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6.嬉しそうな爵位の持ち主ら

 自身の生死の命運が分かれていた頃、主人公フランは冷たい牢屋でまだ頬を染めていた――


「あぁ~紫音先輩と会えるのは明日かな? それとも明後日かな!?

 なんでもいいから、早く会いたいなぁ~」


 今までずっと立っていたのだけど流石に疲れた。部屋にはふかふかなベッドはないけど、幸い石で出来た三段くらいの階段がある。階段の先には窓がついていて「やった!ここから逃げられる!」と期待して開けたら、下は針山だった。どうやら逃げるなら死ねということらしい。

 というわけで、今はその階段に座っている。横になれないのはつらいけど、地面には何が付着しているか分からないので安易には横になれない。足裏が冷えることを除けば、この状態が最善なのだ。


「床に血とかついていても嫌だしねぇ……にしても、少しお腹が減ってきた」


 グルルと欲望に正直なお腹が食べ物を求めている。だけど守衛が食事を持ってくる様子はない。そもそも忍び込んだのは深夜あたりだったから、もし食事が出るとしたら朝食だろうな。そんな長い間待てるわけないでしょ!


「だけど、こういう時の非常食! 実はおばさんからお肉の塊をもらってたんだよね~! 隠していたナイフで切って、ちょっとずつ食べていこう」


 運が良かったのか、私の持ち物検査はされなかった。格好が格好だから持ち物も何もないだろうと思われたかもしれないけど、これがラッキーだった。バベッドおばさんには感謝しなくちゃ!

「ふふ~ん、お肉お肉~」

 いそいそと下着に挟んだナイフを取り出す。きっと柄も刃も生暖かくなったに違いない。それで肉を切るのはいささか食中毒が気になるが。

 だけどどうしたことか、私は体をいくらまさぐっても目当てのものが見つからない。

 ないのだ。

 おばさんからもらったナイフがキレイサッパリなくなっていたのだ。


「え、嘘、あれ?

 ないんですけどー!?」


 だけど下着を緩めても、服をバサバサさせても出てこない。そう言えば、ナイフを下着に挟んだ時の違和感がすっかり消えてなくなっている。胸を圧迫しない清々しさから、ナイフがそこに存在しないのは明らかだった。

 フラン・ブラウン。一生の不覚。

 どうやらナイフを落としてしまったらしい。


「馬にも逃げられて挙句ナイフまで落とす!? バカか私は!!」


 これで肉まで落としていたらおばさんに示しがつかない!

 どうか肉だけは無事であっておくれー!!

 切に願いながら今度は下の下着をまさぐると、あった! お肉の塊が!

 野球ボールくらいの大きさだけど、下着の布に外ポケットを作りそこに入れて置いた。するとワンピースの中で蒸されていたのか、いい加減に温かくなっていた。うん、すごく微妙な感じ……。


「ま、まあ食べられるし! このくらいの大きさなら口に入るしナイフいらないし!

 物が悪くならない内に食らうべし! いざ、

 いっただきまーす!!」


 ガブッ

 と噛みつこうとした瞬間のことだった――


「面会だぞ」

「……ほへ?」


 どうやら今日の私は、とことんタイミングが悪いようです。



 ◆



「とってもおいしいですこのお肉!!」

「そりゃお前の体で温めていた肉よりは上手いだろうな」

「うぐ!!」


 牢屋であーんと大きく口を開けていたその時、私に会いに来たという人物が現れた。

 その人物はまさかの人物で――


『やはりお前だったか』

『は、伯爵様!?』


 お昼、不良から私を助けてくれた伯爵様だった。

 牢屋で話すのもあれだし、お腹が空いてるのならということで、伯爵様の権限で王族の方が利用する食堂に案内された。そこで好きな物を頼むと良いと言われたけど、この国の字も読めないし料理のジャンルも不明なので、取りあえずお肉が食べたいという旨だけを伝え現在に至る。


「ここが食堂だ、入れ」

「うわぁ~!」


 テーブルの脚と椅子の脚に宝石が埋まっている家具を見るのは初めてだ。しかもそんな大層な物が五個一列で計四列並び、その下には赤い絨毯が敷き詰められているのだから、やはり王宮はすごい。

「(金持ちだ!!)」

 そしてその大層なテーブルの上にテーブルクロスがあり花瓶があり、私の目の前にはおしゃれなサラダと、キレイに焼目のついたお肉があった。しかも大きい!

