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プロローグ

数年ぶりにこちらで小説を書かせていただきます、民民6と申します。

2回OVL大賞の企画を見て、是非とも自分の力を試したいと思ったので挑戦してみます。

拙い文章ですが、よろしくお願いします。

なお、途中であらすじをちょっとだけ変更する予定があるので注意してください。

「リーゼル様! 考え直してください!」


 だんっ、と感情のままに振り下ろした手がテーブルにぶつけられた。上に置いてある豪奢な装飾の食器が無機質な音を立てて揺れる。


 端正な顔立ちを怒りで真っ赤にし、ショートボブの銀髪を揺らして目の前にいる人物に抗議をしている彼女は、フィアレス王国騎士団、団長のジークルーン・ボルクである。


「……ジーク、もう私はこのまま黙って手をこまねいている気はないの」


 ジークルーンを愛称で呼んだ彼女、この部屋の主……フィアレス王国第一王女リーゼル・フィアレスは怒りを露わにしているジークに対して、強い決意を秘めた碧眼で真っ直ぐ見据え、首を横に振った。

 リーゼルの長い金髪が舞い、彼女の美貌をより一層際立たせるがこの部屋にはリーゼルとジーク以外に人はおらず。それに見惚れる男どももいない。


 彼女達の立場は、一国の王女と騎士団の団長。本来ならばこのような会話などあってはならないのだが、幼い頃から共に過ごしてきた二人だからこそ許される会話である。

 それでも、親しいはずの彼女達がここまで意見を対立させることは滅多にないことだった。ジークは今にもリーゼルに掴みかかりそうな勢いで詰め寄る。



「だとしてもっ! 魔王を討つために変革者を呼び出すなんて危険すぎます!」


 ジークの、魔王という単語に反応してリーゼルは眉根を寄せる。

 魔王、それは2年前にこの世界(フロンティア)の最西端にあるフリックズの土地に突如として現れた城の主であり、あらゆる魔物を支配している存在だ。


 魔王は人間すら支配下におこうと考え、人間が治める各国へ戦争をしかけた。そのせいでこの世界では人間と魔物との戦争が絶えないのである。


「変革者は英雄などではないんですよ!? もし呼び出された人間が悪しき者だったら、この世界はめちゃくちゃになるかもしれない……!」


「ええ、確かにそうかもしれないわ。今迄の歴史から見ても、変革者達は世界に混乱をもたらしたことの方が多い」


 そしてリーゼルが魔王に対抗して呼び出そうとしているのが、ある意味で魔王よりも脅威的な存在になりうる人間、変革者。


 変革者とは基本的にこの世界の人間ではない。狂人とさえ言われた高名な魔導師曰く、この世界とは何処か違う異世界に存在しており、召喚の儀式を行う事によりこの世界へ呼び出すことができる。


 しかし、呼び出された変革者がどんな人格なのかを選ぶことができず。変革者はその名前の通りに世界を掻き回し変革する、たとえその変革が人類の破滅だったとしてもだ。


 下手をすれば変革者は魔王側に付きかねない、その危険性をジークは訴えているのである。


「でも……それでも。もうこの国には時間がない。ジーク、ついて来て」

「……? はい」


 ジークはまだ何か言いたそうだったが、何故か悲しみを帯びたリーゼルの目を見て言葉を飲み込み、共に部屋を出て行った。





「ここよ、ジーク」


 リーゼルに連れられてやってきたのは、フィアレス王国のシンボルであるグリフォンの装飾が施された扉の前。


「リーゼル様、ここは陛下の寝室では……」

「いいの。ーーーーお父様、失礼します」

「ちょっ、リーゼル様!? まだ私心の準備が」


 ノックも無しにリーゼルは扉を開けたので、ジーク慌てて姿勢を正すが少し遅かった、恐らく中にいる王には見られてしまっただろう。

 昔から国王、アイヴァン・フィアレスは礼儀にうるさく、ジークもリーゼルも幼い頃から作法に関して厳しく叱りつけられた記憶がトラウマのようになってるため、ジークは顔を青ざめさせる。





