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あやかし商店街~四


「さて、それが例の掛け軸かえ?」

菖蒲は覗きの姿勢から戻し、真司が手にする箱を見た。

「あ、はい。そうです。」

真司は菖蒲の前に腰を下ろし、掛け軸が入った箱を菖蒲に手渡した。

菖蒲は箱を受け取ると、まず、箱を隅から隅まで見つめた。

箱は菊塵(きくじん)色で、直径40cmの長方形型だった。

「ふむ。印も無しか」

そう呟くと、菖蒲は箱を床に置き、丁寧な仕草で箱の中の掛け軸を取り出し広げてみた。

「ほぅ。これはまた可愛らしい童子」

掛け軸には、小川で楽しそうに遊んでいる女の子が1人描かれていた。

「……しかし、これは足らんな」

「足りないって、どういうことですか?」

「おかしいとは思わんか?ほれ」

そう言うと、菖蒲は掛け軸の中の女の子を指さした。

真司は指された所を見たが、真司にとっては女の子が川遊びをしているようにしか見えなかった。

(足りないって‥どういうことだろう?)

真司は腕を組んで、うーんと唸りながら女の子を見て考えた。

チラっと菖蒲を見たが、どうやら菖蒲は答えを教えてくれなさそうな顔をしていた。

(自分で考えろってことか‥‥)

そして、真司はまた掛け軸を見て「うーん」と唸りながら考えていた。

そこで、真司はハッとして、この掛け軸でおかしい部分を見つけたのだった。

「ここだけ、変な水しぶきがありますね」

そう言うと真司は女の子の直ぐ隣の水面を指さした。

菖蒲は真司の答えに満足したのか、微笑みながら頷いた。

「この子の周りの水しぶきはわかる。だが、その隣の水しぶきと水面の揺らぎは、この子のではないという事。」

「つまり、この女の子の他にも何かが描かれていたっていうことですか?」

「正解だ。そして、女の子の視線からにして、もう一人は人では無い。」

「というと?」

「つまり、動物という事だな。」

「えーと、それって、猫か犬っていうことですよね。」

「うむ」

菖蒲が頷いた途端、掛け軸がカタカタと動き始めた。

「うわっ!」

急な掛け軸の動きに真司は掛け軸から手を離し驚いた。

菖蒲はというと、平然として掛け軸を見ていた。


その時、掛け軸から例の泣き声が聞こえてきた。


「うっ‥‥ううっ‥‥お願い‥‥お願い‥‥」

「菖蒲さん」

真司は泣き声が例のだとわかると、菖蒲を見た。

菖蒲はわかったかのように頷くと、掛け軸に話しかけた。

「お前さんだね?ずっと泣いていたのは」

「‥‥うう‥‥えぐっ‥‥」

「お前さんは、何に泣いている?何を願うのだ?」

「私のわんちゃん‥‥私のわんちゃんが消えたの‥‥うぅっ‥‥」

「消えたってどういうことでしょうか?」

真司は菖蒲に言った。

「ふむ。逃げ出した、のだろうな。」

「逃げ出す?」

「物にはそれぞれ生命(いのち)が宿る。古い物だと特にな。」

「それって、付喪神って事ですか?」

「うむ。作者はわからんが、どうやらこれは相当古い物やの。して、問題は何の拍子で抜け出し何処どこに行ったか…。」

真司は、うーんと唸り顎に手をやり考えた。

「確か‥‥声が聞こえたのは雨の日だったと思います。凄く天気も悪くて雷とかも鳴っていました‥」

「ふむ。なるほど。」

「うぅっ‥‥あのね‥あのね‥」

「「ん?」」

二人は同士に掛け軸を見た。

「大きな音にね、わんちゃん驚いたの。」

「となると、やはりその雷で逃げ出したんやろう」

「でも、何処に逃げたんでしょうか?」

「真司。この掛け軸は何処にあった?」

「庭の物置の中です」

「ふむ。きっと、まだそこに居るの。どうやら、そのわんちゃんというのは臆病者らしいな。そうなると、外に出ず何処かに隠れてるかもしれん。」

「でも、それならどうして早く自分から戻らなかったんですか?」

「戻りたくても戻れなかったんやろうな」

「???」

真司は菖蒲の言っている事がわからず、首を傾げた。

「雷の音で驚いたと同時に、掛け軸の方も動いたのだろう。落ちた拍子に箱が開封し掛け軸も開いた。その隙間からわんちゃんが逃げ出した。」

「はぁ」

「そして、この女の子はわんちゃんが逃げ出したのに悲しんだ。そこで真司が現れた。真司、お前さんは落ちてある掛け軸を拾ったのではないかえ?」

「え?あ、はい。暗くてよく見えなかったんで、最初は辺りを探していましたけど。」

「それで、お前さんは掛け軸が落ちてあるのに気づき広げて見た。そして、正体が掛け軸の女の子やとわかると、その掛け軸を再び箱に閉まった。そうやろ?」

「はい、そうです」

「だから、わんちゃんは戻れなかったんやよ」

「え?」

「出てきた掛け軸から戻る為には、再びその掛け軸の中へ入らないといけない。しかし、この掛け軸は真司の手によって、再び箱の中に…。開いていない掛け軸は閉じてある限り元の場所には戻れんのだよ。」

「じゃぁ、元の場所に戻れないのは僕のせいって事ですか?」

真司はそう言うとシュンと項垂れたのだった。

菖蒲はそんな真司に優しく微笑みかけた。

「気にすることはない。お前さんはこうして、女の子の悲痛な願いを聞き入れたのやから。」

「‥‥はい」

「さて、と」

菖蒲は、掛け軸を閉じ箱に収めると立ち上がった。

そして、菖蒲はニコリと微笑むと

「わんちゃん救出作戦に行くぞ、真司」と言った。

真司はそのネーミングセンスどうなんだろう?と少し思ったが、元気良く返事をした。

「はいっ!」

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