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漆黒の風  作者: ST
三章 黒風の通る道 王宮襲撃編
97/123

5話 王宮へ

 ここはフィーリア王国の中心に位置する壮大な都、フィーリア王都である。

 その歴史は数百年と言われ、今では三大国とまで評されるほどに大きくなったのだ。


 そんな王都の門を守護する門番兵ベイサンは自分の仕事に誇りを持っていたし、熱意を持って仕事に励んでいたのである。


 そして今日、それはいつもと変わらずに真面目な彼は一人一人を念入りに調べて入場の資格の有無を確かめている。



「今日も精がでているね~」



 隣の兵も彼の働きには純粋に賞賛している。

 その次のものにも同じような感じで念入りに確認を済ませて、また一人に「通ってよし」と言うのである。



「全くベイサンといると楽だわ~」


「つべこべ言わずに働くんだ」


「へいへい」



 気の無い返事を返す相棒にほとほと呆れているとまた次の者が来た。

 それは一つの馬車であった。


 その馬車は綺麗な宝石などで装飾されており、いかにも金持ちの貴族が乗っているようであった。

 ベイサンは貴族が来るなど聞かされてたか? と首を傾けつつその馬車に近づく。



「申し訳ないですが身分証を拝見させてもらっても?」



 相手が貴族ゆえに言葉が丁寧になってはいるが、彼の仕事ぶりは貴族が相手だろうと容赦しない。

 いや、貴族だからこそ張り切って仕事に励んでいる始末である。


 そんな彼の前で止まる馬車から一人の若者が現れた。



「あ、俺こういうもので~」



 そういってギルドカードを見せてくるが、はっきり言って怪しすぎた。

 黒髪黒目の人物など見たことが無いし、ましてや貴族にこのような物は居ない。

 そんな人物がこんな馬車に乗ってここまで来たのだ、疑うなという方が無理であった。



「おい、何故冒険者がこんな馬車に乗っている? これはフィーリア王国に仕える者の馬車だぞ」



 そう、最大の問題はこの馬車に記されている鳥の形を取るフィーリア王国の印。

 これで所持しているということはフィーリア王国の者であるという証拠である。

 しかし、それを冒険者が持っているのである。



「あ、いや、これにはいろいろあってな?」



 ヤマトはそのまま後ろの馬車に戻って中の人物を連れ出してくる。

 その人物にベイサンは見覚えがあった。


 長く輝くような金の髪に力強い赤い瞳。

 服装は白とピンクの袖のところにフリルがあるドレスを着ている。


 その姿に呆気にとられ、そして次第に正気を取り戻していく。

 そして顔をワナワナさせ出した。

 すると、居ても立ってもいられないとベルサンは街のほうに走り出す。

 何度も何度も叫び続けて…。



 ただいまフィーリア王国に第一王女、セリーナ様がお戻りになられたぞォーーーーッ!!





     ★★★





 ベイサンが第一王女が王都に戻った事を仕事として王都内に伝え回りに行った事を見届けて、ヤマトとセリーナはそのまま王宮に向かう。



「しっかし、ここもまた……」



 この街もまたトローレと同じように賑わっている。

 活気はあるし、人々の人数も多く、店の数や種類も充実している。

 ただし、トローレとは違う点もやはり存在する。



「水路が多いな……」



 そうフィーリア王都は様々なところに水路が張り巡らされている事から別名水の都とも呼ばれている。

 その名に恥じぬほど多い水路だが、理由もちゃんとある。


 フィーリア王都の北には広大な湖が存在する。

 その湖からいくつもの水道を引いてこの水路が出来ていた。

 これによって王都に住む人々の暮らしも他の街よりも便利なものになっている。

 そればかりかこの光景を目にする為に訪れる旅人もいる程だ。



「何と言うか……、綺麗だな」


「そうでしょう?」



 水路の水は透き通るような透明度である。

 さらにはハドーラの街で見た噴水のようなものがあちこちに置かれている。

 確かに水の都である。



「それはそうと侵入者のこととか事件の事、詳しく聞かせてくれないか?」


「かまいませんが…私もそんなに知ってる訳でもありませんよ?」



 とりあえずヤマトにぽつぽつと自分の知っている事を話し出した。


 どうやら侵入者が現れたのはセリーナがトローレに向かい出発する前であったようで、その人物は素早い身のこなしで警備をすいすいと抜けて侵入者に気付いたときにはかなり王宮の奥に忍び込まれたようだ。


