23.近くなったり遠くなったり
演習場Aに戻ってくるとまだ全然終わっていないみたいで列になっている生徒と見学している生徒が半分くらいずついました。
「ぼくたちもあっちで見学しようか。」
わたしたちは別室で3人だったのですぐ終わりましたが、そりゃあ39人もいるんだからわたしたちの方が早く終わるのは当然ですよね。
眺めているとなるほどと納得。
3人しかいないのに半分の生徒が終わる時間もかかったのは何でだろうと思ったら、それぞれの魔法の威力も制御も大したものではないから飛散してしまったり、手前で爆発したりと案山子に届かなかったりしてるんですね。
だから案山子の自動修復が無くて、それにかかる時間の分早く次の人に回るんですね。
自分がチートなのは分かってますが、こんなに違うとは思ってなかったですね……。
普通の人は魔法学校に通うときはこんなもんなんですね……
アイラお姉さまやキズリお兄様はチートもらったわけじゃないのに……本当にチートなんですね……
魔法発言して少ししたくらいに制御に失敗して柵を壊したことがあるって聞いたことあるけど、我が家……柵っていうか塀ですからね……
まぁそんな感じで案山子をどうこうできなくて気落ちしてとぼとぼしてる人が結構いるんですねぇ。
仕草や髪の綺麗さで結構判断出来ちゃいますけど、魔法出来てないのは大抵貴族なんですよね。
だって平民はそんな程度の魔法の力でわざわざこの学園に入るほど、お金に余裕ないですからね。
奨学金制度はタダで通える制度ってわけじゃないですからねぇ
待ってる間に暇だったのでセイルたちと軽く話しつつ他の生徒に鑑定をかけまくる……
特にこれといった面白いものもなく、まだ時間もあまり暇だなーと思ってしまったので悪いなと思いつつもセイルやリュカのステータスを覗かせてもらうことにしました。
あ、ちなみにどうでもいい人たちは悪いなとは思わないです。
なんていっても、どうでもいい人たちですからね。
それにステータスを見てみればストラのときみたいに本人が把握していなかったものが発見できるかもしれないですしね!
あの時までストラ火魔法使えること知らなかったらしいんですよね。
秘密を明かす気はないので了承を得ることも出来ないのが残念ですが……。
ごめんね、でもこれは! っていうのがあったらなんとかして教えてあげるから許してくださいねっ……!
さてさて、ではまずセイルのステータスを。
セイルス・ハグアス(10)
種族 : 人族
冒険者ランク:-
適性: 水S
HP:1560/1560
MP:893/1285
STR:28
AGI:35
VIT:19
INT:26
DEX:15
LUK:35
スキル:-
称号:水の神の加護・騎士道・タラシ・変革者の友
おぉ、適性水は分かってましたが、まさかのSですか! すごい!
シングルで特待生になるだけありますね……!
ていうかセイル……称号にタラシってついてますよ……!
どんだけですか……『男女問わず他人を惹きこむ者に与えられる』……流石タラシの家系……?
でも今のところ女性メインに発動してる気がします……。
でも……変革者の友って、わたしのともだちってことですよね……うふふ、嬉しいですね。
『変革者とお互いに思い合って初めて与えられる』
うん、ちゃんとお互い思い合ってって書いてあるからわたしの一方通行な思いではないみたいです、よかった!
ステータスはこんなもんですかね。
年齢の割に少し高いくらいですかね。
DEX.VIT以外はクラスの誰よりも高そうですし。
では次はリュカです。
むふふ、リュカにも変革者の友あるといいんですけど!
リュカ???“??????????????(12)
種族 : ?????? ???????????????†
冒険者ランク: -
適性: 闇SS
HP:6851/6851
MP:3383/3540
STR:65
AGI:78
VIT:71
INT:53
DEX:29
LUK:25
スキル:????????????????・?? ?????????・??????????????
称号:闇神の???????・??????????? ??・?????????? ??の結晶・裏切りの子・変革者の友
え、な、なに?
リュカのステータスすごい文字化けしてる……? なにこれ……?
ーー『な、友達になったやつに猫の獣人がいるのか!?』ーー
初めてのことすぎて、怖いんですけど……なんかの隠蔽とか……?
人の鑑定なんてこの世界でできる人がいないと思われているのに?
