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ヒロイック・ヒーローズ

作者: 矢光翼


なぜこの世界には転校生と言う存在がこんなにも広まっているのに...滅多に見かけないのでしょうか。

漫画の中、小説の中だから?いいや違うね。

きっとそれは、未来へ選ばれたからなんだ。

漫画を読むのが好きだ。特に、少女漫画。

少女漫画には何故かロマンが詰まってる気がする。

男の僕が言うのはいささかおかしい気もする・・・この際気にしないのが双方共に一番。

そんなロマン溢れる少女漫画の中でも、一際僕が憧れているのが、転校生。

漫画ではあれだけ乱用された転校生と言う存在。なのに、いざ現実を体験すると、転校生って奴は非常に稀有なものだ。

そのはずだ。

だって僕は今まで、転校生を迎え入れたことがないのだから。


家の中で本を読むのが好きだ。特に、恋愛モノ。

恋愛モノにはどういうわけか、心を掻き立てる何かがある気がする。

男の僕が言うのはいささか女々しい気もする・・・この際忘れてしまうのが僕的には一番。

そんな心騒がせる恋愛モノの中でも、一際目立つ存在が、転校生。

恋愛モノであれだけちやほやされる転校生という存在。なのに、いざ現実を生きてみると、転校生って奴は非常にレアキャラだ。

そのはずだ。

だって僕はある日を境に、学校へ行っていないのだから。


転校生を迎え入れたいという欲望は、自分の行動で叶えられるものじゃない。

転校してくる人に「転校してきて!」なんて言える訳がない。

ていうか、転校してくる人にとっては、転校自体楽しいものではないのかもしれない。

そうだ、きっとそうだ。僕が転校生を望むことは、転校生の気分を損ねることなんだ。

これ以上願うのを辞めておこう。

だって、今回転校するのは、僕なんだから。


転校生を一目見たいという欲望は、自分の懇願で叶えられるものじゃない。

転校してくる人に「僕の家に来て!」なんて言える訳がない。

ていうか、転校してくる人にとっては、転校初日から引きこもりに会うなんて嫌かもしれない。

そうだ、きっとそうだ。僕が転校生を望むことは、転校生の気分を損ねることなんだ。

これ以上絵空事を並べるのは辞めておこう。

ピンポーン。

転校生に踏ん切りを付けた所で、インターホンが鳴る。

親は、居ない。

この時間だと、兄ちゃんも・・・居ないか。

よし、居留守だ。

ピンポーン。

僕の経験だと、五度目以降は大体の人が諦める。そうやってセールスマンを退治(?)してきたんだ。

ピーンポーン。

・・・今の。まさか・・・

いや、ただ普通に僕の家のインターホンが押した長さによって音の長さが変わるタイプだって気付いただけか。

それがどうしたってんだ。僕はセールスには屈しない!・・・でももし

ピーーーンポーン。

違うみたいだ。もう四度目。次を凌げば!

しかし、しつこいなぁ・・・

ピーーーーーーーン・・・・・・・ポーン。

嫌がらせか!?

クソッ、こっちの平常心を揺さぶる作戦か・・・

「あ、あのー!」

声!?物理的に来た!?

・・・ん?声大人っぽくないな・・・

「こちら、大隈おおすみあらたさんのお宅ですかね!」

・・・個人情報つかまれてる。

てか、そんなこと大声で言うなよ!とは口に出さない。

あくまで無視!

居ないと思わせればこっちの勝ちだ!

