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002話:燃える街、チイの想い

これまでのあらすじ

普通の中学生、宇井知衣うい ちいの元に、突然アルドと名乗る男が現れた。

魔法少女になってくださいと頼んでくるアルドに辟易していると、急に街に火柱が上がった。


*2012年7月2日に一部修正。

 煙が晴れて、わたしの目に入ってきたのは。

 一人の女と、一羽の鳥……らしきものだった。

 鳥……らしきもの、なんて表現になったのは、それがあまりにも非常識な外観をしていたからである。

 シルエットだけが見えていたなら、わたしもただ鳥、と表現していただろう。

 それはワシやタカのような、猛禽類のような力強いシルエットをしていた。

 大きさもちょうどそれくらいのようだ。翼を広げた際の横幅は、優に3mを超えているように見えた。

 ……くどいようだが。

 それだけだったなら、わたしもただ『大型の鳥がいた』とか表現していた。

 でも。そいつには、シルエットや大きさなんかよりも、もっと特筆すべきな……目を惹く特徴があったのだ。

 その鳥は。

 全身が、炎で覆われていた。

 身体を炎で包まれた鳥。とりあえず、以降は『火の鳥』とでも呼ぶことにしよう。

 そんな、漫画かアニメの中でしか見られなさそうな存在が、たった今現実としてわたしの目の前にあったのだ。

 さらにその火の鳥の下に立っている女も、『異常』と呼んでよさそうであった。

 身長はわたしと同じ150cmくらいだろう。女性としては珍しくもない。

 だが、まず服装が目を惹いた。

 全身が、紫色のローブで覆われているのだ。

 首から下はマントを羽織っているような感じだが、一体どんな構造なのかがパッと見ではよく分からない。

 また頭もローブですっぽり覆われている上にベールまでつけている。

 素顔も分からなかった。

 辛うじて覗いていた口元から、どこか得意げな笑みが見えたくらいだ。

 ちなみに、服の凹凸具合からかなり胸が大きいこともわかる。胸囲が絶賛成長中(予定。まだ成長する兆しは見えていない)のわたしとしては許せん……もとい。

 一言で表すなら魔女のような格好をした女が、威風堂々と火柱の上がり続ける商店街に仁王立ちしていたのだ。

 火の鳥から、逃げもせずに。

 他の人たち……ついさっきまで商店街を賑わせていた人たちは、誰もがその場を離れようと逃げ惑っているというのに。

 その女だけは、逃げようとする気配も無いまま……むしろ、涼しい笑みすら浮かべて、その場に立っていたのだ。

「……知衣さん。改めて、お願いします。魔法少女になって、アレと戦ってください」

 二つの奇怪な存在に意識を奪われていると、急にアルドが声を掛けてきた。

 さっきまでの、余裕のあるセールスマンのような声色ではなく、焦りの滲み出た真剣な声だった。

 あるいは、実際に余裕が無いのかもしれない。

 この一連までの流れから察するに、アルドはこの超常的な存在の襲来を予知していたようだし。

 つまり今考えてみると、さっきの勧誘は初めから、こいつとの戦いを想定してのものだったのだろう。

 戦わなければ、このままだと街が、炎に包まれてしまうから。

 そこまで考えたわたしは。

「はぁッ!? ふざけんな!」

 アルドに、全力で断りの返事を告げた。

「いいえ、本気です。これは貴女にしか出来ないことです」

 しかしアルドも、強引なくらいに食い下がってくる。

「わたしにしか、って……わたしには無理!」

 わたしはそれに、強い否定の言葉を返す。

 悔しいけど、本心だった。

 わたしは正直、自分に自信がない。

 勉強だって出来ないし、何か人に自慢できるような特技があるわけでもない。

 そんなわたしに何を期待してるんだ、この男は。

 しかしわたしが若干自分の言葉に凹みながら返しても、アルドは顔色を変えずに言葉を続けた。

