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転生したってわたしはわたし。  作者: なの
許せないことってありますよね
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38.クレイジー姫さん

「じゃあ行ってきます!」


「気をつけて行ってらっしゃいませ。」


 食休みをばっちり取ってからぬくぬく服に着替えて上からマントをかぶって出発進こーう!

 ふんふんとテンション高く歩きながらこれからのことを聞くと


「もうなんか依頼は受けてあるの?」


「いや、まだ何も。自分で選びたいかなと思ったから見てすらないな。」


「そっか~。夜は初めてだしなにかいいのあればいいですね~。」


「まぁ俺は初めてじゃないんだけどな」


「む、せこい……」


 よくある冒険者ギルドといえば『依頼は朝貼り出されるから早くに行かないとなくなる』というイメージだけど、この世界では随時貼り出しがされているのでいい依頼と会えるかは時の運という感じ。なのでいつ行ってもそこそこの依頼量がある。もちろん朝行こうがいつ行こうが全く無いときもあるけれど。

 ギルドにも灯りの魔導具を設置してあるおかげで煌々と輝いていてばっちり24時間営業をしているので今から言っても蛍の光は流れてきません。

 どこのギルドでも決まりごとらしく、夜間になると受付がおねいさんではなく筋肉隆々の元冒険者の男の人たちになります。ムキッ


 ちなみに余談ですが、お店の閉店で流れている曲……実は『蛍の光』ではなく『別れのワルツ』という曲らしいですよ。しってました?




 王都のギルドは学園とは違い少し家から遠く、玄武院のある北地区にほど近い位置に配置されています。

 広いので色んなお店がそれぞれの地区ごとにあるけれど、専門的なものはやはりそれぞれの地区ごとに分かれてはいるので、学院同様北地区は武器・防具・鍛冶屋が多めです。

 ちなみに東地区は高級品が多めで、貴族の家も他の地区に比べて多め。西地区は衣類・雑貨等生活必需品が多く並んでいて南地区は食関係という感じ。

 南地区の朝市行きたいから朝までに帰ってこれる依頼がいいな。


 既に時刻は夜の8時で周りは暗く一部のお店以外は営業終了しているので灯りも乏しい。

 大通りには街灯も設置されてはいるけれどそれでも日本に比べたら少ないし裏道なんかには全く見当たらない。そのため裏道に面した家からもれ出る蝋燭やランプの光で視界を補うしかないため、普通の人はこの時間になると出歩いたとしても大通りくらいだ。

 だけどわたし達は気にせず最短ルートで進んで行きます。


 なぜならわたしが明るく照らせるから。

懐中電灯(ライト)』を使って周囲を明るく照らすので、光の玉をふわふわと浮かせてあたりを照らす『(ライト)』とは違って強烈な光なのです。

 ちなみにこの『懐中電灯』は手のひらから光が出ているのでビームみたい。おかげでカメカメ波的なポーズをとりたくなります。

 手をグッと握るとオフになり開くとオンになるようでとってもべーんーりー。でも常に腕を前に向けているのでちょっとだけ腕が疲れるのは内緒。

 懐中電灯のイメージだから行けないのかな……もっと他の灯り……。いやいやでもさ、工事とかにありそうなヘッドライトとかだとマヌケだよね……デコピカーでしょ……?

 ……ヒィッ、想像したらめちゃくちゃマヌケ! わたしはハゲてないんだから!?


「……なに1人で百面相してんだ? ほら、もう着くぞ?」


「う……うぅ……なんでもないです……」


 危ない危ない、見られてました……。フードは被ってないんだった……。

 喋りながら最後の角を曲がると大通りの灯りが見えて来たので懐中電灯を消す。辛うじて灯りが届く距離だったために途端に周囲が暗くなる。

 灯りを目指し進んで出た大通りは、夜だというのに街灯で明るく照らされていて裏路地との明暗の差がすごくて眩しいくらい。

 なんていうか家からここまでの短い道のりで都会と田舎を味わってる気分です。


 大通りに出ると外していたフードを被り、小道の数軒隣にある建物……お馴染みの剣と盾の看板の冒険者ギルドを目指す。

 リシュール支部とは違い『さすが王都』という感じでとりあえずでかい。

 リシュール支部は2階建だったけれど王都本部では冒険者専用の宿屋も併設されているため7階建になっている。

 周りの建物は高くても3階建くらいなのに冒険者ギルドだけ7階建。どういうことだってばよ、建築技術。


 キィッと音を立てて扉を開く。休憩所兼飲み屋になっている2階のざわめきが開いた途端耳に聞こえてきて夜だというのに賑やかで楽しそうな明るい雰囲気。

 いや、夜だからこそ賑やかなのかな、飲み屋だし。

 ちなみに1階は冒険者ギルド。受付カウンターや依頼掲示板など冒険者っぽいものはここ。2階は休憩所兼酒場で楽しそうなざわざわ感はあるけれど絡まれそうだから今の時間は絶対近づきたくないです。3階はギルドマスターの部屋や応接間、職員の休憩所などがある。4~7階までは宿屋になっているらしいけど泊まる理由がないので言ったことはない。

