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あやかし商店街~二


パチリ、と少年は目を覚ました。

「ここは……」

目覚めた先には、見慣れぬ天井がそこにあった。

「えっと……」

「おや?目が覚めたかえ?」

「???…あ!!」

少年に向かって、静かに団扇を扇いでいる女性はニコリと微笑んだ。

少年は、その女性の顔を見ると思い出したかのように慌てて体を起こした。

「ふむ。すっかり元気になったようやの」

「こ、こここって…」

「ここかえ?ここは、あやかし商店街で、私の店さ」

「や、やっぱり…」

「さて。つかぬ事をお聞きするが、お前さんは人間だね?」

「は、はい…」

(ってあれ?という事は‥‥この人って(あやかし)?!)

「また、何で人間がこんな所に」

少年はその言葉に少し俯いた。そして、弱々しく言った。

「あの……僕…助けてほしくて…」

「助けてほしい??」

少年は頷いた。

「僕…昔から変な物が見えてて…それでも無視してきたんです。目も合わせないようにして…」

「ふむ。それが妥当の判断やねぇ」

「…でも…最近、家の中で泣き声が聞こえ始めて…」

「泣き声?」

「はい…。両親には聞こえないようなんですが…。僕、それも無視しようと思ったんですけど。でも、何だか………本当に苦しそうな…悲しそうな泣き声だったんです。それで、声が聞こえる物置の中を探ってみると掛け軸を見つけたんです。」

「ほぉ〜掛け軸かえ」

「はい。その掛け軸を広げたら、そこには小さな女の子が描かれていました。女の子は、僕が掛け軸を広げると、泣きながら僕に助けを求め始めたんです。」

「ふむ。それで?」

「でも、その子は泣くばかりで…。僕には、その子を助ける方法もわからなくて…。それで、先日噂を聞いたんです。子の正刻にあかしや橋を渡ると、あやかし商店街へと繋がるって。それで、妖ならきっと助けられるんじゃないかって思って‥‥」

「なるほど。それで、あの時間に橋を渡ったんやねぇ」

「はい…。」

「お前さん、名は?」

「え?あ、えっと、宮前真司みやまえしんじです。」

「真司か。ふむ。私は、この骨董屋の店主の菖蒲あやめと言う。よろしゅうな」

菖蒲はそう言うと、ニコリと微笑んだ。

その微笑みがまた美しく、真司は少し照れたように返事をした。

「よ、宜しくお願いします」

「さてさて。真司。その掛け軸は今は何処に?私にも見せてほしいんじゃが」

「あ、すみません。今は持ってないんです…。」

「なるほど。そうか。なら、仕方ないね。」

「あの、明日…持ってきます」

「ふむ…そうだね。さて、人間の世界ではもう遅い時間だ。橋まで送ってあげるから、今夜ははよお帰り」

「あ、はい。」

そう言うと、菖蒲と真司は立ち上がると、廊下を渡り店内へと向かった。


菖蒲の店内は、レジカウンターに多彩な小物や壺、和紙の絵などが置いてあったり飾られていたりしていた。

真司は、物珍しそうに辺りを見回した。

(なんだか、小さな博物館みたいだなぁ)

そう思っていると、隣にいる菖蒲がクスクスと笑った。

「なんだい。ここに置いてあるのが物珍しいかえ?」

「え?あ、まぁ。」

「ここに置いてある物は、全て大切にされた物達ばかりわよ」

「大切に、ですか?」

「あぁ。そして、その主人が亡くなると、物達は寂しくなり此処にやってくる。ここはね、そんな物達が次の主人に会うための店なんよ」

「はぁ」

真司は菖蒲の言っている事がいまいちわからなくて、曖昧な返事をした。

(寂しいって…物が??)

そう思うと、真司は側にあった色とりどりな石がハメられた硝子のコップと雪兎の絵が描かれている陶器をジッと見つめた。

「ほら、さっさっと行くよ」

菖蒲が店の扉を開きながら言った。

真司は慌てて返事をすると、硝子のコップと陶器から視線を逸らし菖蒲の骨董屋を出たのだった。



―そして、翌日。


真司は先日の事を思い出しながら学校へと向かっていた。

(あれは…夢じゃない、よな?)

昨晩、菖蒲は、真司を橋まで送ると

「明日、必ず持ってくるんだよ」と念を押されて言われたのだった。

そして、真司が橋を一歩歩くと辺りの風景は賑やかな商店街から一変して、暗く静かなただの橋になっていたのだった。


(なんだか…夢のような気もするけど……)


校門近くまで来ると、なんだか人が騒ついているのが聞こえてきた。

「??」

真司は何だろ?と思い首を傾げた。

すると、前を歩いていた男子生徒が

「おい!なんかすっげー美人が校門前にいるらしいで!」という声が聞こえてきた。

(美人な人?そういえば…)

「菖蒲さんも美人だったなぁ〜…」

と真司はポソリと呟いた。

すると、校門の方から「真司!」という女性の声が聞こえてきた。

「へっ?!」

(この声って)

校門まで来ると、真司は唖然とした。

校門前には、明るい赤ピンク地に橘(中には桜、撫子、桔梗)が刺繍されている着物を着てニコリと微笑んでいる菖蒲が立っていた。

「あ、菖蒲さん?!どうしてここに?!」

「驚いたかえ?いやね、どうも夜まで待ってられんくてねぇ〜」

そういうと、菖蒲は自分の右頬を触った。

「ふふっ、だから、お前さんの通う学校まで来たんよ」

と和かに言ったのだった。端から見ると照れながら言っているみたいに見えた。

「……………」

真司の目は一瞬点になったが、周りの生徒達が「あれ、誰?」「うわっ、あの美人あいつの彼女か?!」「あの子どこの学校やろ?可愛いなぁ」などの声が聞こえてきたので、真司は慌てて菖蒲の腕を掴むと来た道を引き返したのだった。

「おやまぁ」

と、菖蒲は言いながら真司に引っ張られるがままに歩いていた。

後ろの方では、密かに「愛の逃避行か?」などと言われている事を真司は知らなかったのであった…。

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