ーー『しかも黒髪?! そ、その猫の獣人の瞳の色は金色じゃないかっ!?』ーー
いやでも闇魔法との相性が悪くてとか……そういうのかもしれないし……
ーー『猫の獣人だけど金色じゃなくて碧ですから! もうっ、なんなんですかっ!』
そうですよ、あの言い方なら金色の瞳に問題があるんでしょう? リュカの瞳は金色じゃないじゃないですか……
「ユイ? どうした? 気分でも悪いん?」
「あっ……な、なんでもない……です、大丈夫……。ちょっとボーッとしちゃって……」
「顔色悪いけどホンマに大丈夫? 具合悪いなら医務室行くか?」
わたしをこんなにも心配してくれるリュカを一瞬でも何かあるんじゃないかって警戒するなんてなんてバカなんだろう……。
昨日の様子のおかしかったストラがよぎったからです……うん、ストラのせいですね、間違いなく。
裏切りの子ってなんでしょう……他のは文字化けしてるから読めないけど……
『親が同種族に裏切り者と言われていると与えられる。』
……これはリュカには関係ないのについちゃってる称号じゃないですか……。
「……。」
「ふわぁぁっ!?」
いきなりの浮遊感に襲われたと思ったら無言で抱き上げられてリュカの腕の中にいました。
お姫様抱っこで。え、何事っ!?
「先生、ユイが具合悪そうやから医務室に連れていきますわ。」
「おぉ、そうか。
医務室は教室のある建物の1階にあるからすぐわかると思うぞ。よろしく頼むな。」
「えっ、えっ、大丈夫です!
具合悪くないです!」
「何言うてんの、さっきまで上の空やったし顔青白くて少し震えてたで。
今度は赤くなってる、熱でもあるんちゃうの。」
今赤くなってるのはリュカのせいですからね!?
わたしの抗議をシカトして出口に向かうリュカの身体から顔を覗かせて助けを求めると、生暖かい視線を向けて手を振るセイルとクラスメイトたちの姿が見えました。
あの場所にわたしの味方はいませんでした。
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「もう大丈夫だからおろしてください……」
「あかん、そう言うたからさっき降ろしたらフラついてたやないの。」
それは降りたタイミングでたまたま足を引っ掛けて転けそうになっただけなんですよっ……とは間抜けすぎて言えない……。
「……なぁユイ。なんでさっきから顔隠してんの?」
さっき降ろされてフラついてからまた抱き上げられ、それからはさっきよりも力が入ってるのか密着度があがって顔が……
「顔が……近いんです……恥ずかしいじゃないですか……絶対赤くなってるから見せられませんし……」
と言いつつなんかリュカだけ余裕そうでムカつきますね。
あれ、これわたしだけ恥ずかしそうにしてるから尚更恥ずかしいのでは?
よし、顔が赤いのはきっとしれっとしてればすぐ治りますよね!
と思って隠していた両手を外してしまえば顔を赤くしているリュカとバッチリと目があってしまいました。
ブルー◯ス、お前もか!
「さっきまで平気やったのに……ユイが可愛いこというからや……」
「「……」」
小さい声でボソッと言っても近いから聞こえてしまうのです。
ぅ、うぅー……
「あ、ほら、医務室ついたで! 失礼しまーす。」
「……ぅー……失礼します。」
顔をパタパタと手で扇ぎながらリュカに抱かれたまま医務室の中に入ると白衣のようなものを着た眼鏡の男性が中にいました。
うん? なんかどこかで見覚えがあるような?
「おや、どうしたんですか?
顔が赤いけれど……それは……君もだから違うかな、この抱きかかえられた体制が恥ずかしいのかな?
とりあえず名残惜しいかもしれないけれど、そこの椅子に下ろしてあげてくれるかな?」
「あ、はい……。」
医務室の先生らしき男性の前の丸椅子に下されてやっとリュカから離れられたので一安心で息をつけるようになりました。
「さてさて、診察の前にまずは自己紹介ね。
名前も知らない男になんて診察されたくないだろうしね。
僕はこの医務室の担当をしている、王宮から派遣された医務官のナキア・クリーアだよ。
先生ではないからぜひ名前で呼んで欲しいな。」
クリーア?
「クリーアって副担任の先生も同じ名前やなかった? そういえば顔似てはるけど、兄妹とかですか?」
あぁ、なるほど、そういえば副担任の先生がそんな名前でしたね!
だから見覚えあったんですねー。
「あぁ、じゃあ君たちは1-Aの生徒なんだね。
僕はマキアの双子の兄で、似てるってよく言われるんだよね〜。」
なんとこんな身近に双子が。
しかもお兄様たちと同じで兄妹ですね。なんか勝手に親近感。
あ、でもお兄様たちは違うけどどうもこちらは一卵性っぽいですね、とっても似てます。
男女の一卵性の双子って珍しいんでしたっけ?