「おお……リーゼル、リーゼルなのか……?」


 しかしそこには、ジークにとって信じ難い光景があった。


 目の前には何時ものように顔をしかめ、「ノックも無しに部屋へ入るとは何事だ」そう怒鳴るアイヴァンがいるはずだった。

 だが実際に目の前に居るのは、ベッドから抜け出すことも出来なくなった老人だ。


「はい、お父様。私です、リーゼルです」

「そうか、すまんな……もっと近くに来てくれ。しっかり顔を、見たい」


 そういって伸ばされたアイヴァンの手は、今にも折れてしまいそうなぐらいに痩せ細っている。かつて、ジークとリーゼルが悪さをした時に振り下ろされた鉄拳は見る影もない。

 こちらに向けた顔も、やつれて目に生気が無かった。しかも、一緒に入ってきたジークに気付いていないようだ。


「へ、陛下……? そんな、どうして。ついこの間まではいつも通りで……!?」

「……毒による暗殺よ。貴女が魔物討伐に西へ遠征をしていた間に、お父様の食事に毒を盛った奴がいたの」


 アイヴァンの変わり果てた姿に愕然と立ち尽くジークに、リーゼルは話を続けた。

 暗殺、その単語を聞いた瞬間にジークの目の色が変わった。


「暗殺!? まさか、魔王の手先がここまでっ!」

「しっ、声が大きい。……誰がやったのかはまだ分からないわ。毒が効いた時に幸運にも回復魔導師がそばにいたから、一命は取り留めたけど……」


 アイヴァンの側に寄り手をとるリーゼル、まるで死体のようになった父親の姿に、今にも泣き出しそうだった。


「……ジークも、いるのか……。丁度良かった、私はもう……永くない、だから」

「陛下っ、無理をしないでください」

「変革者を……お前たちの側へ、引き入れるのだ……!」

「!?」


 アイヴァンが声を振り絞って放った言葉は、ジークをさらに混乱させる。

 フィアレス王国は秩序と平和を何よりも重んじる国だ。それは当然、王であるアイヴァンの気質がそのまま反映されていると言ってもいい。


 対する変革者は良いも悪いもない混ぜにして掻き乱し変化をもたらす、言わば革命家の様な存在なのだ。

 当然アイヴァンはこのような存在を好いてはいなかった。


「な、何故ですか……!? あんなに平和を望んでおられた陛下が、なぜ変革者をこの国へ引き入れろと」

「この国ではない、私は『お前たちの側に』と、言った筈だ……ごほっ、ぐ……!」

「お父様!」「陛下っ!」


 せき込むアイヴァンに二人はたまらず顔を寄せるが、アイヴァンは悪化していく自身の体にも構わず言葉をつづけた。


「私を、殺そうとした者の正体は分からぬ……分からぬが、おそらくこの国の……、『人間』だ。魔王が現れ、混乱としたこの世に乗じて……自らの野望を叶えんとするものがいる。だから……!」




「お前たち二人と、変革者で。世界ごと、この国を変えてくれ……!」



「「――――っ!」」


 その言葉を聞いた二人は分かってしまった。アイヴァンは悟っているのだ、この国の腐敗は、魔王の進撃は、既に王自らも止めることはできず、そして時間もない事を。

 だから、もうアイヴァン自身が最も嫌悪する、変革者に託すしかないのだと。


「魔王が現れ戦争が始まった時点で、最早私の望んだ平和など夢物語になってしまった……。私もこの様だ、いつ死んでもおかしくはない。ならば……変革者を、お前たち二人の側へ引き入れば、必ず今の状況ををひっくり返し、世界をお前たちの望むように変えることが出来るはずだ……! そのための策は、用意してある……」

「策、ですか?」


 アイヴァンの策という言葉にリーゼルが反応する、住んでいた世界も、種族も、性格もバラバラである変革者を確実にこちら側へ引き込む策。そんなものがあるのだろうか?