 そして地下には訓練場。ここは何回か行ったことがあります。


「ァん? 『微笑みのクレイジー狐姫』と『狐騎士(フォックスナイト)』か。あんだ、てめェらがこんな時間に来るなんて珍しいじゃねェか。」


 暇そうにジョッキ片手に片足あぐらをかいてカウンターに座っている(こちら側からは見えないけど絶対してる)ガラの悪いこの人は王都本部のギルドマスター。そしてリシュール支部のギルドマスターであるジークパパとは犬猿の仲……ではなく大親友……なんてこともなく普通~の仲だそうです。つまらん。

 まぁ定期的にギルドマスターの会合みたいなのがあるらしくらその後複数人で飲みに行くうちの1人……程度には仲が良いみたいです。

 年齢もストラの少し上の30歳くらいと若く、ジークパパとは離れてるしそんなもんなんですかね。


「ていうか待って、いつも言ってるけど混ざってる! 二つ名いっぱい混ざってるから!?」


 今わたしについてる二つ名は『微笑みの断罪者』『狐姫』『クレイジースマイル』の三つ。他にもあるのかどうかは知らない。とりあえずこの三つは有名。厨二かよっ!


 狐姫はストラとセットで姫と騎士な感じでついたもの。わたしが冒険者してるときは必ずといっていいほどストラいますし、姫と騎士とか言われてもまぁおかしくはないよね。

 ちなみに何故狐なのかというと……フード部分には形状記憶で常にピンと立った狐の耳、そして歩いた肉球の痕と狐のシルエットが刺繍されているデザインのローブを着ているから、見てすぐにわかる狐っぷり。

 それに必ずどっちかにくっついて睡蓮もいますからね。もちろん狐形態なので私と並ぶと狐と狐で超絶可愛いはず。私フードで顔見えなくてめちゃくちゃ怪しいけど。

 あぁ、中からは見えますよ。わたししか着ないから『反射』『遮断』『隠形』『透過』『暗視』などの魔法付与を遠慮なくつけたビックリローブなのです。ちなみに反射以外は任意のタイミングで使えるようにしてあるので日常生活で「あれ? あいつどこ行った?」的な感じにはならないです。


 ちなみに並ぶと可愛いとか言ったけど、基本的にはわたしが学校に行ってる間とかもずっと一緒にいたからしっくり来るのか、ストラの肩に乗ってることが多いですけどね。ワタシ ノ シエキジュウ ナノニ 。


 あ、ちなみにストラの方のローブには狐耳はつけてないですよ? 同じ魔法付与はしてありますが……。自重? ナニソレオイシイノ?


 耳はつけようと思ったら本気で嫌がられたので刺繍だけにしたのです。わたしのより控えめで位置もそんなに目立たない場所にしたら渋々納得してくれました。それでも分かる位置にはつけてありますけどね。見えないとつけてる意味ないし。

 あぁちゃんとどちらにも薔薇の刺繍もつけてありますよ。ストラもわたしも武器薔薇ですし、さり気ない薔薇使いとか素敵ですし。


 わたしはフードも前が見えないくらいグッと深く被ってるので顔も隠れちゃっていて、ここ数年の間に知り合った人たちは『冒険者ユイ』の素顔は見たことある人なんてほとんどいないのですよね。

 いやぁ、リシュールにまだいる時に色々あって顔を出して冒険者をするのやめたんですよね。逆にミステリアス路線てことにもなるしで良いかなって。

 でも顔出ししてないからさ、ほとんどの人が微笑みの断罪者の『微笑み』に違和感があるらしいんですよね。微笑んでるのかわからん、と。

 おかげで後から出てきたクレイジースマイルや狐姫の方が浸透してるんですよね。

 ちなみに合体技を使って来るのはギルマスのみです。



 ていうかね、狐姫はまだいいんですよ。なにクレイジースマイルって。……クレイジーなスマイルって!

 ストラいわく一番ぴったりだそうなんですけどね……ふ……。

 テンション上がった狩りのときのとち狂ったように笑ってるのを見た冒険者たちがドン引きしてつけて広めたとか。そしてまた別の時に見てドン引いた人も納得して広めていったりしたらしく気付いたら一つ目の微笑みの断罪者とそんなに間をおかずにクレイジースマイルは定着しました。ううぅ、やめてよぅっ!





またまたお久しぶりです。

愚図な亀ことなのですおはようございます。

予定では今話で冒険に出発だったのですが……あれ、冒険者ギルドについただけだぞー( ^ω^ )ってなってます。あれぇ?

しかも実は文字数が多すぎたので分割しちゃいました。

次話もまだ冒険者ギルドにいます。

なので次話は明後日の朝9時に投稿しますね。

その次こそは旅立ちたいなぁ……。

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