33.突如消える幸福の時間
「もぐもぐもぐもぐ……ユイさま、もぐ今日の照り焼きサンドイッチはもぐもぐいつもよりごっくん美味しいですねっ」
口の中いっぱいにサンドイッチを頬張って食べるルナの姿がフィンレイソンフィンレイソンみたいでとっても可愛い。
「こらルナ、行儀が悪い。
飲み込んでから喋りなさい。」
可愛いけれどお行儀は悪いのでお兄ちゃんに怒られてますね。
しょんぼりしてるのもまたかわゆし。
「いつもはフィア肉を使ってるけど今日のは昨日狩ったヴィゾー肉ですからね、高級品ですよー。
高級なだけあります、うんうん。」
フィアもヴィゾーも鶏肉だけど家畜として飼育できる動物とAランクの魔物では希少度も違って普段食べることもあまりないですからね。
限られた冒険者以外見つけたら逃げるレベルの魔物ですし、本来のヴィゾーは。
強いだけで美味しくない魔物は勿論多いけど、ヴィゾーは苦労してでも狩りたいレベルで美味しいです……もぐもぐ
「ごふっ! ふぇぇっ!?
これヴィゾーだったんですかっ! 昨日倒したっていう!?
は、初めて食べましたぁっ……!」
噴き出して若干口の周りを汚くしたルナは驚きと感動で目をキラキラさせています。
まぁ普通の使用人が食べれるものではないですね。
とりあえずお顔拭こうね。
ちなみにヴィゾーを倒したあとは無事に宿に一泊して出発、お昼休憩を兼ねて馬車を降りてピクニック気分で横道に逸れて見晴らしのいい草原のような場所でサンドイッチを頬張ってます。
パンとかの材料は収納にいっぱい入れてたからヴィゾーを焼いて照り焼きで味付けしてレタスとサンドしただけの簡単サンドイッチ!
だけどうまーい。あ、作ったのはもちろんディダです。
「こ、これヴィゾーだったんですか……普通にフィアかと……僕も初めて食べました……」
「安心しろ、俺も初めて食った。
というか昨日初めて実物を見たくらいだ。」
ディダもダリさんもポカーンとしてるけど、ストラは分かっていたのかなんとも言えない表情。
睡蓮はルナと同じでほっぺたもふもふにしながらもぐもぐ食べてます。
癒されるー。
昨日馬車に戻ったあとは何を倒してきたのか言ったら全員にポカーンってされましたよね。
まぁ本当にAランクの魔物をCとDランクの冒険者が倒すとか意味わからないからね。
というか、ストラは手出ししてないので実質Dランク冒険者が倒したことになるんですよねー。
そろそろランクあげたいです!
「まだいっぱいありますよー。」
みんなで仲良くピクニックも楽しいもんですねー。
良い天気の日に美味しいご飯を外で食べるとか、これ以上の贅沢はない気がします。
匂いも魔物が寄ってこないように風で空高く巻き上げたあとに遠くまで運んでるので安全安心。
「……ん? ユイ、凄い早さで人の反応が2つこっちに向かってきてる。」
「むぐ……早馬か何かですかね? どれどれ……」
ストラが指さした方向はわたしたちが通ってきた方角。
魔法を使って見てみれば兵士のような格好をした男の人が2人。
1人はわからないけどもう1人は見覚えありますね。
「2人ともリシュール領の警備兵だと思います、1人はユイとユイリエールが同一人物だって知ってる人ですね。」
「リシュール領の早馬ってことは俺たちが目的か?」
「さぁー……多分?」
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「ユイリエールお嬢様! よかった追いつけましたっ……!」
少し離して停めてあった馬車のあたりで1人が馬を休ませて、知り合いの方の兵士が近づいてきました。
どうやら本当にわたしに用があったらしい。
「わざわざ追いかけてくるなんて何かあったんですか?」
「じっ、実は……リシュール侯爵家が賊に襲われましたっ……!」
「……賊? そんなのしょっちゅうでしょう?」
リシュール領は圧政もなく見回りの兵士も多いしスラムのような場所もないし孤児院などもしっかりしているので治安も良い。
なので他領の悪ーい貴族さんたちからはとっても恨まれています。
何でって? 誰しも治安が悪いところよりも良いところのほうがいいでしょう?