「出来ますよ。知衣さん……貴女になら。絶望を希望に、不可能を可能に変える。それが、魔法少女なのですから」

 自信に満ちた目をしていた。

 わたしなら出来る、そう信じて疑わない。そんな強い意思を感じさせる目だった。

 よっぽど、魔法少女のチカラとやらに自信があるらしい。

 ……それでも。

「わたしなんかに、出来るわけないよ……」

 わたしの答えは変わらなかった。

 アルドの言う、『魔法少女』のチカラがどんなものかなんて知らない。

 もしかしたら本人の言うとおり、とんでもなく凄いのかもしれない。

 それでも、『やってみよう』とは思えなかった。

 わたしみたいな普通の女子中学生がやることじゃないはずだ、あんな理解不能な怪物と戦うなんてことは。

 むしろわたしもさっさと逃げ出したいレベルだった。

 家に帰りたい。

 早く帰って、おねえ……姉の宇井千歳うい ちとせがバイト先から帰ってくるのを待っていたかった。

 おねえは学年で言えばわたしより5つ上。大学1年生だ。

 ちなみに通っている大学はこの辺でもトップクラス、一般的にも一流相当として名が通っている、有名大学である。

 おねえが通っていた高校としてもその大学の合格者はおねえが初めてだったらしく、今では伝説になっているらしい。

 ようするに、おねえは凄く頭がいいのだ。

 ちなみにその妹であるわたしは残念ながら真逆である。母親に『出涸らし』とか言われるレベルで成績が悪い……わたしの話はいいか。

 大学に通っているだけじゃない。

 おねえは今、商店街にある喫茶店、『テンダーパフ』でアルバイトもしている。

 テンダーパフはケーキがおいしいと最近、有名になってきた店だ。

 その有名度は、先月くらいに地元のテレビ局が取材に来るほどで……しかも、そこまで話題になったのはねえのチカラが大きい、というのがなかなかに誇らしかったりする。

 おねえはお菓子作りも得意で、既に新しいメニューの作成にも参加しているのだ。

 その試作品を家でも作っては、わたしに振舞ってくれる。

 おねえが作ってくれるお菓子はわたしのお気に入りだ。

 今朝も確か、何か閃いたと言っていた。

 そう言った日はだいたい、バイトが終わってから試作品を持って帰ってきてくれる。

 だから今日は、早く帰ってそれを待っていたかったのだ。

「…………あ」

 そこまで、考えてから。

 わたしは、大変なことに気付いた。

 先述したとおり、おねえは商店街にある、『テンダーパフ』という喫茶店でバイトをしている。

 その『商店街』とは……紛れも無く、女と火の鳥が暴れまわっている、目の前の場所のことだ。

 わたしは愕然としつつ、慌てて視線を商店街の方に向けなおした。

 もっと細かく言うなら、今おねえがいるはずの場所……テンダーパフの方にだ。

「……良かった」

 そして、ほっと息を吐く。

 丸みを帯びた白い外壁の、可愛らしいお城のような建物。

 喫茶店テンダーパフはわたしが知っている通りの姿で、目の前に残っていた。

 とりあえずは一安心だ。

 よし、おねえに電話してみよう。

 早く、そこから逃げて欲しい。

 そんなところにいたら、危ない……そう思ってスカートのポケットから携帯電話を取り出した、瞬間。

 テンダーパフが、炎に包まれた。

「………………!?」

 目の前の光景が一瞬、理解できなかった。

 火の鳥の口から炎が吐かれ、白くて可愛らしかった建物が、一瞬で黒くて無残な……瓦礫の山になっていた。

「……う……そ……」

「……知衣さん?」

 アルドがわたしに何か言っているような気がするが、それも耳には入らない。

「そ、そんなはず……」

 わたしは震える手を押さえながら、手に持った携帯を起動する。

 心配要らない、おねえは大丈夫だ――そう自分に言い聞かせつつ、履歴の中からおねえを探す。

 着信履歴の一番上に、おねえの名前はあった。

