22.闇より創造
「うし、到着だ。最後にここ、演習場Aで魔力検査をする。
あっちに案山子があるだろ?
そこにそれぞれ得意な魔法を当てるだけだから簡単だ。
魔力枯渇で倒れない程度に本気でやれよー。
で、特待生二人とリュカ、お前らは別室の演習場Cだ。
俺が別室組に行ってる間は、副担任のマキア・クリーア先生が演習場Aの担当してくれるからなー。」
「Aクラス副担任になりましたマキア・クリーアです。
適性魔法は地と樹木になります。基本的にはダン先生のサポートになりますが三年間よろしくお願いしますね。」
副担任の先生いたんですね。
昨日いなかったからてっきりいないのだと思ってました。
黄緑色した髪の毛を後ろで一つの三つ編みにした大人しそうなメガネのオネーさんですか……。
白いシャツをキッチリ着て足首までの紺のスカートなんて、着ている服も雰囲気も司書さんっぽいです。
おっぱい大っきくてストラが好きそうな感じですね。
「特待生二人は威力が他の人間と違うだろうから、リュカは、騒ぎにならないように別室だ。ほら、演習場Cに行くぞ。
あー、ところでな、リュカはどんな魔法が出来る? 俺は闇魔法使いってのは初めて見るからさっぱり分からないんだ。本で少し調べたんだがあまり載ってなくてな。すまないな。」
なるほど。
たしかにセイルはシングルの特待生だから威力とか他の人と違うんだろうなぁ。
わたしは……どうなんでしょう……ステータス結構高いからきっと威力あるんだろうとは思うんですけどねぇ……。
リュカの使える闇魔法は確かに滅多にいないから文献に少しだけ残っている程度しかわたしは知らないんですよね。
魔族には使える人がいっぱいいるって聞いてますけど、魔族は人とは相容れない存在らしいし……
なんでたまに人間を襲ってくるんでしょう?
今はうんともすんともいわないらしいですけど謎ですね……
「えっと……俺は……」
チラッと他の生徒たちを見たあとにわたしの方を見て尻尾をしょげさせるリュカ。
「あーうん、じゃあとりあえず先に移動するか。
じゃあクリーア先生そちらはよろしくお願いしますね。」
どうするかの確認をしている先生たちを横目にしょげているリュカに話しかけます。
「ねぇ、リュカ。わたしもセイルもリュカがどんな魔法使えたって気持ち悪いなんて言わないし友達やめたりなんてしないよ?
他の人がなんていったとしてもわたしはずっと変わらないからね。」
「そうだよ、ぼくもユイと同じ気持ちだよ。
リュカはユイだけいたらいいかもしれないけど? クスッ」
「ばっ……! 違っ……うぅ……ありがとう……」
かはっ! 照れたリュカの赤くなった顔と感情表現豊かなその尻尾!
可愛すぎます……!
今ストラと二人か、一人の状態だったらゴロゴロと転げ回りたいくらいですっ……
「ぼく昨日の今日しか一緒にいないけれど顔見ただけでユイの考えがよくわかるよ……。
気持ちは分からんでもないけれどニヤニヤしちゃって……ここまで分かりやすい貴族っていないんじゃないかなぁ……」
「おうっふ……見なかったことに、気付かなかったことにして下さいセイル様ぁ……」
「リュカも大概分かりやすいけどな。さて、もういいか? 行くぞ。」
やれやれといった様子の先生とセイル、そして顔が赤いままのリュカとそんなリュカを見てニヤニヤ悶えてるわたし
なにこれ超あやしいですね。主にわたしのせいで。
移動したのはさっきまでいた演習場の半分くらいのサイズの部屋。
「お前たちはここだ。
ここは特待生や魔法の強い人間とかの使う演習場だな。
あちらとの違いは結界の密度だ。
部屋に入って扉を閉めるとすぐ作動するようになっている結界で、さっきまでの部屋よりも結界が厚くなっているから安心して使ってくれ。
特にリシュールは流石カイザント殿の子供なだけあるという魔法能力だそうだからな。
王宮の方からも規格外だと思えと注意を促されているんだよな。
姉のアイラも何度も他の生徒と喧嘩をして色んな所を破壊しているからな……。
後にも先にもあの学年の生徒たちみたいに危ないやつらはもう出てこないだろうが……お前らも気をつけてくれな。」
なんと、ダン先生はお姉さまのときも先生やっていたんですね。
ってことはストラのことも知っているのかな?
