27.僕の可愛い巫女姫さま (sideユイ・ラルフ)
あれ? わたしに旨味あんまりない賭けにしちゃった……と止まってしまった一瞬のうちにストラは私の横から走り出してしまいました。
オークの手前で風を使って高くジャンプし、頭上から右手の剣を振り下ろして一匹を縦に切るとすぐに身体を捻り回転するように左右にいた二匹を両手の剣で横に真っ二つにしつつ優雅に着地する。
なんですかこの流れ作業のような早業。
いきなり3ポイント先取とかセコ……いと思ったら右側にいたオークはウォリアーじゃないですか! まさかの7ポイント先取!?
ちらっと一瞬こちらを振り返ったストラのドヤ顔にいらっときました。
負けじと右翼に走っていき、凍花を横に薙ぎます。
端から5匹をまとめて引っ掛けるつもりだったのですが右から4匹目には避けられてしまいました。
薙ぎ払いに成功して分裂(という名の真っ二つ)に成功した個体は全部ノーマルなオーク。
避けた個体はオークナイトでした。
豚のくせに大層な職業だこと。
止まるとすぐに周囲をすぐにオークで囲まれてストラとは引き離される。
流石上位個体のキャプテンが指揮してるだけあります。が、甘い。
「『周辺凍土』!」
周囲の空気が途端にキンッと冷たくなり、足元がピキピキと凍っていきます。
端からストラと一緒に行動するつもりのないわたしたちを引き離したとドヤ顔されても困りますね。
身動きの取れなくなったオークナイトや周りのオークは『グガ!?』とか『グオー!』とか唸ってますが知ったこっちゃないです。
身動きの取れないオーク達にむけて鎌を薙いで首をスポーンです。
さて、これでナイト1匹にオークが8匹だから13ポイントか……ストラもポイント増やしてるだろうからまだまだ頑張りますよー!
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「……Zzz」
「……」
「……」
「あの、ユイさま。」
「なんですか?」
「なにしてるんですか?」
「……見てわかるでしょ?」
「……はぁ、一応分かります……。いや、分かるのですがそうではなくてですね。
何故帰ってきたと思ったら微妙な表情をしたユイさまが笑顔で帰ってきた『ストラさんに膝枕』をしてるんですか?」
「……負けたからよ。」
そう、負けました。
あのあとも楽々と倒して順調にポイントを稼いでいたはずなのに……何故かナイトやウォリアーとか名持ちはストラの方にばかりいっていて……総合ポイントで負けました。
オーク1ポイントじゃなくてもう少し点数あげるべきだった……
キャプテンオーク倒したのはわたしなのに……。
「はぁ……? 負けって何ですか?」
「オークの種類毎にポイント分けして総合ポイントが高かった方が負けた人に言うことを聞かせられるって賭けをしたんですよ。
それで負けました。」
「はぁ、なるほど……。」
勝つつもりだったのに……特に何かやらせたいわけじゃなかったけど、勝つつもりだったのにぃっ!
