15.A.はい、ケモミミは正義です。
アディお姉さんに案内された部屋は8畳ほどの洋間。と言ってもこの世界に畳はもちろんないので全部洋間なんですけどね。
畳欲しいです……畳の上に寝っころがるのが大好きです。ふがふが匂い嗅ぎたい。
部屋にある調度品は中央に長方形のテーブルが一つ、それを囲うように2人掛けのソファーが向かい合って二つ、そして残りの面に1人掛けのソファーが二つと、入り口に花瓶の置いてある棚が一つとてもシンプル。
案内してお茶を用意したらアディお姉さんはニッコリと笑って退室していっちゃいました。
いなくなるときに目があったら手を振ってくれたので振り返しておきました。可愛い。
入り口から向かって右手側の2人掛けソファーには依頼主さんが座り、その正面の2人掛けソファーにはわたしとストラが。
そして奥側の1人掛けソファーにはジークお父さんが座りました。
「まずは自己紹介かなぁー?
こちらがユイちゃんたちが受けた虹色スライムの核集めの依頼主であるディダくん。
そんでこっちが依頼を受けたFランク冒険者のユイちゃん。
ランクはFで初依頼なうえにこんなに可愛らしい女の子だけど、実力はCは軽くあると思うよぉ~。
まぁ僕は直接見てないから聞いた話によれば~だけどねぇ。
そんで、ユイちゃんの隣にいるのがぁ、ストラくんだよぉ。
お兄ちゃんなんだってぇ。」
そう言ってこちらを見ながらニッコリ笑っている。
お兄ちゃんなんだって~って今強調して言いましたよね?
うん、きっと気のせいではないと思います。
わたしがただのユイじゃなくてユイリエールなこともバレてそうな予感。
ストラさん、顔が引きつってますよ。
「はい、ユイです。
よろしくお願いします、ディダさん。」
「ストラだ。よろしく」
「あ、えっと、よろしくお願いします……虹色スライムの依頼をだしました、ディダです……。」
「うんうん、いいねぇ心温まる少年少女の邂逅って感じぃ?」
「あ、あの……依頼、受けていただいたって、本当、ですか?」
この子オドオドしすぎじゃないですか?
ディダと名乗る依頼主さんの見た目年齢はわたしと同じくらい。
そしてどう見てもそこらへんにいる庶民の服を着ていて普通の一般人って感じです。
奴隷でもないのにこのオドオド感はただの性格なのか、それともさっき刈り取るとか言ったからビビられているのか……。
後者だったら寂しいくらいの怖がられ方です……。
「はいです、えっと……詳しい話聞いてもいいですか?
詳しく知らないで受けちゃいましたが、さっき冒険者に絡まれてるときに報酬額が割に合わないって言われてましたよね。」
核はすでに持ってるけれど、さも持ってないという態度をしておきます。
そんな感じには見えないですけど、楽して儲けようとしてる人だったら睡蓮の核なんて大事なものは渡せないですもんね。
そんなの絶対許しません。場合によっては刈り取り対象に追加ですよ? ふふふ……
「そうだねぇ~それはユイちゃんは聞く権利があるねぇ。
受けてしまってはいるけれど虹色スライムの依頼だから話を聞いて依頼破棄にしても例外として失敗にはしないであげれるよぉ。
そもそも弱さと場所だけ見てFランクに当てたのは僕のミスだねぇ~。
何も考えずにそのまま掲載しちゃったけど今思えば虹色スライムの希少価値とランクが合わなかったもんねぇ。
報酬額が高いから新人さんが何も考えずに受けちゃうよね、ごめんねぇ」
「あ、えっと……はい、そうです……。
報酬額は虹色スライムの核を売った金額の半分を報酬としてお払いしようと思ってました……。」
報酬額、全く見てなかったから実はいくらか知らないんだけどね……。なんて言ったらストラに絶対怒られるから言わないですけど。
いやだって……『オォー、虹色スライムだってー七色なのかなぁ! レアかなぁ! 』ってノリで選んじゃったし……
「なんでそんな金額報酬にしたんだ?