と、思っていたけれど、どうやら僕の負けのようで。

「学校のプリント持ってきたんですけどぉ!居るよね!?新さん!」

学校・・・なら仕方ないか。

僕は諦めてドアを開ける。

するとそこには・・・

僕の学校の制服を着た、見たこともない青年が立っていた。

「あ、君が新さん?僕、転校生の志村しむら誠也せいや!よろしく!」

僕の願いは、案外呆気なく叶えられる形となった。


「はぁ?転校!?」

僕が父親から転校を言い渡されたのは、一週間前。

「ごめんな。いきなりだが、転勤になった」

「いやあの、いきなりすぎるっしょ・・・僕初耳だよそれ」

「いつ言おうかいつ言おうかって思ってたら、あと四日まで迫ってしまったんだ」

「あと四日ァ!?えっ、あ、あと、四日!?」

「あぁ」

「いやなにが、あぁ、だよ!?いきなりすぎやしない!?」

「だから、すまん」

「ま、まぁ・・・まだ別れの挨拶とかできるし、別にいいけどさぁ・・・」

突然すぎる言い渡しに、僕はその日眠ることができなかった。

次の日、完全に寝不足な僕を見て母は、

「目元がアライグマみたいね」

とか言ってたけど僕にはやることがあるので

「人間大のアライグマかー。稼げるかなー」

とだけ言って、家を出る。

「誠也!ご飯は!?」

「いいや!お腹空いてない!」

「あら、そう・・・」

僕は、仲の良い友人の宅を回り、三日後に転校することを告げた。

友人達は、最初は驚き、それから贈り物を明日明後日までに用意すると言ってくれた。

ただ、明後日からは引越し業者が来たりと色々面倒なので、申し訳なく思いながらも、僕の家に来てもらえるように頼んだ。明後日組は皆オーケーしてくれた。

次の日。朝起きて再び友人宅を回ろうとしたら、

ピンポーン。

インターホンが鳴った。

出ると、目の前には数人の友人が。

「ほれ、プレゼント。思い出残る系のやつ買ったから、あっちでも絶対忘れないぞ」

「はい!いきなりでこんなものしか買えなかったけど・・・」

「ここはあえて食いもんを渡そうと思ってな!お前みかん好きだろ!みかん味のかりんとう!」

「あっちでも、元気でね!シャーペン、よければ使って!」

つい昨日転校するって言ったのに、次の日にはプレゼントをくれる友人。

僕は出発はまだなのにすこしだけないてしまったけどみかん味のかりんとうって何・・・あ、おいしい。

次の日、引越し業者が自宅に到着。

それから少しして、

ピンポーン。

インターホンが鳴る。ドアを開けると、そこには昨日とは違う友人達。

いや、中には昨日も来ていた友人達も居た。

僕は再びプレゼントをもらった。

その中には、クラスメイトのメッセージが書かれたものが。

「これ・・・」

「めっちゃ疲れたとだけ言っておくぞ!お前が言うのもっと早かったら、もっとちゃんとしたやつ渡せたのに!」

「とかいって~!さっきまで『誠也にとって最高のプレゼントにするんだ』って意気込んでたのは誰だっけ~?」

「ばっ、お前なぁ!!」

「ははっ!!はははっ・・・はは・・・」

僕は次第に視界が歪んでいくのがわかった。

「・・・そんなんで泣くなよな!別に死ぬわけじゃねぇだろ!」

「そうだよ!会おうと思えば会えるんだから!ね!」

「うん・・・グスッ・・・ありが、とう・・・!」

「ま、あっちでも楽しくやれよ!誠也は人気者だからな!」

「あっちで人気すぎて俺らのこと忘れるなよ?」

「わ、忘れるわけないだろ!!曲がりなりにもここは生まれ育った地なんだから!ここが一番思い出深い場所に決まってるし、一番思い出深い場所で友達になれたお前らが、一番の友達だ!」

「そういうこと恥ずかしげもなく言えるところが、好かれるんだろうよ!」

僕たちは数十分話した後、解散した。

引越しの荷物を整理し業者に渡して・・・遂に引越し当日。

電車で二時間以上掛かる場所らしい。

父は細かな荷物を車で運ぶので別行動。

僕は母と駅に到着。

するとそこには、クラスメイト。

結果的には、三日連続で泣かされることとなった。

「絶対、また来るからな!予告もなく来てやるから、絶対誰も居なくなるなよ!」

全員が肯定の意を示し、僕はその場を後にした。

数時間後、僕は新天地へ到着した。

父が急に転勤になった縁もゆかりもない場所。

まず目に付いたのは・・・

「高校、駅から近っ!!」

駅から出たらもう見えるレベルの近さ。

僕が元いたところは駅から歩いて二十分程度の場所にあった。夏なんかは地獄の行進だ。

二日間、転校手続きが終わるまで時間があったので、迷わないように周辺を散策してみることにする。

あたりまえながら、なにもかもが違う。

たまに似てるところがあると思ったら、数歩先は別の世界で、何度かそれを繰り返し、その都度少しばかりの不安に煽られる。

僕はここで上手くやっていけるだろうか・・・

まぁそんな時に限って友の声がフラッシュバックするわけで。

「あっちでも楽しくやれよ」・・・楽しく行きますか!

