プロローグ2
今度は呼び出される側のプロローグ。
さて、唐突な質問であるが皆さんは「縛りプレイ」というものをご存じであろうか。
え、なにいきなりSMプレイの話を始めてんのって? いや違うって! たしかにそういうプレイのことも言うけど、そっちじゃない!
俺が言っているのは、ゲームをプレイする上で言う「縛り」のことである。
なぜこんな質問をしたかだって?
そうだな……まず、縛りプレイの話をする前に、今のゲーム業界の背景について語らなければいけないだろう。
テレビゲーム然り携帯ゲーム然り、昨今のゲーム業界が輩出してきたゲームは、以前ゲームが初めて世に出始めた頃、その時よりもはるかに進化している。
ゲームで遊ぶ人間の年齢層も、大人や高年齢層に狙いをつけたゲームの発売により万人が遊べるエンターテインメントとなった。
そしてついに、人類は体感型ゲーム、VRゲームの開発に成功する。ゲームの中の世界へ飛び込み、自分が冒険する。誰もが考え夢見たこの革命的な発明は、全世界を大ゲームブームへ引きずり込むのに十分な衝撃を与えた。
しかし、しかしである。今のゲームの多くは進化と共に「ある物」が失われていったのである、昔のゲームには確かに存在したはずのそれ。
「最近のゲームは、『むずかしくない』」
皆さんも、こんな言葉を聞いたことが無いだろうか。そう、最近のゲームは確かに『やりやすい』のだ。
多くのユーザーを獲得するため、ゲーム業界が払った代償とは『難易度』。つまり、誰でもクリアできるように、攻略することが簡単になってしまったのだ、それはVRゲームでさえ例外ではない。
確かに、ゲームが簡単になったことによりゲームユーザーは増えた。しかし多くの人間が喜ぶ中で必ず泣く者はいる。
俺、斎藤 俊明はその泣く者の一人……俗にいうゲーマーである。
生まれた時からゲームが側にあった俺は、人一倍ゲームに長く触れてきた。17年の人生、大半をゲームに生きてきたと言っても過言じゃあない。
そんな俺は、時が経つごとに簡単になっていくゲームに耐えられなかった。
誰にでも分かりやすいよう単純化された戦闘システムは、何度やり込もうと初心者と熟練者の違いを生み出さず。
呆気なく倒されるボスには、最早爽快感を通り越して虚しさを覚え。
頭を悩ませ、冒険心をくすぐられる筈のダンジョン攻略も、つまらないものとなってしまった。
そんなのは嫌だ、俺はもっと、上手くなりたい! 苦労してボスを倒したい! ハラハラしながらダンジョンを進みたい!
もっと本気でゲームを楽しみたい……だからこその「縛りプレイ」なのである。
縛りプレイとは、簡単に言えばゲームプレイをある程度制限することだ。
軽度のものであれば、強過ぎる武器や防具を使用しなかったり、仲間の人数や種類を特定してみたりするなどが挙げられる。
もちろん、この程度の縛りならばゲームをクリアすることに支障はあまりないだろう。
しかし、重度の物なら話は別。レベルアップをしない、一人で攻略、防具武器を使わない等。中にはボタン封印や目隠しプレイ、実際に自分の身体に制限をかけて行われるものもあるのだ。
こんな縛りをかけてしまえばゲームのクリアすら困難になる、だがそこには今のゲームには失われた「困難」が確かに存在している。
そう、だから俺は挑戦するのだ……。
「このVRゲーム! 『フリーダムフロンティア』の縛りプレイにな!」
「俊明! うるさいぞ! 今何時だと思ってるんだ!」
うげ、VRマシンの前で高らかに宣言してみたが下のリビングにいる父さんに注意された。
ちなみに、現在時刻は午前5時。うん、思いっきり近所迷惑だね。
「ごめんごめん、静かにするって」
とりあえず外に音が漏れないよう自室のドアをきっちり締めた、俺ってゲームするとき結構うるさいから特別にこの部屋を防音仕様にしてもらっているのだ。まあVRマシンの駆動音もそれなりに大きいしね、ついでに窓も閉めて近所の人にも聞こえないようにしておこう。
「よーし、これでようやく始められるな」
