36.反省は活かしていかないスタイル
「ユイおはよう、そして誕生日おめでとう、君も今日から大人の仲間入りだね。昨日よりも一層眩しいくらいに輝いていて直視できないくらい綺麗になったね。」
「うわぁ苺の花束!? ありがとうございます! ってセリフまでキザァッ!
セイルは今日も絶好調ですね……まさかそんな1日で変わるわけもないのに……」
教室に入ってすぐに扉のところで待機していたのか、跪いて声をかけてきたのはセイル。
キザなセリフ、行動と共に渡されたのは苺を薔薇のようにカットして棒に刺してまとめた小さい花束。
苺の花や葉も一緒に合わせていて緑と白と赤、色のコントラストがとても綺麗になっています。
苺は彼女の作ったであろう水の薄い膜に包まれて乾燥を防いでいるようて、渡されたと同時にすぅっと空気中に霧散させたようでふわっと苺の甘い良い香りが鼻に届いてきます。
10歳で入学して5年間学んだ学園生活の中で随分と魔法の技術が磨かれたようで、入学後すぐの魔法力のテストのときはこんな緻密な操作は出来ていなかったように思えるのに……。
まぁ特待生として入学するだけの凄さはあの時すでにあったけれど。
「本当はこれくらいの花束にしようと思ってたんだけどね、学園に持っていくのに邪魔かなと思ってやめたんだよ。だからミニサイズにしてしまったけれど……」
立ち上がりながらこれくらい、と腕をできる限り伸ばしてサイズを表す。
いや、そんな花束で苺もらったらお腹壊しそうですよ。
「苺の薔薇の花束とか超可愛いです、このサイズで充分嬉しいですというかこのサイズがベストです。」
嬉しくって小さい花束を潰さないように大事に抱きしめると意識せずとも笑顔が溢れてしまうのをやめられない。
「おう、おはよう。
って苺の薔薇で作った花束とか……相変わらずキザやな……ユイ、誕生日おめでとさん。これ誕生日プレゼントや。」
そういって立って塞いだままだった教室の入り口、わたしの後ろから声をかけて入ってきたのは黒髪碧目の猫耳青年リュカ。
出会ってから5年たった今、2歳年上のリュカは17歳になって立派な青年です。
イケメンではないけどカッコいい、だったはずのリュカのお顔は気付いたらただのイケメンになってました。ただしイケメンに限る、ではなくほんとただのイケメンになった。
リュカが手渡してくれたのは瓶に入った飴。
5年前から毎年誕生日には瓶に入った飴をくれていて、毎回違う可愛い瓶なので自室のテーブルの上に並んでいます。ちなみにセイルは毎年お花とかお菓子とかで入れ物も特には残らない系をくれます。
1年目には普通の円柱のよくありそうな瓶で首の部分に赤や緑、青や黄色などのカラフルな紐が何本もくるくると巻きつけてリボン結びにしてあるシンプルだけど可愛いものでした。
飴も美味しかったのでリュカにお店を教えてもらって、無くなると買い足して移し替えを今でもしています。
2年目は丸くて入り口が少し斜めについているコロンとした手のひらサイズの赤のグラデーションの瓶で、ここにはホビットのチビちゃん達や睡蓮が拾ってきた綺麗な石とかを入れてあります。ちなみにどちらもたまに虫の死骸とかも無邪気な笑顔でプレゼントしてくるので顔を引きつらせないようにするので必死です。
3年目は縦に30センチはありそうな黄色の細長い瓶で黒地に金の見事な刺繍が入ったリボンが計算されたデザインというように瓶に巻きついていました。中にはカラフルな飴が縦一列に入っていてリボンとの色の兼ね合いも可愛かったです。
何が楽しいのか分からないんですけど、睡蓮がよく尻尾を振りながら鼻を突っ込んでふがふがしてるので何も入れないで机の上で横にして置いてあります。
細いから鼻先くらいしか入ってないのに何が楽しいのか……。小包装されずに直接入っていたから飴の甘い匂いでも残ってるんですかねぇ?
