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深夜勤務、はじめました

 【3-A 深夜勤務、はじめました】


 24時間眠らぬ街、24h営業の店はもはや珍しくはない。正月は町中のシャッターが閉まってしまうというのは昔話で、夜中も店に電気が灯っていないと夜道が危ないなどという人間族の勝手なご意見まで常識とされつつある。これらの実現の為には多くの者が寝ている間に働く駒が必要である。光と影で言えば後者。死神の俺様には適役といえよう。

 出勤は22時。そこから1時間弱は継続的に小ピークが続く。主に仕事帰りのサラリーマンが弁当や惣菜、ビールを購入していく。近くの鉄道駅からの客だが、これが続いている間はレジを離れることはできない。まぁ、米飯の1便は21時30分が納品時刻となっているので、よほどトラックが遅れない限りは夕勤の人間が品出しまで片付けてしまっている。従って客足が落ち着くまではレジ周りの業務をこなすこととなる。状況にもよるが、カウンター商品の補充、もしくは片付けを始める。1日の終わりに向かっていくのだ。


 ちなみに深夜シフトは2人体制が基本。大きな夜ピークのある店舗では23時頃まで3人体制を敷く店もあるようだが、大半の店は2人体制で深夜帯を回していく。利益を優先する余りオーナー店では独り体制の店も見られるが、というよりは結構な数のオーナー店が独りで店を回しているようだが、これはマズイ。盗賊からすればこれほど狙いやすい状況はない。そこまではいかないまでも、万引き犯からすれば格好の獲物である。強盗被害は免れている店でも万引きはされていると考えるのが妥当だろう。何なら防犯カメラの映像を確認してみるといい。驚くくらいあっさりとその現場を見つけることができるはずだ。22時~翌6時、時給設定にもよるが人件費としては8千円~壱万円といった所か。高く見積もって壱万円とすると、30日で30万円。オーナーが毎日独り深夜というシフトであれば30×2=60万円が浮く計算が頭から離れないのだろう。


 ん?ああ、そうだ。帰ってきた。何事もなく帰ってきてそして、谷口店長の指示でしばらくの間深夜シフトへ入ることになった。昼だろうと夜だろうと、俺様にとっては別段何かが変わる訳ではない。給与に深夜手当が加算されるくらいか。あと、煩わしい人付き合いが少ないのも特徴といえようか。口うるさいオーナーや面倒くさいSVに会いたくない、また昼間近所の人間に働いている姿を見られたくない者、もしくはもっと単純に同じ時間働いてより多く稼ぎたい人にとって都合の良いシフトだと言える。そして、だ。話を戻そうか。週5日の夜勤で俺様に仕事を教えるという名目で副店長がピッタリくっついているというか、離れないというか、懐いているというか。その副店長の名が(あおい) 蒼太(そうた)。彼も本部社員、詰まる所は谷口店長の同僚であり部下ということになるわけだ。

 副店長と仕事をする初めての夜、まずは調べた。店長からは安心して良いと言われていたが信用できなかったので、自分自身の死神の目で確かめた。コイツは人間族だ。例の件は違う意味でトラウマを生み出してくれた。堕とされた死神は独りではない。


 さて、昼と夜とではコンビニの仕事内容が大きく異なる。谷口店長曰く、仕事の目的が違うそうだ。先にも記したように、自店の深夜業務はレジ対応から始まる。朝のラッシュや昼ピークで慣れているのでさして問題なし。客層としては圧倒的にサラリーマンが多い。次いで若者―これは別の深夜勤務の人間に聞いたのだが、パチンコ・スロット帰りの奴等らしい。まぁ、こいつらはどうでもいい。買い上げ点数、客単価共に一日を通して最も高い時間帯で、効率よく売上を伸ばすにはもってこいである。夕食というよりも夜食を購入する客が多いが、併せて翌日の朝食と思われる品、そして何より酒・タバコ。酒は一日の締めなのだろう。ビール、発泡酒、第三のビール。脳が痺れるのでほとんど飲酒はしない俺様では味の違いを比較することはできないが、価格差は一目瞭然。缶に表示されているアルコール分は大差ないのだが値段には随分と差がある。そして客は各々、大方買うアイテムと本数が決まっているのだからおもしろい。経済力と好みを考慮した結果導かれしものたちなのだろう。よく理解できる。分からないのはそういう所に半ば無理矢理、新商品をブチ込むことだ。高い開発費をかけて。果たして近年成功を収めた単品がいくつあることやら。フム、話が逸れてしまったか。