今俺がやろうとしているゲーム「フリーダムフロンティア」、略してフリフロとは、VRゲームが出回り始めた初期に発売した物で、オフライン専用ゲームでありながら未だ人気が高い箱庭型ゲームだ。
初期というだけあって、後に発売されるソフトの試験的な意味合いがあったらしくオンライン環境は無い。しかし難易度の試験も兼ねてたから、現在発売されてる中では一番やりごたえのあるゲームだった。
まあぶっちゃけ、これより後に発売されたVRゲームがみんなフリフロ以下の難易度になってしまっただけだが。
VRゲームが出回り始めていた時期から、既にゲームの難易度低下がゲーマーの中で問題視されており、やりごたえのあるフリフロは当然の如くハマるゲーマーが続出。更にゲーム初心者が手を付け始めたのもだいたいこのゲームだったことから発売当時は爆発的な人気を誇った。
当然俺もハマった、そりゃもうフリフロ廃人と呼ばれるほどハマった。というか、発売から数年近くたった今でもハマってる。
当然人気がでたから2が作られたものの、例の如く難易度が調整されてしまっているので俺は今でもフリフロ廃人である。
「VR画面の録画準備よし! DLCのセットもよし! あとは座ってマシンを起動するだけ!」
縛りプレイを始める前に最後の確認を行う。録画は某動画サイトにこの縛りプレイを投稿するために、まあそのまんま投稿したら削除されるだろうから手を加えるけど。
あとDLCなのだが、実は俺、DLCを購入したのがつい昨日だったりする。
なぜかって? それはその、ほら。俺の部屋だけ防音仕様にリフォームとか、VRマシンとか、全部親に借金してやってもらったから……。
うう、バイトをいくらしてもお金が貯まらぬ日々は辛かったなぁ、まだ借金余ってるけど。
今回の縛りプレイを始めるきっかけもこのDLCを購入したのが理由。ネットで「神DLCキタ!」とかすごい騒がれてたから当時は悔しくて悔しくて……!
まあDLCのおかげでストーリーの選択肢が増えたりグラフィックが別物レベルに進化したと聞くし今となっては楽しみでしかないが。
「さて、この前代未聞の挑戦は果たして成功するのか……!」
舌舐めずりをしながら、VRマシンの座席へ腰かけヘルメットを装着する。
俺が今から行おうとする縛りプレイ、少なくともネット上に動画としてアップされてはいなかった。
大ブームを起こしたゲームなんだから縛りプレイなんて粗方上がってるんじゃないのか? という疑問もあるだろう、まあそこら辺は見てもらえばわかる。この縛りはきつ過ぎて誰にもクリアは出来ないだろうことに。
だがそれでもやる、それだからこそやるのだ。
そこにこそ、俺の求めている困難が存在すると信じて。
「そんじゃ、いっちょやりますか!」
VRマシンのスイッチを入れゲーム世界へダイブする。
いつも通り、瞼の裏から光を感じながら……ん? なんかいつもより光が強いような。
光の次に、いつも通り体の浮遊感を感じながら……んん? なんかいつもより浮遊感が長い気が。
まあ気のせいか。とにかく、俺の縛りプレイは幕をあけたのであった。
20xx年4月×日午前5時。この日、日本で奇妙な失踪事件が起きた。
自室でVRゲームをプレイしようとしていた17歳の少年が、何の音沙汰もなくその姿を消したのだ。
窓や自室の扉が開けられた痕跡はなく。少年の家族も自室から出た様子を確認していない。
近隣住民から目撃談すらないこの事件は、警察の捜査も虚しく解決されず、迷宮入りすることとなった。
――――もし、この少年。斎藤俊明が行方不明となる瞬間を見た人間がいれば、恐らくこの事件はもっと不可解な事件になっただろう。
何故なら、彼が行方不明になった時。座っているVRマシンを囲むように七色に光る魔法陣が展開されていたのだから。
しかしそれに気付いた人間はいない。或いは、斎藤俊明本人でさえも。
更新ペースは少しずつ落としてきます。
感想等ありましたら大歓迎です。といっても感想書いていただけるほど文章書いてませんけどね! 精進します……。