アイラお姉さまは……まぁ、爆弾のような人ですからね……。
なんか『ちょっと最近お仕事にオシャレしていってるのよね、怪しいわ……ウフフ』とお母様が言っていたので、恋をしているのならあの爆弾っぷりは少しは抑えられるのでしょうかね……。
……いや、希望的観測すぎますかね……。
「俺の! 使える魔法は……
……闇魔法といえばというほど有名な精神干渉……が一番得意や……。
あとは重力操作したりとか、……触れると痺れる黒い霧をだしたり……幻覚みせたりとか……亜空間に武器や魔法いれて不意打ちとか……あまり気分的にええものはないんやけど……。」
おおぉ、思ってた以上に闇魔法えげつないですね! これは忌避されちゃうのも仕方ないのかもなぁ~……。
でも使う人次第なのにリュカがこんなに悲しい顔するのは……
そう思ったら居ても立っても居られなくて、リュカの顔に手を添えて俯かせてる顔を上向かせてしまいました。
「なっ!? なにっを……」
「ねぇリュカ。
わたしは別にその魔法が悪いとは思わないですよ。
お兄様が、お父様から聞いたって話を昔教えてくれたことがあるんです。
『精神干渉の魔法は使い方を間違えなければ政治的にも役に立つ』って。
例えばですよ?
王様暗殺しようとした人を捕まえたとして、その人をどれだけ尋問しても口を割らなくても、きっと精神干渉してしまえば喋ってしまうと思うんです。
これは悪いことじゃないです、むしろ良いことだと思いませんか?
王様暗殺犯から主謀者までわかるんですよ?
それに痺れる霧だってそれで死ぬわけじゃないです。
動かなくするだけ、と思えばただの攻撃魔法よりも全然いい魔法です。
亜空間にもの入れられるのだって、つまりがそこに何かを入れておけば荷物減らせるじゃないですか!
冒険者にとって最高の魔法ですよ?
使い方次第でどんな魔法だって善にも悪にもなるって、わたしの護衛は色々教えてくれるんですけど……今はわたしを『守るために』魔法や剣を使うって言ってました。
その人が得意な風魔法だって、鋭くすれば人を細切れにできます。
普段はそうやって魔物狩りをしてますけど、それだって人に向けたら最悪な武器になると思うんです。
どんな魔法も使う人の心次第だと思うのですよ。
だからね、リュカもそんなに悲しそうな顔をしないでせっかく他の人が使えないのに自分は使える魔法をむしろ自慢してください。
誰かに何かを言われて悲しかったらわたしが愚痴を聞きます!
わたしだって普通じゃないんですよ?
ほら、見てくださいこの石、他の人と違ってダイヤモンドです。
だから闇魔法を使えるリュカも、シングルなのに特待生になれちゃうセイルも、ダイヤモンドを着けれるほどいっぱい魔法が使えるわたしも
人と違って特別なんですよ。」
語ってしまいましたが、呆けた顔のリュカに笑顔を見せて安心させれば少し目をウルっとさせつつもはにかんでくれました。
横に視線をずらすとセイルが苦笑いしていますが、何故。
「ふむ、そうだな。
流石はカイザント殿、博識だな。
今はいないが過去闇魔法使いがいた時は確かにそのような使い方もしていたようだな。
ふむ、リュカは直接案山子を壊せるような攻撃性のある魔法は使えないのか?」
「案山子を壊せるような魔法か……。
実はあまり魔法を練るのが得意ではなくて……資料もあまりないからさっき言った魔法も精神干渉以外はほとんど上手く出来ないんで……。」
ふむ、重力操作が出来るのならグラ◯デみたいな魔法出来ないんですかね……?
「ねぇリュカ?
重力を圧縮させて案山子を潰すような感じに出来ないですか?
こう、空気を圧縮させてぺちょって。」
「重力を圧縮……ちーとばかしやってみるわ。
俺からでええですか?」
「あぁ、順番はリュカ、ハグアス、リシュールのつもりだったから何も問題ないぞ。」
案山子を見て魔法を練り始めるリュカは、確かに魔力を操るのがあまり上手くないらしく時間がかかっています。
何かぶつぶつ詠唱しているのは聞こえるのですが、本当に小さい声なので全く聞き取れません。
まぁ詠唱は自分の分かりやすい、イメージしやすい詠唱がいいですからね。
短くてもイメージ出来ていなければ意味がないですし、長くても問題はないです。
実戦だと敵さんは待ってくれないから短い方が安全ですけどね。
わたしも日本語で詠唱しますしね。
イメージしやすいんですよね。
お、やっと詠唱おわったかな? と思った次の瞬間には案山子の頭上に黒い球体が現れて案山子が吸い込まれていきました。
見ているとふっと消えた黒い球体のあった場所から案山子だった残骸がバラバラと落ちてきました。
「おおおぉー!? 凄いです!
