7話 情報を求めて
ヤマトが王宮に来てから五日が経った。
その間に変わったことは実際はあまり無い。
しかし、皆のヤマトに対する視線は段々と変わってきていたという変化は見られていた。
王宮に赴いてから、ヤマトは情報収集の為に城のあちこちを回っている。
だから、他のものに会う回数も必然として増えることになる。
すると、やはり王宮にいる者達とも会ってその話を聞いたりする訳である。
特にヤマトは冒険者であるから様々なことが出来る為、城の者の仕事を手伝えるときがある。
例えば王宮で働く侍女の荷物運び。
王宮という巨大な建物の中だからだろうか、到底女手には運べない物も出てくる時もある。
そんな時、ヤマトは進んで手伝いをしようと動きを見せていた。
ヤマトは自らの聴覚強化で聞き耳を立てている為にどんなことで何を話しているかが分かる。
この王宮に来るまでは雑用系の依頼をトローレでいくつもこなしているので、ヤマトは慣れているためについでに手伝おうと王宮内の者達に進み出ていた。
無論狙いは情報入手の為には少しでも人脈を作っておくことだ。
そう、これはなにも親切心だけで行っている訳ではない。
聞き耳で情報を探るよりは侍女などの城の者から聞いたほうが早く集まる。
だからこそヤマトはちょくちょくと王宮内の人と話しかけるようになった。
しかし、そんなヤマトの狙いなど知る由もない侍女はただただ驚くばかりである。
いくら五日前に王宮に来たばかりで日が浅いといってもヤマトは将軍だ。
その将軍という立場に立てば自分の領地も所持できる者もいる……それほどに高い地位だ。
そのような地位の者がこんな侍女の仕事に手を貸すなど普通は考えられない。
だがヤマトは蔑むこともなく、逆に謙虚というわけでもない、普通の接し方で近づいて来た。
ゆえに最初は驚愕に満ちて戸惑いを隠せなかった者が続出したが、今では大分打ち解けてしまった。
勿論ヤマトの有能さは人々の想像さを超えていた。
こういった事に対しても魔法はとても有効であることはトローレでの依頼で分かっているヤマトはここでもそれを多大に駆使してヤマトはどんどんと侍女達の信頼を得ていったのだ。
しかし、ヤマトの好感度が上がったのは何も侍女達だけに対してではなかった。
四日前にヤマトは将軍であるジャマールを素手で見事に破ったという事件とも言えるべき出来事がこれに関係してくる。
将軍であるジャマールに対して素手で打ち勝つということは紛れもなくヤマトの実力が本物である証だ。
当然兵士たちはヤマトの実力を認めるしかなかった。
それからはヤマトは訓練所を訪れては情報を取りながら、兵に戦い方を指導し始めた。
ヤマトは修業時代にアルに教わった事を兵に教えていくのだが、これが中々良く出来た訓練らしく、そのまま採用された。
この時の教えた本人の気持ちは恐ろしく珍しい、アルに対しての感謝で埋め尽くされた。
「ヤマト将軍の戦い方は凄まじいですね」
「別にそうでもないと思うけどな。冒険者やってると必然的に戦闘経験が積み重なってくるもんだよ」
「いやいやジャマール将軍に勝ったんですから、それも素手で」
「ああ……。――まあ、な」
「やっぱりヤマト将軍は強いですよ」
「――それでも、気を付けねばならないことが。ジャマール将軍は元々貴族だったんですが既に没落してしまって、多少気が短いんです。あまり挑発はなさらないように……」
「オッケー。気をつけるよ。あ、そこ! 振りが大振りすぎる」
ヤマト自体将軍の地位を振りかざす事無く気さくに接してくるので、兵からしても話しやすい。
相変わらずジャマールはヤマトを睨みつけているが、他の者はほとんどヤマトに好意的な態度を取り始めていた。
「さて、今日は外に出てみようかね」
そんな事がこの五日の間にあったのだが、ヤマトの本来の目的は情報を集めること。
ヤマトならば超感覚能力を使えば何かしらが分かるかも知れないのだが、膨大な魔力を人前でむやみに曝け出す必要はないし、なにより魔力感知を持つセリーナの近くで使えばこの特殊な能力がばれてしまうかもしれない。
この能力は重要な判断を下す際にこれ以上ないくらい活躍する。
直感で最善の策が分かるのだ。
使いようによっては、国からすれば喉から手が出るほどに欲しい代物である。
だからこそ国に仕える気の無いヤマトからすればこの能力を知られたくはないのである。
セリーナの前で使ったのは一回きりだが(ヤマトの中では武道大会での使用はノーカンとしている)これ以上使えば気付かれる恐れもある。
それに情報が十分に集まっていない現状では使う事はできないのだ。
「とにかく情報っと」
それらの理由から、結局は情報収集しないといけない事になる。
いつもの聴力強化+感知魔法のスタイルで街をぶらぶら歩くヤマト。
そうしてしばらく歩いては価値のありそうな話を盗み聞きしていく。
「そうそう、そういえば今回の武道大会――」
「……意外ね~!」
「そういえば最近盗賊の数が……」
「知ってる。最近多発してきて、騎士団も……でしょ?」
「……うそう。だけど……賊達は騎士団を見たら降伏して……よ」
「さすが……士団! でも抵抗……?」
「それがしないらしい……。なんか気味が……いね」
一連の話を繋げて自分なりに解釈してみると、どうやら盗賊が最近多発しているようだが、騎士団に見つかればすぐに投降してくるらしい。
そういった事が良く耳に入ってくる。
しかし、王宮の襲撃事件に関係のありそうな情報は今だ手に入れる事は出来ないでいた。
王宮内でもいろいろと話を聞いていったが重要な情報はあまり出なかった。
おそらく相手は入念に隠蔽してるな…と溜め息交じりでヤマトは肩を落とす。
しかし、その後すぐにある人物についての話が聞こえた。
「…………がギルドに……」
「あの…………!?」
所々聞こえない分もある位遠いところで会話されているが誰の話かはヤマトはしっかりと聞こえたのだ。
(もう着いてたか……。よし!)
その話を聞いて表情を明るくさせるヤマト。
これでその人物と合流して協力を得られれば情報収集もかなり進むことになるのは間違いない。
ヤマトは自らの頬が緩むのを自覚しつつ早速ギルドに向かうことにした。
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