 しかし、当然奥までいけば出るのも時間が掛かる。

 それを期に兵がその人物を取り囲んだのだが、その人物はあまりに強かった。

 何人も兵が倒れていく中で、ザクロが出張ったほどである。


 だが、その人物はザクロを相手にしながらも一歩も引かなかった。

 むしろ彼を相手に善戦して押していた程であるらしい。

 しかし、さすがにザクロを相手にしながら次から次へと来る兵には手が回らないのか、逃走を図ったという。


 その頃のバーンとセリーナはトローレへの出発の準備をしていたので現場には居なかった為、報告しか聞いていないらしい。

 そんな報告が入ったものだから武道大会はセリーナ一人が国の代表としていく事になったのだ。



「なるほどな……。――狙いは分からないのか?」


「それは残念だけど……」



 本当に残念そうに俯くセリーナに黙り込むしかないヤマト。

 だが、すでに話している間に結構歩いたらしく、目の前には巨大な城が聳え立っていた。



「これがフィーリアの王宮……」



 ヤマトは感嘆の声を漏らす。

 この目の前に佇む建物こそフィーリア王国の王城なのである。


 石がびっしりと敷き詰められており、まるで要塞のようで、城の四つの隅には円系の塔が存在していた。

 王城の一番上には白い旗に赤い鳥が描かれたフィーリアの国旗が風に靡いている。


 威風堂々としたこの姿こそがフィーリア王都の王宮……鳥肌が立つのも仕方がないと言えた。



「とりあえず、入りましょう」



 こうしてヤマトは初めて城という建物の中に足を踏み入れたのであった。





     ★★★





 ヤマトが城に入ると同時に映った光景は眩しいほど輝いて見えた。

 城のあちこちに光魔法付与の魔道具のランプが吊るされており、かなり明るい。

 廊下では床は石のタイルがびっしり敷き詰められて、綺麗に掃除されているのかピカピカである。


 ヤマトはセリーナの後から廊下を歩いている。

 すると他の侍女や兵から視線が向けられてくる。

 ヤマトの容姿は珍しいものだし、第一王女の客ともあれば注目は必然であるが、さすがにあからさまな視線を送られるのには苦笑せざるを得ない。


 そうしてしばらく歩き、二人は一つの部屋の前にたどり着く。



「付いて来るようにね」



 城のあちこちを珍しそうに見渡すヤマトに微笑みながら、セリーナはその二メートル以上はありそうな大きな扉をゆっくりと開いた。



「「「「「ご帰還、誠にお疲れ様でございます!」」」」」



 扉を開いた瞬間、兵たちが一斉にそう叫んできた。

 ヤマトはそれに非常に驚いた表情をしているが、隣のセリーナハどうやら慣れているようでそのまま返事を返す。


 今にヤマトが入った部屋はかなり大きな大広間である。

 床には赤色の絨毯がびっしり敷かれて、上には光魔法具のシャンデリアが吊るされている。

 扉からセリーナの為に用意されたであろう椅子と机までの道を兵たちが列を作って囲み、膝をついている。



(すっげ~~~…!)



「こっちよ」



 唖然としているヤマトにセリーナが促すように進めと言ってくる。

 ヤマトはさすがにこのまま呆然とするのもいけないと思い、言われた通りに足を進めた。


 そして、そのままセリーナは壇を上がり、兵の前に悠然と立った。

 その隣では内心興奮しているヤマトもいる。



「皆に伝えたい事があります。今、隣に立っているのは冒険者であるヤマトです。この者は武道大会での成績が優秀だったので国に仕官してもらう事になりました。それから、この者には将軍の位を授与します」



 セリーナの発言に辺りが一気にざわめいた。

 彼らからすれば高々冒険者に高い位にある将軍を名乗らせるのは不本意であるのだ。


 将軍の地位に着くのはこの国では十人ほどである。

 勿論その中にはザクロも居る。

 そんな高い身分に誰とも分からない者を着けるのはヤマトを知らないものからすれば正気の沙汰ではない。


 だが、そんな不満が湧くのは二人共承知の上である。



「勿論このことは我が父上である国王の決定です。それでは以上」



 国王様が!? と周りのざわめきが大きくなる。

 ヤマトとしては将軍の地位についたのは動きやすい為である。


 ちなみにヤマトは王宮内にそう簡単に忍び込める筈は無いと裏切り者、もしくは間諜の可能性をバーンに提示した。

 故にヤマトは自分が依頼を解決する為に雇われた事を伝えないでほしいと言ったのである。


 だが、これは逆に目立ったかなと内心苦笑を漏らしてしまう。



「姫さん。とりあえず部屋で休みたいんだけど……」



 ヤマトは周りの者に聞こえないようにボソッと言った。

 もしこれが周りの者に聞こえたのならば、このような場では不敬罪になりかねないからだ。



「そうね……。すいませんがヤマトを部屋に案内してください」



 セリーナは近くの侍女を呼んでヤマトを部屋に案内するように指示する。

 それに緊張したような感じで頷く侍女にヤマトはそのままついて行く事になった。



(さて……。いろいろ面倒そうだな)



 ヤマトはこれから短期間とはいえこの城で生活する事に興味を抱きながらも不安を隠せないでいた。





読了ありがとうございました。

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