「これは一族に代々伝える秘密だが……、我がフィアレス家の祖先は、変革者だったのだ。リーゼルにはまだ話してはいなかったか」

「お、王家の祖先が変革者?」


 父親から明かされる事実に驚くリーゼルだったが、いま重要なのはそこではない、そう考え深く追求することを辞めた。

 アイヴァンはうむ、と一声置いて『策』と言うものを語り出す。


「変革者だった初代の王は、変革者の力を使い諸国をまとめ上げ、このフィアレス王国を築いた……。しかし王は自分の死後、自らが築いた秩序を自分と同じ変革者に乱されることを恐れたのだ。それ故に王は、変革者召喚の儀式を門外不出とし、王族のみに知らせると共に儀式に『ある細工』を施した――――呼び出す変革者を、ある程度だがこちらの思い通りの人物に出来るようにな」


 一通りの説明を終えるとアイヴァンはふぅ、と大きく息をつく。体力がなくなってしまった身体では言葉を紡ぐ事すら難しい。

 しかし、その言葉を聞いた二人は喜びと驚愕の声をあげた、どうやら無理をしてでも話した甲斐はあったようだ。


「ということは……!」

「変革者を選べるという事ですか、陛下!」


 変革者となりうる人物を選ぶことが出来る。それは偉業ともいえる嬉しい事態であった。

 少なくとも、この世界を破滅へ導いてしまうような人間が呼ばれてしまうようなことは無くなったのである、それどころか上手くいけばリーゼル達の思い通りに動いてくれるような人間を呼ぶことも出来るかもしれない。

 リーゼルとジークの表情が明るくなるのを見て、アイヴァンもまた自然とほおが緩んでいくのを自覚した。

 

「ああ、そうだ。――――ふふ、やはり、お前たち二人はそうして笑っているのが一番だ……がふっ」

「お父様!?」


 咳き込むアイヴァン、見ればその口からは僅かに赤いものが漏れ始めてしまっている、体力の限界がきてしまったのだ。


「陛下っ、もうそれ以上はお身体がっ……!」

「ぐっ……我ながらなんと情けないことか……。リーゼル、ジーク、私は……お前達が笑顔で居られるような、そんな世界に変革できることを、信じているぞ……さあ、地下にある儀式の間へ、いけ……」


