37.オムライスは正義。
おまたせいたしました!
前話の帰宅後です。
本編↓↓↓
「ただいまー。」
「おかえりなさいですユイさま、ストラさん!」
「おかえりなさいませお嬢様、ストラさんも。今日も学園は楽しかったですか?」
「はい、もちろんっ! ただいまです!」
学校で誕生日プレゼントをもらい、いろんな人におめでとうと言われご機嫌で帰宅すると笑顔で一番に迎えてくれるルナ。
お兄ちゃんのディダみたいに尻尾生えてたらブンブンしてるんだろうなという雰囲気。
その後ろには領地の屋敷より少ない人数の、王都の屋敷専属の使用人の人たち。
みんな笑顔で出迎えてくれるからご機嫌なのに更に嬉しくなっちゃいます。
「おかえり、ユイ。そしてただいま。」
「ただいま、そしてストラもおかえりなさい!」
毎日欠かさず迎えに来てくれているストラとも日課となっている挨拶をするといつも通り目を細めて頭を撫でられる。
気づいたら日課になっていたこの撫で撫で。子供扱いするなと最初はプンスコしてたのですが、辞める気配がなかったうえに慣れちゃいました。
王都にきてからはほぼ毎日されていて、たまにお父様やお姉様たちが泊まるときはしない。
ストラの中で人がいるとしないとかいう基準があるのかないのか……。
撫で撫で嫌いじゃない……というかむしろ好きなのでいいんですけどね?
ちなみにもう分かってるかと思うけど今日はプレゼントが送られてきてるけど皆領地の方にいるのでここにはいません。
「本日の夕食はユイさまの好きなものだって料理長が張り切ってましたよ!」
「わー今年も楽しみー! じゃあ着替えたりしてきますから準備出来たら呼んでくださいねー!」
ウキウキしながら部屋に戻っていくといつも通り後ろからストラもついてくる。
ここ、別邸である王都の屋敷も住んでからもう5年がたった。
ちなみに3年前からディダは青龍院で寮生活をしています。同い年なので今年で終わり。
王都の使用人の人たちともすぐに仲良くなれたし、日々甘やかされている自覚はある。
超運動して消費しないと太るんじゃないかってくらい美味しいご飯をお腹いっぱい食べさせてくれるから今日の夕飯ももちろん楽しみです。食べ過ぎて気持ち悪くならないかだけが心配になっちゃうけど……。
毎年誕生日になると張り切って作ってくれるみたいでものすっごい美味しそうなものが並ぶからなぁ。
今年は何かなぁ。うふふ。
なんてニヤニヤしながら階段をのぼり進んでいくと突き当たり右側の部屋に辿り着く。入り口には「ユイリエール」と書かれた木彫りのプレート。
部屋に入るとストラは止まって扉の横に立つので1人で中に入っていき、乙女の着替えタイム。
ドアを開けるとガチャリという音に反応をしたのか、丸くなった体勢から顔を上げた睡蓮が布団の上からこっちをピョコリと見ていたので薄暗い中に黒と緑のキラキラした瞳がぼんやりと浮かんでいるようでちょっとホラー。
だけどファサファサと布の擦れるような音が聞こえてくるからきっと尻尾を振っているはず。
灯りをつけてから予想通りぶんぶんと尻尾を振っている睡蓮に近づいていき「ただいま」と声をかけると合図にしたかのように勢いよく飛びついてきてふんふんと匂いを嗅いでペロペロと頬を舐めてくる。
最近は睡蓮が虹色スライムだってことを忘れるくらいただの狐と化していると思うんですよね。
狐っていうか犬みたいです。
毛が抜けないので(あくまで毛に見えるけどスライムの身体の一部なので)そこだけが唯一の動物っぽくないところ……?
部屋着はよくある中世ヨーロッパ的異世界だったら「あれ、キミ貴族だよね?」と頭を傾げられてしまいそうなもので、マキシ丈の裾にピンクの小花の散らばったシンプルなワンピースがいつも通り布団の上に畳んで置いてある。
もちろん「お前なんてこんなもんで充分だこらー」的な嫌がらせなどではなく、普段から着てる部屋着がこういうものなだけ。
家にいるのにゆったりした格好しないでどうするんだっていうね。
昔はこの世界もコルセットはしないけどドレス的なものが部屋着というのが主流だったけれど、今やハイリシエール全土とは言わないですが近隣では貴族も部屋着はゆったりの時代です。
え? 発信源? もちろんわたしです。ガッポガポのウッハウハですが、なにか?
