苦いビールと甘いモンブラン
「くぅうぅう!
今日もつっかれたぁ!」
私はパンプスを脱ぎ捨てて家に上がる。
「お邪魔しまーす。」
後ろから友人が入って来る。
独り暮らしで誰もいないから
いちいち言わなくていいのになぁ。
「あ、そういえば
モンブランとビールあるけどいる?
モンブランさー、
昨日先輩にもらったんだよねー。」
「いる・・・・けど
なんでもらったの?」
「えー、っとねぇ、何処かのお土産って。
伊豆だっけ。」
「伊豆でモンブラン?おかしくない?」
「えー、あ、違うわ。
えっと、フランス?」
「全然違うよね、それ。」
「へへっ。」
「褒めてないから。
っていうか本当にフランス?
山脈のモンブランはフランスだけど。」
「よく知ってるねー。」
「ん、まぁね。生徒が言ってた。」
「ん。」
開けたビールを差し出す。
「ありがと。」
モンブランはお皿を出して乗せる。
乗せるの、失敗したのは
私でいいか。
一応お客様だしね。
「教師楽しい?」
お皿をテーブルの上に乗せる。
あ、テーブル拭くの忘れた。
ま、いっか。
「うん。あ、テーブル拭いといたよ。」
「ん?マジで?ありがとね。」
確かにテーブルが濡れてる・・・・。
本当に昔から気が利くなあ。
「嫌なこともあるけどね。」
目を伏せながら言う。
もしかして、
「いじめ、とか?」
彼はビールを一口飲んでから、
「う、苦い・・・・。
・・・・そういうのはないけど
高校生も一応子供だからさ、
ふざけたりするだろ?」
と言った。
「?うん。そうだね。
あ、ふざけて怪我させた、とか?」
すると、モンブランを
一口食べてから
「うわ、甘・・・・。
いや、先生まだ結婚してないのって、
言われるんだ・・・・。」
「ぶっ・・・・
アハハハハッ!!
結婚って!!!」
そんなことで悩んでるの?
と言いそうになったけどやめといた。
「ふふふ、そーなんだ!
それじゃあ早く結婚なさいよ!」
私は母親みたいなことを言う。
私が言えることじゃないけど。
「お前が言えることじゃないだろ。」
彼は笑いながらビールに口をつけた。
ビンの半分位まで一気に飲んだ。
「ちょ・・・・」
彼の喉仏が上下する。
彼も男性なんだなぁ、
ぼんやりと考える。
「ぷはぁっ・・・・にっが・・・。」
「ビール苦手?」
「うん。甘党だから。」
「じゃあビール貸してよ。」
「?」
彼のビールをモンブランに少しかける。
「食べてみなよ。」
「んーーー。
うえっ、にっが・・・・!!あま・・・・。」
「どっちなのよ。
でもまぁ、美味しいでしょう?」
「んんん・・・・まぁまぁ。
ココアが飲みたいなぁ。」
彼は甘ったるい声を出した。
なんか、お腹の底が重い。
「わがまま言わないでよ。
ココアなんてうちには無いわ。
私、トイレ行ってくるから。」
「ぁい。」
「ふぅー。びっくりしたあ。」
なんか、さっきの声
乙ゲーの声みたい・・・・。
・・・・・・私達は昔、付き合っていた。
だけど彼と私は仕事が違う。
だから、別れた。
適当な理由だけど。
私としては、やり直したい、と思う。
結構相性はよかったし。
彼ならいいと思う。
私の、一生の人。
「そろそろ行くかな。」
トイレを出た。
「ねー、あのさぁ、」
「んー、なにー?」
「私達、やり直さない?」
「んーー、なんで?」
「なんでって言われても・・・・。
結構相性は悪くなかったしさー。
いいかなーって。」
「別れを切り出したのは
そっちなのに?」
彼の声が凶器みたいに
私へ鋭く刺さる。
「ごめんなさい。
でも、それは、あまり
会えないからいっそのこと
別れた方がいいって思ったから。」
「・・・・・・ふーん。」
睨んできた。
でも結婚の話を持ち掛けたのは
そっちじゃないの。
あんたもそう思ったんじゃないの?
「じゃあ返事を聞きます。
私と結婚してもいいと思うなら
ビールを飲んで。
嫌ならモンブランを食べて。」
彼の姿勢を正すと
右手でモンブランが
ささったフォークを持った。
反対に左手をビールのビンに添える。
彼が口元に持っていったのはー・・・・
ビールなんて飲んだことありません。
モンブランにかけると美味しいのかな。
美味しくないのかな。