003話:侵略! 魔法少女サラ!
前回までのあらすじ:目の前で、今姉がいるはずの建物を焼かれた知衣は、アルドに言われるまま怒りに任せて変身し、魔法少女チイとしてローブの女に挑む。
アルドが言うところの『魔法少女チイ』へと変身したわたしは、そのままローブの女の前へ出る。
「……誰だい、アンタ?」
逃げ惑う人々の中でただ1人、立ち向かってきたわたしに違和感を覚えたのだろう、ローブの女は怪訝そうな声でそう尋ねてきた。
そう聞かれるのを待っていた。
そう思ったわたしは、嬉々として口を開き……。
「わたしは……」
名乗ろうと、したのだが。
「いや、人に名前を訊ねる時は、自分から名乗るのが礼儀だぁね。アタシは魔法少女サラ。そしてこいつはアタシの使い魔、アルカナナンバー19(ナインティーン)、太陽の化身さ!」
ローブの女……魔法少女サラの方が早かった。
出遅れたせいか、元々偉そうな魔法少女サラの態度が余計自慢げに聞こえる。
というかいきなり人の街に火を放っておいて、なに今さら礼儀とか抜かしてるんだこいつは。
わたしがそんなことを思っている間にも、魔法少女サラはさらに言葉を重ねていく。
「アタシの目的は……そうだね、ずばり世界征服さ」
ずばり、と言う割にはなんか間があったような。
しかしやっぱり、魔法少女サラはわたしに突っ込む暇を与えない。
「そんなわけで、まずはあんたらをこの街から追い出してやるよ。逆らうヤツは、アタシの使い魔が炭にしてやるさ!」
少し早めの口調でそう言い切ると、次はアンタの番だよ――と、目で促してくる。
「わたしは魔法少女チイ! じゃあわたしの目的は、あんたをぶっ殺して止めることだ!」
なんだかイラッとしたので、わたしも対抗して名乗りを上げた。
「生意気な小娘だね……アタシの邪魔するってんなら、容赦しないよ! やっておしまい、太陽の化身!」
やはり私に『だれが小娘だ』とかツッコむ間を与えず、魔法少女サラは太陽の化身をけしかけた。
太陽の化身がわたしに迫る。
そしてそのまま真上で停止すると、真下にいるわたし目掛けて炎を吐いた。
どうやら、さっきまで見えていた火柱の正体はこれだったようだ。
炎の柱が降りてくるのは見え見えだったため、わたしはそれをあっさりと後ろに飛んで避ける。
そしてそのまま、お返しをしてやるべくトンファーを振るった。
大空を舞う、太陽の化身目掛けて。
ヒュッ、と風を切る音が響く。
当たれば無事ではすまない、鋭い一撃だった。
……そう、当たっていたなら。
実際は思い切り、空振りしていた。
「……まあ、飛んでるし」
挙句の果てに、的確すぎるツッコミを魔法少女サラに呟かれる。
くそう、他人にはツッコませないくせに自分はちゃんとツッコミ入れるのか。
しかしまあ、結果としては当然だった。
勢いに任せてトンファーを振るったが、太陽の化身は地上からだいたい3m以上の位置にいる。背伸びをしたって届かない。
「…………」
ほんの一瞬だけ、考え込んでから。
「くそうッ、覚えてろ!」
わたしはそう吐き捨てると、後ろを向いて走り出した。
逃げたんじゃない、戦略的撤退だ。
……屈辱だ。正義の魔法少女なわたしが、悪役みたいな捨て台詞を吐くハメになるなんて。
しかも魔法少女サラは「おや、逃げるのかい?」なんて余裕ぶっこいてやがる。
太陽の化身にわたしを追わせようとする気配すらなかった。
……なぜか、一瞬ほっとしているようにも見えた。
まあ今はどうでもいいか、おかげで無事に逃げ切れたわけだし。
そんなことより、考えてみたら変身後についてはアルドから何も聞いてないのだ。
武器自体は最初から手に持ってたからわかったんだけど、他に装備って無いんだろうか。
ってか今更だけど、魔法少女の武器が打撃武器ってどうなの?
正直、もっと可愛らしくバトンとか弓とかロッドとかを想像してたんだけど。
さらに言えば、初戦の相手がいきなり相性最悪なんだけど。
いったい、どうやってトンファーで対空戦すればいいのさ?
