17.思ってたよりも早くなっちゃいました。
コンコン……
「お、おはようございましゅ! ユ、ユイさま! ……は、はう……噛んじゃった……」
朝目が覚めたらとりあえずごろごろする、うだうだしているこれが至福の時間だと思う。
そして再び微睡みの中に潜り込んで気持ちの良いぽかぽかとお友達になっていくのです。
いわゆる二度寝というやつですね……。
この屋敷のベットも本邸に負けず劣らずもふもふで最高に気持ち良いのです。
あぁ、一日中寝ていたい……
「ユ、ユイさまぁー……そろそろ起きて下さい~……」
ユサユサ
この微かな揺さぶりすらも子守唄のように感じ、さらなる深淵の世界に招かれていくぅ~……
「あと10分……いや、5分でもいいのでもう少し寝かせて下さい~……」
「ふぇ……もう今日だけでソレ10回目ですぅ……」
一生懸命訴えるその少女は、半泣きでうるうるとした目をこちらに向けています。
チラリと一瞥すると『やっと起きるのか!』と言わんばかりにキラキラした瞳をこちらに向けてきたので、顔を少女とは反対方向に背けてまた寝ることにしました。
きっとあのお兄ちゃんと同じ尻尾や耳が付いてたならばブンブンピコピコ振られたあとに、シュンと垂れ下がったんじゃないかなぁ。
尻尾も耳もないことが残念で仕方ないです。
ついてたら起きてあげても良かったんですけど……ついてないから無理ですね。
「ふぁ……ユイさまぁ~起きて下さい~……アンジェリカさん助けてぇ~……」
いつもなら寝汚いわたしを起こすのはここでグスグス泣いている少女ではなく、わたし付きのメイドであるアンジーの仕事なのですが……
実はアンジーは彼女の祖父母のところに一ヶ月ほど行くことになり、数日前からそばにはいないのです。
昨日届いた手紙によると『祖父の体調が良くないという話だったのですがそれは嘘で、もういい年齢だからお見合いをさせたかった父母と共謀していたそうです。』とのこと。
嘘ついて呼び出すとかありえないです! と憤慨している様子が手紙から読み取ることができました。
しかもちゃんと事前に我が侯爵家にはその旨を伝えていたらしくてお父様は知っていたそうです。
アンジーにいい出会いがあるといいとは思うのですが……いなくなるのは寂しいです。
お見合い成功したらいなくなっちゃうんですよね。
でもアンジーももう18歳。
つまりこの世界では今が花の盛りなので引き止めたりは出来ませんね。
それだけが良い未来とは思いませんが、選択肢は少しでも多いほうがいいですしね。
なのでお父様も送り出したのかなと思います。
冬だろうがアンジーに起こされるときは、部屋に入ってきたと思ったら1度だけ『お嬢様朝ですので起きてください』と声をかけられたと思ったら待つことなく次の瞬間には布団をめくられて、抱きかかえられてソファにポイされちゃうので二度寝出来ないのですけど……。
『せめて起きるか起きないか確かめてよ!』と訴えるとどうせ起きないだろうと一蹴されました。
あれ、わたしのメイドなんだよね?
まぁ、そんな感じでしっかりしてるのでお嫁さんにもらってあげてください。
たまにドジっ子要素もあって可愛いですよ?
あと可愛いものが大好きな女の子らしいいちめんもありますよ。わたしを放置して睡蓮とよく遊んでいましたし。
……あれ、メイド業は?
それにしても……
あぁ、アンジーがいないだけでいっぱい寝れる幸せ……。
うとうとと微睡んでいるとバタンとドアが開いて誰かが入ってきた気配がします。
誰かといっても、ノックの音が聞こえなかったのでこの家でそんなことするのはただ1人だけなんですけどね。
「あっ……ストラさん……!」
助かったと言わんばかりにホッと息を吐いてますけど、わたしは今日も抵抗しますよ。
アンジーがいなくなってからこの数日既に定着したパターンで何度起こされても起きないわたしを朝の鍛錬後のストラが起こしにくるようになりました。
初日は病気かと思われたらしく昼過ぎまで寝ることが出来たのですが……次の日からは許されなかったようです。
しかもストラ毎回色んな起こし方してくるんですよね……。
今日はどんな起こし方をするのか布団の中から嫌々チラリと目を向けます。
わたしはまだ寝たいですよアピールです。
「ぐっ……。
上目遣……じゃなくて……チラ見してないで起きろ!
もう使用人たちは朝食終わってるぞ!
ルナが今日も半泣きじゃないか!
ほらっ、布団から出て着替えっ……くっ……服が寝乱れてる!