 自分の出来ることはもう無い、言いたい事を伝えるだけ伝えて、アイヴァンはリーゼルとジークに変革者を召喚するよう促がす。


「――――っ、はいっ」


 本当はもっと傍にいたい、心配で心配でたまらない、そんな気持ちをおさえ込んでリーゼルは頷く。

 そうだ、今こうして嘆き悲しんでいる間にも魔王の侵攻は進み、裏切者たちの姦計が張り巡らされているかもしれない、事態は刻一刻を争っているのだ。


「ジーク、娘を、頼んだぞ……! 騎士団長として、あの娘の幼馴染として」

「はっ。このジークルーン、命尽きるまでリーゼル様の盾となり、変革者を導くことを誓います」


 跪くジーク、その声からは変革者を呼ぶことの憤りなど消えている。

 代わりに、ただ一心に幼馴染を、国を、世界を想う一人の人間として、その力の全てを捧げる覚悟がその声には込められていた。



「お父様、安心して下さい。リーゼルは必ずこの国を、世界を変えてみせます」


 部屋を後にする二人の足取りに、迷いはなかった。




 ――――場所は変わり、王城地下。

 普段なら使用人たちが居住区にしているそこには、一か所だけ誰も立ち入ることのできない場所がある。

 アイヴァンの部屋と同じくグリフォンの装飾が施された鉄の扉、その前に二つの影があった――――リーゼルとジークだ。


「儀式の間……懐かしいわね、昔ここに入ろうとしたらお父様にこっぴどく叱られたっけ」

「はい。私と姫様がまだ4つの時に冒険者を真似して王宮を探索中、最後に見つけた場所でした」

「お父様ったらいつになく真剣な表情をして怒るんだもの。あれから私、ここに来るのがなんとなく苦手になっちゃったわ。……まあお父様はいつも怒ったような顔してるけど」

「ふふふっ。そうそう、私も苦手になりました。でもあの時の陛下の顔は今でも忘れられません」


 昔を思い出し、二人で笑う。今思えば、あれは少しでも変革者とかからわせないようにするアイヴァンの配慮だという事に。

 それほどまでに変革者とは、予想がつかず、不安定で、厄介な相手なのだ。なにせ、生まれ育った世界が違うのだから。


「ところで、こんな重そうな扉を開ける自信がないんだけど……あっ」

「……勝手に開いた?」


 いかにも重厚感あふれる扉であったが、リーゼルがふれた途端に音もなく開いていく。


「もしかすると、王族の血統……あるいは変革者の血を持っている人間じゃないと開けられなかった?」

「そうだとするとお父様があれだけ怒ったのも納得ね。幼い私がここを開けたら、間違いなく好き勝手に変革者を呼び出していたもの」

「リーゼル様……」


 リーゼル・フィアレス、幼い時の彼女の夢は『世界征服』である。

 アイヴァンが血相を変えて叱り飛ばした理由がなんとなく分かってしまったジークであった。


 さて、唯一の問題であった扉も開き(まあジークがいるので問題ではなかったのだが)中へ入る二人。


「虹色の魔法陣……きれい……」

「これが、変革者を呼び出す魔法陣……。魔法使いやエルフの使うものとは全然違う」


 儀式の間はさほど広い場所ではなかった、何も置かれてはおらず明かりとなる燭台すら無いので、本来なら暗く殺風景なただの四角い石造りの部屋なのだろう。

 しかし床一面に描かれた魔法陣が虹色に光り輝き、部屋一面を照らし続けている。

 それも見たことのない言語と模様、エルフが使う古代語とも違う、妙にくねくねした文字とその合間合間に角ばった文字が一つや二つも混ざっていたりする、そんな文字が床一面にびっしり書いてあるのだ。


「色はきれいだけど……まるで落書きみたいな模様ね……」

「初代国王が細工を加えた、と陛下が仰っていましたがまさかこれ全部が細工で、元の模様が分からなくなってしまったのでしょうか」

「初代王は本当に変革者だったみたいね。こんな文字、この世界の物ではないわ」


 そんなことを呟きながら、リーゼルトとジークは儀式の間の中心へと足を運んでいく。

 二人が歩みを進めるたびに、魔法陣の光は強くなっていく。


「ここでいいのかしら……?」


 リーゼルとジークが部屋の中央に立った瞬間。


 『――――汝、誰を望むか。』


「きゃっ!?」

「誰だっ!」


 知らない男の声が聞こえた、いや聞こえたという表現は正しくない、正確には頭の中で響いたというべきか。

 剣を抜き臨戦態勢を取るジークだが、声の主は姿を現さない。


『我は初代国王アルベルト・フィアレスの力の残滓。意思を持たず、ただ変革者を選定するためにあるモノ』


 アルベルト・フィアレス、その名前は確かに二人が知る初代国王の名前だった。


「っ!? 申し訳ごさいません!!!」

「初代の……国王様!? この子は私の幼馴染で、決して悪気があったわけではーーーー

『よい、我は王ではない。フィアレス王国の未来を憂いたアルベルトの力に過ぎない。この儀式の間にいると言うことは、国に危機が訪れ、変革者を呼び出すほかに解決する術がないのだろう。どのような人間を呼び出したい? 私はそれだけの為に在るのだ』