「それで、ストラさんに膝枕を要求されたんですか。」
「そう『次魔物が出てくるまで、または次の宿泊地に着くまで』。」
「それは……魔物出てこないと相当長いですね……」
「長いんですよね……」
くそっ、幸せそうに寝てくれちゃって! 小憎たらしいです。
そして魔物は出てきませんでした。
足痺れて立てなくてストラに嬉々としてお姫様抱っこされて馬車から降ろされましたよ……
大層いい笑顔だったのでムカついて顔面にパンチしてしまいました。
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幾つかの町や村を通過して3日。
やっと辿り着いたリシュール領は相変わらず平和で、リシュール侯爵家に辿り着いたころには街の人たちに馬車の外から声をかけられて色んな物を貰ってしまいました。
どうもわたしがお米好きだという情報が出回っているらしくーーまぁ米の生産を領内でしだしたのはわたしの意見ですしーー大半がお米なので馬車には乗り切らず、途中からはお断りしてしまうくらいでした。
外面よく猫を被っているので冒険者やってることはバレてない、と思うんですけどね。
冒険者ルックで街中歩いてるとユイちゃんとしか言われないけど、ドレス着てるとユイリエールさまって言われるんですよね。
使い分けてるのかなーと思ったこともあったんですが、そんなことなさそう。
某セーラー戦士とかどうみても同一人物なのに気付かないのと同じやつかな。
まぁこんなに物もらうと思ってなかったけど、今日はちゃんとドレス着て来てよかった。
「おかえりなさい、ユイちゃん!」
馬車を降りるとまずはお母様が抱きしめてくれました。
半年でちょっと身長が伸びたので、丁度お母様の胸のあたりに顔がくるようで……苦しい……
おっぱい死しちゃう……
「母上、ユイちゃんが苦しそうなので離してあげてください!」
「ぷはっ……ありがとうございます、ラルフお兄様……圧死するかと思いました……
ユイリエールただいま帰りました。」
笑顔で全員お出迎えしてくれました。
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魔法適性が幼い頃から異常なほど高い妹のユイちゃん。
実はあのいけ好かない護衛と化してしまったストラは本来ならば僕につける予定だったらしいことを最近父上から聞いた。
ユイちゃんの魔法適性が高すぎる為に安全のことを考えて予定を変えたらしい。
Cランクになるのがもう少し遅かったら僕につけて他の護衛をユイちゃんのために雇うつもりだったみたいだけど。
その代わりに僕の護衛にはキズリがつくらしく、最近バトラーに稽古をつけてもらいつつ冒険者をやっている。
本来はキズリには護衛ではなく補佐をやってもらいたかったのだが……。
学院も好成績で卒業したし本人もそのつもりだったはずなのだが……最近はやる気満々で稽古をしてる。
何故かキズリにはすごく懐かれているんだよなぁ、不思議だ。
キズリがいない間は他に護衛を雇っているのだが、こいつがまた外面は良いがなにを考えてるか分からずあまり僕は好かないタイプだ。
もう今の状態でいいからキズリに護衛をしてくれないかと聞いたら『兄さんを護るには僕の近接戦闘技術は足りないからまだ無理。』と言われてしまった。
あれは遠回りにお前弱いんだから、と言われた気分で言葉がザックリ刺さった。
ユイちゃんが短時間でも帰ってくるのは本当に癒しだ……。
必要以上にストラと仲が良いのは本当に気に入らないが……。
この少女趣味がっ……
まぁそんな感じで今はまだかまだかとユイちゃんの帰宅を外で待っているところだ。
先ほどリシュールの街に入ったと先触れが来たからすぐだろうと思っていたのだが、思いの外遅い。
どうやらリシュール家の馬車をみた領民たちに捕まって米やら何やらを持たされているらしい。
相変わらず可愛いから人気なのだな。
うんうん、領民達の気持ちがよーく分かるぞ。
「ラルフシェイド様、まだ来ておられないですし……お見えになられてから迎えに出れば良いのではないでしょうか……」
「良い、いつ帰ってきてもいいようにこのまま待つ。
ユイちゃんが馬車から出てきた瞬間を見逃すようなことがあってはいけないからな。」
「はぁ……左様ですか……」
長年リシュール家に仕えてるものたちは僕のユイちゃん病を分かっているからこんなこと言わないのだけどな……。
むしろ約3年たつのだからこの男もわかっているはずなのだが……いつまでも言ってくるのはなんなんだ。
この護衛ライはストラとは別のタイプの野性味あふれる好青年という感じの美男子な護衛なのだが……笑顔も目が笑ってなくて嘘くさいし、こいつと二人で部屋で待っているのは精神的に疲れるから尚更外に出てユイちゃんと少しでも早く会いたい。
何度も募集をかけた中から厳選して選んだと言っていたが……どうも気にくわないんだよなぁ……。
顔が良いからだろうか……うん、そうかもしれない。顔がよくて強い奴はぼくの敵だからな。
少し待っていると馬車が来たとの報告があり母上や他の使用人も出てきた。
ようやく到着した馬車からはまずストラが出てきて中に向かって手を差し出す。
そしてその手を取りユイちゃんが出てきて最後にメイドのルナが出てきた。
馬車から降りたユイちゃんはふくらはぎくらいまでの長さをした外側は緑色の葉を模したような、中の方は白いふわりとした生地を使って外側との色合いで際立たせている。
そして腰には大きなリボンがついていて、その中心には花がついている。
彼女のお気に入りのドレスで『ピーターパンの世界へようこそー!』と言いながらこのドレスを着て楽しそうにくるくる回っていたのを見たことがある。本当に可愛かった。
そしてヒールのない履きやすそうなシンプルなパンプスを履いて笑顔で近づいてくる。
「おかえりなさい、ユイちゃん!」
母上が久しぶりに会えた喜びからかユイちゃんに抱きついたが、どう見ても息止まってるよな?