そんなこんなで、手続きも終わり、二日後。

新しいクラスを見据え、ドアの前で呼ばれるのを待っている。

自分が転校生になっちゃったかぁ・・・実際、とても楽しいものじゃなかったなぁ。漫画の世界の転校生は運命の人に会うために苦労してんだなぁ・・・

「じゃ、入っていいぞ」

よしっ・・・

ざわざわした空間へ一歩踏み入れる。

今まで感じたことのない空気感。

俺以外の人間で築かれた空気感に、俺は仲間入りする。

「僕の名前は志村誠也です!よろしく!」

こうして、転校初日が始まった。

「じゃあ席は~~・・・」

「あの窓側の席ですか?」

すると担任は首を振った。

「あぁいや、そこはもう"いる"から、こっちの真ん中の席な」

「ど、ど真ん中ですか!!」

僕のリアクションで笑いが起こる。どうやら楽しそうなクラスだ。

僕は自分の席に向かいながら、窓側の空いた席を見た。

今日は欠席だろうか?だとしたら早いうちに挨拶をしたいな。

HRは僕という転校生襲来以外のイベントはなく、何事もなく終わり、途端に僕は包囲される。

あ、あぁ、本当に転校生って包囲されるんだ。

数ある少女漫画でも、大多数の転校生はHR終わりに包囲され、質問のガトリング。つまり・・・

僕も撃たれたわけだ。そのガトリングに。

その中で一度だけ、僕から質問する機会があった。

「そういえば、あの窓側の席の人って、今日休みだよね?性別どっち?」

「最初に性別気にするって、誠也君結構狙ってる?でもまぁ、"あいつ"を狙うのはアホかな。そもそも男だし」

「あ、男なんだ。どんな人?」

ここで僕は、彼について知ることになる。

「いや、あぁ~・・・知らないんだよね」

「・・・へ?」

「会ったことが無いって言うか?」

「・・・本当に?」

「高校、数日しか来てないからさ」

「・・・誰も顔とか、覚えてないの?」

「ん、あぁ。一年の時とりあえず進級するギリギリの出席日数らしくてさ」

「それにしても顔は」

「影がうっすいんだなぁ~」

「・・・なるほど」

「ねぇねぇんそれより!-----」

という感じで終いには話を変えられてしまったものの、僕はその彼に興味を持ってしまった。

まぁなんというか・・・このクラスの完成されつつある空気に触れたことない人間が、僕以外にも居るということがそういう興味を引き立てたんだと、思う。

そんなわけで、

「じゃこの手紙配ってな~」

僕はこれをチャンスだと思ったわけだ。

「あの、先生!」

「ん、どうした?」

「えっと、その・・・」

そういえば。

名前を把握してなかった。どうにか目配せでその意志を伝えようとする。

そこは先生、ちゃんと僕の考えを読み取ってくれた。

「大隈か?」

「はい!その・・・彼の家に手紙届けに行ったり・・・?」

急にざわつく教室。まぁ、こういうものなんだろう。

「行ってくれるのか?」

「はい!」

担任が言うには、担任と彼の家は近所で、毎回帰宅ついでに手紙を渡しに行っているそう。

丁度いい。今まで手紙が溜まってたらきっといきなり来た僕に警戒を示すだろう。

先生が普通に接する先生でよかった。

放課後、僕は先生から彼の住所を聞き、向かうことにした。

数度迷った後、どうにか彼の家と思しき建物まできた。

な、ま、え、は・・・大隈、オッケー!

僕はインターホンを押した。

ピンポーン。

・・・反応がない。留守だろうか?

いや待て。担任が言うに、彼はいつでも居留守を使うらしい。ここはもう何度かチャレンジすべき!友情はしつこさから生まれる!