受けてほしいならもう少し払うなり工夫しないと虹色スライムの核回収依頼なんて来ないと思うんだが。
グリードが言う通り自分で売ったら全額手に入るからな。
あいつみたいに強欲にさらに情報をむしり取ろうとしなければあの依頼掲示板に貼ってあった情報だけで、依頼を受けずに森に行ってくるというやつも少なくない人数いるはずだが。
俺もこいつと一緒にいなければ探しにいってる自信がある。」
わたしが口を開かないからかストラがついに口を挟んできました。
基本的には護衛スタンスな感じなのでしょうかね、さっきまでは全く話す気なさそうでしたもんね。
「えっと……あの……。
……虹色スライムを見かけたのは、僕の妹なんですけど……。
街の近くの普段モンスターが出ないようなところに生えている薬草を1人で取りに行ったらしくて……。
その時に森の入り口近くにたまたま虹色スライムがいたのが見えたらしいんです……。
虹色スライムの核は高いのに弱いってことをどこからか聞いて知っていたらしく、自分でも倒せるかもと思い倒そうとしたらしいんです……。
けど、たまたまウルフが来てしまって……もちろん倒せないので逃げたそうです。
まだ森の中にもはいってなかったから運良く逃げ切れたそうなんですが、虹色スライムもそのときに見失っちゃったそうなんです。
それで……母の……あ、僕の母は元から弱かった身体が、1年くらい前に病にかかってしまって、今寝たきりなんですけど……。
先日冒険者だった父が亡くなってしまって……。
負傷した味方を助けようとしたときに、魔物に……こ、殺されて……しまったらしくて……。
助けようとした方もその時に亡くなったらしくて……。なんとか魔物は倒せたらしいんですけど、父とその人は助からずに……。
残りのパーティメンバーの人が報告と遺品を泣きながら、届けてくれました……。
今までも僕も近所のお店で仕事をさせて貰ってたんですけど……。
調べてみたら虹色スライムの報酬額の半分があれば、母の病を治せる薬が作ってもらえるんです……!
そしたら父の残した財産を使いながら、僕ももっと仕事をしていけば……母もいつか元気になってから働いていけばお金を使い切る前に……みんなで暮らしていけるかなと……このままの生活では増えるよりも減る方が多くて……。
だから、薬代としてどうしても欲しかったので……報酬額が半分なんです……。」
壮絶なストーリーすぎます……。
わたしと同じくらいの男の子が妹と病気のお母さんを支えて生きていくとか、どんなフィクションですか……ぐすっ……。
無言でストラがハンカチをくれました。
お約束なので鼻かんでおきますね。チーンッ
あっ、痛っ、殴らなくても……。
お前わざとだな? って顔で睨まれちゃいました……。
嫌がらせでくしゃくしゃに丸めてストラに投げちゃいます。
うぐっ……また殴った……痛い……。
「うぅ……納得しました……では、これをどうぞ。」
殴られた頭を摩りながらポーチから睡蓮を避けつつ核を取り出してテーブルの上に置くと、七色だから虹色スライムのものとすぐに分かったのか、ディダくんの目が見開きます。
「えっ……これ、ってもしかして……」
「はい、虹色スライムの核です。
依頼掲示板に書いてあった通りに森に行ってみたらたまたま入り口あたりで見つけたので貰ってきました。」
貰ってきたっていろんな意味に聞こえますよね。
奪ってきたんじゃないですよ? ほんとにもらったんですからっ
「これを売ってその半額を報酬でもらいます。
薬代が足りなければわたしの報酬額から足りる分お渡ししてもいいです。
そして薬を買ったあとはわたしがあなたたちを助けれると思います。」
「は……え? はぁ……?
どういう、意味でしょうか……?」
「お? おやおやぁ? 良かったねぇディダくぅん。ユイちゃんが君を雇ってくれるってぇ~。」
やっぱりバレてましたか、とんだ狸親父ですね、ジークお父さん。
狼だけど。
よく分からず困惑するディダくん、そして勝手に決めていいのかという表情でこちらを見るストラ、ニマニマした笑顔で楽しそうにしているジークお父さん。
三者三様な顔してますね。
この後のセリフを聞いたらディダくんとても驚くのでしょうねぇと思いつつ話を進めるために暴露しましょう。
「ジークお父さんは気付いてたみたいですが、わたしはユイリエール・リシュールと申します。
ここリシュール領主の娘ですよ。
そしてこっちは本当は兄ではなく我が家に仕えている護衛騎士のストラ・ハイエルです。
ディダくんと妹さん、そしてお母さまの三人を我が家で雇おうと思うのですが……どうでしょうか?」
「は? はぁ!? な、え!? ええぇ!?」
ディダくんもこんなに大きな声出るんですね~。
でもさっきまで静かにしてた睡蓮が思わずキュッて鳴くほどびっくりしてるので落ち着いてくださいね?
「は、え? えっと……領主さまの……? はっ領主様の娘!?
あ、えと、失礼な態度とっていましたら大変申し訳ございません!?
や、えと、に、虹色スライムの核はそちらで引き取っていただいてっ……!」
カタカタ震えながらしどろもどろにテンパるディダくん。
虹色スライムの核全部もらっちゃったら依頼達成にならないじゃないですか。
それはそれでわたしも困りますしお母様どうするんですか。
「落ち着いてください。
まずわたしは無礼だなんて思ってませんし、核は売却してから先ほども言った様に半分こですよ!
