…興味深いですね。」
小学校六年生が解きそうなプリントを全問正解でやり遂げた時、アーサー先生からそんな一言をもらった。
しまった、三歳児は小学一年生の問題もわかるはずがない。
アーサー先生はそのまま中学一年ぐらいの教科書を手渡してきた。
国語、数学、生物、社会と4教科になる。
だというのにやはり難なくプリントをこなす。
生前、高校に行くのに特待生を狙っていた節があるので勉強はしっかりしていたおかげだろう。覚えている自信は無かったがしっかりと覚えていたようで安心した。
中学三年生の問題もあっさり解き終わり、高校生の教科書になる。
すると流石にわからない。
首を傾げて頭をひねり、助けを求めるようにアーサー先生を見つめた。
「…なるほど」
そしてまたハッとして自己嫌悪、三歳児はこんなに頭良くないって。
しかしもう隠しようもないのでアーサー先生を静かに見つめた。
「ここまで頭が良いのでしたら、殿下はしばらく魔法や剣術に精を出しても平気そうですね。」
さらりとそれだけを言い、今日は何もしないでのんびりとしようとアーサー先生はいった。
それだけしか何も言われないので少し不安になる。
アーサー先生に連れられて父様の執務室に向かう。
アーサー先生が外出の許可を取り、せっかくだからと街にお出かけすることになった。
ルミニア母様がそれを聞いて張り切っておめかしさせられた。
空色の生地に青いバラが刺繍されたドレスとそれに合うペタンコの青い靴。
頭につける髪飾りも青いバラで作られていて全体的に青を基調としている。
せっかくだからとアーサー先生もアルフレッド父様の指示で執事達に連れて行かれ、普段着ていたシンプルな服からかっちりした衣装に変えられていた。
嫌そうな顔をしていたが、父様がそのまま行かないとだめだと無理を言い、私の手を取ってそのまま外へでた。
馬車に乗り込み、街へ向かう。
馬車の中で外を見ると、移りゆく景色がとても綺麗だった。
そして徐々に速度が落ちていき、いよいよ街にやってきた。