ピンポーン。

そこで僕は気付く。

あ、このインターホン押す長さで音の長さ変わるや。次から伸ばしてこ。

そんなこと考えてるうちにも返事はない。じゃあもう一回。

ピーンポーン。

指と同じスパンで流れる音に少しの快感を得る。

小さい頃に友人の家のこのインターホンで友人と数十分遊んだのを思い出した。それにしても出てこないな。

ピーーーンポーン。

・・・反応がない。こうなりゃ意地だ。ツッコませよう。

ピーーーーーーーン・・・・・・・ポーン。

・・・どうやら彼はボケ体質みたいだ!恐らくツッコミ方がわからないんだろう!

音でだめなら・・・じゃあ声かな。

「あ、あのー!」

気配なしかな?でも反応はするはず!

・・・でも次で出なかったら流石に帰ろう。本当に留守かもしれない。

「こちら、大隈新さんのお宅ですかね!」

えーっ・・・もう・・・絶対居ると思うんだけどなぁ・・・あと一押しして出なかったら帰ろう!

「学校のプリント持ってきたんですけどぉ!居るよね!?新さん!」

数秒して、鍵が開く音がする。

ビンゴ!やっと来た!

ドアが開き、そこから顔を出したのは、眠そうな目をした同学年っぽい青年。

どうやら彼が"そう"っぽい。まずは自己紹介をしよう。

「あ、君が新さん?僕、転校生の志村誠也!よろしく!」

転校生、志村誠也と引きこもり、大隈新はここで初の邂逅を果たす。


ドアが開いて数分。二人はしばし黙ったままだった。

「「・・・」」

「・・・あっ、これ」

先に口を開いたのは誠也。バッグからプリントを抜き出し、新に渡す。

「・・・えっ、あ、あぁ。ありがとう・・・ございます」

再び、沈黙。

(・・・本当に誰だこの人。いや、うちの制服だし・・・ってかそもそもいつもは先生が来るはずだし)

微動だにせず思案を巡らせる新。無理もない。登校してる生徒でさえ初対面なのだ、新と面識があるわけはない。

(えっとこれは・・・疑われてる?)

「あ、ほら制服!あと、手紙・・・ほら、ちゃんと高校のやつ!」

「あっ、えっと・・・はい」

「君・・・本当に大隈新さん?」

「えぇ・・・?」

「あぁ、いや、なんというか!その・・・反応が薄いもんだから・・・」

「間違えてないです。僕が大隈新です」

「よかったぁぁ!改めて自己紹介!僕は志村誠也!転校してきましたっ!」

「そういやさっき転校生って・・・」

密かな憧れ。転校生という存在が、目の前に。

「覚えててくれたんだね!よかった!それじゃ!」

これ以上の長話で突然沈黙に襲われるのは苦行だと確信し、誠也は今日のところは帰ろうとする。

(明日も来よう!)

口に出さず決意を述べて。

しかし、誠也の行動は以外にも遮られる。

「あ、あの!」

「ん?」

「・・・もし良かったら、明日もプリント持ってきてもらえない、ですか?」

新は、転校生への興味を遠まわしに表す事にした。

そしてそれは偶然にも誠也の狙いともマッチしたので当然・・・

「オッケー!明日も持ってくる!じゃあね新くん!」

誠也はここへもう一度訪れる予定が確定した。少しだけ、心の距離を近づけて。


翌日。ここで誠也は知る。

大隈新が学校へ来ない理由のヒントを。

「昨日、大隅君の家に行ったの?」

誠也に声をかけてきたのはクラスの女子。

「え?うん。プリント渡しに!」

「そっか。家から出た?」

「普通に玄関先で話したよ?君は新くんのことわかるの?」

「小学校から、同じなの」

「そうだったんだ!ねぇ彼ってどんな人?」

すると急に何も言わなくなる女子。

誠也は察する。

「あ・・・まさか、引きこもる原因と関係してる・・・?だったらごめ」

「違うの!違うの・・・」

誠也の言葉を遮った女子の目は、少しだけ潤んでいた。

「新は・・・とっても優しいの。でもその分、一人で抱え込んでしまう・・・」

「・・・」

誠也は、感じていた。

新の引きこもりの原因は、高校に入ってから、いや、それ以前からのいじめなのではないかと。

「でもね、社交性もあって、友達もいっぱい居た」

(・・・?)

