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転生したってわたしはわたし。  作者: なの
学園編に入ってもいいですよね?
24/60

20.金の瞳 - side ストラ -



 ユイが学園に行ってる間に何をするか悩んだが、今日は午前だけで終わるはずだから近場をうろうろするか。


 とりあえず暇つぶしに普段見れない買い物をして行こうと街をうろつくことにする。


 その前に朝が弱くてユイが行くときには起きてなかった今はいないスイレンを迎えに行くことにしよう。





 三年前にユイの契約獣となったスイレンは、今やすっかりリシュール家のマスコットとして定着した。


 連れ帰ってすぐはプラチナブロンドの毛並みやあまり馴染みのない狐の姿に遠巻きにされていたのだが、ユイに懐いていたことや、敵意などもなく可愛らしい毛の塊に1人、また1人と陥落していった。


 そんな狐もどきの首には鈴のついた赤い首輪がついている。


 しかもその首輪は俺の一年分の護衛給料を払っても買えないほど高い。

 奥様とアイラ様が特注で作らせたありえないくらい高い首輪だ……。


 なんだよあれ、宝石つきすぎだろう。

 あれ買うなら俺の給料増やして欲しいくらいだよ……。






 ちなみに虹色スライムだということは3年たっても周りにバレていない。


 カイザント様を除いて。


 というのも3年前のユイの結婚宣言のあと、夜中に呼び出されて色々なことの情報共有をしたからだ。

 決して幼女趣味とかのお説教ではない。


 彼女は昔から破天荒で、1歳のころには魔法を使いベットを脱走しては周りを困らせていたらしい。

 しかも樹木魔法を出したまま寝てしまい脱走が見つかったそうなのだが、ベットの付近には微かに氷結魔法や火魔法の痕跡があったらしい。

 (通常の魔法の適性はないのに何故痕跡はその属性の反応があるのかが疑問だがそういうものなのだろう)


「何故か本人が隠していたからそのままにしたが、今思うと自分が普通ではないとなんとなく分かっていたのだろう……」とカイザント様は心配そうに言っていたが……

 なんとなくではなく、普通におかしい奴って自覚してるみたいですよとは流石に言えなかったわ……。


 あとはホビットの結界通過の話も当主様視点で聞いたし、その他色々本人コッソリのつもりが大抵ばれていたんだよな。


 そんな色々気付いていた現代唯一の魔導士様に、スイレンの契約印が見つからないわけがなく。


 えぇえぇ、俺が問いただされましたとも。


 もちろん転生者ということは言えないので秘密にしたが、自分が異端であると思っていることーーやっと言えたーー、魔法は常識外のことが出来ること、冒険者登録をしたこと、そしてスイレンという名をつけた虹色スライムと契約したこと。