最初に家名を言わなかったのも、わたしは冒険者をやっていることは親に言っていないですし言う気がないからです。
なので畏まる必要はありません。
名乗りはしましたが、今ここにいるのはユイリエール・リシュールではなく冒険者のユイなのです。
とまぁ『別人扱いしろ』と、そんなことを言いましたが……
話も聞いてしまいましたから……リシュールの娘としてはリシュール領に住んでいる民が苦しんでいるのなら助けたいという考えはまだ幼いわたしでもあるのです。
もちろん苦しんでいる人はディダくんたちだけではないと思います。
そんな方達全員を屋敷で雇うなんてことは出来ませんが……幸いというかなんというか、今絶賛人手不足中でして。
人を雇おうかと父が言っていたのを知っていたので目の前にいるディダくんたちだけでも助けることはできるのです。
なのでディダくん家族が働いてくれたらこちらとしてもちょうど助かるのですよ。
もちろん、お母さまが治るまでは療養してもらって、治ったら一緒に働いてもらえればそれで問題ないです!」
「あ……ありがとうございますっ!
核依頼を達成していただいて母も助かるうえに働き場所までなんて……って、あ!
う……あ、で、でも……あの……お話はとてもありがたいのですが、僕……獣人の混血なんです……。
父が獣人で、母が人族なんです……。
妹は母の方の血を濃く受け継いでいるらしくて人族と変わりないんですけど……僕は父によく似ていて耳も尻尾もあって……。
だから……領主さまのお屋敷で働くなんて……。」
なんと!? こんなところにオッさんじゃないケモミミが!?
「耳と尻尾!? ぼ、帽子を取ってください!」
「ふぇっ!? は、はい……」
いきなり鼻息荒くテーブルを乗り越えかねん勢いで迫るわたしにビクビクしつつ、おずおずと取った帽子から出てきたのは狐の耳。
赤茶色の髪の毛からピョコンと生えている耳の先端は白くなっていて、ジークお父さんより少し大きくてTHE狐耳といった感じ。
今はへにょっとしょんぼりしたように項垂れていて……なにこれ、超可愛い!
もう……もうっ……!
「もうだめだー! ケモミミーーーー!」
「わぁああああああ!?」
思わずガバッと抱きついて存分にもふもふし始めるわたし。
そして驚きすぎて逃げ出そうとするけどわたしにがっしり捕まえられてうつ伏せにソファーの上に転がされているため逃げ出せないディダくん。
びっくりしすぎて尻尾がズボンの中でパンパンになっていたのがお尻の膨らみで分かったので、えいっとズボンをめくって尻尾を取り出してさらにもふもふしちゃいました。
立派なセクハラですね、知ってます。
ディダくんにはマジ泣きされ、ジークお父さんは爆笑。
ストラからはゲンコツと、床に正座をさせられてお説教を頂きました。
そうしたら護衛が護衛対象を床に座らせてお説教していることをディダくんに泣きながら驚かれてしまいました。
そうですよね、普通そんな反応になるはずですよね……? ストラは何故躊躇せずに実行するんですかね……?
うぅー……怒られた上にもっと堪能したかったのにケモミミ、もふもふ尻尾から引き剥がされてしまいました。
でもあったかかったです……。
もふもふは正義でした。
死ぬときはもふもふに包まれて、もふもふ死したい……と呟いたらまたジークお父さんは楽しそうで、やっと落ち着いてきたはずのディダくんは涙目で尻尾を抱きしめて震えていました。
ストラですか?
『なに言ってるんだコイツ』と蔑んだお目目を頂戴しましたよ。
わたしの護衛なのに酷い扱いですよ、まったくぅ……。
「あ~ちょっとユイちゃんたちと話したいことがあるから、ディダくんはアディちゃんのところで待っててくれるかなぁ?」
コクコクと頷いてそそくさとわたしから離れていくディダくん。
そんなに逃げなくてもいいじゃないですかぁ……もふもふ~……。
ディダくんが扉から出て行き、こちらに向き直るジークお父さんから聞こえたセリフにわたしは先程までのもふもふの余韻も消え、ストラも驚いて口が開いてしまいました。
だって仕方ないですよね?
「それでぇ、僕もう一つ聞きたいことあるんだよねぇ?
そのポーチの中の生物は虹色スライムなのかなぁ? よく契約なんて古臭い書物の中にしかないこと出来たねぇ~?」
ニマニマした表情であっさりと爆弾投下していくジークお父さんは千里眼か何かを持っているのでしょうか。
ケモミミもふもふ
ジークお父さんはなんでも知っていそうな怖い人です。
喋り方ゆるっゆるなのにね!
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