「だからね、勘違いしないで欲しいの・・・新は決していじめとかで不登校になったんじゃない。むしろ、学校は彼にとってとても楽しい場所だったはず」

いじめじゃない。恐らくこの人は嘘は言っていないであろう。

「きっと、新は喜んでる」

「・・・へ?」

話が飛んでいる気がした。

「よ、喜ぶって、なんで?」

「学校の、先生じゃない人が、家に訪ねることなんて、私以外なかったの・・・だからきっと、志村君が、新たの高校生活初めての友達になるかも・・・って、ごめんね、いきなりこんな話して」

「あ、いや、大丈夫。僕に任せてよ!・・・」

じゃあ、授業始まるから、と、女子は去っていった。

(高校生活初めての友達かぁ・・・僕もそうなのかなぁ)

不登校の理由が気になりながらも、放課後を楽しみに二日目の生活を過ごした。


学校が終わり、新の家の前。

「・・・」

少しばかり、迷っていた。

「ま、いいか!」

ピンポーン。

本当に少しの迷いだったのか、インターホンを押す。

「志村です!新くん居ますか!」

インターホン押した時はなんの音もしなかったのに、名前を言うと物音がする。

「はい」

「やっほー新くん!約束どおり来たよ!」

「・・・どうぞ入ってください」

「え?」

「お茶飲んでってください」

それは、新にとっては精一杯の時間の共有。

それは、誠也にとっては嬉しすぎる誘い。もちろん断る理由もなく。

リビングでお茶が入るのを待っている状態。

ここで、少しばかりの迷いの原因を告げる。

「あ、新くん?」

「なんですか?」

「いや、実はさ・・・」

「・・・?」

「今日、プリント配られなかったんだよね!あははは・・・」

「・・・はい?」

「・・・えっとだから、プリント渡すために来るはずなのに、プリント配られなかったから・・・来ても良かったのかなぁと?」

「・・・気にすることないです。むしろ嬉しいですから。僕に会いに来てくれるクラスメイトなんてもう居ませんし・・・」

新は、同級生の訪問に喜びながらも、人見知りを発症していた。

(あ、あれ?違和感ないかな?僕おかしいこと言ってないよね・・・?大丈夫だよね?)

「嬉しい事言ってくれるね!今日来て良かった!」

(ホッ・・・)

新は安堵しながら紅茶を出す。

「ありがと・・・あ、おいしい!」

「僕が気に入ってるやつです。口に合って良かった・・・」

「すごく美味しいよ!」

「部屋でゲームしてるか、紅茶作るかぐらいしかやることないですから」

「「・・・」」

非常に気まずい沈黙。

その原因が自分の発言だと気付いた新は慌てる。

「えっ、あぁ、えっと、その・・・いやぁ・・・気にしないでください!学校行ってないのは自分の意志なんです」

「へ、へぇ・・・そうなんだ・・・」

女子の言っていたことを思い出す。

社交性があって、友達もいる。そんな彼が学校へ自分の意志で行かなくなる理由・・・

理佳りかから、何か聞きましたか?」

「りか?」

「はい。僕と同じクラスってことは、理佳も同じクラスな筈なんですが・・・僕と小学校の頃から一緒の」

「あぁ、あの子!ごめんごめん!僕まだ二日目だからさ!」

「無理もありませんね、転校生ですもんね」

「新くんは社交性があって、友達もいっぱいいるって聞いててさ、そんな人が不登校に・・・って、転校してきたばっかの僕が聞くのは失礼だよね!ごめんごめん!」

「んん、いいんだ。まぁ色々あったんだ。逆に今までの僕を知らない君だからこそ話せることもあるかもしれない・・・でもとりあえず今日は、他愛も無い話をしたいな」

新自身、いつの間にか敬語が消えていることに気付いていなかった。

それは、たった二日ながら、自分に何のしがらみもなく接してくれた誠也への敬意の表れだったのだろう。

そこからは本当に趣味の話や今日の天気など、本当に他愛もない話をしたが、ここで話は誠也の事情へと移り、そして・・・

「転校生ってさ、やっぱ疲れる?」

「疲れるね。漫画でよく見る包囲網は現実だったんだって思い知ったよ」

「漫画かぁ・・・どんな漫画読むの?」

「・・・笑わない?」

「笑っちゃうような漫画って何さ」

「いや、僕が読むのはあまり男子が進んで読むものじゃないって言うか・・・まぁバイブルではあっても所持してる数で言えば僕はかなりいってる方だと言うか・・・」

自分と通ずるところがある・・・それは新の感想だった。

もしかしたら・・・いやでも違うのではないか?これで違ってたら普通に僕は失礼な引きこもりになっちゃうんじゃ?