 初代国王と知ってジークは慌てて剣をしまい、リーゼルは剣を抜いてしまったことを釈明する。

 しかし、声の主はそんな事など気にかけていないようだった。

 最初と同じように、どのような人物を変革者として呼び出すかを問いかけてくるだけである。



「……どうやら本当に、変革者を呼ぶことにしか興味が無いみたいね」

「この魔法陣に込められた人格……みたいなものでしょうか」


『それを知った所で汝らにはどうすることもできぬ。さあ、どうする。力を持つ者か、知恵に優れた者か、善意に満ちた者か、悪意に満ちた者か、誰でも良いぞ。我はどんな人格でも、能力を持つ者でも呼び出せる。但し……変革者の危険性を知った上で呼び出すことだ』


 魔法陣からの問いかけに、リーゼル達は思い出す。

 この世界にとっては最早おとぎ話の類という認識である『世界を変革する者』。

 誰もがその詳細を詳しく知ることは無い中、リーゼルとジークだけはその正体をアイヴァンによって十分に知識を教わっていた。同時に、その危険性も。


「『ありとあらゆる事象、過去、未来、法則、何もかもを自分の好きなように変えることのできる能力』。……おとぎ話みたいな力だけど、変革者は皆その力を手に入れてこの世界に召喚されることになる」

『知っているのか、今の王女よ……。そこの騎士も知っているようだ』

「私たち二人は、現在の国王アイヴァン様によって変革者の事を知らされている。当然、変革者がその力の使い道を誤れば世界が滅びかねないことも」

「それでも、私たちはもう変革者を呼ぶしかないの……正直に言って、魔王軍の勢力が強大すぎる。人間の国全てが力を合わせないと太刀打ちできないのに、未だに国家間の争いは絶えないわ。これじゃあ人間はいつしか本当に破滅してしまう」


 リーゼルとジークにとって、そんなことはとっくに承知の上なのだ。

 慎重に選ばなければならない、自分たちと共に世界を変える人間を。

 リーゼルは一度大きく息を吸って、思考を重ねる。



「リーゼル様……」

「分かってるわジーク。ここだけは間違ってはいけない…………あの、聞きたいことが!」

『なんだ?』

「どんな人格でも、能力でもといったわよね。」


 呼び出す前に確認の為に質問をする。

 呼び出す変革者のイメージは既に出来上がっているのだが、もしかすると不可能かもしれないからだ。


「それはどこまで細かく指定できるのかしら? 例えば、呼び出した変革者が初めから私たち二人に対して好意的な感情をもっている……なんていうことができるの?」



 リーゼルは自分で言ってて、かなり反則な願いだと思った。しかしベストはこれである。

 彼女たちが何よりも欲しているのは変革者の能力だ、ならば一番こちら側へ引き込みやすいようにしてもらうのが一番なわけだが……。


『そこまでは不可能だ。だが、まぁ、『身分の高い者に好意を持つ』人間なら呼び出せるが』

「身分の高い者……なるほど、それなら王女たる私や騎士団長のジークにも好印象を――――

「それって要は権力に媚びへつらう人間なんじゃ……」

――――はっ!? ダメダメ! そんなのが変革者の力を持っていたらろくなことにならないわ!」


 ジークが代替案の核心をついてくれたおかげで気付いたが、ものすごくダメだった。

 まぁ、虫が良すぎる話だっただけに期待はさほどしていない、重要なのは『どの程度まで呼び出す変革者を指定できるか』というのを知ることなのだから。

 今の質問で分かったことは、変革者の趣味嗜好も大雑把なら選べるという事だろう。


『性格に限った話ではないぞ? 能力というなら武芸に優れた人間や知力に長けた人間を指定することも可能だ。まあ、どのような武術を修めているか、どんな知識を持っているかまでは指定はできないが。……ちなみに、外見だけの要望なら完璧に指定でき


「じゃあ銀髪碧眼で身長が高くて細身で儚げな印象で守ってあげたくなっちゃう系の美少年でおねが

「リーゼル様それ完全に自分の好みじゃないですか!? もしそれで呼び出した変革者が敵に回ったりしたらどうするんですかーっ!!!」

「それはそれでもえるわ! ああっ、恋仲にありながらも運命のいたずらによって敵同士になってしまう二人! ぜひこれでいきましょう!!!」

『要望は決まったようだな 「決まってないっ! 却下だ却下っ!」


 