 すぐに電話する。

 おねえがいつもの暖かく包み込むような、優しい声で電話に出てくれるはずだと信じて。 

「………………」

 ……信じて、いたのに。

 その声を、聞くことは出来なかった。

 代わりに聴こえてきたのは、『電源が入っていないか、電波の~』という、無機質なメッセージだけだった。

 ……そりゃ、そうだよね。

 いくら携帯電話だって。一瞬で建物を瓦礫の山にしてしまうような炎に晒されたら、電源が入らないくらいに壊れちゃうよね。

 理解、できてしまった。

 頭の中では、生まれてきてからずっと傍にいてくれたおねえの姿が、声が巡り続けていた。

 お菓子を作ってはわたしに食べさせてくれた、優しいおねえの姿が。

 もう中学生なんだから、と言っても気にせず一緒にお風呂に入ろうとしてくる、お節介なおねえの姿が。

 隙あらば、とでも言わんばかりにしょっちゅうわたしに抱きついてきた……わたしを抱きしめてくれた、暖かかったおねえの姿が。

 頭の中で巡っては……消えていった。それこそ、走馬灯のように。

 それはまるで、もう二度と、おねえの姿を見ることは出来ないのだということを暗喩しているかのようだった。

 あの女と、火の鳥のせいで。

 わたしの"おねえ"は、永遠に失われてしまったのだ。

「…………」

「……知衣さん?」

 おねえのことを考え込んでいたわたしに、アルドは心配そうな様子で声を掛けてきた。

 ……そうだ、今のわたしには、こいつがいる。

「アルドッ! よこせ!」

 わたしは叫んだ。

「……は?」

 一方、アルドは何がなんだか、という顔をしていた。

 くそう、勘の鈍いヤツ……!

「チカラをよこせ! あるんでしょ、あの女と鳥を、叩き潰せるチカラが!」

「あ……は、はい! わかりました!」

 急に戦う気になったわたしに戸惑っているのか、やや落ち着かない様子ながらも、アルドは指を鳴らす。

 すると、わたしの腰に一本のベルトが装着された。

 ベルトの太さは5cmくらいで、正面の中心部には宝石のようなものがついている。

「それを使えば、"魔法少女"に変身できます。ベルトに手を当てて『変身』と宣言してください」

 わたしがそれに目をやったのを確認してから、アルドが簡単に説明をしてくれた。

「わかった。変身!」

 なんだかわたしがイメージしていた"魔法少女の変身"とは違う気もするが……今はそんなこと、どうでもいい。

 今わたしがやるべきことは1つ、あの女を叩き潰してやることだけだ。

 言われたとおりにすると、わたしの身体が光に包まれた。

 それは一瞬のことだった。

 その一瞬で、わたしの服装ががらっと変わっていた。

 さっきまで来ていた中学の制服は消え去り、代わりにピンクを基調とした服装に様変わりしていた。

 両手には、一対のトンファーが握られている。

 どうやらこれが、わたしの武器であるようだ。

「魔法少女チイ、誕生ですね」

 それを見届けていたアルドが、嬉しそうに呟く。とほぼ同時くらいに、わたしは駆け出していた。

 憎きあの女を、全力で叩き潰すために。




続く。



次回予告

知衣「がぁあああああああ! あの女ぁああああああッ! 殺すころすコロス! 絶対に、ぶっ殺してやるぅうううあああああ!!」

アルド「……チイさんが怒りでぶっ壊れているので、代わりに私が。次回はいよいよ、魔法少女チイのデビュー戦です。魔法少女のチカラを得たチイさんは、怒りに任せて敵に突っ込んでいきます。しかし空を飛んでいる火の鳥に苦戦を強いられて……?

 次回、魔法少女チイ、第003話。侵略! 魔法少女サラ!

 お楽しみに!」

ありがとうございました!


……あれ、何故か鬱展開になった。

まあ今日びカードゲームアニメですら唐突に鬱展開になるしいいか。

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