ゆったり部屋着もかっちり部屋着も、どちらも御用命は『生まれ変わり館アオイ』にて取り揃えております!
……ごほんっ。
少しの間睡蓮を撫でてからベッドの上におろして制服に手をかける。脱いでハンガーにかけてから用意されていた淡い黄色の花柄ワンピースを手に取り頭からかぶるため着やすいように服を持ち上げ腕を上に伸ばす。
くんっと以前はなかった重さが腕にかかる。前世Aカップだったわたしには経験したことのない感覚をもたらしてくる驚異のDカップのお胸様……。むふ。
あ、誰ですか今『Dで驚異?』って思ったの。
Aカップのまま大人になった人間のお胸様が生まれ変わったらここまで成長したら普通にビビりますからね。
夢にまで見た膨らみですよ!? さようならちっぱい!
マシュマロみたいな柔らかさを保ったまま手のひらに収まらないほど成長した素晴らしいこのサイズ。
順調にここまで育ったことに感動で打ち震えましたからね。最近増えなくなったからきっとここで打ち止めだろうけど満足すぎてむふふですよ。B~Cのあたりで既に小躍りしてました。
ちなみに胸が重くて肩が凝るとかよくいうけれど、姿勢があんまり良くなくてパソコンも使いまくってた自分にはあまり関係なかったです。
ちっぱいだけど常に凝ってたから凝りなんて慣れたもんです。
学園入学当初は卒業間近にこんなサイズになってるとは思わなかったんですよね。
なんてったって前世では中学生からサイズ変わらなかったくらいですし。
遺伝っていうか魂レベルかなって。ありがとうお母様! ユイは幸せ者です!
考えてると嬉しくて顔がにやけて手も止まってしまい睡蓮が『着替えないの? 抱っこしてくれる?』と言いたげに首を傾げてくるので雑念を振り払いながら手を動かして着る作業を再開する。
我ながら女の子の思考回路じゃないなぁと思う。
胸の下あたりにはベルトを通す紐のようなものがついているので、ワンピースと一緒に置いてあったオレンジのリボンをそこに通して左胸の下あたりでリボン結びにする。
さらに強調される胸を見てまたニヤニヤと頬が緩んでいく。
はっ……! ……わたしは女の子と身体が入れ替わってしまった物語の中の思春期の男子かっ!
柔らかい生地をした長袖の茶色いボレロを羽織って前をしっかりと結び、ふわふわのクリーム色の靴下を履く。
足元に用意されていたキャメルのルームシューズを履いてからお気に入りの緑チェックの大判のショールを羽織って睡蓮に手を伸ばしながらストラに声をかける。
「入ってきていいですよー。」
ピョンっと胸に飛び込んでくる睡蓮と同時にドアがガチャリと開いて入ってくる。
「随分時間かかったな?」
まぁ、ニヤニヤしてたので。
いつも通りノックも声かけもなく入ってくるストラは、さらに遠慮など知らんと言わんばかりの様子でドサリと椅子に腰掛けダラけた体勢になる。
なんだろう、護衛って立ってるもんじゃないのかな。
学校行ってる間は自由にしてるし今ダラけてるし……護衛としてはめちゃくちゃ楽な仕事してますね。
くそぅ、ダメな大人め……。
「……いえ、ちょっとニヤニヤして妄想に耽ってました。」
「夕飯のことでも考えてたのか? 毎年誕生日はユイの好きなもんばっかだからな。今年も鶏肉だらけなんだろうなぁ……。」
「なんでそんな嫌そうに言うのっ! 鶏肉美味しいじゃないですか! それに鶏肉以外にもキノコ類だって出るじゃないですかっ!」
椎茸は嫌いだけど舞茸は好きです。美味い。
都合の良い勘違いしてくれたのでそのままノリで話していきますが、何かっ!
1人で胸のサイズにニヤニヤしてたとか言いたくないですがっ、何かっ!