わたしが思ってたよりも流血沙汰にならなそうじゃないですか!
魔法さえとかなければ殺害痕跡すら残さずに殺人もいけますね!」
「「「…………」」」
「うん? なんでみんな黙るんですか?」
「えっと、ユイ? 今のは褒めてたのかい?」
ほぇ? どう聞いても褒めてたよね? と思いつつ首をかしげると皆なんとも言えない顔をしつつ頷いてました。
「なんていうか複雑なんやけど……。ありがとう、一応褒めてくれたんよね。
ユイのお陰で今まで出来なかった攻撃魔法が使えるようになりよったし自信がついた。
これで俺も守るための力がちびっとはついたと思ってええのかな……。」
「大丈夫です、出来てますよ!」
はにかんだ笑顔で問いかけてくるリュカに笑顔で頷き返せば照れたように笑ってくれて。
なんかこっちまで照れちゃいます。
「あー、二人の世界邪魔してごめんね?
次僕もやっていいかな?」
「あ、うん、どうぞ! セイルの魔法も楽しみですね。
シングルの特待生とかいると思ってなかったのでドキドキしますよー。」
「……リュカ……君、全く意識されてないみたいだよ……?」
「……なんとなくそんな気はしてたわ……。」
「どうしたんですか?」
「「いや、なんでも。」」
変なのと思いつつセイルが準備するのを見つめていると、目を閉じて深呼吸していたセイルの目と口が力強く開いて
「水神様、目の前の対象を破壊する力をぼくに貸してください……『Sea serpent scale』!」
ふわっと空気が浮いたと思った次の瞬間セイルの周りの空気が湿っていき水が発生して、蛇のようなうねっとした水の塊が発生した。
そしてその蛇の塊から鱗のような形をした水が剥がれていき案山子を切り刻んでいく。
案山子に当たらず壁の結界に当たった鱗は結界に傷をつけては修復されていく。
残ったのは細かく刻まれた湿っている案山子の残骸と、水浸しの周辺。
そして肩で息をするセイル。
シーサーペントスケイル……海蛇の鱗、ですか。
まさか英語を今更聞くことになるとは思わなかったですね。
なんで英語なんだろう。
シェルハザードの言語じゃないからどっかの言語は英語なのですかね……?
異世界人がもたらしたのかな?
え? スケイルがなんだか分からなかったから調べてなんて、いませんよ?
ゴーグル先生機能便利だなーなんて思ってませんよ?
えぇ、見ただけで分かりますからね。
鱗です、鱗。
「凄いです! セイルカッコいいです!
蛇みたいなのが出てきたからそれが突進していくのかと思ったら鱗が剥がれて風の刃みたいに切り刻んでいってましたよ!」
「なんや俺の時と反応がまるっきしちゃうんやけど……」
なんかリュカがぶつぶつ言ってる横で先生が苦笑してますけど何言ってるか聞こえないので気にしなくていいですかね。
それよりも今はセイルです。
「あは、は……ちょっとフラフラするねぇ。
やりすぎちゃったかもしれない……。
可愛いユイに良いところ見せたくて派手な魔法選んじゃったからね……実力以上の魔法でちょっと今のぼくには無理があったみたい……フラフラするよー……」
「もーこんな時までタラシじゃなくても!
