棚卸対策法
【3ーE 棚卸対策法】
コンビニエンスストアの経営者、オーナーや、直営店であれば私のような雇われ店長が毎度頭を悩ませるイベントが棚卸です。抜き打ちで行われるわけではないですし、店側の準備することは毎度変わりありません。それでも多くの経営者が苦労させられるのが棚卸なのです。品減りとか品増しという言葉を耳にしたことはないでしょうか。『べってる』なんていう言い方をする人もいますね。棚卸を何のためにやるのかといいますと、お店の利益を確定させるための作業です。帳簿在庫と実在庫の差異が品減り額となります。(品増しはひとまず置いておきます。品増しは別次元のお話といいますか、多額の品増しは不正を疑われます。納品された商品(資産)が勝手に増えることはありえませんから。)品減り額はどのように処理されるのか、それは実に単純かつ致命的です。品減り金額は丸々、その月の利益から差し引かれてしまいます。
それでは棚卸の簡単な流れを見てみましょう。まずはおよそ7日前に担当の本部社員から棚卸実施日の連絡が入ります。遅くとも3日前、のような決まりもあったと思います。遅すぎれば店の都合を考慮することができないし、早すぎれば不正につながりかねない、ということですかね。実施日及び午前中に行うか、午後か。午前棚、午後棚なんて呼び方もしますが、詰まる所、棚卸には半日を要するということです。またよっぽどの事情、理由がない限り日程を変更することはできません。それは不正防止という意味以上に、会社同士の信頼関係を損なわない為です。専門の業者に依頼して行われる棚卸、たかが諸店舗の都合は通りません。
棚卸当日。店側のマナーとしてフェイスアップとバックルームの整理整頓は当然。棚卸実施時間を短縮する為にも必須です。さて、業者が到着するとまずはメンバーのご挨拶。『笑○』ではないのでオチは付きませんが、至極簡単な自己紹介は必ず行います。店の関係者以外の人間がバックルームも含めて店内を往来するので。もちろん作業着を着ていますので外見で分かりますが、歴としたビジネスの世界ですので。
その後は、店の人間は店の仕事に従事します。業者は在庫カウントをスタートします。切手や商品券といった提出物もあるにはありますが、基本的に棚卸業務によって店内業務が妨げられることはありません。業者も店と何よりお客様に気を遣って在庫をカウントします。カップラーメンが1個、2個・・・ビスケットがひとつ、ふたつ・・・こればかりはどれだけテクノロジーが発達しても目で見て確認していくしかないのでしょう。3~4人程の業者が売場でカウントを進めていきます。目と指で数を確認してはカチカチッと、肩から下げた機械に打ち込んでいく。お店の商品は全てSCによって在庫数が記録されていて、そのSC上の帳簿在庫と実際の数の差異を目に見える形で報告(通達)してもらうのが棚卸です。
どれ位時間のかかるものかというと、在庫数や整理整頓の具合にもよりますが、午前棚が8時開始の12時終了に間に合わないと午後棚に影響が出てしまうので、4時間弱で作業終了というのが一般的です。
ウフフ・・・その通りです。いい勘をしていますね。午前棚に選ばれるお店は、業者から在庫整理ができていると判断されているお店。午後棚は・・・だから毎回午後棚ばかりというお店は、気を付けた方が良いかもしれません。散らかっていて棚卸業務に時間のかかるお店、なんて思われているかもしれません。
さぁ、成績発表。結果報告のお時間です。帳簿在庫と実際にカウントした数が単品毎に紙ベースで印刷されるので、何がいくつ足りないか、金額でいくらかなんていうことがひと目で分かります。一番気になるのはやっぱりタバコでしょうか。品減り金額の多くを占めるのはタバコ、というお店も少なくありません。その原因は何か。皆さん分かっていますよね。内部不正と万引きです。品べりの数が1個、2個程度ならば笑って見過ごすこともできましょうが、カートンレベルとなると店の受ける打撃も大きくなります。
万引きの為にバックカウンター、つまりお客様の手の届かない位置に陳列ケースを置いてある店もあるし、タバコを取り出す際にチリンと鈴が鳴るお店もあります。また外だけではなく内、店内不正も疑わなくてはなりません。カートンを保管してあるタバコロッカーの施錠徹底は、警戒を内部に告知する効果もあります。在庫管理表を張り出しているお店もあるかもしれません。それでも品減りが改善されないお店は、もう1歩踏み込んだ打開策を講じなくてはなりません。
今、織田SVと私谷口は、織田SVの車でオーナー店に向かっています。目的は棚卸対策。品減りに苦しむお店の参考になれば、という所です。何故私が選ばれたかと言いますと、直近の品縁金額が4ケタで済んでいるからです。要は自店が棚卸対策のできているお店で、在庫管理もうまくいっているという判断が下されたのでしょう。現役の店勤務者から、という織田SVの依頼で同行しています。
私が訪ねた、品減りを課題とする幾つかのお店。お店なりに、オーナーさんなりに対策を立てているにもかかわらず成果が見られない。なかなかうまくいかない。そういったお店に対して改善策を提案しなくてはならないアドバイザーというのは大変な仕事ですね。分かりませんはあってはならないのです。