4年目の去年はなんと星形の瓶。
確実に瓶がメインだと分かる可愛い入れ物で、飴は数える程度しか入ってませんでしたが香水瓶のように可愛かったので今はお水入れて一輪挿しの花瓶にしてます。
そして5年目の今年は手のひらサイズくらいの今までよりも一回り二回りほど小さい普通の瓶に飴が入っていてーー去年同様ほとんど入ってないですがーー首部分に巻かれた金のリボンの下には緩く巻かれたチェーン。
蔓がチェーンに絡んだような赤い薔薇デザインのチェーンがついていて、とっても可愛い。
「わぁー可愛い!」
「それ、外すとアンクレットになるんよ。」
瓶ごとくるくると回して確認をしているとなんとこのチェーンはアンクレットだといわれてびっくり。
どうやらこういうデザインの飴の瓶なのではなくてシンプルな瓶に装飾を施したようです。
「うぇっ!? 本当だ、外れます!
うわああ、本当に可愛いです! アンクレットは持ってなかったので使いますね!」
「……おう。」
「うわぁ、遂にアクセサリーきた。」
「毎年ちょっとずつちょっとずつ変わったデザインにしてたけど一気に攻めたな……」
「卒業だからか……」
「うん? 何か言いました?」
「「「いえ何もいってないです。」」」
1年のときから同じクラスで特待生と同じに進学した人たちが何かヒソヒソしてるけど何でしょうかね?
もう5年の11の月なので私たちも卒業まであと4ヶ月と少しです。
入学した年の、お母様とお兄様がなくなった以降特に何か変わったことがあるわけでもなく……平穏無事に今日わたしも15歳になりました。
10歳の時は実は平均身長よりも少し高いくらいだったのですが、そこから数センチしか伸びず……いまだに153センチとちびっこ扱いから卒業できません。もちろんクラスで一番小さいです……少人数だから20人程度しかいないけどもっ……いないけどもっ……!
リュカは2歳年上だからか、男の子だからか、はたまた個人的な素質なのか……17歳にして身長182センチと、私との身長差約30センチです。これはおかしい。
セイルは同い年で性別も同じなのに、163センチと普通に伸びてしまって憎いです。
その身長よこせええええ!
「可愛らしいユイのちょーっと恨みがこもってそうな視線を感じてぼくの身体に穴が空きそうなんだけど、なぁに?」
やめろ、頭ぽんぽんするんでないっ。
さらにふくれっ面になるのは仕方ないと思います。
席についてから苺をもぐもぐと食べながらアンクレットをタイツの上から足首につけてブーツを履き直す。
見えなくなってしまうけれどこういうのはつけてるっていう事実が大事だと思うので気にしない。
履き終えてじっと足元を見てみても当然履いてしまったブーツで見えません。
つけてる事実が大事とは思っても可愛いものが見えないのは悲しい。
……ブーツ脱いで歩く……? っていやいや、日本の時は教室でよくやったけど、ハイリシエールは土足だもの、ダメだよね……いや、あの時も靴下真っ黒になってお母さんにめちゃくちゃ怒られたけど……。
「ユイ、ブーツ脱いで歩き回るのはアカンからな?」
「!? な、なんでわかったのですか!?」
「いや、ウズウズした顔してたよ。」
2人に苦笑されたと思ったら近くにいた他の人たちもうなづいてました。恥ずかしい。
やめて、そんな微笑ましい子を見る目で見ないでっ!
ちょ、リュカはまだしもセイルや隣の席の茶髪くんは同じ特待生だから同い年ですよね!?