起きて直して着替えろ! 今日からなんだからしっかりしろよ!」
「もぉ~……毎日毎日ストラうるさいです……小姑みたいですよ……分かりましたよ、睨まないでくださいよ……。
昨日みたいに鼻と口を塞いで起こしてきたら今日こそマッハユイパンチが飛ぶところでしたよ……。」
酷いですよね、寝ている人間に向かって鼻と口塞ぐんですよ。
ふがっ! ってなりましたよね。
「『今日こそ飛ぶところ』じゃなくて、昨日実際に飛んできたけどな……。
しかも油断してたから普通に殴られて結構痛かったし……。」
「自業自得だもん。
それに昨日のはユイパンチですが、マッハユイパンチではありません。
マッハユイパンチは気付いた時には殴られたことすら気付かずに天井を見上げて転がる最強技です。
ちなみに実際使用したことはないですが妄想の上では百発百中です。
ていうかもう起きて着替えるので出てってください。
それとも着替える間見てるつもりですか?
仕方ない、ストラはエッチですねぇ。」
スルスルと着ている夜着を脱いでいくと
「わあぁ!? 待て! 今出て行くから!」
「きゃあー! ユイさまダメですよぅ! もう10歳ですよ、淑女なのですよ!?」
二人して慌てます。
「もーストラもルナも本気にしちゃって。
冗談ですよー。」
「冗談もなにも脱いでたじゃねーか!」
慌てて部屋を出て行くストラを眺めながらね、思うのですよ。
そうやって赤くなるから、面白い。からかいがいありすぎですよ、と。
さて、そんなユイですが、10歳になりました。
今一緒に騒いでた少女はルナです。
7歳のころに冒険者の依頼で出会った睡蓮、そしてその依頼主だったディダくん、妹のルナ、お母さんのルイーダさんの3人は我が家で使用人として働いています。
おうちに来たときには弱りきってて歩くこともままならなかったルイーダさんもすっかり元気になってメイド長のハイジさんの次くらいに仕事ができます。
とってもいい拾い物でした。
ルナは泣き虫だけどとっても可愛い8歳の女の子です。
アンジーに習いながらわたしの専属メイドをしてます。
今は家族でわたしだけ王都の別邸に来ているので、ルナだけがついてきているのです。
お兄ちゃんのディダくんと引き剥がしてごめんね。
しかしルナがわたしの専属メイドとして朝起こしてくると苛めたくなるので、なおさら起きる気がなくなるのが問題ですね。
あ、ストラは専任護衛なので勿論いますよ?
ついてきたメイドさんがルナだけってことです。本当はアンジーもいる予定だったけど、まぁここの家自体にも使用人はいますからね、問題はないです。大抵一人で出来ますし。
「はふ……ユイさまお似合いですぅ……。
これなら学園ナンバーワンの座も狙えますっ……!」
考え事をしながらもスルスルと着替えた服は黒に近い紺色で襟、袖、裾には白のラインが入ったブレザー
その下には薄いクリーム色のシャツ、そして赤いネクタイには透明でキラキラのダイヤモンドが一つついていて存在感を放っています。
ブレザーとは逆で裾に紺のラインの入った白いキュロットスカートは膝上10センチくらい。
その下にあるのは肌色ではなく黒いタイツでその下には編み上げの黒いブーツ。
それが今日からわたしが通うことになる『聖樹魔法学園』の制服です。
白い制服のスカートーー正確にはキュロットーーとか二次元だけだと思ってました。
ファンタジーのような世界だし近いものがありますが……今のわたしには立派な三次元なのでコスプレ感半端ないです。
でもとても可愛らしいので大満足な制服です。
ネクタイについている石は適性属性の個数で違うそうです。
属性が一つだとガーネット、二つでペリドット、三つでアイオライト、それ以上になるとダイヤモンドだそうです。
まぁトリプルでも珍しいのでダイヤモンドなんて本当に限られた人しかつけれないですけどね。
お父様然りわたし然り。
ちなみになんで真っ赤なルビーじゃなくて黒ずんだ赤のガーネットを使っているんだろうと思って聞いてみたら、ルビーは高いから、だそうです。
うん、なるほど。
そしてネクタイの色が学年カラーになっていて、今年の一年生は赤、二年が緑、三年が黒、そして特待生枠があるので二年分余分に色があり、『聖樹魔法学園特待制度四年(つまり四年生)』通称特四は黄色、特五(つまり五年生)は青です。
赤、緑、黄色、青は馴染みあるけど黒は違和感しかないですよね。
そして特待生と通常の学生の見分け方はネクタイの形で、特待生はネクタイと言われて想像する通りのネクタイでそれ以外のほとんどの生徒はスクエアエンドとっていう先端が三角ではなくて四角のぶつ切りにしたようなネクタイです。
まぁつまりネクタイの先がブレザーで隠れてると見分けがつかないってことですね、あはっ。
本当は12歳までは自由に冒険者するつもりだったのですが、睡蓮を連れて帰った日の夕食時につい冒険者登録したことをポロリと言ってしまった結果、登録時のアレコレもばれまして。
前から思ってたけど思ってたよりも魔法の才能がヤバイからお前魔法学校特待で行けと言われてしまいました。
それ以前にホビットの森の結界のこともバレてたんですけどね。
忘れてましたよね。
あ、創作魔法だとか睡蓮と契約したこととかは内緒にしたままで適性属性が異常に多いよとだけ言いました。
しかも特待生は申請時に王宮で特待生に相応しいかどうかのテストを今年から実施することになったらしいです。
なんでも貴族が金に物を言わせてねじ込んでくることがあるらしく、特待生枠の生徒の質が昔に比べて下がってきているとかなんとか。
まず領から離れて王都に行くのも面倒くさいし、あと2年は冒険者として自由に遊びまわりたかったから適当にごまかして特待生枠から落ちようと思ってたのに……
まさかのジークパパが満面の笑顔で試験官として面接の場に居るしお父様もいるしで誤魔化しが効きませんでした。
そうですよね、ジークパパも王家の方と知り合いっていってたしね……お父様に至っては宮廷魔導士ですからね……そりゃあ魔法学園の面接官としていますよね……。
てっきり保護者としてついてきたのかと思ってたのに扉開けてもらって面接試験場入ったらいたからびっくりしたよ!