「毎年恒例だな。必ず出てくるのがオムライスか……。それ以外よく思いつくなというくらい色んなもの作るよなぁ、ほんと……同じような材料で。」
鶏肉料理の中でも1.2を争うほどオムライス大好きなわたし。
どちらの屋敷の料理長も分かっているので必ず誕生日には作ってくれます。素敵すぎる。
「ユイさま、ストラさん、夕食の準備が出来たので食堂に移動をお願いします。」
ノックの音と聞こえるルナの声にハーイと元気よく返事をしてるんるんで進んでいく。
食堂の扉を開けてもらい入るとそこにはテーブルいっぱいの豪華な食事と席に着く使用人。数名の料理人や給餌をしてくれる執事さんは立っているがそれ以外の人たちは既に座っている。
家族全員が揃っていないときやお客様が来ていない時は王都の屋敷では人数が少ないので、使用人の人たちも一緒に食べるのが昔からの我が家のルールです。
領地の方は人数が多いので別々ですけどね。しょんぼり。
促されて自分の席ーー今この家に住んでるリシュールの人間はわたしだけなので上座に座っているーーに座る。
次席には護衛なので近くに、というわけでもなく、ストラ、ルナ、執事さん、という風に適当に座っている。決まってるのはリシュールの人間だけなのでとっても自由なお家だなぁといつも思います。楽チン、ふふ。
美味しそうな料理が目一杯並んだテーブルを眺める。
目の前の一番近いところには睡蓮をデフォルメして描いてある萌え萌えオムライス。
敷き詰めたレタスとトマトの上に綺麗に盛られた鶏の唐揚げと、サニーレタスに水菜と砕いたナッツの乗った蒸し鶏のサラダ、舞茸と葱のキンピラ、種入りカボチャサラダ、フィアの卵を使った出し巻き卵、海老のビスク、茶碗蒸しが並べてある。
思わず頬が緩んでいく。
わーやったー! どのお肉よりも鶏肉が大好きだから嬉しい!
我が家の茶碗蒸しには鶏肉と海老と銀杏が絶対に入ってます。理由は簡単、わたしが好きだからっ。
海老は名前で分かる通りに、火が通ると赤ではなく鮮やかな青になるので茶碗蒸しはまだいいけどビスクになると正直慣れるまで食欲失せる色合いにしか見えなかったです。
淡い色ではあったのでスライムカレーよりはマシですけどね……それでも見た目が気持ち悪いです。味は極上なのに……。
今は慣れたので美味しく味わいますよ!
なんで青系食材って気持ち悪いんだろうねぇ。あ、でもかき氷のブルーハワイは気持ち悪くないな……うーん、不思議。
皆揃ってますかね、うん、全員飲み物用意して座ってますね。
「では皆準備できたようなのでいただきましょう! いただきまーすっ!」
まずはオムライス登頂から。
見た目はしっかり火が通っていて綺麗にイラストが描いてあるのに、ひと匙スプーンを差し込めば中はとろとろの半熟卵に包まれて小さく切った鶏肉とケチャップライスが程よく炒まっていて見るからに美味しそう。
「んーっ!」
もちろん躊躇せずに一口でパクリと食べれば声にならない声が出るくらい美味しい。
いつも美味しいご飯を作ってくれる料理長だけど、毎年オムライスレベルが上がってる気がする……! 本当美味しい!
「ユイ様は本当に美味しそうに食べてくださるので作りがいがあります。」
「本当に。作ったのは私ではないのに見ているだけで嬉しくなります。」
食べているわたしを見ていたらしい料理長や執事さんがニコニコと笑顔で恥ずかしいことを言ってきて照れ笑いをしてしまう。
隣ではストラがいつも通り普通に食べてて、なんとも言えない感じ。せっかく美味しいんだからもっと美味しそうに食べようよ!
ちょうどよく一人分食べきれたあとはお楽しみのデザート! 誕生日といえばやっぱりケーキですよね!
ピンク色の生クリームの三段重ねのストロベリーショートケーキとサッパリ用にレモンやオレンジのシャーベット。
ケーキの方はホールサイズのまま出てきたものをこの場でカットしてくれて見た目の美しさを損なわないように人数分に分けます。
切った断面はいくつもの層に分かれているのが見えてて中には赤いイチゴもジャムも見えてどこまでもイチゴづくし。じゅるり
平い丸いお皿にケーキを乗せて上からジャムをこぼれ落とすように乗せる。
お皿の上には『ユイリエール様 15歳の誕生日おめでとうございます』と赤いジャムで書いてあり横には薔薇のようにカットされたイチゴが乗っている。
もしやこれはご飯を食べながら話したセイルのイチゴの薔薇ですか!