 リーゼル・フィアレス、彼女の最近の夢は理想のお相手探しである、但し美青年に限る。

 私利私欲によって危うく全てがおじゃんになりかけるも、ジークはなんとか阻止した、もしかして自分はある意味世界を救ったようなもんじゃないだろうかとジークは思う。


「リーゼル様、真面目に考えて下さい。いくら相手が見つからないからって世界が危機にある今願うことでは……」

「う、うるさいわね!? 冗談よ冗談! ちゃんと呼び出す人間は決めてあるわっ! …………うう、まさか見た目まで指定できるなんて、なぜもっと早くに変革者を呼び出さなかったの〜……」

『ちなみに外見は完璧に一致しているが性格まで一致している訳ではない』


 本当に自分が一緒に来てて良かった。心のそこからそう思うジークだった、というかアイヴァンはこうなることを予想して二人に変革者を呼ぶように言ったんじゃないだろうか。


「で、その呼び出す人間とは一体どのような人間なのですか?」


 リーゼルが自分の欲望に負ける前にさっさと呼び出したほうがいい気がしたジークは、答えを急かすことにした。

 先ほどの願いはアレだったが、彼女は一国の王女であり、その立場にふさわしい才を兼ね備えている人間だ、それ故にジークはリーゼルがちゃんと考えた人間なら反対する要素もないだろうと確信している。


「え、もうちょっと悩ませて……わかったわよジークお願いだからそんな怖い顔しないで。……私が最初から考えてたのは難しい事じゃないわ。ただ単純に『どんな困難な物事でも諦めずに成し遂げる人間』、そんな変革者を呼び出そうと思ってたの」

「どんな困難にも……?」


 聞いておいてだが、ジークはその答えに拍子抜けしてしまった。確かにそのような人間は理想的かもしれないが、変革者の性格まで選べることができるのに大雑把にしか指定しないのか、と。

 しかし、ジークがそんな反応をすることも想定の範囲内だったらしく、リーゼルは重ねてそのわけを話す。


「魔物との戦争に勝利し魔王を討伐すること、国の内部にひそむ裏切り者の排除、荒れ果てた人間の国を再生させる……私たちがこれから為し遂げなければならないことは、多く、どれも簡単とは決して言えないわ。だからこそ、変革者の指定を単純なものにする。なぜなら……」


 そこまでリーゼルが言うと、ジークのほうを向いていた彼女は部屋の天井あたりを見る、魔法陣に宿る人格に何かを言うつもりだ。


「指定が単純であればあるほど、呼び出される変革者は『それ』に特化した人間が選ばれる。違うかしら?」

『――――ほう、気付いたか』


 魔法陣の声がわずかに驚きの念を帯びた、この召喚の儀式のからくりを見抜いたリーゼルに感心しているらしい。


「特化した人間?」

『その通り。我に込められた魔力は一定量しかなく、限られた魔力を全て用いて変革者を選定する。そして指定の数が多いほど変革者を選ぶことに魔力を消費し、逆に指定が少なければ能力の大きい者を選ぶことが出来る。どうやら先ほどの質問で気付いたらしいな……』

「ええ、それに細かい指定が受け付けられないというのも一見デメリットに見えるけど、言い換えてしまえば『大雑把な指定を一つにすれ多岐にわたる能力を持つ人間を呼び出せる』。つまり文字通りどんな困難でも乗り越える、それだけの能力を持った人間を呼べるということ……よね?」

『どうやら今代の女王はなかなかに優秀のようだ、素直に感心したよ』

「な、なるほど……」


 魔法陣の言葉で、リーゼルの考察が当たっていることが証明された。

 それと同時に、彼女の指定方法が一番反則的であるという事もジークは理解出来た。

 大雑把に選ぶことによって限定することは出来なくとも、複数の能力、それも大きな力を持つ人間を呼び出すことができるということなのだ。

 