母上の胸はデカすぎとかいうわけではないが、圧死しそうなくらいはある。
「母上、ユイちゃんが苦しそうなので離してあげてください!」
「ぷはっ……ありがとうございます、ラルフお兄様……圧死するかと思いました……
ユイリエールただいま帰りました。」
息が上がっていて少し赤い顔をしながら笑顔で帰宅を告げるユイちゃんが可愛くって。
いつも通り『僕の天使!』とテンションが上がって抱き上げてぐるぐるしてしまったのは仕方ないだろう。
領内で大量にもらってきたお米は思っていたよりも多くて、我が家なのか、ユイちゃんなのかは分からないが領民に愛されているようで嬉しく思う。どちらもだとなお嬉しいな。
いずれは父上が退いて僕が継ぐことになるのだから、今のうちから僕も頑張らなければ。
ちなみに僕も視察の際はいろんなものをもらっているから問題ないはずだ……うん。
僕は次期当主として、アイラは宮廷魔法師として、キズリは護衛としてリシュール家を支えているが、ユイちゃんはまさかの料理屋と洋服屋で領内の経済を回している。
細かい資金などの管理は僕が代理としてやっているが、米の発見や米料理、斬新なファッションなどで人気のファッションブランドの案などはユイちゃんから出た。
今着ている僕たちの服装も全員分ユイちゃんがそれぞれのためにデザインを考えてくれたものだ。
なんでも父上、僕、キズリには『お父様たちは軍服を貴族風にしたやつでっ!』といっていて、母上には『ピンクをメインにした翡翠の石をあしらったドレス』、アイラは『青と水色のドレス』でしょ! と作ってくれた。
ちなみに不器用だから実際に縫ったり作ってもらうのはプロの人任せ、だそうだ。
僕としてはどんなに下手でもユイちゃんが作ってくれたものが着たいが、侯爵家として流石に一級品以外を着るのは外聞が悪くて許されないので我慢している。
ユイちゃんになんでそんなに色々知っているのか一度聞いてみたら困った顔で笑って誤魔化されたので、きっとあの子は神から与えられた知識を得た巫女のような存在なのだろうと勝手に思っている。
ユイちゃんが全種族の魔法を使えても僕は全く驚かない自信がある。
というか多分使えるんだろうなぁと勘だが確信を持って思っているくらいだ。
あんなに可愛くてなんでも出来ちゃう妹をもてるなんて、僕は運が良いなぁと思う。
しかしもう運は使い切ってしまったんじゃないだろうかと少し不安にもなるなぁ。
まぁ、ユイちゃんの加護があるから大丈夫だろうと謎の自信も持っているのはここだけの秘密なんだけどね。
次回は2/1です。
前回の血に飢えた獣と、今回のユイ視点のところ、の、sideストラです。