「おーっし席につけー。」
ドアをあけて入ってきたのは1年生のときから担任のダン先生。5年たっても変わらず暑苦しい雰囲気ですが、やっぱりとってもいい人で生徒からの信頼も厚いです。
「っとそうだ、今日はリシュールが誕生日なんだよな、おめでとう。
今年の特待生科5年のやつらはこれで全員が15歳や17歳になったんだな。
リシュールも、他の奴らも改めて全員おめでとう。
Aクラス生徒も何人かいるが……1年のときからだから5年間担任だな……他の生徒たちも2年か。うん、リシュールたち問題児もあと数ヶ月で卒業か……先生は感慨深いぞ……」
「も、問題児っ!? 断固否定しますが!?」
「お前ら……特にリシュールは入学直後の身体・魔力測定での色々から始まり図書館での大量の蔵書落下、棚の破損。
学園敷地内での迷子による大捜索事件、同じく魔物討伐訓練での迷子、魔法訓練場破壊事件。
……まだあるがまだ言うか?」
「ご、ごめんなさい……(一応)反省してます……。」
地味に(?)色々問題を起こしてたようです……。
いや、忘れてたわけではないですよ? ないけど……わざとじゃないもん……。
馬鹿みたいに広い学園の図書館には、1人で行った時に欲しい本が脚立使って届きそうなところにあったから取ろうとしたら脚立が微妙に遠くて。
無理やりそのまま取ろうとしたら脚立転倒、からの本棚ドミノ、からの天井まであるのじゃないかって高さの壁の本棚が老朽化も含めて倒れた本棚の衝撃により破損して当たったあたりから二つにもげてしまいました。
幸い図書館内には受付にいた司書さんしかいなかったから怪我人はいなかったんですけど……めちゃくちゃ怒られた。
学園敷地内の迷子の方は……本当に魔族だったのか確かめたいなと思って……また黒猫に会えないかなと探しに行ったら安定の迷子になって、仕方ないから少し休憩したらストラに助けを求めようと思ってたのにまさかの辺りが暗い時間に発見されるまで爆睡。
リシュールの屋敷の人や学園の先生も総出で探してくれてたみたいで、めちゃくちゃ怒られた。
ちなみにすっごい奥まったところの木の上で寝てたから気づかれなかったみたいです。
最終的にはストラに発見されたけどいろんな人にめちゃくちゃ怒られた。
魔物討伐訓練のときは前述の教訓を生かした先生たちに討伐前に耳にタコができるくらい何度も1人になるなと注意喚起されたはずなんだけど、どうも戦闘時にテンション上がると人格変わるらしいアレで1人で笑いながら消え去ったらしいです。
発見されたあといなくなる前に一緒にいたセイルに青ざめた顔で怒られたし先生たちにはゲンコツくらった。流石に反省した。
反省したけど、何回もやってる、えへ。
魔法訓練場は……つい勢い余って。てへぺろ。
まぁね、ほら。
あれですよ、若気の至り的なことで、許してもらえるはずです。
……うーん、おかしいな、わたし日本では問題児なんかじゃない可も不可もない普通の人間だったはずなんですけど……?
「ごほんっ……まぁ、お前らもあと少しで卒業だが、卒業前にもう一度討伐訓練がある。
卒業前というか、今から2週間後だからな、心の準備しとけよー。
特にリシュール。お前は次何かやったら……卒業まで首輪をつけてハグアスに鎖を持っててもらうことにしたからな。
学園内で自由行動はなしだ。
ちなみにこれは決定事項でリシュール当主にも理解をいただいている。」
ええええええ!? お父様のまさかの裏切り!?
くっ……あの事件から悪化したお父様の過保護っぷりがわたしを苦しめる……!
い、意地でも大人しくしますしっ……!
……フラグじゃないですし!?
お待たせしました、本編です。
時がめちゃくちゃとんで15歳になりました。
誕生日おめでとー!な話だけになる予定が何故かユイちゃんの学園での黒歴史が。何故でしょう……?
では閲覧ブックマークありがとうございました。