というか何もしないうちに「可愛いから合格!」とか親バカ二人に言われたけれど王宮の人たちに流石に何かやらせてくださいと怒られてました。
なんか二人の推薦みたいな感じで入学は決まってたみたいです。
一応って扱いだったもん。
ちなみに氷の鎌だしたら出しただけでポカーンとした顔でもう大丈夫ですって言われました。
なんでも氷を大鎌の形にして取っ手部分は細いうえに素手で触れるように冷たさを制御する……それだけで高度だそうです。
こういう感じっていう形のイメージしてるだけで全然そんなことないのですけどね。
聞いてはいたけど見てみると想像よりも上だったらしくてその場にいた『シェルハザード魔法技術向上研究機関』の人から根掘り葉掘り聞かれました。
そのあとさらに偉い人やら来たりして疲れたので王都怖い。王城怖い。研究者怖い。
そしてその後帰ろうとするわたしと、護衛として一緒に来ていたストラに絡んできたのが、第二王子様でありストラの同級生でもある、キリュウ・ツヴァイ・シェルハザード殿下です。
噂の脳筋王子ですね。
見た目は全然脳筋に見えなくて、とっても麗しの王子様でした。
ふわっと品よくセットされた金色の髪の毛と、垂れ気味の王家定番(笑)の碧い瞳、そしてほどほどについた見苦しくないしなやかな筋肉……とてもじゃないですが脳筋には見えなかったです。
ただのイケメンかと思いきや、腰にくる色気を伴った低めのイケボも併せ持っている最強キャラでした。
乙女ゲーのメイン攻略対象かよ! とか思いましたよ。
ストラの隣に並ぶと黄金と白金でキラキラ輝いていてとても眩しかったです。二人が並ぶと後光が見えましたもん。
しかしこれがな、中身が二人とも残念なのだね。
キラキラの王子様っぽいのにキリュウ王子は本当に筋肉で脳みそできてるんじゃないかってくらい脳筋な感じの話しかしないし、ストラはそれに対してツッコミしかしてないです。
あぁ、本当にイケメンのくせに残念臭が漂ってましたよ。
……そういうの嫌いじゃないんですけどね!
