あやかし商店街~三
∬
真司達はひとまず学校から少し離れた小さな公園にやってきた。
真司は肩で息をして、軽く深呼吸をすると菖蒲の手を離した。
「菖蒲さん、学校まで来ちゃ駄目じゃないですかっ」
菖蒲はその言葉にキョトンとした。
そして首を傾げた。
「どうしてだい?」
「どうしてって…菖蒲さんは、妖で……………ってあれ?」
そこで真司は、ふと考えた。
(菖蒲さんって妖なんだよね?…なら、何でみんなに見えて?)
「あの…菖蒲さんって…もしかして、人間なんですか?」
(あやかしかと思ったんだけど‥‥昨日の発言からにしても)
菖蒲は真司の言葉にクスクスと笑った。
真司は何故そこで笑うのかわからなく、少しムスッとした。
「いや、ごめんごめん。そう機嫌を悪くせんでおくれよ。」
「別に、普通ですけど…」
「わかったよ。さて、さっきの質問だがね。私は、れっきとした妖やよ」
「え?でも、菖蒲さんはみんなに見えて…」
「私は、そこそこ力のある妖だからねぇ。力のある妖は、人に化け人にも姿が見える事があるんやよ。もちろん、姿を消そうと思えば消せるしねぇ」
「へぇ〜。そうだったんですか。」
(ていうことは、力のある妖ってことは…ぬらりひょん、とか??)
「して、真司や。」
真司は菖蒲の正体を考えていたが、菖蒲に名を呼ばれるとハッとした。
「は、はいっ」
「例の掛け軸は何処ぞ?」
「え?あ、今は家にあります」
今度は菖蒲が頬を少し膨らませてムスッとした。
「真司や、何故今持っておらぬ」
「何故って……学校がありますし…」
(というか……)
「菖蒲さんって、そうしてると幼く見えますね」
と言ったのだった。いや、つい口が滑って言ってしまった…が正しいだろう。
真司は、またもやハッとすると己の口を塞いだ。
(言ってしまった!!)
菖蒲は怒るだろうか、と少し不安だったが、当の本人はケロッとしていた。
「うむ。よく言われるな。」
「あ、よく言われるんですね」
「うむ。って、そんなことはどうでもよい!ほれ、真司。お前さんの家に私を招かんか」
「えぇ?!」
(急過ぎるっ!)
「私は、はようその掛け軸を拝見したんじゃっ」
「う、うぅ…」
真司は菖蒲の押しに押されて、渋々「……はい」と答えたのだった。
そして、真司は来た道を更に引き返して自分の家へと向かった。
幸い、家には今は誰もいなかった。
「真司、家の者はおらぬのか?」
「そうですね。今は、両親は仕事ですね」
「そうか」
「??」
真司は少し首を傾げたが、気にせず菖蒲を家の中へと招いた。
「どうぞ」
「うむ。お邪魔するぞ」
真司の家は、学校から10分ぐらいの所にあった。
一軒家が並ぶ通りに、真司の家は建っていた。
「それにしても、お前さんの家は立派な洋風じゃの」
「そうですか?まぁ、引っ越してきたばかりで、リフォームとかもやりましたからね」
(ていうか、今、菖蒲さん、じゃのって言ってなかったけ?いや、さっきから言ってるよね…?)
「ふむ。通りでお前さんの喋りには訛りが無いのか」
「あ、そうですね。」
「ふむふむ。」
菖蒲は納得したかのように頷いた。
「して、掛け軸は何処ぞ?」
「持ってきます。ここの部屋で待っていてください」
「あい、わかった」
真司は菖蒲を自分の部屋へと入れると、階段を下り庭にある少し大きい物置き入れの扉開け、掛け軸を見つけるとそれを手にして再び部屋へと向かったのだった。
―ガチャ
「お待たせしました…って、何してるんですかっ?!」
真司は手にした掛け軸を落としそうになった。
菖蒲はというと、ベッドの下を覗く格好のまま真司をキョトンとした顔で見ていた。
「見ての通りやの」
「はい?!」
「うむ、最近の若者はベッドの下にイヤラシイ物を隠しておると、お雪から聞いての。確かめようと思ってのぉ」
真司は頭痛がしてきたのか、眉間を軽く揉むと溜息をついた。
「菖蒲さん…普通はそんな所にありませんよ」
「なんじゃ、つまらんのぉ」
「それに、そもそもそんな物、僕の家にはありません」
「な、なんだと?!」
「その……そういうのは、少し…」
そう言うと、真司は目線を菖蒲から逸らし頬を欠いた。
「お前さんは初心だな」
「………」
恥ずかしそうに俯く真司は、菖蒲の言葉に言い返せなかったのだった。
(まったくのその通りです‥‥)