6話 訓練所にて
そのまま時間が経過していき、日にちは次のそれとなる。
今日からヤマトにとって、本格的な情報収集の始まり。
取りあえずはヤマトは城の中から詮索していくことにして、そのまま城を歩きまわっている。
ヤマトには無理に他の人に話しかけなくても聴力強化魔法と感知魔法である程度の情報は集められる。
だからヤマトはただ城の周りを歩き回るだけである。
だが、そうなると必然的に同じところを二度三度と訪れる事になる。
しつこいようだが、ヤマトの容姿はかなり目立つ。
本人はあまり自覚してないようだが多少はねた黒髪に力強い黒の瞳を所持しているのはヤマトくらいである。
そして、先日にヤマトは国に仕えてしていきなり将軍の地位に立たされた。
すると当然他の者からは嫉妬の視線を浴びせられ、他の者は内にイライラが募ってくる。
そしてそれはこんなわけの分からない冒険者を将軍に就かせた国王にも不満が上がることとなっている。
ヤマトが兵士達が訓練を行っている訓練所を訪れたとき、遂に我慢なら無くなった者が出てきた。
「貴様! しばし待て!」
「ん? 俺のこと?」
突然大声を上げられ、振り返ったヤマトは自分が何かした記憶が無いので一度自分かどうか確認する。
そんなヤマトの態度がさらにこの男の怒りを高めることとなった。
「貴様だ貴様! どんな手を使ったか知らないが将軍になったからと粋がりおって!」
「はあ?」
ヤマトとしてはいきなりそんな事を言われて、何言ってんのこいつ……、と思った訳であるがどうやらこの男は自分に腹を立てていることは容易に分かる。
「とりあえず怒鳴るのやめたら?」
「!? 貴様ぁ!」
今は訓練中だし怒鳴るのは集中力が低下するぞという意味を込めたのだが、どうやら相手はそう取れなかったようだ。
ともかくその騎士っぽい男が何か喚きながら此方を睨みつけている。
ふと周りを見れば訓練を行っていた兵士達もヤマトに嫌な視線をぶつけてくる。
周り敵だらけだな~と慌てた様子も無くヤマトは周囲を見渡している。
「とりあえず、俺は別段汚い手を使った覚えは無いよ」
本当は形だけの地位で、功績を残して手に入れた訳ではないが武道大会の成績は最高のものである。
故にヤマトは周りの視線を気にする事無くそう言いのけた。
しかし、周りの者はそれを信じては居ないようだ。
これは心置きなく城中を回る事は出来るが、国王の信用を落とす結果になったかな、と罪悪感が湧いてくる。
だが、ここで天から一筋の光が湧いてきた。
「貴様が本当に実力で将軍の地位に着いたのならば、フィーリア国の将、このジャマールと剣を交えて勝利してみよ!」
(しめた!)
さすがに自分のせいで自分をこの地位に就かせたバーンの評価を下げるのは気が引ける。
ならばどうすればいいか……簡単なことだ。
要は自分の実力を見せればいいのである。
そうと分かれば話は決まったも同然。
やる気に満ちた表情でヤマトはジャマールに向かって声を放った。
「よし! 早速やろうか!」
「ほう! ならばせいぜい吠え面を掻くが良い」
両者が不敵に笑ってみせる。
周囲の兵士たちはこの二人の戦闘に興味を示したようで視線を向けていた。
それを横目で確認しながらジャマールは剣を抜く。
おそらく皆に自分の力を誇示する為でもあるのだろう。
将軍の地位というのは大変だなとヤマトは改めて思った。
「貴様は武器を抜かんのか?」
「抜く必要ないしな」
「貴様!」
決闘時に武器を使わないのは相手にとって最大の侮辱である。
そしてそれと同時に己の強さを誇示するのには手っ取り早い。
ヤマトが狙っているのは圧倒的実力を見せ付ける事である。
そうすれば国王であるバーンが自分を引く抜いたのも納得させられると思ったからである。
「すぐに斬り捨ててくれる」
この瞬間では兵の全てがジャマールの勝利を確信していた。
ジャマールはこのフィーリアの将軍に当たる程の実力者である。
勿論最強たるザクロの足元にも及ばないだろうが熟練者といっても刺し違えは無い。
だが、ここに居る兵は知らない。
ヤマトは武道大会でザクロを撃破していることに…。
「そのまま死ね!」
ジャマールは殺す気なのか剣を本気で振ってくる。
勿論ヤマトには当たらないが、余裕という訳でもない。
「おおっと!」
ヤマトは多少驚いたような表情をする。
最初こそこの男は口だけの騎士かと思っていたが、どうやら将軍という地位に見合った実力は兼ね備えているようだ。
ヤマトは振られる剣を身を捻ってかわし、拳を突き出す。
そして風の突風を吹かせた。
「くっ! 魔法だと!」
ここに居る全員が驚いた表情を浮かべている。
刀を持っている事から皆はヤマトを剣士だと思っていたのだ。
「行くぞ!」
ヤマトはそのまま連続で拳や蹴りを放つ。
勿論それに対してジャマールは剣で対抗するのだからヤマトも迂闊に当てにいったりはしない。
下手をすれば自分の腕を切られるのだ。
(多少やるな。なら……)
ヤマトはバックステップで距離をとる。
そして中風弾を、両腕を何度も振り回してジャマールに放った。
「なんて数だ!」
兵のうちの誰かが叫んだ。
普通、魔法を連続使用でむやみやたらに放つものはいない。
魔力は有限であるが故に、確実に当てることを皆が意識するからだ。
しかしヤマトは違う。
その膨大な魔力は滅多なことでは使いきる事は無い。
「ぐわああ!」
やはり全てを防ぎきれることは出来なく、そのまま魔法をいくつも喰らったようだ。
だが、さすがは将軍というべきかっふらふらの状態であるがしっかりと二本足で立っている。
「誤解したよ。あんたは強い」
ヤマトが述べたのは素直な賞賛。
それだけジャマールの実力は中々のものだった。
ヤマトはそのままあっという間にジャマールの懐に入り腹に一発、そのままのした。
「これで大丈夫かな?」
周りを見れば皆が信じられないように呆然としていて、数人が我に帰ったのかジャマールに駆け寄る。
(このまま治癒魔法で治癒してもいいんだが、プライド高そうだし止めとくか)
「怪我はそんなに大したこと無いと思うけど、とりあえず医務室にでも運んでやって」
ヤマトはそれだけ告げると情報収集の為に訓練所を後にするのだった。
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