 といっても冒険者登録の話しはぽろっと自分で言ってたけどな。


「……そうか、やはり使役契約か……。

 しかも滅多にお目にかかることのできない虹色スライムときたか……。

 天才魔導士と世間一般に言われて持て囃されている自分と比べても……色々と思うところがあるというか……あの子は同じ秤で計ってはいけないんだな……。」


「ユイお嬢様は別物かと。

 冒険者登録の際に突っかかってきたDランク冒険者も嬉々として煽ったうえに圧倒していましたし。」


「あぁ、グリード・ロウだったか……。ロウ家前当主の長男だな。


 勘当されて尚家名を名乗るのも問題だが、素行に問題がありすぎるな……。

 ロウ家は現当主……グリードの弟も、前当主も素晴らしい人格者なのだが……。

 その辺はジークギルド長にどうにかしろと言っておこう。


 とりあえず実家に迷惑だからロウと名乗るのだけはやめさせるように徹底しておこう。


 で……ユイに怪我は本当にないのか?」


「えぇ、全くありませんね。

 相手の技は何もかすりもしてませんから。


 むしろ煽りたいだけ煽ってアッサリと蹂躙してましたよ。

『微笑みの断罪者』って二つ名ついてましたし。」


「『微笑みの断罪者』か。


 氷の鎌か……いつか見てみたいものだな。

 私も学園に通ってる間にはやんちゃをしたからな、その頃には二つ名がついてはいたが……まさか学園に通う前についてしまうとはな……。


 それにしてもユイは……ストラのことを信頼したようだな。

 アンジェリカをつけた時はもっと人見知りをしていて、こんな数日で信頼はしていなかったのだがな……。

 ふむ、ラルフが嫉妬してしまうのも分かるな。


 ……大変だろうが、ユイのことを頼む。

 あの子のその異常なまでの才能が冒険者や学園と世間に広がるほど、これからもっと危険が迫ってくると思う……。


 何かあったらすぐ言ってくれ。

 ユイと、もちろんストラの助けになるように私も動こう。リシュール家当主としても、魔導士としても。


 使役契約についてももっと調べておくし、王にもしっかりと報告をして気にかけてもらえるようにしておこう。」





------------------------------------





 なんて。

 色々バレすぎだよな、あのお嬢様は。

 詰めが甘いというかなんていうか。


 カイザント様とのあの情報共有交換会はユイ本人は知らない。



「キュイー」


「ストラさんおかえりなさいませ! ユイさまは無事学校までいけましたか?」


 そういって迎え入れてくれたのは頭の上にスイレンを乗せたルナだ。


 三年前から家族と共にリシュール家のメイドになった可愛らしい女の子だ。

 来た当時は兄のディダもルナもユイと違って子供らしくて可愛かったんだが……成長したディダは全く可愛くなくなった。


 なぜかというと、侯爵家の執事らしくそれはもうご立派に育ってしまって口煩いからだ。

 たった3年であそこまでになったということは才能があったのだろう。

 ラルフ様が気に入って使っているから彼が当主を継いだ際には執事頭はディダが指名されるのだろうな。

 現執事頭が嬉々として叩き込んでいたからな。

 獣人ではあるが2年後には青龍院に通わせると言っていたな。

 あそこは他に比べて人種差別が多いから少し心配だが……。


 ディダのあの口煩いのはどうにかならないだろうか……執事頭と喋ってる気分になる。

 学院通っても衝突しそうだよな、あんだけ煩いと。

 色々学んだ彼は騎士爵がなんたるかを学んだらしく、俺や親父は護衛騎士としてなっていないと口を酸っぱくして言ってくる。


 まぁ俺も親父も聞く耳持たずというか、護衛対象者達が気にしないもんだからなにも変わっていないのだが。




「あぁ、中までは許可を取らないと入れないから入り口までだが送ってきた。

 そのあとどうなったかは分からないが、まぁ人波に付いていくだけだから流石に大丈夫だろう。


 むしろ帰りが心配なくらいだな。


 スイレンも起きてることだし連れてって迎えついでに買い物でもしてくるけど、何か欲しいのあるか?」



「えっと……じゃあ最初に来たときに買っていただいたお菓子を……また食べたいなぁと……」


「了解。」


 ほらな、遠慮がちに菓子を強請ってはにかむとか、ルナは可愛いんだよな。思わず頭を撫でてしまう。

 思わず口元が綻ぶくらい可愛らしい年齢通りの子供だな。

 最初に出会ったときは可愛かったのになぁ……ディダよ、ルナを見習え。





 -------------------------------------




「キュッ」


 頭の上に乗って屋台で買ったプチボアの肉を齧っていたスイレンが後ろを向く。


 やめろ、お前が動いたり振り向いたりすると俺の頭の上に肉汁が!


 香辛料のよく効いたプチボアの串焼きは150ベルとは思えないほどとても美味いのだが、脂と肉汁が多い。

 俺の上でそんな肉を口いっぱいに頬張り、入らない分を器用に肉球で掴み頭に汁が垂れないように上手いこと持っていたのにいきなりなんなんだよ。

 一瞬で台無しだわ。

 お前のさっきまでの頑張りが無に帰ったんだぞ!