「おや、おかえりなさい知衣さん」
わたしが考え込みながら戻ってくるのを、アルドは最初に会った時同様、穏やかな笑みで迎えてくれた。
「アルド! 空にいる鳥にこっちの攻撃が当たらない!」
とりあえず現状の問題点を訴えてみる。
わたしの必死な訴えに……
「……まあ、そうですよね」
アルドは呆れた様子で相槌を打った。
何を言ってるんだこいつは、とでも言いたそうな、とにかく人を馬鹿にしたような目だった。
「ああ、もう! そんな目でわたしを見るな! ってかトンファーなんかでどうやってあの鳥を倒すのよ!」
そもそもトンファーとは、基本的には空手の延長的な使い方をする武器である。
つまり、完全に近接戦専用のものなのだ。
言うまでもなく、空中から爆撃してくるような相手と戦うのに適した武器じゃない。
適していない、というか論外なレベルだ。
だが、アルドは。
「問題ありませんよ。そのトンファーは、魔法のトンファーなのですから」
自信に満ちた笑みを浮かべながら、そう言い切った。
「どういう、こと?」
その笑みを見て、わたしは少し期待そながらアルドに訊ねる。
「そのトンファーの真のチカラを説明します。それさえ知っておけば、相手がたとえ空を飛んでいようと苦戦することはないでしょう――」
そう前置きしてから。アルドはどこか自慢げに、トンファーの『真のチカラ』を教えてくれた。
「……おかえり?」
走って戻ってきたわたしを、魔法少女サラがやや戸惑った様子で迎えてくれる。
「ただいま。さあ、今度こそアンタをぶっ倒してやる!」
一旦返事をしてから、わたしは改めてトンファーで魔法少女サラをびしっと指した。
箸で人を指すのは行儀が悪いと言うが、トンファーで指すのはどうなんだろう。
「……そのトンファーで?」
わたしのどうでもいい思考をさえぎって、呆れたように魔法少女サラはそう訊いてくる。
お前は何を言ってるんだ、とでも言いたげだ。
だが。
「もちろんよ!」
わたしは高々とトンファーを掲げてみせる。
今のわたしは、アルドからこのトンファーの真のチカラを聞かされているのだ。
確かに、アルドの言うとおりなら……空を飛ぶ鳥とも互角に戦える。そう納得できた。
もう何も怖くない。
「見せてあげるわ、魔法少女サラ! わたしの、本当のチカラを!」
魔法少女サラと火の鳥を見据えて、わたしは言い放った。
その後、トンファーの短い方が地面に向いているのを確認してから、アルドから教えられた呪文を口にする。
「起動、トンファーブースター!」
発声の直後に、トンファーの短い方から炎が噴出される。
それは圧倒的な浮力を生み出し、わたしの身体を、空中へと、押し上げた。
「な……ト、トンファーで空を飛んだだとぉ!?」
魔法少女サラが、驚いたように叫ぶ。
そう、これがアルドから教わった……トンファーの『真のチカラ』。
噴射機を内蔵したトンファー、正式名称『ブースト・トンファー』。
アルドが解説の締めくくりとして言った言葉を、わたしはトレースする。
「ブーストトンファーで縦横無尽に飛び回り、敵を殲滅する。それが、魔法少女チイ……わたしの、本当のチカラだァァァァァァッ!」
言いながら、わたしは一気に大空へと飛び上がった。
ひたすら真っ直ぐに。
一瞬で、火の鳥がいたところを飛び越えて、電線も飛び越えて、雲のすぐ近くまで飛び上がっていた。
地上を見下ろす。
魔法少女サラも、火の鳥ももはや点にしか見えない。
トンファーのチカラは、それほどまでに強大だった。
わたしの真下を、ジャンボジェットが通り過ぎていく。
それを見ながら、わたしが思うことは1つだった。
……どうしよう、想像以上に制御が難しい。ってか無理。
そもそも噴射機2本だけで空を飛ぶ、ってかなり難しいんだけど。主にバランス感覚とか。
とりあえず、一旦降りることにした。
噴射機の勢いを徐々に弱めていって、いわゆるホバリングの要領でゆっくりと地面へ降りる。
ちょっとでも左右のバランスが崩れると大惨事になりかねないため、なるべく慎重に。
「……ただいま」
「おかえり……いや、なぜそのまま降りてきた」
「……チイさん、そのまま降りてどうするんですか!」
その結果、魔法少女サラと駆けつけてきたアルドから、ほとんど同時にツッコミが飛んできた。
「ややや、これ想像以上に扱いが難しいんだって。ってかこんなの、ぶっつけ本番で使えるかぁ!」
仕方ないので言い訳タイム&アルドに逆ギレ。
「……よくわからんけど。せっかくの対空装備も、使いこなせないんじゃ意味は無いねぇ」
そんなわたしを見て、魔法少女サラは呆れたように呟く。
「ぐっ……」
何も言い返せない。
実際、図星だ。
今トンファーで飛ぶとしても、火の鳥を追うことなんて出来はしないだろう。
「さっさとサジを投げちまいな。アタシは深追いはしない主義なんだ。逃げるんなら、見逃すよ?」
向こうもそれが分かっているらしく、そんなことまで言い出しやがった。
完全に舐められている。
しかし実際、現状ではどうにもならないのも事実だった。
そのまま戦うにしても、近接武器でしかないトンファーでは火の鳥に対抗できない。
確かにもう、サジを投げて逃げた方が……うん?