しかしチート全開のわたしの魔法に興味をもった王子にストラ共々、王族プライベートスペースまで拉致られたのち、国王陛下ご家族様に睡蓮を見せてきました。
唯一の使役先輩ですから、色々聞けてよかったですが、元庶民には場違いすぎて慣れるまで胃が痛かったです。
ちなみに妖精さんたちも周りをいっぱいふわふわしてきてとても可愛かったです。
一人だけ喧嘩売ってきた妖精さんいましたけど……。『そこの娘! いざ勝負!』って言ってきました。
周りにいる他の妖精たちは、ふわふんした妖精さんって感じのイメージ通りなのに、何故かこの妖精さんだけ冒険者みたいな服着てショートヘアーの腹筋割れた妖精さんでした。
えぇ、もちろんキリュウ殿下の使役妖精さんですとも。
そんな特待生の面接とは名ばかりの王族面会も終わり無事に入学が決定してしまったので、今日から学園が始まってしまいます。
朝の時間が9時かららしくて、前世の学校よりも少し優しい。
わたしとしてはあと1時間ほど猶予が欲しいところですが……。
なんて考えながら着替えも朝食も終わらせて貴族らしく優雅に馬車に乗り……はせずに歩いて登校します。
日帰りで王都からリシュール領にあるお家に帰るのは無理なので少し前からストラとルナを伴って王都にある別邸に来ていますが、その場所が学園に歩いていける距離なのですよね。
普通の貴族様はそれでも馬車に乗って行くそうですが、裏道とか通って行けばすぐつくので徒歩でいきます。
ストラに渋い顔されましたが、一緒にいた三年間で慣れたらしく何も言われなかったです。
アイラお姉様は聖樹魔法学園の特待生の卒業生なので、この別邸から通っていましたがお兄様たちは魔法学園ではなく青龍院という学校に通ってたので、別邸よりも寮の方が近いといって寮生活をしていました。
魔法学園も寮はあるんですけどね。
寮も年が近い子いっぱいいるだろうし楽しそうでいいなぁとは思うのですが、寮に入るとルナは大丈夫だけど護衛は規則でついてこれないのでやめました。
ちなみに聖樹魔法学園は魔法の使える人ならば誰でも入る資格があります。
魔法の才能が突出している人用の特待生枠とは別に、奨学金制度のようなものもあるので貴族から平民まで誰でも入れます。
それに貴族からも平民からもある程度はそれぞれの家に合わせて学費が決まっているので、通いやすくなっています。
そしてラルフお兄様の通っていた青龍院は王都の東側に位置する学校で……
貴族の次期当主や貴族の使用人などが学ぶべきことをメインにした貴族のための学校です。
なので別名貴族院とも呼ばれているらしいです。
もちろんどの学校もメインで学ぶこと以外の歴史や魔法や剣など護身術等も学びますけどね。
ラルフお兄様は勉学は三年間常にトップだったけれど、残念ながら身体や魔法など、脳みそとは別枠のものは下から数えたほうが早かったみたいですが。
キズリお兄様は身体能力がとても高いそうで、ラルフお兄様とは逆に身体を使うものや魔法などは三年間トップだったそうです。
ちなみに脳みそ系は上の下あたりだそうです。
脳筋じゃなくてよかった。
そして北の玄武院は武術メインの学院で、ストラは最初はここに行きたかったらしいです。
学校決めの見学時に三年生の武術を見た際、バトラーさんの訓練の方がヤバイということで身につくものがないと判断してやめたらしいです。
バトラーさんどんだけですか。
玄武院からは優秀な騎士をいっぱい輩出しているとききますよ……?
脳筋が多そうですよね。
あ、獣人はここに多いらしいです。
そして西に白虎院、こちらは工業的なものやら商業的なものなどを学ぶ学院です。
家を継ぐ必要のない貴族三男とか平民が均等に混ざり合っていて、亜種族も結構いるらしいです。
そして南には朱雀院……ここは農業などを学ぶ場所で、平民がやはり多めらしい。
あとはエルフとか森の民と言われるような人たちも多いですね。
学院で野菜や家畜を育てているので、ここは食費が安い分学費も安くなります。
そしてとてもご飯が美味しいとの噂。
わたしはここに行きたかったです……庶民の味ー!
そんな感じでシェルハザードの王都は東西南北に四獣の名を冠した学院と、真ん中 ーー正確にいうと王城と二つ合わせて真ん中になるーー の聖樹魔法学園の五つの学校があります。
実は学校と王城自体が王都の結界の要になっているので、王都には魔物が入ってくることもないですし、王都に冒険者がいる必要がないので他の町の護りも力が入れることが出来るのです。
もちろん国の真ん中ですからいっぱいいますけどね、長期滞在してる人があまりいないのです、学園の生徒も課外実習として魔物退治とかしたりとかもあるので冒険者が王都に長く留まる利がないのです。
まぁそんな感じで5箇所あるうちの真ん中となる結構重要な場所にある聖樹魔法学園に、今日から通います。
「じゃあストラ!
学園に行ってる間は睡蓮のことよろしくお願いしますね!」
「あー、うん、まかせろ。
一緒に冒険者してくるわ。」
なんて自由な護衛だろう。
この人これでも護衛なんですよ。
まぁ学園内についてくること出来ないので良いんですけどね!
「学園が終わる時間には迎えに来てくださいね?」
「っ……おう……」
最近のストラはかわいこぶりっ子すると顔を赤くするから面白いです。
可愛い顔しててよかったです。むふふ
もふもふ要因ではありましたが、ディダくんは脇役ですので早速舞台袖にいってしまいました。また出てきますよ。
脇役なディダくんのお話はポーイして、三年経過して学園編突入しちゃいました。
ごめんねディダくん。
ここから章が変わりますが、大分色々な変化がでてくる予定です。
R15指定が役立つ日も近いかも。
まぁまだ全く続き書いてないんですけどね。
ストック?なにそれおいしいの?
次回は本編ではなく、まとめ話になります。
ではでは閲覧、お気に入り登録等ありがとうございましたー!