 と、俺も肉を齧りながら心の中で憤っていたらスイレンの見ていた方向、視界の端の方……人に気付かれないような位置に見覚えのある白いヒラヒラしたものが浮遊している。


「あれは……ユイのシキガミ?」


「キュッ!」


 まさかの脂でベタベタの手を気にせず、俺の肩を踏み台にし飛び降りてシキガミの方に走っていくスイレンを俺は怒っても良いのではないだろうか。


 ため息をついて髪や肩についた脂を手拭いで拭き取りながらシキガミを追いかける。

 拭ってもベタベタする……。


 人通りがない裏路地に入ったあたりでシキガミの伝言が再生され、ユイの声のような違うような……感情を感じさせないような声が再生される。

 いつも思うが何故本人の声のままじゃないのだろうか、謎だ。


「『あー、大変です学園内? で迷いました。

 えーっと、なんかわたしの身長よりもでかい岩もある岩岩しい森の中にいます。

 他にもその岩が砕けたかな? みたいな大小様々な石もあります。

 王宮も少し見えますがほぼ木で見えないです。

 あとは川の音がどこかから聞こえますが見える範囲にはないです。

 ここは迷いの森ですか、そうですか。

 助けてください、ストラ~……』

 イジョウ デ シュウリョウ デス。」



 毎回全て伝えると聞き返しは許されずすぐに消えてしまうからあまり長く入れるなと言っているのに……相変わらず長い。


 とりあえず迷ったらしいことはわかった。

 あんだけ案内してもらえと言ったのに何故だ。


 まぁ今回必要な情報は二つだけだったからな……

 迷ったということと、でかい岩や砕けた色んなサイズの岩がいっぱいある森の中。

 そんな場所学園の敷地内にそんなに多くない。

 というか、心当たりは一箇所だからすぐに行くか。






「あー、すいません、学園の敷地内立ち入り許可証もらいにきました。」


「はいはい許可証なーって、お前は殿下とよく一緒にいた悪ガキじゃねーか。

 えーっと……ストラったっけか。


 許可証取得目的はなんだ? 殿下と壊した施設の支払いまだあんのか?」


「げっ……俺の時もいた守衛のにーちゃんじゃねーか……いや……もうオッさんだな……」


「うるせぇ、あれから何年経ったと思ってやがる。お前が年取れば俺も同じだけ年取るんだよ。

 ……昔から美形だったが……ムカつくくらい更に美形になってるな、お前。」


 まさか6年も前と同じ人間が守衛をしているとは思ってもいなかったな……当時はキリと2人で色んな騒動起こしてたからなぁ……主にキリが。

 断じて俺ではない。

 そもそも普通なら支払い義務なんてないのに、そういう範囲を超える破壊をするからいけないんだよ……。


「支払いはほぼキリュウ殿下分だったんで俺はゆっくり払って2年ほどで完済しています。

 といっても殿下は金額がでかかろうがすぐ用意してましたけどね……。


 今日は、というかこれから何回もあると思うのですが、今日入学した一年の特待生『ユイリエール・リシュール侯爵令嬢』が大変な方向音痴でして……

 探しに行こうと思うので立ち入り許可を頂きたい。」


「ユイリエール・リシュール侯爵令嬢……リシュール侯爵の末娘か。

 あぁ、それなら侯爵様から直々に学園に手紙を頂いたから俺ら門番や衛兵たちも聞いている。

 そうか、お前リシュール騎士爵のハイエル家だったか。


 定期的に来る人間に渡している許可証を渡して良いとのことだから渡しておこう。

 魔力をこの水晶に入れてくれ。


 …っと、よし、じゃあこれが年間許可証だ。

 有効なのは次の入学式前日までだから約1年間だ。

 その間に迎えがお前じゃなくなったら分かってるとは思うがそのまま引き継がずここに返して新しくそいつが登録してくれ。

 1年経過してさらに続ける場合は更新を忘れるなよ。


 通る際は一応軽くでもいいから見せてくれ。

 ちなみに持ってくるのを忘れると……ってのは卒業生だから分かるか。


 説明はそれくらいだな。何か質問はあるか?」


 結構な勢いで喋られたが、卒業生だから特にこれといって聞きたいことはなかった。

 許可証無しで入ろうとした人間がどうなるかも知っているしな。


「いえ、とくにないですね。