先生とリュカに介抱してもらってくださいねー。
次はわたしがやりますよー!」
「なんややる気満々やね。」
「わたしも出来る女なことを証明しますからね!」
鼻息荒く意気込むわたしを苦笑しながら全員見てるので少し照れくさいですね。
何にしましょうか。
得意なのは氷の鎌を出して切ることですが、あれだと魔法というよりも物理攻撃みたいなものですもんね。
やっぱり派手な魔法がいいですよねー。
「よーし、じゃあユイリエール、次やります!」
「『焔華爆撃』」
睡蓮を助けた時のように案山子の頭上に焔の華を咲かせます。
今回はあの時から改良していったので頭上だけではなく身体の至る所に無数の華の蕾をつけて一斉に咲かせて数秒後に爆発させます。
華が開いたと思った瞬間には凄まじい爆風と熱が周囲に広がっていきます。
案山子は目の前の壊そうとしていたやつは欠片すら残らず燃え尽き、それ以外の横に並んでいた近いものは燃え尽き遠いものは辛うじて残っている程度。
室内でやったことがなかったのです。と言い訳がしたい。
今まではフィールド上での魔法使用しかしたことがなかったので威力はあまり気にしていなかったのですが、ここは室内。
しかも案山子の位置は結構壁際にあります。
そりゃあそんな所で勢いよく焔が爆発したらこうなりますよね……。
「ふぁ……えっと……大丈夫、ですか?」
恐る恐る後ろを振り向けば、爆発を予想したのか、お姉さまのことを知っている賜物なのかリュカとセイルを爆風から庇い色んなところが爆風で焦げて服が千切れそうな背中のダン先生の姿と髪の毛や洋服に軽く煤をつけながら、呆然と消し炭すら残らなかった案山子の方を見ているリュカとセイルの姿がありました。
わたしは身体の周りに風のバリアを張っていたので全くの無事なのですが。
いえいえ、これは自分だけ咄嗟に守ったとかではなく、無意識下で常に魔法を使う時は使ってただけです。
前に爆発して吹っ飛んで川に落ちたことあったので……。
「……お前ら大丈夫か?
……いや、うん、これで一番得意なのは氷結って言ってるのか……うん、とりあえず君たち3人の実力はわかった。」
はっ!? 氷結が一番得意って言ってたの忘れてたっ!
「実は俺たち教師にもリシュールのことは規格外としか聞かされていなかったのだが……なるほど。
既にリシュールに教えれることは何もなさそうだな……さすが魔導士殿の御娘ってところだろうか……。
おーい、お前らそろそろ復活しろー。
リシュール家は普通じゃないからな、これから三年間同じクラスだぞー慣れろー。」
「はっ……!? いや、ユイすごいね! 盛大に爆発したけどその前は炎の花が咲いたようでとっても綺麗だったよ!
ちょっと爆発が凄すぎたけど……」
「ユイ凄いなぁ。
俺も追いつけるように、いやむしろ追い越せるように頑張るわぁ。
爆発はちょっとやりすぎやったけどな……」
ふぇっ……苦笑しつつも優しい笑顔でリュカが頭に手を乗せて撫でてきました。
なんかお兄ちゃんみたいです。
前世の兄みたいでも、今世のお兄様みたいでもなく二次元でいそうな……
しかも頭の上ではピコピコと猫耳が!
お尻にはふぁさふぁさと猫の尻尾がっ!
一粒で何度も美味しいリュカ……
「破壊されたところもとりあえずはなさそうだし、修復依頼も出さなくて良さそうだな……。
俺の服は着替えなきゃいけないけどな……。
よーし、それじゃあそろそろ戻るかー。
結界を一度解くからなー……って……うぉー、まじか……」
「? どうしたんですか?」
扉の横に設置してあった球体の結界用の魔導具を見て固まる先生を横から覗くと
「結界の魔導具が壊れた。
多分……リシュールの魔法の衝撃で壊れたな。ほら、ここ。」
そういって先生が指さした先には盛大にヒビが入って割れている魔導具が一つ。
「わ、わたしのせいとは限らないんじゃー……ないかなー、なんて……」
「さっき演習場に入ったときには作動していたし、リュカの魔法は案山子以外は周辺のものすら引き込まれなかったから範囲が狭いことは見て分かった。
ハグアスの魔法はたしかに周りにも散っていたがそこまで広範囲じゃなかったからこの魔導具には届いていないし、なによりも結界に傷をつけてはいたがすぐに修復されていた。
つまりあの時は結界は機能していた。
そしてその後はリシュール以外魔法を使っていない。
よってこの魔導具はお前の魔法で壊れたと思われる。」
「うぐっ……否定出来る材料が何もないっ……」
「はぁ……なんなんだ姉妹で魔導具壊すのが好きなのか……。
結局修復依頼か……。」
あ、先生が崩れ落ちました。
お姉様も、壊したんですね。
リュカくんは悪くないよ!普通の良い子だよ!なんてったってユイちゃんの魔法の方が凶悪だからね!!
22話を書き終わった作者はそう言いたくなりました。
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