ガラクタの山に埋まって
十二月、師走、年末、大掃除。
面倒くさい、と溜息を漏らしながら再度布団に潜り込む。
一晩かけて温まった布団は心地よく、二度寝へと私を誘い込んだ。
だがそれを許さないというように、部屋の扉がドンドンドンドンと無遠慮かつ、加減を知らないように思い切り叩かれた。
無視して布団を被るも鍵の空いた音と共に勢い良く開かれる扉。
ズカズカと人の部屋に踏み込み分厚い、光を遮断していたカーテンを開く。
あーあーあーあー、マジでやめて欲しい。
安眠妨害だし鬱陶しいし、マジで死ね、呪うぞ。
心の中で悪態をつきながら布団にくるまろうとするも、逆方向から掛け布団を引っ張られ、勢いに負けてベッドから転がり落ちる。
頭を打った、痛い。
寝癖のついた髪ごと痛む頭を押さえて撫で付ける。
掛け布団を持っている二つ上の姉が目を釣り上がらせて私を見下ろしていた。
怒りたいのは私の方なのだが、と考えながらベッドによじ登る。
寝起きの頭を働かせて姉を見上げる私。
「大掃除ですけど」
よく良く見れば姉は真っ赤なエプロンをつけていた。
いつもは下ろしている茶色に染められた髪も、ポニーテイルとしてひょこひょこ揺れている。
大掃除をしていたけれど、いつまで経っても私が起きてこないから起こしに来た、とかそんなもんだろう。
欠伸を一つして時計を見ればもうお昼になる。
冬休みなんて昼夜逆転するのが普通だと思っているし、普段の土日でも起きるのはお昼近いからそっとしておいて欲しいものだ。
「そうだね、大掃除だね。頑張れ」
くるん、と体を姉の方から壁へ向けて倒れ込む。
ベッドの軋む音。
抱き枕代わりの黒猫の人形を抱きば、スパーンッ、と頭を叩かれる。
いい音したけど、ダメージは少ない。
寝返りを打てば姉は相変わらずそこに立っていて私を見下ろしている。
用がないならば出て行って欲しいのだが。
「アンタもするのよ、大掃除」
部屋の掃除くらいはしなさいよ、とかグチグチお説教を言う小姑みたいな姉。
だから彼氏に逃げられるんだよという言葉は後が面倒なので飲み込む。
それにしたって私の部屋に大掃除は必要だろうか。
勉強机はノートパソコンが占拠していて、パソコン用みたいになっているし。
布団のシーツは昨日も取り替えた。
クローゼットやら洋服を入れてある場所と言っても、私服の数が少ないので整理する必要がない。
他にあるものといえばテレビと本棚くらい。
年頃の女の子では考えられないくらい、生活感がなくて質素で不気味な部屋だと思う。
「こんな部屋をどう掃除しろと」
埃が溜まっているわけでもゴミがあるわけでもない。
どうしようもないじゃないか。
する必要が見当たらない。
掛け布団を畳みながら姉はゆっくりと首を回して部屋を見た。
壁紙は白の無地でカーテンは白いレースのものと黒く分厚いもの。
家具の殆どが白と黒で統一された、必要最低限のものしかない部屋。
「あのガラクタは」
部屋の隅の段ボールと本棚を指差した姉。
畳まれた掛け布団がベッドの上に置かれる。
どうせまた使うのに。
ベッドから飛び降りた私は段ボールを持ち上げて開ける。
中にはキーホルダーやら人形やらが入っていた。
それらは全て私の趣味で集めた物で、所謂オタクと言う奴なのである。
本棚にある本の一部は私が書いたもの。
姉からしたらガラクタだろう。
「残念だけれど、大掃除でガラクタを捨てたいならばこの部屋を丸ごと燃やさないと駄目だよ」
パタン、と音を立てて段ボールの蓋を閉じる。
大掃除は面倒だし嫌いだし、私には必要のないもの。
掃除が出来ないくらいにこの生活感のない部屋には、私のガラクタが存在するのだから。