しかもそれで同じように真似をすれば良いものを、自分たちの土俵に人を引きずり込もうとするんですよね、そういう人たちって。
平民のために何かをしてあげるなんてことはしないで、あっちも治安が悪くなれば良い、と思うらしくて、しょっちゅう屋敷に襲撃があるのです。
先日夜会に行ったティヤー侯爵家とかもね、そっちだよね。
「それが……ユイリエールお嬢様が家を出たあと街の西側で大火事が起こりまして……サラ様が侯爵家代表としてそちらに支援をしに行きました。
そしてキズリエラ様はご存知の通り冒険者として護衛依頼で居りませんでしたし、アイラ様も帰ってはいませんでしたし、旦那様もお嬢様より先に王都へ発っていましたので居りませんでした。
ラルフ様のご指示で兵士数名を残してほとんどの兵士が火事現場にいってしまっていたため屋敷にいたのがラルフ様や妊娠中の奥様など非戦闘員ばかりとなっておりまして……。
旦那様が張られていた結界が何故かいきなり消失してしまい……賊が屋敷内まで侵入してしまったようです……。
ある程度までは奥様が守ってくれていたようなのですが……いかんせん身重の体なうえに体調も良くなかったようで……。」
「な……え……お母様は……無事……?
ラルフお兄様は……あっライ! ライはどうしたの、護衛だからラルフお兄様の側にいたんじゃないの!?」
「そ、それが……。」
言いづらそうに口ごもる兵士に早く話せと急かすとまさかの信じられないことを言われました。
どうして、なんで。
「ライさんは……ラルフ様を人質にとり奥様と使用人数人を斬り、そのあと抵抗したラルフ様もその場で斬り捨て逃げて足取りが追えないそうです……。」
足元が崩れ落ちるようだった。
昨日の朝は皆楽しそうに送り出してくれたのに。
お母様と、お兄様、使用人の人たちが、斬ら、れ、た……。
「か……帰ります……。家に……っ、家に帰るっ!」
泣き出しそうな顔をしたルナと、驚いた表情で固まったままのディダ、キュッと眉間に皺の寄ったダリさん。
そして険しい顔で話を聞いていたストラの顔が一瞬だけ視界に入るけれどそれどころじゃなかった。
もつれさせる足を動かして歩き出す。
一歩、一歩、リシュール領のある方へ。
「おか、あ様……おにい、さまぁ……」
泣きそうになりながらも数歩進んだところでグイッと後ろに引っ張られて身体が一瞬浮いたと思ったら何かに包みこまれる。
「っ!?」
「ユイ、大丈夫、大丈夫だから。
歩いても辿り着くのが遅くなるだけだ。馬車に乗って、戻るぞ。」
「あ……ぅ……」
そんな単純なことにも気付かないくらい動揺していたらしい。
後ろから伸びてきたストラの腕に抱きあげられて手を握られている。
血の気の引いた身体に暖かいストラの体温が滲んでくるようで……背中と包まれている手が暖かくなる。
それと同時にじわじわと押し寄せてくる恐怖で足に力が入らなくなったけれど、抱き上げられているので倒れることはなかった。
「おかあさまやおにいざまだちは……ぶじ……がなぁ……。」
鼻の奥がツンとしてきて、我慢してもこみ上げてくる涙。
さっきまでの凍ったような放心状態から解放されたら今度は涙と哀しみが押し寄せてくる。
「分からない。
分からないけど、急いで帰ろう。」
「う~……はい……ぐすっ……」
みっともなく声を上げることは無かったけれど、鼻をすすることは隠せなくて。
馬車に乗り込むと他のみんなは既に準備が出来ていたようですぐに走り出す。
伝令役の2人はこれから王都のお父様に知らせに行くらしいので別れる。
お父様は行かなければいけない仕事があると言っていたからきっとすぐには帰ってこれないのだろう。
馬車の中は静かで、ルナと私の鼻をすする音だけが響いていた。
風の力を使って通常の半分以下の時間で家に戻った時には夜中になっていて。
表玄関は普通だったのに、一歩入った中は瓦礫などが崩れたり、家具が壊れたりしていて普通だとは言えない状態となっていた。
そして
お母様とお兄様は顔に白い布を被せられて布団に横たわっていた。
ラルフお兄様は作者書いてて楽しかった人物です。
お母様もほわほわしてて好きでした。
しかし、フラグはいっぱいたっていたのです。
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