……あ。
「……それだ」
閃いたわたしは、魔法少女サラと火の鳥に目を向けて、そう呟く。
「?」
魔法少女サラは、怪訝な顔でこちらを見る。
が、わたしは相手が反応する前に、右腕を大きく振りかぶって。
「くらええええええええッ!」
右手に持っていたトンファーを、ブーメランのように思い切り投げた。
それは回転しながらも真っ直ぐに飛び……火の鳥の胴体を、一撃で上下に両断した。
「……必殺、トンファー・ブーメラン!」
期待以上に奇麗に決まったので、適当に技名をでっち上げた。
「ば、バカな……」
あまりにもこの流れが予想外だったのか、魔法少女サラが呆然としている。
「そんな無茶な……」
アルドもこの使い方は想定していなかったらしく、呆れた様子で呟いていた。
「覚悟はいい?! 魔法少女サラ!!」
そんなアルドは置いておいて、わたしは魔法少女サラにそう言い放った。
左手に持ったトンファーで、びしっと指しながら。
ちなみに右手に持っていた方は、さっき投げて飛んでいったきりだ。
本当にブーメランのように手元に戻ってきたりはしていない。
まあ相手はいかにも魔法使い、って感じなんだし、たとえトンファーが片一方しか無くても接近戦に持ち込めれば勝てるよね。
……そう、思っていたのに。
「良くない。というわけで、この場は失礼させてもらうよ」
言うが早いか、魔法少女サラはあっさりと箒に乗り、飛び去ってしまった。
不規則なジグザグ飛行で飛んでいったのはわたしのトンファー・ブーメランを警戒してだろう。
「待てッ!」
と叫ぶ頃には、もう魔法少女サラの姿は見えなくなっていた。
「逃げられた……くそう……」
しかも、目の前であっさりと。
むしろ呆けていたのは自分ではないか、と思えるくらいにあっさりと逃げられた。
悔しかった。
おねえの仇を取れなかったことが、何よりも。
「……知衣さん。おつかれさまです」
立ち尽くしているわたしに、アルドが後ろからそっと、声を掛けてくれる。
優しく、いたわるような声だった。
「う……ううッ……」
わたしはとりあえず、なんとか返事をしようとしたけど。
それは声にならなかった。
頬を、涙が伝っていた。
魔法少女サラを逃がして、戦いが終わってから。
怒りで覆い隠していた悲しみが、溢れてしまっていた。
おねえはもういない、ということ。
もう二度と、おねえの笑顔を見ることが出来なくなったということが、無性に悲しかった。
幸いにも、まだ誰も戦いが終わったことには気付いていないらしい。
商店街にいるのはわたしとアルドだけで、誰かが戻ってくる様子も無い。
だから、わたしは。
人目を気にすることもなく、ただ声を上げて泣いた。
そんなわたしに、アルドは声を掛けなかった。
その場を動こうともしない。
余計なことを言わないで、黙ってただ傍にいてくれたアルドの気遣いが、今はちょっとだけ嬉しかった。
そして、わたしが泣き止んだのを見計らってから。
アルドはわたしにこう言った。
「……あの、知衣さん。とても申し上げにくいのですが」
「なに?」
やや言いにくそうな雰囲気。
それはきっと、わたしを気遣って……
「あの、さっき投げたトンファーなんですが。探してきてください」
ではないようだ。
「え、ちょっと待って。ああいうマジカルな装備ってさ、どんなにボロボロになっても、1回変身を解いてまた変身したら、何事も無かったかのように元に戻ってるものじゃないの?」
少なくとも、アニメとかでそれをわざわざ補修しているような描写は見たことがない。
そんな微妙な疑問をわたしはアルドにぶつけた。
「残念ながら、知衣さんのは傷付いたらそのままです。ですがご安心ください、回収さえしてくだされば、補修はわたしがしておきますから」
その素朴な疑問に、アルドは嫌味の無い笑顔で答えてくれる。
しかし。
「……それってつまり、わたしが着てた服の手入れをあんたがする、ってことよね」
「? まあそうなりますね」
わたしの意図することが分からなかったのか、アルドは当然です、とでも言いたげな表情で答えた。
「……わたしの脱ぎたての服を、あんたが弄くるってことよね?」
というわけで、今度は意図が伝わりそうな言い回しで訊ねる。
なんというか、わたしが着ていた服を後でこの男が触れるというのは凄く変態ちっくな気がした。
「………………」
今度はちゃんと、その意図が伝わったらしい。
アルドは答えなかった。
「……アルドぉ?」
そんなアルドの名を、わたしは少し低めの声で呼ぶ。
「……さて、じゃあトンファーを探しに行きましょうか。あっちの方に飛んでいったみたいですし」
アルドは何事も無かったかのようにわたしに背を向け、トンファーが飛んでいったであろう方角を指しながらそう言った。
「待て、この変態! アルドォォォォォォ!」
そして戦いの終わった商店街で、再びわたしの怒号が響いたのであった。
続く。
次回予告
千歳「みなさんこんにちわ。知衣ちゃんの『おねえ』こと宇井千歳です。
えっと、次回は……」
知衣「っておねえ、何事も無かったかのように次回予告に出ない!
次回、魔法少女チイ、第004話。知衣の姉、宇井千歳
お楽しみに!」
ありがとうございました!