 パクッ

「ん~!!」

 一口食べただけでも美味しいと分かった。口の中でとろけるような触感と、塩コショウにレモン汁を少量垂らしたような、本当にお上品な味――。


「むう~美味しいですう……! 生きていてよかった!!」

「大げさだな」

「本当です! 食べたことないですこんなおいしいお肉!」


 ぱくぱくと食べ続ける私に、伯爵様は笑みしか向けない。怖そうだけど優しそうな雰囲気はお昼と変わらず、まるでよくある薬の服用例みたく一日二回も助けてくれた伯爵様に、私は感動さえ覚えていた。


「今日はずっとありがとうございました」

「ずっととはなんだ。私は二度会っただけだ」

「その両方で助けてもらっています……だけど、いいのでしょうか? 私牢屋に帰らなければ」

「そもそも、なぜ牢屋などにいる? 成り行きは粗方きいているが牢屋に入ることはないだろう」


 私の席の向かいに座っている伯爵様は「本当に理解出来ない」という風に腕と足を組んだ。眉もひそめて、余程私が牢屋にいたことが理解できないようだ。ややツリ目な瞳を赤い軍服が後押しして、その風貌から、まるで私が責められているように思える。


「私が牢屋に居るのは変、ですかね……?」

「そうだ。お前が牢屋にいるのは無意味だ」

 王子が命令したことに反論している!

 この伯爵様、思ったよりもずっとツワモノかもしれない!!

「で、でも、調べが終わったら迎えに来てくれるって、」

「王子が言ったのか?」

「は、はい!」

「なら叶わないだろう」

「へ?」

 今なんと!?

「ライアン王子の言動はその場限りのことが多い。お前のこととなると、その気まぐれさも増すだろうな」

「そ、そんな~!」


 あれだけ会うのを楽しみにしていたのに!

 私がどれだけ恋焦がれていたのか、紫音先輩には分からないんだわー!!

「(まぁ分からなくて当たり前か)」

 だけど――


「またお会いできると思っていたので……残念です」

「むしろ、なぜそこまでして王子に会いたがる?」

「え」

「会わねばならない理由でもあるのか?」

「……」


 王子が私に会う理由はない。

 だけど、

 私が王子に会う理由はある。

 たくさんだ。


「会わなきゃならない理由……主に私にありますかね」

 叶わない恋ですが、とは言えなかったけど、並々ならない事情を察してくれたのか、伯爵様は「そうか」と言ったきり黙った。つられるように私も黙るのだけど……

「また会おう、ゆっくり食べてくれ」

「へ?」

「ではな」

「へー!!?」


 牢屋に入っていた身の私一人を残して、何故か伯爵様はこの場を後にする。

 今ひとりにさせられても困るんだけど!?

 すがる様な目で訴えたけど聞き入れてもらえず、伯爵様は颯爽と食堂から姿を消した。

「き、気まぐれなのは王子だけじゃなさそう……」

 とりあえず私は牢屋に戻るべきだと分かっている! だから急いで料理を口の中に入れ、眠そうなコックさんに謝罪とお礼を言って食堂を出た。

 だけど、その時気づく。

 思えば、何が何でも伯爵様を呼び止めて置けばよかったのだ。

 なぜなら――


「ここ、どこですか?」


 広い広い王宮に放り出されても、右も左も分からないからだ。

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