と、不安要素が増えていく。でも聞かずには居られなかった。

「それってさ・・・恋愛モノだったりする?」

そして・・・転校生と引きこもり、最も遠い二人の最も近い話へと発展する。


「それってさ・・・恋愛モノだったりする?」

びっくり。

いや・・・えっと・・・

「・・・正解」

瞬間、彼の顔がすこし綻ぶ。

「よかった・・・不正解だったらどうしようかと」

「新くん鋭いね・・・もしかして新くんも?」

「えっと・・・漫画じゃないんだけど、まぁ」

「小説?」

「うん・・・恋愛小説。小学校のころ読んだ児童小説が今でも忘れられなくて」

「どんなやつ?」

「朝遅刻しそうになって、そこで見知らぬ男とぶつかって・・・っていう結構ベタな展開なんだけどさ!でも、なんていうか・・・僕にはそれがとても遠い出来事に感じられて」

「遠い出来事?」

「うん。ほら・・・転校生」

「・・・わかる」

「え?」

「転校生、迎え入れたことがない?」

「・・・ない」

・・・

「僕も!」

「そ、そうなの?」

「そう」

「志村くんのところも転校生が居なかったんだ・・・」

・・・・・・

「転校生ってさ、案外居ないんだよね」

「うん・・・」

「俺は転校生に会ってみたかった。でも転校してくるって事は・・・そういうことでしょ?」

そういうこと。なぜか今だけは、彼と思考が繋がってる気がして。

「そういう、ことなんだよね」

それは決して、間違いではなかった。

「「でももう・・・あっ」」

僕と彼はまるで示し合わせていたかのように、一つの言葉を紡ぎだそうとしていた。

多分、同じ言葉。


「その願い、君は叶ったね」

「その願い、僕は叶ったよ」


僕らは数分笑ってた。

ここまで趣味が合うだなんて。

ここまで願いが同じだなんて。

立場が全く違うのに、僕らは通じ合っていた。

それこそ、一心同体だとでも言うように。

「・・・学校、行ってみようかな」

「・・・え?」

志村君はきょとんとした様子で僕を見ている。

「学校、行ってみようかな!」

改めて、決意を口にしたんだ。もう、大丈夫な気がしたから。


去年の四月。私は幼馴染の新とこの高校に入った。

それは単なる偶然で、中学のほかの人は散り散りになってしまって。

でも、不思議と不安じゃなかった。

幼馴染がいるってだけで、なぜかそこには安心があった・・・

「理佳!これからもよろしくね!同じクラスだといいなぁ・・・」

「そうだね!・・・えっと、私のな、ま、え・・・あった!」

「僕も名前見つけたよ!・・・あ!同じクラス!」

「やった!」

という感じで、私たちは無事同じクラスになった。

でもある日を境に、新は同じクラスでありながら、滅多に教室に現れなくなる。

それは、入学式から数日後のことであった。

私がお風呂から上がると、家の近くの公道をパトカーが数台通る。

「・・・なにかあったの?」

「わからん。物騒だな」

お父さんがぶっきらぼうに答える。

私は気にせずその夜を過ごした。

次の日、学校に新は来なかった。

先生は風邪だと言っていたけれど、いままで新が学校を休んだことはないし、昨日の様子を見れば、風邪をひきそうにもなかった。

放課後、新の家に行くと・・・そこには、規制線が。そしてその奥には、虚ろな目をした新が立っていた。

「新!?」

私の声に気付いた新が、ゆっくりと首をこちらに向ける。

警備員に咎められて規制線の向こう側に行けない。

私は、これが新と私を分断する分厚い壁に思えた。

新は、何も言わない。

いつも爛爛と輝いていた双眸は、完全な闇と化している。

何かがあったのは規制線が敷かれている時点でわかっていた。でもその『何か』がわからない。

でも、それを聞くことができない。聞いてしまったら、新が壊れて崩れてしまうように思えた。

「・・・」

新が口を開いた。

全力で聴覚を新に向ける。

「り・・・か・・・」

「・・・!!理佳だよ!新!!」

「な、んでも・・・ないから・・・」