「そういう君たちのお名前聞いてもいいかなー?」
「あ、名乗らないですいません。
わたしはユイリエール・リシュールです。」
「リュカです。」
「リュカくんとユイリエールちゃんねー。
リシュールってことはー、アイラちゃんの妹でストラくんの護衛対象ちゃんかなー?」
「あ、そうです。
お姉さまとストラのこと知ってるのですか?」
「うん、二人とも同級生だったからー。
彼とキリュウ殿下はよく目立ってたしねぇ。
それにアイラちゃんも色んなもの破壊したりして破壊の女神とか暴走乙女とか呼ばれてたくらいでとても目立ってたよー。」
待ってください、アイラお姉さまそんな恥ずかしい二つ名がいくつも。
確かに喋らなければ……いや動かなければ? ……喋らないで動かなければ綺麗な人ですから女神ってついてもいいのかもしれないですけどね……。
「といっても学生の間は皆あんまり接点無かったみたいだけどね。
ストラくんは騎士爵のお家だからか関わりたく無かったみたいだし、アイラちゃんはキリュウ殿下に関わりたくなかったみたいだしで近くにいたストラくんにも近づかなかったからねぇー。
僕は……どっちかというとアイラちゃんに振り回されてたかなぁー……。」
あ、ナキア医務官が遠い目してるっ……
お姉さまと関わった他の人たちと同じ顔してますっ
「な、なんかお姉さまがごめんなさい……。」
「いやいやーあれはあれで良い思い出だったよー。
……さて、今日はどうしたのかなー? 今の時間だと演習場から来た感じかな?
でも見たところ怪我とかはしてないみたいだけど……」
「あ、なんともないんですけど、リュカが……」
「なんともなくないわボケェ。
さっき顔青白かったから連れてきたんやけど、今は……まぁ確かになんとも無さそうに見えるな。」
「ふーむ、診察してみようかな?
ちょっとだけ風吹くけど怖くないからねー『風診』」
ナキア医務官が魔法を使ったと思ったら身体の周りを風が包み込むようにクルクルまわっています。
鼻から息を吸うときに一緒に入ってくる風は、医務室の消毒液の匂いと共に花の匂いのような柔らかい香りがします。
風診って言ったし風で診察? 魔法で検査とかすごくね?
とか考えていると身体にまとわりついていた風が収まり、目をつむっていたナキア医務官が目を開けました。
「特に問題は無さそうだねぇー。
吐き気とかも無さそうだし、大丈夫そう。
でも一応念のために少しだけ寝ていく?
あと30分もしたらご飯の時間だろうからそれまで目を瞑るだけでもいいから横になってるといいよー。
ご飯食べないのはもっと良くないからそれまでね。
あ、今の魔法が詠唱一言だったから気になるのかな?
皆初めてのときは詠唱全然してない!って顔するんだよねー。
でも残念ながらこの魔法といくつかの普段使う診察魔法だけなんだよねー。
使ってくうちに長く詠唱しなくてもいけるようになったんだよー。
君たちも得意な魔法はすぐに長いのなんていらなくなるよ。」
ごめんなさい、詠唱なんて既に、というか最初から一言なんです。
あ、リュカそんな目で見ないでっ……
「うーん、リュカくんは……ここにいるってことは魔力測定はもう終わってるんだよねー。
じゃあ君もあと30分だしここでお茶していくといいよー。
よければ僕の暇つぶしに付き合っておくれ。
良いことではあるのだけれど、医務官は暇なお仕事だからね。」
授業が終わるまでの30分間、楽しそうに話すリュカとナキア医務官から少し離れたところに設置されている、綺麗に整えられた医務室のベッドに寝かされています。
いやぁでも、昨日のリュカが嘘みたいに今日のリュカは楽しそうでよかったです。
うーん、寝転がるとどうしても考え事してしまいますね……リュカのあのステータスはなんだったんでしょう……ね。
彼のことを少し知れたと思ったらもっと遠くなってしまったように思えてしまいます。
考え事をしていたのは1分なのか、10分なのか……気付いたら微睡んできて、わたしは寝てしまっていたようです。
先週の活動報告にも書きましたがナキア先生のセリフを書きながら気付いたこと。
「あれ?アイラお姉さまとストラって同じ学年だったんじゃ?」
めちゃくちゃ驚きました。
ストラの2歳下で特待生って同じ学年になりますよね。
ぶひぃ……ストラとアイラちゃんが知り合いだったとは、作者びっくりだよ……。
ラルフお兄様と2歳差っていうのは違和感ないんですけど、アイラお姉さまとは少し違和感あるんですよね。
本編にでてくるラルフお兄様が情けないからですかね。
アイラお姉さまは暴走機関車ですけどね。
次回の更新はクリスマスネタです。
25日の0時投稿になりますー。
さてさて、ユイちゃんはどんなクリスマスを過ごすのでしょうか?