 じゃあこれからよろしくお願いします。」


 片手をあげて行ってこいとでも言いたげに送り出してくれる守衛の横を通り抜け中に入り、一直線に真っ直ぐ……は進まず横の森に入っていく。


 学園の中に小さな森のようなものは実はいくつもあるのだが、森の中の砕けた岩がある場所に大いに心当たりがあったから迷わずそこを目指す。


 そこを目指して約15分ほど歩いたところで辿りついた場所にはやはりというか、探していた少女はいた。

 というか何故か寝ていた。


「まさか……誰が来るかも分からない場所で侯爵令嬢が草の上に寝転がって熟睡とか……何考え……って、猫……?」


 近付いても全く起きる気配の無いユイを起こそうと更に近付いて行くとその腕の中には黒い何かがいた。

 のそりと身体を起こしたそれは伏せていた目を開ける。


「っ!? お前っ……そこを今すぐ離れろ……!」


 思わず魔力を練り鎌鼬(かまいたち)を使いそうになるが、ソレ(・・)のいる場所は丸まって寝ているユイに包まれるような位置にいるので万が一にも当たったらと思い使えない。


 こちらを一瞥し一鳴きしたソレ(・・)は機嫌が良さそうに尻尾をふわふわと揺らし、ユイの頬をひと舐めしてから離れていく。

 去り際こちらを見て挑発するかのように金色の目を向けて口元を綻ばせた、ように見えた。


 立ち去った方向を向いて少しの間警戒していたが完璧にいなくなったのだろうと魔力を解こうとすると翡翠の瞳が薄っすらと見えてきた。


「ぅ~……? ストラの魔力……?」


「ユイ、迎えに来たぞ。」


「うん……魔法使ったんですか……?

 ってあれ? 猫さんは?」


「いや、猫なんて見ていないな。」


「むぅ……やっぱり最後まで一緒にいてくれなかったですかぁ……残念……

 もふもふで可愛かったんですよー。」


「あんなの可愛く無いだろう……。


 ……危険だ。」


「あれ? ストラ、ニャンコ嫌いだったんですか? ひっかかれたりとかした?

 あっ、睡蓮も迎えに来てくれてたんですね! 静かだったから気付かなかった!」


 そう言って無邪気に睡蓮を抱きしめているが、当の睡蓮は冷や汗ものだっただろう。


 俺よりも先に気付いて硬直して防御魔法展開してたからな。

 硬直するだけじゃなくなっただけ進歩だな。


 アレ(・・)はなんのつもりでユイの近くにいたんだ。


 可愛い? 冗談じゃない。

 猫? あぁ、確かに見た目は猫に見えたから俺も一瞬そう思った。

 だがあれはただの猫じゃない。




 金色の瞳




 その色の瞳を持つものはどんな姿形をしていようが、全て魔族だ。

 膨大な魔力を持ち、好戦的な種族。

 何年もなりを潜めているがいつ攻めてきてもおかしくないと言われている種族。


 戦っていたらきっと俺が何をしてもきっと勝てなかったんだろうと思うほど余裕を持っていたようにみえた。

 何故アレがシェルハザード王都にいる?

 何も騒ぎになっていないことから門は通っていないはずだ。

 城壁を登って入った線が濃いというところか……。


 もう少し調べてからキリに相談でもするか……。



「ストラー? 帰らないですか?」


「あっ、あぁ、帰ろう。

 ていうかそうだ。なんでこんな所にいるんだよ。」


「あー……途中までは友達と帰ってたんですけどね? ……で、~~だったんですよ! だから~~」


 誤魔化したように問いかける俺に疑問を持たず、隣で楽しそうに友達が出来たことを語る様はただの10歳で。

 前世から生きていようが……本当に可愛らしい俺の護衛対象だな。


 あの魔族は何故ユイの近くにいたのかが気になるところだが……今日は置いといて、明日から学園に通ってる時間を使って調べることにしよう。


 スイレンも緊張が解けたようだし、ルナも帰宅を心待ちにしているだろうしな。






前話で最後に出てきたニャンコはなんと金の瞳の魔族!

黒毛猫の姿で金の瞳とか似合いすぎですよね。

ストラがこの魔族ニャンコと1:1で戦って勝つ確率は1%未満です。

0ではないから頑張ろう?



次はユイちゃん視点に戻りますよ!

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