『しかし、汝らはその願いで良いのか? その願いでは、変革者の人格を決めることは出来ぬぞ?』

「あっ!」


 しかし、同時に気付いてしまった。

 大雑把な指定では変革者がどのような性格なのか決定づけることが不可能ということに。


「リーゼル様……」


 ジークは焦った様子でリーゼルを見る、しかし、彼女の表情には一切の迷いは無い。


「大丈夫よ。悪人は、自ら進んで困難を乗り越えようなんて決してしない。どんな困難な事でも、諦めず、立ち向かい、やり遂げる人間に悪人は居ないわ……。ね、ジーク」

「……!」


 ジークを見返すリーゼルは、知っている。

 自分の幼馴染が、どれほどの努力を重ねて騎士団長の地位に立っているのかという事を。

 まだ20歳にも満たない、それも女性の身でありながら、リーゼルを守るという誓いを果たすために数多の困難を乗り越えて来たことを、その目で見てきたのだから。


「貴女以上に困難を乗り越えて来た人間を私は知らないわ。だから呼び出された変革者を導く役割は、ジーク、貴女が適任だと思うの」

「あっ、ありがとうございます! このジークルーン、必ずや変革者を味方につけるよう尽力をつくします!」

「ええ、頼りにしてるわよ」


 この指定でいけば、呼び出された変革者はおそらくだがジークに近い気質の持ち主ではないだろうか、リーゼルはそこまで予測して『どんな困難な事でも諦めずに成し遂げる人物』と言ったのである。



『では、呼び出す変革者は決まったのだな?』


 最後の確認、そんな意味を込めて魔法陣の人格はリーゼルに問いかける。

 リーゼルは問題ない、と頷いた。


「フィアレス王国第一王女リーゼルの名において、私は『どんな困難な事でも諦めずに成し遂げる人間』を望みます!」

『よかろう……汝らの選択が、この世界を救うことを祈ろうぞ』


 宣言の後、魔法陣は虹色の輝きを更に増していく。

 やがて部屋全体が光に満ち溢れると、光は

一瞬で掻き消えてしまった。

 後に残ったのは、リーゼルとジークの二人だけ。


「あ、魔法陣が……」

「役目を終えると、消えるようになっていたみたいね」


 床一面に書かれていた魔法陣は、綺麗さっぱり無くなってしまっている。

 これで、もうやり直すことは不可能というわけだ。


 しかし後悔はない、している暇など無い。

 まだまだ自分達にはやることがあるのだから。




「行くわよ、ジーク。呼び出された変革者を見つけに」

「え、ええっ!? 変革者って、此処に来るわけじゃないんですか!?」

「それはそうでしょ、今の召喚は『どんな変革者を選ぶ』だけの召喚よ。何処に呼び出すまでは指定していないわ」


 そう、あくまでこの儀式は『異世界にいる変革者をこちら側へ呼び出す』ことしか出来ないのだ。

 呼び出された変革者がこの世界のどこに召喚されているのかまでは特定が出来ない、最悪、魔物の巣窟に呼び出されている可能性だってある。


「今、変革者が呼び出された事実を知っているのは私とジークと、お父様しかいないわ。たとえ変革者がどこにいるかが分からなくてもこの差は大きい、つまり遠征と称してあちこちを移動できるジークが一番適任で

「それって要は使いっ走りですよね!? もしかして頼りにしてるってそういう意味なんじゃ

「頼りにしてるわ、ジーク」

「そういういみだったぁー!?」


 また遠方まで行かなくちゃいけないんですかぁぁ……、と叫ぶジークを無視しながらリーゼルは続ける、まだ、自分たちのやるべきことは終わったのではないと。


「いい? わたし達はだれよりも早く変革者を見つけなければいけないわ――――『魔王』よりも、ね」


 勇者を待っているだけでは、この世界は救えないのだから。

シリアスになりきれない……。

感想などは大歓迎です、書いていただければ私のテンションが上がります。

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