 レジ対応が一段落すると仕事を分担する。ひとりはカウンター商品の片付け。もうひとりはバックルームにある在庫の品出しを行う。カウンター商品については、セールや取組み等がない限りはここで撤収する。レジの様子を伺いながら洗い物をこなしてしまう。品出しは菓子、雑貨、加工食品を客の少ない深夜帯でいかに整理できるかが適正在庫の鍵だとかなんとか。そもそも適正在庫なんてものは解釈ひとつで多くも少なくもなるのだから、便利な単語であることよ。これが終わると続々と納品される商品を捌いていかなくてはならない。雑貨・加工食品、もしくは菓子が納品され、続いて雑誌、さらにソフトドリンク、乳飲料。続々と様々な商品が納品される。客の居ぬ間にというのは正論で、量が昼間とはまるで違う。特に新商品の入ってくる火曜日は事前準備を抜かりなく行い、尻軽に動き回らなくては間に合わない。スピード勝負の面が色濃く出てくるのが深夜勤務だという印象が強い。

 日付変更線手前のピークが終わってしまえばレジ打ちは数える程度。人間族の働き方が多様化としたということだが、鉄道やバスといった公共交通機関が対応できていない点を考えると、多様化というよりは()み出し易くなったという表現の方が適切だろうて。終電というものが徐々に消滅していくのだろうか。さて、レジ打ちを円の中心に据えて業務をこなしていく日中の勤務とは異なる夜の時間帯。無論、接客業には違いないのだが他人との接触をあまり好まない、正直ウザイと感じる者にとっては夜勤の方が働き易かろう。それと大学生でも可能な深夜バイトという面では労働の窓口を広げたと言えよう。シフト制で夜勤が確実に必要とされる勤務環境というのは意外と重宝する。まぁ、そんな事はどうでもよい。本日も業務を遂行し、谷口店長の言う夜の役割を全うしてやろう。妨げがあるとすれば相方くらいか・・・

 元気すぎる副店長。(あおい) 蒼太(そうた)



 「ありがとうござっしたー!」

「今日もお疲れ様っス。タバコはいいっスか?はい、あざっしたー!」

「いらっしゃせー。」

「いらっしゃせー。」

「はーい、ありがとうございます。弁当は温めで。はい、少々お待ち下さい。次の方どうぞ~」

「おー待たせしました。はーい、ありがとうございましたー!」

 

 若い・・・何故1センテンス毎に1文字欠けるのか。伸ばし棒が多い。あと小さい『つ』を5秒に1回挟むんじゃない。これで4大卒というのだから救いようがない。新人研修とやらで学生気分が抜けていない、などと説教は受けなかったのだろうか。どうせ

「はい、スンマセンっス。抜けてるっス!」などと切り返して余計に大目玉を喰って、というのがオチだろう。こちらも店長と同じく本部社員である。よくもまぁ、就職試験をパスしたものだ。



 「しったら竹田さん、お客さんが落ち着いたみたいなんで俺、ソフドリやってきますわ。」

「はい、お願いします。」

 元気な人間族だ。深夜でこのテンションだと、昼間が末恐ろしい。どんな弾け方をするのだろうか。深夜勤務時間中疲れた素振りを全く見せない。そして声とテンションだけではなく、動きもてきぱきしゃきしゃき素早い。今、ソフトドリンクの品出しをやっているが、作業する音から手抜きをすることなく全力で働いている様子が透視するまでもなく浮かんでくる。真面目なだけではなく事前に何をどこにぶち込むか頭に入っているのだろう。容量も良い。ただ、ただ・・・軽い。うるさい。けれども一緒に働いていて悪い気はしない。谷口店長が週7日の内5日間、半日を一任するのも分からんではない。


 さて、深夜シフトの役割についてだが。それは店の態勢を整えること。店の乱れを治すこと。谷口店長はお店を風呂に入れてリフレッシュさせるとか言っていたな。昼間だって小忠実(こまめ)にフェイスアップしているし、床掃除も欠かさない。トイレ掃除は女性客の来店ポイントだし、駐車場にゴミが落ちていれば車から降りてきた織田SVが開口一番指摘する。それでも動き続ける店は乱れ汚れる。売場は穴だらけになり品出しは追いつかず、床は汚れ、駐車場にゴミが捨てられる。灰皿には吸殻がたまり、ゴミ箱からはいつの間にやらゴミが溢れてくる。全てをリセットする必要がるのだ。それが深夜勤務に課された重要な仕事。これを(ないがし)ろにするとダラダラ・ジワジワ、けれども確実に、まるで毒のように少しずつ店のHPが削られていくのだ。はじめはどうってことの無いダメージでも、気がつくと取り返しのつかないレベルにまで陥ってしまう。いわば毒消しそうだな、俺様達は。地味で光は当たらない。そりゃ、太陽は沈んでいるからな。けれども影なくして店は輝きを取り戻せないのだ。


                             【3-A 深夜勤務、はじめました 終】

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