「先程の話を聞いて薔薇のように加工させていただきましたが……いかがですか?」
「テンション超あがります!」
目で見ても食べても美味しいご飯やデザートが食べれて幸せですぅ……さっそくいただきます!
はふぅ、いちごジャムの程よい酸味と甘味の絶妙なハーモニィー……もぐもぐ……うまぁ……。
「ユイさまは、頬袋が、もぐもぐ、あるのでしょうか、ね? もぐもぐ。」
「いや、ユイもルナもどっちも頬袋あるように見えるの変わんねーからな? 貴族とか云々以前に年頃の女の子としてどうなんだ……?」
「今日は少し休憩したらこれから狩りに行かないか?」
ご飯のあとにお父様やお姉様、キズリお兄様やサラお姉さまから届いた誕生日プレゼントなんかを開けてるときにいきなりのお誘い。
えっ、今から?
「結婚できる15歳になったんだ、大人の仲間入りってことだろう? 明日学園も休みだし今まで出来なかった夜の討伐にせっかくだし行ってみないか?」
「いいんですか!? やったー!」
やったー!
日本では女性は16歳男性は18歳で結婚が出来るようになって20歳で成人でしたが、この世界では男女共に15歳で結婚可能、18歳で成人です。
なのでハイリシエールでは15歳と18歳は特別な歳。
婚約者がいればすぐに結婚していく貴族社会の中で婚約者のいないわたしは結婚するわけではないので特別な年であって特別ではない。
でもやっぱり15歳は特別で……大人の第一歩ですから……
「特別な歳になったんだし特別なことしたいだろう?」
「したい! やったぁ、ストラ大好きー!」
「うわっ!? ちょ、ユイっ!?」
嬉しさのあまり横に立っていたストラに飛びついてしまい、焦った声と支えるための腕が背中にまわってきます。
26歳になったはずなのに未だに成長してるっぽく、わたしと身長差が縮まらない謎の男ストラ。
首に手を回して抱きついた視界はとっても高くて、少し怖くて上がったテンションも落ちついて一気に冷静になってしまう。
腕に力が入ってしまったのか、恐怖が伝わったのか。ストラの腕も少し力が入ってギュッと抱きしめられるとホッと安心して息をつく。
「あは、ストラの視界はちょっと怖いね。思ってたよりも高いです。」
「あ……そ、うだな。ユイがちっちゃいからな。」
「ち、違いますしストラがデカイんですし!
未だに身長が伸びてるストラがおかしいんですしっ!」
少しかがんでギュッとしてくれていた手を離して降ろそうとしてくるけどムーッとむくれながらも無視して更にしがみつく。
「ちょ、おい……?」
困惑しているストラの声をシカトして離されまいとギュッとしがみつくと諦めたようなため息と呆れたようなでもどこか仕方ないなぁと思っていそうな優しい甘さのある声が顔の横から聞こえてくる。
片手はお尻の下に腕を回して支えに、もう一つの手は頭を撫でてくれる。
「どうした、大人に一歩近付いたのに甘えてくるのかよ。」
「いいの、誕生日だから甘えるのも許されます。あ、またため息ついたー。」
「まぁいいか……食休みしてから着替えて行くからな。当主様には前もって許可もらってあるから。」
「はーい。」
ため息をつきながらも落とさないように抱えたままでいてくれるあたり優しい。
疲れたのかそのまま椅子に座って背もたれに寄りかかるので、そのままストラに体重を掛けるようにもたれかかる。
ちゃんとキズリお兄様の許可ももらってるらしいから気兼ねなく出かけられますね。
ふふ、夜でかけるのってワクワクするなぁ! 楽しみです!
でも今はお腹はちきれそうだから食休み長めでお願いしたい、かな? えへ。
ぎゅってされると、むぎゅってなるの。
ビ○バンに売ってるスライムカレー食べたことあります?青い見た目でめちゃくちゃ気持ち悪いけど味普通に美味しいですよ。でももう食べたくないです。
いつも亀更新を待ってくださってありがとうございます。
次回は狩りしにいきましょう。
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