新は昔から一人で抱え込むような人間だった。そしてそれを自分で解決してしまう不思議な力があった。

それが、今、新をこれ以上とない力で締め上げている。

なのに、私は・・・

「・・・!!」

ただ、泣くことしかできなかった。

気付いてしまったのだ。

新の服の裾に、赤い何かが付いているのが。

家に帰ると、お母さんが私に話があると言ってソファに座らせた。

「・・・なに?」

私はうすうす気付いていた。

もしかしたら、新の家の人が誰か・・・

そして、その誰かを新が・・・

でもその予想は私の勘違いだと知る。

「落ち着いて聞いてね」

「うん・・・」

「昨日の夜、新くんのお母さんが亡くなったわ」

「・・・その時新は、どうしてたの?」

「わからない。でもね、新くんが一番ショックだったはずよ」

「え・・・?」

「新くんのお母さんはね・・・旦那さんに刺されたらしいの」

「お・・・おじさんに・・・!?」

幼馴染である新とは、家族ぐるみの付き合いだ。

おじさんもおばさんも、そしてお兄さんとも仲良くしていた。

すすむくんは旦那さんを止めようとして、手を怪我したって」

進とは、新のお兄さんのことである。

私は、何も言えず自分の部屋に戻った。

家族同然の人が、しかもその夫婦が、そんなことに。

私でさえここまでのショックを受けている。

家族を大事に思っていた新はきっと、私が想像できないほどの・・・

「な、んでも・・・ないから・・・」

・・・私がやるべきことは、あそこで泣くことじゃなかったんだ。

一人で抱え込もうとしている新を助けてあげるべきだったんだ。

今新は一人きり。今新に一番近い存在は、私なんだ。

新の家に着くと、規制線は取り除かれていた。

インターホンを押す。ゆっくりと、泡を押すかのように。

ピーンポーン。

少しだけ長く押す。私がこの家を訪ねるときの密かな合図。

少しして、ドアが開く。

「新・・・」

「やぁ理佳。いきなり休んじゃったね。心配かけてごめん」

そこには、いつもと変わらない新が居た。

「新・・・!!」

「ど、どうしたの?」

「・・・もう、一人で抱え込まないで・・・」

心の底で、擂り潰されて擂り潰されて、ぐちゃぐちゃになってしまった言葉。

どうにか、心の奥から絞り出す。

私の涙と共に。

「・・・大丈夫」

私を何かが包み込む。

新の腕だ。

・・・違う。そうじゃない。そうじゃないの。

抱きしめられるのは私じゃない。あなたなの。

気付いて、新・・・あなたがどれだけ頑張ってるか。

私の声は届かない。新はとても強く、それでいて優しく、私を抱きしめた。

そこには、「もう、心配しないで」という声が流れているような気がして。

どうしようもなく、涙が溢れ出た。

ひとしきり泣いた後、私はもう一度言う。

「一人で、抱え込まないでね」

先ほどまでの強い懇願は、なぜか薄れてしまった。

その薄れを、新は・・・

「大丈夫。僕は大丈夫だから」

そう言って、受け止めた。

次の日、新は学校に来ていなかった。

次の日も、その次の日も。その間、新の家の話が出ることはなかった。

私は新の家に向かった。

インターホンを、押す。

ピーンポーン。

反応がない。もう一度。

ピーンポーン。

・・・まだだ。

ピーンポーン。

・・・諦めたくない。

ピーンポーン。

私は合図を繰り返す。

ピーンポーン。

そしてもう何度押したかわからなくなったところで、私はわかった。

もう・・・関わってほしくないの・・・?

それから今まで、そのインターホンを押したことはない。



どうして新は引きこもったのか。

なぜこの物語の登場人物がヒーローたりえるのか。

彼を手放した彼女は果たしてどう思い、どう想っているのか。

転校生にとって引きこもりとは。

引きこもりにとって転校生とは。


答えはあなたの頭に眠る。

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