それでは幾つかの品減り対策について記述していきましょう。まずは化粧品や小さな菓子類の管理について。一般的にはオリコン(折りたたみ式コンテナ)に入れて整理していると思います。その際に『化粧品』とか『ポケット菓子』などと書いた紙を貼って分類しているかもしれません。なるほど、何がどこに入っているか分かり易いし、品出しの効率も良いでしょう。見た目にも小奇麗に移ります。けれども嫌味な言い方をすると、半分は自己満足に過ぎません。残念ながら結果が重要、整理はしてみたものの品減りが改善しないのであれば別の所に問題が眠っているのです。もちろん、整理整頓が悪いということではありませんよ。例えば、納品された際のケースを取っておいてはいかがでしょうか。完璧主義者の経営者の方は特に、箱やプラスチックケースをさっぱり捨ててしまうでしょう。もちろん処分してしまっていいんです。ただ、少し嵩張ってもケースを取っておくと小物類がバラバラになりません。そうすると在庫数が把握しやすくなります。GOTに表示される数と実際の数を発注の度に確認することができますよね。
タバコのカートンを管理するために専用のロッカーを使っているお店がほとんどだと思います。そして皮肉なことに、タバコの品減り金額が多額な店舗ほど、しっかり抜かりなく施錠している傾向があります。品減りが多いからこそ鍵掛けをしっかりしているというのが正しいのかもしれませんが。さて、はっきり言って万引きだけで毎度毎度何千、何万円分ものタバコが消えることは考えにくいです。検品ミス?スキャンミス?そうではありません。内部不正です。だからロッカーに鍵をかけてその鍵も責任者が管理してという声が聞こえてきそうですが、これは同時に従業員の心も閉ざしてしまうことになりかねません。タバコロッカーに鍵をかけるということは内部の人間が盗れないように、ということですよね。鍵を管理するのはオーナーさん、店長さん。2人の不在時に関しては机の引き出しに入れてしまうか、持ち帰るか。
身内を疑う。この姿勢は間違ってはいません。
パート、アルバイトに派遣社員。殊に注意しなくてはいけないのが決して偏見ということではなく、独り暮らしの男性。学生であれば親というヘルパーがいることも多いですが、なかなかそうはいかない中年以上の男性。生活はかなり苦しいというのが現実です。その月暮らしで食費と家賃、光熱費でほぼ精一杯。それこそ仲間と飲みに行ったり、パチンコで1回負けたらもう今月ピンチ、となりかねません。そんな中喫煙者の目の前にタバコがあったら。現金はさすがにバレるし大事になるが、タバコくらいなら大丈夫だろうと。これが現実です。我慢すればいいじゃない、やめればいいことでしょうという声が聞こえてきそうですが、難しいようです。一食抜くのは我慢できても、タバコが手元からなくなる時がきでないそうで。
思い切ってロッカーの施錠管理をやめてみてはいかがでしょうか。タバコの管理を諦めるということではなく、心を解放するということで。
夜、
「他の人には内緒な。君はいつも頑張ってくれているからさ、ハイ。」と、タバコを1箱こっそり渡してあげると不正を思いとどまらせる先手となります。尤も今はバックルームにも防犯カメラを設置するお店も多いようで、これもまた一長一短。カメラに全てを委ねるのは危険というのが個人的な意見です。
そして対策の根本はやはり、棚卸の知識をしっかりと持つこと。棚卸の実施日に質問をまとめておいて業者に聞いてみたり、担当のSVに相談してみるといいでしょう。SVが分からないことは調べさせればいいのです。場合によっては築事務所の方が詳しいこともあるかもしれません。
棚卸対策で辛いのは身内を疑わなくてはならない状況に陥ることです。自分で面談し、一緒に働き、給料を渡す仲間を、品減りの犯人かもしれないと。自分達を裏切ったのかもしれないと。
例えば、ソフトドリンクの品減りが多い時、深夜従業員が勝手に飲んでいるんじゃないかと疑いたくなる気持ちは分かります。品減りという事実を突きつけられたとき、内部不正に原因を求めるのが最も手っ取り早いですもんね。ただその前に、まずは高々と積み上がったペットボトルの在庫をどうにかしましょう。私谷口の個人的な意見ですが、棚卸対策の急所は死筋排除にあると思います。ソフトドリンクは特に、かさばる上に売場スペースが限られていますので一層気を付けなくてはなりません。未練タラタラの結果売れ残り、捌けず、中途半端なダンボールが積んであってという状況を打破しましょう。
棚卸は本当に嫌なものです。うちは毎回大丈夫というお店は自慢して良い店の一つだと思います。当たり前のことですが、お店を経営している限り棚卸しは避けられません。無くなりません。ある種の持病と考えて下さい。うまく付き合っていくしかありません。そして特効薬も。結局は経営者自身がやるかやらないか、できるかできないか。人の心をつかめるか否か、とういうことではないでしょうか。
【3ーE 棚卸対策法 終】