プロローグ
20xx年のクリスマスだ。
何度目になるかわからない一人ぼっちのクリスマスを迎える。
一応働いてもいるし、友達も数人はいるが、充実しているとは言えない。
両親は幼いころに離婚し、その後母一人子一人で二人三脚をして生きて来た。
家庭は貧しく、母もパートをし、それでも学費は稼げないので高校には行かず、中学を卒業してからずっと働いてきた。
そんな最中、母が自転車に乗って帰路についていた時に事件は起きた。
母の不注意で歩いていた親子の子供の方を轢いてしまったのだ。
夜だった事もあり、小さくて疲れた母には見えず、そのまま突っ込んでしまったらしい。
不幸な事にも、相手の小さな子は死亡、母は自転車の保険になど入っておらず、とんでもない金額の請求や賠償金、裁判やら何やらで多額のお金が飛んでしまった。
ただでさえお金がなかった我が家にできる事など、家を売るぐらいしかなく、自分の給料のほとんどもそれに当てた。
そんな事をしていれば出会いなどあるわけもなく。
終わるはずのない借金を背負う事にもなった。
あまりにも衝撃の強い出来事で、その日を境に母は病んでしまった。
幻聴幻覚に怯え、唐突に叫んだり泣いてしまったり。とにかくひどかった。
そんな母はある日、大量の睡眠薬を飲み込み自殺した。
私が務める会社がブラックな事もあり、連日帰れない事が多々あったので気づく事が出来なかった事もあいまって手遅れだったのだ。
もっと早く気がついていたら少しは違ったかもしれない。
母の保険はすでに解約しているので金など来ない。
逆に葬儀やら何やらで金は出て行く。
会社のトイレで顔を洗い、鏡を見た。
髪の毛は白髪が混じっており、シワやシミが目立つ。
顔は全体的にやつれて清潔感が見受けられない。
スーツはヨレヨレのボロボロ、買い換える事も出来ない。
そして、そんな身なりの自分を見ると、あの言葉も納得せざるをえない。
「君はもう来なくていい。ほら、今月の給料を出しておくからもう来ないでくれ。」
社長室で言われた言葉だった。
いつも頑張ってはいたが、新人社員に成績を抜かれ、言われた事も失敗し、ぼうっと日々を過ごしていたのだから無理もない。
生きる意味を失い、職を失い、なぜ生まれてきたのかを自分自身に問い詰める毎日。
生まれてきた事に意味があるとはよく言われるが、その意味を見出してくれている人物はそばにいない。
(もう、死んでしまおうか。)
失うものも無いし、職も無いし、金も無い。泣く者もい無いだろう。
(ただ、落ちるのは地獄だろうな)
自殺をすると天国には行け無いよなどと小さい頃言われていた気もする。
親不孝者だから、という意味なのかもしれない。
しかしそれを言えば、母もそういう事になるのだから今更私だけ地獄など無いだろう。
人通りの無い夜の道を歩く。
歩いて歩いて、川にたどり着く。
わざと服に重りを入れ、川に入っていく。
この川は割と深く、大人でも相当危険な川だ。
睡眠薬をがっぽりと飲んでから、息を全て吐き出し、川に潜った。
即効性のある睡眠薬の影響で目を閉じだ。
どんなに吸っても水しか無いが、苦しいとも感じなかった。
光田 恋空 齢40 女 その暗すぎる人生に幕を下ろしたのだった。